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歴史に学ぶヘリコプターマネーの危険性
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49197
2016年07月17日(日) 真壁 昭夫「通貨とファイナンスで読む世界経済」 現代ビジネス
バーナンキ元FRB議長の来日を境に、“ヘリコプターマネー”なる経済政策が市場をにぎわせている。7月14日、安倍内閣の関係者がバーナンキ氏と永久債の発行を議論していたことが報道されると、今後の経済対策への期待からドル円は104円台から105円台後半まで急伸した。
“ヘリコプターマネー”なる政策が現実のものになると、政府は中央銀行に国債を引き受けさせ、好きなだけお金を使うことが可能になる。それは、“禁断の果実”かもしれない。一時的に経済を刺激するだろうが、最終的には、通貨の乱発が悪性のインフレをもたらし、経済が大きく混乱する可能性が高い。
劇薬に近い政策への機運が高まりつつある中、わが国はこれまでに経験したことの無い異次元の状況に突入する恐れがある。歴史を振り返り、ヘリコプターマネーがどういった影響を経済に与えてきたか、冷静に考えるべきだ。
■そうか、アレがヘリコプターマネーだったのか
ヘリコプターマネーとは、ある意味では金融政策と財政政策の融合だ。需要を喚起するために、政府が対価を求めることなく国民に現金などを給付する。その起源は1969年にさかのぼる。米国の著名経済学者ミルトン・フリードマンが、最適貨幣量と題する論文の中で、「政府がヘリコプターを飛ばして上空から紙幣をばらまき、直接、国民にお金を配ればどうなるか」との議論を展開したことが出発点だ。
この政策のポイントは、政府と中央銀行を合体させる考え方にある。財政政策と金融政策が同時に運営され、政府が発行した国債を中央銀行が引き受ける(財政ファイナンス)。国債の保有者は中央銀行なので、政府と中央銀行を合算すると実質的に債務は増加しない。言うまでもなく、財政規律、中央銀行の独立性はなくなる。
冷静に考えると、既に、わが国では広義のヘリコプターマネーが実施されてきたといえる。1999年に実施された“地域振興券”はその代表例とも考えられる。この時、国はすべての財源を負担した。その上で、地方自治体が振興券=商品券を消費者に配布し、消費を喚起しようとした。この場合、振興券を受け取った消費者は、追加の納税義務を負っていない。
■歴史を見ると失敗ばかり
各種報道によると、バーナンキ氏は政府が流通性のない永久債(パーペチュアル:満期のない債券)を発行し、それを日銀が引き受けることを考えているという。それによって政府は際限なく、自由にお金を国民にばらまくことが可能になる。それは、政府が打ち出の小槌を振り、物価上昇率等の達成のために望むだけの通貨を供給することに他ならない。
今日、わが国では財政法第5条によって“国債の市中消化の原則”が定められている。政府が日銀の助けを借りて無制限に支出を増やせると、政府は有権者からの支持の獲得などのために、際限なくいかなる政策も実行してしまうかもしれない。これが続けば、最終的にインフレは急速に上昇し経済は混乱するだろう。
歴史を紐解くと、ヘリコプターマネーは社会に安定ではなく混乱をもたらした。明治初期、西南戦争の戦費調達のために政府紙幣が増発された。結果、わが国は悪性のインフレに苛まれた。また、第1次世界大戦後のドイツでは、賠償金支払いのために高額紙幣が増刷され、急速なインフレに見舞われた。その結果、ドイツでは社会不満が高まり、ナチスの台頭につながった。
中央銀行の独立性が重視されてきた背景には、無制限な通貨の発行が禍根を残したとの教訓がある。これは歴史の叡智だ。過去の苦い教訓があるから、今なおドイツは積極的な金融緩和に否定的だ。そこには、一歩でも財政ファイナンスの領域に踏み込めば、もう後戻りできないという危機感があるのだろう。
足元で、ヘリコプターマネーへの期待は着実に膨らんでいる。市場は理由を冷静に考えるよりも、投機の動きにつられてドル買い・円売り、国債売り(金利上昇)に走りやすくなっている。そうした期待の先に、どのような経済情勢が見えるか。今こそ、財政ファイナンスがもたらした過去の教訓を振り返る意義は大きい。
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