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「電力自由化」狂騒曲、早くも終焉か…消費者にメリット少で新電力への切り替え進まず
http://biz-journal.jp/2016/07/post_15850.html
2016.07.12 文=井手秀樹/慶應義塾大学名誉教授 Business Journal
一般家庭への電力小売が自由化されて3カ月あまり。新電力会社から請求書が届かない、電気使用量がゼロなど、トラブルが報告されている。新電力に切り替えた世帯は全国で約120万、全体の2パーセント弱にとどまる。
それも、切り替えのほとんどは、首都圏や関西圏で、北陸や中国、四国管内では数千件しか切り替えがないのが現状だ。
新電力のシェアは想定内のレベルで、今後「新電力」のシェアが急激に伸びるとも思えない。各社の料金メニューを比べても大差なく、思ったほど選択肢がないと感じた人も少なくない。今は切り替えせずに静観するという人は多いだろう。電力を自由化しても、従来の電力会社のシェアは圧倒的に高いまま、という結果に終わる可能性は高い。
また、新電力の料金は電力多消費世帯にメリットがあるのがほとんどで、低所得者で電力消費量の少ない世帯には、ほとんどメリットがない。逆に今後、そのような世帯の電気料金が値上がりする可能性さえある。メリットを受けるのは多消費世帯のみ、これが自由化だ。
■地産地消への取り組み
ただ、電気の自由化は、電気の購入先を選べる自由だけではない。地方では自分達で電気をつくり、利用する地産地消の取り組みがみられる。2011年の東京電力福島第一原発事故を契機に、電力会社中心の「大規模集中型システム」から「小規模・地域分散型システム」への転換だ。
昨年度、電力自由化を見据えて、農林水産省の委託プロジェクトで、太陽光、バイオマス等再生可能エネルギーによって農業・林業等の活性化を図る可能性をいくつかの候補地について検証した。
地産地消の電力によって産業や雇用を生み、循環型の社会を構築しようというものだ。電力自由化を契機にエネルギーという手段を利用して、地域の活性化を図ろうという試みは多い。
全国初となる自治体主導の新電力として、太陽光を活用した群馬県「中之条電力」、地域金融機関と民間のノウハウを活用した地方創生のモデルケースとしての「みやまスマートエネルギー」、地元のガス会社主導の「とっとり市民電力」や市内のごみ焼却場で発電された電気を公共施設に売電する「北九州パワー」などが代表的な事例だ。こうした地域密着型の電力・エネルギー事業は、小さなものまで含めると180ほどある。多くは太陽光、バイオマスだ。
■成功の鍵とは
これらで参考にされるのが、ドイツのシュタットベルケだ。シュタットベルケはドイツ各地で存在感を保っており、電気・ガス、熱供給のみならず、上下水道、ケーブルテレビ、公共交通など公共性の高い多岐わたるサービスを提供している。
またスポーツ、芸術、文化活動などに、金銭面で多大な貢献をしている。これが、多少電気料金が高くても地元密着のシュタットベルケが選ばれる理由だ。
日本の場合、電気やガス、あるいは水道、通信とのセット販売やHEMS(「Home Energy Management System」の略で、家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム)を設置するものなどがある。付随するタブレット等を利用して、高齢者見守りサービスなど総合生活支援サービスや地域情報の提供など、コミュニティーの維持と活性化を図る手段はさまざまだ。
しかし、第3セクターで行う事業は、過去にも数多く失敗している。電気の小売事業は利益が少なく、原発が再稼動すればますます料金だけの競争では勝てない。
成功の鍵は、ブランドの確立と大手電力会社といかにうまく協調していくか、市民に寄り添ったサービスを提供できるかにかかっている。さらには地域にとどまらず、地域を越えたサービスの提供などによる規模の経済性の確保が重要だろう。
(文=井手秀樹/慶應義塾大学名誉教授)
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