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ユーロ圏の金融システムは大丈夫か? イタリア銀行業界が危機の崖っぷち!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49142
2016年07月11日(月) 真壁 昭夫 現代ビジネス
7月に入り、イタリアの大手銀行「モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)」の不良債権問題に対する投資家の懸念が高まっている。同行の株価は、年初来80%近く下落。政府はEUと交渉し銀行の救済案をまとめようとしているが、今のところ具体的な対応策はまとまっていないようだ。
不良債権問題やマイナス金利の影響によって、これまでにもユーロ圏の銀行システムに対する不安は高まってきた。すでに本年2月には、ドイツ銀行の経営不安が高まり、世界的な株安につながった。
今回はEUの政治リスクが、銀行に対する懸念に波及している。イタリアでは、右派の台頭によって与党の政権基盤が危ぶまれている。一方、銀行の救済はEUレベルでの取り決めに従わなければならない。事態の改善が進まない中、徐々に投資家は先行きへの警戒を強めている。
状況次第で、イタリアの銀行セクターの混乱がユーロ圏の銀行システムに伝播し、世界的なリスク回避につながる可能性があることを考えておくべきだ。
■ユーロを悩ませる不良債権問題
2000年代の初め、米国の住宅市場を中心に世界的な不動産バブルが発生した。バブルの熱気に浸り、ユーロ圏の銀行は積極的に不動産や企業向けの融資を増やした。
しかし、バブルはどこかではじけ、その後は痛みを伴う後始末が必要になる。2000年代中盤、米国の住宅バブルが崩壊し、世界的な不動産バブルは終焉を迎えた。こうして、多くの金融機関が“不良債権問題”に直面した。
リーマンショック後、米国では政府やFRBが不良債権の買い取り機構を設置し、不良債権の処理や銀行の再編が進んだ。しかし、ユーロ圏では“ソブリン危機”が発生し、南欧を中心に不良債権の処理が遅れてきた。特に、中小企業向けの融資が多いと言われるイタリアでは、景気の低迷が企業の倒産件数を増加させ、不良債権は増加トレンドにある。
2014年6月にはECBがマイナス金利を導入し、ユーロ圏の銀行収益には下押し圧力がかかった。その結果、2016年2月には、ドイツ銀行が社債の利払いを実行できないとの懸念が高まり、ユーロ圏の金融システム不安の上昇が世界同時株安につながった。
その後の原油価格の反発や世界的な株価の上昇が懸念を後退させたが、ユーロ圏の不良債権問題が解消されたわけではない。
すでにモンテ・パスキの不良債権比率は40%を超え、その半分程度が引当金でカバーされていない。イタリアの銀行救済基金の資金力も不十分と言われている。
このままの状況が続けば、着実に銀行の信用リスクは高まるだろう。モンテ・パスキを筆頭に、イタリア銀行業界は危機の崖っぷちに立っているといえる。
■なぜ、このタイミングで?
気になるのは、なぜ、このタイミングでイタリアの不良債権問題への懸念が高まったかだ。原因は、英国の国民投票でEU離脱が決まり、EU・ユーロ圏分裂への懸念が高まっていることだろう。
イタリアでは地方選で右派政党“五つ星運動”が躍進し、与党民主党を上回る支持を取り付けている。その結果、イタリア政府は世論に配慮せざるを得ず、改革を進めづらい状況に陥っている。
10月の国民投票に進退をかけるレンツィ首相にとっての問題は、EUの銀行再生破綻処理指令(BRRD)が、公的資本を注入する前に株主や債券保有者の損失負担を求めていることだ。これが“ベイルイン”だ。
イタリアの銀行債の多くは個人が保有している。そのため、ベイルインが実施されればレンツイ政権の命運は尽きると考えられる。EUへの批判も強まるだろう。首相はベイルインなしでの救済をEUに求めているが交渉は難航している。
もし、公的資金の注入による救済(ベイルアウト)が可能だとしても、納税者からは「銀行の怠慢を許した」と批判が出るだろう。銀行救済が財政悪化の懸念を高め、悪い金利上昇が進む恐れもある。まさにレンツィ政権は八方ふさがりの状況にある。多くの投資家は事態が進展しないことを憂慮し、金融市場は不安定に推移している。
ユーロ圏の銀行システム全体が混乱に陥っているわけではない。しかし、ドイツ銀行の株価は年初来の最安値を更新し、ユーロ圏の銀行業界が抱えるリスクは増大しつつある。
イタリア政府の対応の遅れなど、状況次第でユーロ圏の金融システムにショックが伝播する(コンテイジョン)可能性がある。
主要国の金融・財政政策の発動余地は少なくなっており、各国の景気下振れへの警戒感は高まっている。その上で、英国のEU離脱決定は欧州の政治リスクだけでなく、銀行システムへの不安、システミックリスクが顕在化する可能性をも引き上げた。
モンテ・パスキの経営不安は個別行の問題にとどまらない。それは、ユーロ圏、および、世界の金融・経済の混乱につながるリスク要因と考えるべきだろう。
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