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英国でついにはじまった「リーマン級の衝撃」!〜ショックは一時的、とほざくエコノミストにダマされてはいけない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49122
2016年07月08日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
■まさに「リーマン前夜」
「英国ショック」が世界経済を揺るがし始めた。まずイタリアの銀行不良債権問題、より深刻なのは英国の不動産ファンドの解約停止である。こんな時こそ、日本は経済の構造改革に一段と力を入れる必要がある。
英国の欧州連合(EU)離脱について、先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/49058)で「金融市場の動揺は数日で収まる」などというエコノミストは「近視眼」という書いたら、業界で反発もあったようだ。
先日のテレビ番組で私が「今回の事態はリーマン・ショックを上回るだろう」と話したら、同席した経済コメンテーターは「ニューヨーク株式市場は値を戻している」と懸命に反論した。国民投票直後の報道ステーションで朝日新聞の論説委員が「ショックは一時的、やがて収まる」と解説していたのも思い出す。
だが、小康状態を取り戻したかに見えた東京市場の平均株価は6日、再び急落した。きっかけになったのが、イタリアの銀行不良債権問題と英国不動産ファンドの解約停止だ。2008年のリーマン・ショックは前年8月にBNPパリバ関連のファンドが解約を停止したのが引き金になった。いまは、まさに「リーマン前夜」ではないか。
先週までと異なるのは、単なる不安心理の拡大ではなく、人々の投資行動が実際に変わってきた点である。企業や家計が実際に資金を手元に戻し始めたのだ。
カネだけではない。ゴールドマン・サックスやJPモルガンはロンドンを見限って、1000人単位でパリなど大陸欧州に人材を異動させる動きが報じられている。やがて自動車など製造業にも波及するだろう。
なぜ英国ショックがリーマン・ショックを上回る、と言えるのか。リーマン・ショックは金融経済分野の出来事にすぎなかったが、今回はもっと奥が深い、社会の根底を揺さぶる事態であるからだ。
■次元の違う話
英国だけでなく、世界中で「自分の城は自分で守らねば危ない」という危機感がみなぎっている。「移民や難民に仕事や賃金を奪われているだけでなく、テロリストに狙われている」と怒り混じりの不安が高まっている。
そんな人々の怒りと不安が英国でEU離脱を招き、米国大統領選では共和党のトランプ候補躍進をもたらした。
先のコメンテーターやエコノミストたちがダメなのは、そんな怒りと不安のマグマを理解できず、目先の市場動向に目を奪われているからだ。いまは「ニューヨーク市場がどうたら」などという次元の話ではない。
金融市場は社会制度や国際的な枠組み、さらに法規範などが安定して初めて整然と機能する。社会制度や国際社会の枠組み、法規範はそれを支える人々の考え方や行動が安定して初めて機能する。
いまは構造の一番下の部分、根底にある人々の考え方や行動自体が動揺している。ドアを開いて隣人と交流するのではなく、ドアを閉じて家に閉じこもろうとしている。土台が不安定な状態で一番上の金融市場が安定するわけがない。一言で言えば、世界は変わってしまった。昨日の続きで今日や明日の市場を眺めれば、見通しを間違えるに決まっている。
自分の城は自分で守る。私はこうした考え方の潮流を「自国優先主義」と名付けているが、潮流の行く末を見極めるには、少なくとも11月の米大統領選、来年春のフランス大統領選、その後のドイツ総選挙の結果を見なくてはならない。
米大統領選でトランプ氏が敗北し、フランス大統領選で極右の国民戦線を率いるル・ペン氏が敗北するなら、自国優先主義はいったん勢いを失う。だが逆に、両氏が勝利すれば、EUを離脱する英国と相まって世界は完全に様変わりする。
国際協調主義は退潮を余儀なくされ、自由貿易の旗もちぎれてしまうだろう。すでにトランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)からの脱退を公言している。他の自由貿易協定だってどうなるか分からない。
■のんきにほざいている場合ではない
そんな世界になっても、コメンテーターたちは「ニューヨーク市場がどうたら」などとのんきにほざいていられるか。間近に迫った世界を真正面から見ようとしないから、近視眼というのだ。
さて、そんな潮流が強まっているからこそ日本が重要になる。なぜかといえば、日本では幸いなことに、自国優先主義を唱える勢力が欧米ほど強くはないからだ。
日本で自国優先主義を唱えるのはだれか。それは右にも左にもいる。
右の人々は対米自立を唱えて、安全保障も経済も米国依存を脱すべきだと言っている。日本は核武装して独自防衛すべきだ。経済は自前のエネルギーを確保して国内需要中心でやっていくべきだ、と訴える。
もっと強力なのは左である。典型は日本共産党だ。彼らは日米同盟はいらない、対米従属のTPPもいらないという。今回の参院選で、これに悪乗りしているが民進党だ。彼らは日米同盟を認めているのに、なぜ共産党と手を握れるのか。まったく国家に対する定見がない。
世界で自国優先主義を唱えるのは極右なのに、日本ではサヨクが自国優先主義なのだ。世界の右翼が日本のサヨクなのである。トランプ氏が大統領になって「日本が米軍駐留経費を全額負担しないなら、米軍は日本から出て行く」と言ったら、共産党は拍手喝采、大喜びでトランプ氏と握手するだろう。
だが、いまのところ右であれ左であれ、彼らが政権を握る見通しはない。マスコミの予想が正しければ、10日に投開票日が迫った参院選では安倍晋三政権が勝利するだろう。
安倍政権はトランプ氏や英国離脱派のような自国優先主義ではない。国際協調主義を信奉している。それは日米同盟強化はもちろん、アジア各国との関係強化やTPP推進の立場をみればあきらかである。
サヨクは「安倍政権は右翼のナショナリズム」などと批判しているが、いったいどこを見て言っているのか。右翼のナショナリズムだったら、日米同盟を廃棄して独自の大軍事国家を目指さなくてはおかしい。見るべきポイントがトンチンカンなのだ。
■日本が目指すべきところ
欧米で自国優先主義が強まる中、国際協調主義に立つ日本の安倍政権は世界的にも貴重である。安倍政権こそが自由と民主主義、人権、法の支配、市場主義の大切さを世界に訴え、国際協調主義の旗を先頭に立って守っていかなければならない。
そんな日本に説得力を与えるのは何か。それは大型補正予算頼みの財政政策とかマイナス金利頼みの金融政策ではない。財政金融政策はしょせん景気下支え、政府・日銀によるいわば小手先の政策である。そうではなく抜本的な構造改革が必要になる。
構造改革がなぜ重要かといえば、民間活力こそが成長のエンジンであるからだ。経済成長は財政金融政策では達成できない。民間活力によって実現する。
私は2012年末の第2次安倍政権発足以来、3年にわたって規制改革会議委員として非力ながら改革に関わった。十分な成果を上げたとはいえないが、それでも会議は健康・医療、雇用、農業、投資促進、地域活性化などの分野で改革に努力した。
成果は4次にわたった答申に示されている(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/p_index.html)。個々の内容は細かく、読みにくいかもしれない。サイトには答申の簡単なイラスト版があるので、関心ある読者はぜひ、そちらを参照していただきたい。
安倍政権には規制改革会議だけでなく産業競争力会議など、いくつも改革関連の会議がある。参院選後はそうした体制の見直しも含めて、出直しスタートが必要だ。世界が動揺し内向きになっているからこそ、国際協調主義に立つ安定政権の下で平和と安定、繁栄を目指す。そんな日本こそが求められる。
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