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パンツもネットにつながるIoTの世紀
記者の眼
2016年7月5日(火)
齊藤 美保
あらゆるモノがインターネットにつながる「Internet of Things(IoT)」。電機やIT業界回りを担当しているからか、最近の取材では必ずと言っていいほど「IoT」という単語が出てくる。IoT対応の半導体、IoT向けのプラットフォーム、IoT家電……。まさに「猫も杓子もIoT」だ。
しかし、バズワードでもあり消費者目線でみると「で、IoTって結局何?」と思う人も意外と少なくない。実際、長野県に住む母親に「IoTってよく聞くけど、何のこと?」と聞かれた際、「工場同士をインターネットでつなぎ生産効率を上げたり、町全体のインフラをネットでつなげ生活を豊かにしたり……」と答えたがあまりピンときていないようだった。ネットに接続している冷蔵庫や電子レンジなどの家電は分かりやすいが、来るIoT時代を説明するには少し物足りない。アッと驚く突飛な物がネットにつながることを伝えないといけない。コンセプトモデルでは現実味が薄いので、実際に商品になっていることも必要だ。
オランダの半導体ベンチャーが開発したパンツ
「実家の母親が分かるような、あっと驚くネットに接続するモノ……」
そんなことを考えていた際、オランダの半導体ベンチャー、Lifesense(ライフセンス)グループを取材し、「これだ!」と思う代物に出会った。ライフセンスが開発したネットにつながるパンツこと、「Carin(カリン)」だ。パンツなら恐らく誰もが毎日着用しており、最も身近なモノであることは間違いない。そのパンツがネットにつながると言えば、母親も想像しやすいはずだ。
ライフセンスが発売しているネットにつながるパンツ「カリン」
一体何のためにパンツをネットにつなげるのかと思うかもしれないが、カリンの概要を説明する前にライフセンスの会社概要について触れておきたい。
ライフセンスは、IMEC(Interuniversity Microelectronics Centre)というベルギーの半導体研究所出身のバーラー・ポップを中心に昨年7月に設立されたベンチャー企業。IMECの半導体技術をヘルスケア部門で生かすことを目的にスピンアウトした。今年1月に設立した日本法人のライフセンスグループジャパン(LSGジャパン)は、日立製作所出身でライフセンスの共同創業者でもある米山貢氏が代表を務める。「IMECで培った半導体技術を、研究だけではなく実生活、なかでもヘルスケア部門で活用したいと考えた」。米山代表はIMECからスピンアウトしライフセンスを創業した背景をこう語る。
センサー技術をヘルスケアに。その思いでライフセンスが注目したのは、尿失禁だった。
同社の調査によると、尿失禁に苦しむ患者は全世界で4億2000万人にも及ぶといい、その多くが女性。尿失禁の原因の多くは、「急に立ち上がったときや重い荷物を持ちあげた時、咳やくしゃみをした時など、お腹に力が入ったときに尿がもれてしまう腹圧性尿失禁」(日本泌尿器科学会)。膀胱を抑える筋肉が緩むために発生する。高齢者だけと思われがちだが、出産を機に腹圧性尿失禁を患う人も多く、日本では女性の4割を超える2000万人以上が悩まされていると言う。しかし、「尿失禁に悩む女性は多いが、皆恥ずかしくて我慢している人がほとんどで、悪化する一方」(ライフセンスのポップCEO=最高経営責任者)。そんな女性の悩みを解決したいと考えたのが、「カリン」の開発に着手したキッカケだ。
日本では年内に発売
厚さ約2mmの基板上に、薄型尿検知センサーやリチウムイオン電池を搭載。100円玉2枚分の大きさのセンサーモジュールを吸水性の高いパンツのポケット部分に装着し、尿漏れを検知する。
パンツに装着する小型センサー。数千人のモニター調査の結果、9割に近い女性が装着時に違和感を覚えなかったと言う。
小型センサーは尿が漏れた際に、その量と時間の情報をブルートゥース(近距離無線通信)でスマートフォン(スマホ)側に送信。尿の量や回数のデータに応じて最適な「骨盤強化トレーニング」の動画を用意。利用者はスマホを使って動画を見ながら、骨盤を鍛えるトレーニングができる。軽症の場合、トレーニングを続ければ3カ月程度で効果が見られるという。「日々検知を続けていることで、尿漏れの量が減った、増えたというのが目に見えて分かる。ダイエットと同じで、モチベーションのアップにつながる」(米山氏)。
ネットを使った小口の資金を集めるクラウドファンディングでは、大手サイト「キックスターター」で目標額の1.5万ユーロ(約170万円)の資金を調達。昨年欧州で販売を開始し、249ユーロ(約2万8000円)と高額にも関わらずデザイン性の高さなども評価され売れ行きは上々だ。今年末には日本でも販売する計画だと言う。量産効果で今後は価格も下がる見通しだ。
尿失禁を治療するためのトレーニング用ビデオがあり、量などに応じて最適なトレーニングを提案する。
調べてみると、海外では他にもアッと驚く身近なIoT製品があった。
企画制作会社のCHAOTIC MOONが開発したスマートパンツ「NotiFly」は、ズボンのチャックが開いているかどうかを知らせてくれるウェアラブルズボン。チャックとボタンの部分にセンサーが搭載されており、チャックが開いていると感知した際にスマホにアラート情報を送ると言う。同機能以外はないという、なんともシンプルな作りだ。まだ商品化されていないが、実際に発売されたら父の日に父親にプレゼントしたら喜ばれるかもしれない。
技術の進化が後押し
センターの小型化や通信モジュールの進化、通信速度の高速化、そして汎用化が進んだことで、様々なモノにセンサーを搭載し多様な情報を収集できるようになってきた。アイディア次第で、ベンチャー企業にとっても大きなビジネスチャンスが生まれる。IoT時代に、いかに消費者に驚きを与える「Things(モノ)」を作っていくか。今後大手、ベンチャー問わず開発競争は激しくなりそうだ。
ちなみに実家の母親に上記2つの製品について伝えてみた。「すごい!そんなことができるの!それもIoTなのね」と驚いていてくれたが、
「でも、お母さんスマホ持ってない」
「……」
スマホの有無に関係なくIoTを感じる製品が今後増えることを期待したい。
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/070400267/
日本の工場や製鉄所を襲う新型サイバーテロ
Special Report
核燃料施設や製鉄所が標的に
2016年7月4日(月)
小笠原 啓
猛威を振るうサイバー攻撃が、新たな標的を見いだした。工場だ。オフィスと異なり、ネットに常時接続していないから安全という「神話」は崩壊。既に感染は始まっている。今後、IoTが伸展すれば、リスクが一気に顕在化しかねない。
写真=パソコン:村上 昭浩、背景:Getty Images
日本の工場やプラントの多くは、既にコンピューターウイルスに感染している。表面化していないのは、単に調べていないからだ」。国内製造業に多くの顧客を抱える、大手制御機器メーカーの幹部はため息を漏らす。顧客企業の工場に出向いてセキュリティー状況を診断すると、かなりの割合で異常が見つかるという。
この幹部が籍を置くメーカーは、プラントや生産ラインの「制御システム」を手掛けている。バルブやポンプのような単純な機器から、ロボットや工作機械に至るまで、様々な装置がスムーズに動くよう管理する「工場の頭脳」だ。
制御システムは通常、インターネットとは別のネットワークで運用されている。独自の機器を組み合わせて構築するため、工場やプラントごとに千差万別なのが特徴だ。オフィスのようにネットに常時接続しているわけでもないため、サイバー攻撃の標的にはなりにくいとされてきた。
だが現実には、多くの工場で感染が始まっている。ウイルスに感染したら即座に被害が生じるわけではないが、想定外の事態に直面しているのは事実だ。
鉄鋼や機械など製造業への攻撃が急増
●制御システムを狙ったサイバー攻撃の分野別内訳
出所: 米ICS-CERT 2014年年次レポート
電力会社や水道、鉄道も被害
●重要インフラを狙った主なサイバー攻撃
分野 概要
電力 複数の欧州電力会社が2014年にサイバー攻撃を受け、制御システムを管理するサーバーから情報が漏洩した。攻撃者の意図によっては、深刻な事態に発展した恐れも
核燃料 2010年にイランの核燃料施設が攻撃され、ウラン濃縮用遠心分離機が破壊された。USBメモリー経由で感染。イランの核開発計画が大幅に遅れたとの説も
石油
化学 トルコの石油パイプラインが2008年に爆発。監視カメラの脆弱性を利用して侵入し、制御システムを乗っ取った。パイプライン管内の圧力を高めて爆発を引き起こした
鉄道 2003年に米国で信号や配車をつかさどるシステムがウイルスに感染。ネットワークが途絶し、列車の運行が数時間にわたってできなかった
水道 2001年にオーストラリアの下水処理施設が不正に操作され、海洋に大量の下水が流出した。解雇されたことに反発した元従業員の犯行とされる
日本年金機構の情報流出をきっかけに、多くの企業がサイバー攻撃の脅威を認識した。個人情報がひとたび漏洩すると対応コストは膨大になり、信用失墜などの悪影響も免れない。
だが、冒頭の幹部が懸念するのは、“その程度のレベル”の話ではない。人事や経理など企業内のデジタル情報を管理する「情報システム」とは異なり、制御システムは機械や装置といったモノを取り扱う。仮に制御システムが悪意ある攻撃者に支配されたら、人命に関わる重大事故が起きかねない。
危機はすぐそこまで迫っている。
警察庁は2015年12月、国内の製造業に対して警告を発した。制御システムで使う専用コンピューター「PLC」を、外部から起動したり停止したりできる攻撃ツールが、インターネット上で公開されたのだ。ツールを悪用してPLCを操り、「システム停止などの不正な制御が行われると甚大な被害が生じる可能性が危惧される」(警察庁)。
「安全神話」は既に崩壊
富士通統合商品戦略本部の太田大州エバンジェリストは「セキュリティー対策をおろそかにする企業は、自社のサプライチェーンすら維持できなくなる。そういう時代に入ったことを経営者は認識すべきだ」と警鐘を鳴らす。
なぜ、インターネットにつながっていない工場やプラントがサイバー攻撃の被害に遭うのか──。こう考える読者も多いだろう。だが、「ネットに未接続=安全」などという神話は、世界ではとうに崩壊している。厳重に守られているはずの制御システムが、相次ぎ被害を受けているのだ。
2010年、イランの核燃料施設でウラン濃縮用遠心分離機が急停止した。当時のイランは独自の核開発計画を推進し、欧米との緊張が高まっていた。国家機密を扱うだけに設備の警備は厳重で、インターネットからも遮断されている。にもかかわらず制御システムが乗っ取られた。
原因は、親指大の小型機器だった。
何者かが「スタックスネット」と呼ばれるウイルスをUSBメモリーに仕込み、核施設の職員が拾いそうな場所に放置した。入手した職員がパソコンにUSBメモリーを接続すると、即座に感染。施設内のネットワークを通じて、独シーメンス製のPLCを次々に制圧し、数千台ある遠心分離機に過剰な負荷をかけて、物理的に破壊していった。
その結果、イランの核開発計画は3年程度遅れたと推定されている。スタックスネットを開発したのは米国家安全保障局(NSA)とイスラエル軍の情報機関とされているが、真相はやぶの中だ。明らかになったのは、ネットから隔離されていても安全とは言い切れないという、新たな常識だけだ。
制御機器メーカーが定期的に工場内に持ち込む保守用パソコンも、ウイルス感染の経路となる。工作機械やロボットにパソコンを接続し、設定を調整したりデータを収集したりする際に、ウイルスが工場内に侵入。制御システムに感染するケースが増えている。
IoTの伸展が新たな脅威に
●制御システムを攻撃する手法
米政府機関で制御システムの危機対応をつかさどるICS-CERTのまとめでは、鉄鋼や精密機器など「重要機器製造業」を狙うサイバー攻撃が急増。2014年には全体の27%に達し、電力などエネルギー業界に匹敵する規模となった。2012年からの2年間で、製造業の制御システムを狙った攻撃は8倍以上に増えた。全攻撃の4割は手口を解明できず、対策が取れない状況だ。
今は、日本国内では一部でしか発覚していない。これは被害の事実がないのではなくて、現行の法制度では個人情報が漏洩しなければ、サイバー攻撃を受けた事実を関係省庁に報告したり、社外に公表したりする義務がないからだ。「システムへのアクセス記録を管理しておらず、攻撃を検知したり原因を追究したりできない企業も多い」と、マカフィーの佐々木弘志サイバー戦略室シニアセキュリティアドバイザーは指摘する。冒頭で紹介したように、調査すれば被害実態が鮮明になる可能性がある。
PC-9801もまだ「現役」
ネットと隔絶していても増え始めた工場のサイバー被害。今後、IoT(モノのインターネット)が伸展し生産現場がネットと常時つながる時代が来れば、リスクは飛躍的に増大する。
製造業では工場同士、あるいは機械同士をネットでつなぎ、生産プロセスを効率化することが競争力を左右し始めた。電力業界ではスマートメーターの導入で、各家庭の電気利用状況を発電所で把握する取り組みが進んでいる。インターネットと隔絶した環境で制御システムを運用すること自体、難しい時代になりつつあるのだ。
一方で、サイバー攻撃の手法は急速に進化している。石油化学プラントなどの制御システムを手掛ける、横河電機高度ソリューション事業部の門田章臣ITインフラストラクチャー部長は「何の準備もしないまま、制御システムをインターネットに接続すると、100%の確率でウイルスに感染する」と指摘する。
さらに年金機構を襲った標的型攻撃が、制御システムに照準を合わせ始めた。標的型攻撃は、特定の企業や組織を狙って情報を盗む手口のこと。専用ウイルスを開発して攻撃を繰り返すため、防ぎきるのが難しい。親しい人を装ってメールを送信し、油断させて添付ファイルを開かせることで、ウイルスに感染させるのが一般的だ。
前述の通り、従来の制御システムはネットから隔絶されていた上、独自の機器とソフトを組み合わせて構築していたため、標的型攻撃で使われるようなウイルスに感染することは少なかった。
だが、2000年代に入り工場のIT化が進むと、生産現場にもWindowsのような汎用ソフトが進出。インターネットで使われる一般的な通信技術も、工場内のネットワークで活用されるようになった。その結果、企業情報システム向けに開発されたウイルスも、工場に侵入しさえすれば制御システムにダメージを与えることが可能になったのだ。
工場内で使われるソフトはなかなかバージョンアップしない。「ある工場では(1980年代のパソコン)PC-9801が現役で稼働していた」。NECサイバーセキュリティ戦略本部の松尾好造本部長はこう苦笑する。WindowsXPもまだ多くの現場で残っている。制御システムでは安定稼働が最優先される。最新のソフトに更新して不具合を出したくないという意識があるため、セキュリティー対策は後回しになりがちだ。
実際、ドイツの製鉄所が標的型攻撃を受けたケースでは、制御システム全般に不具合が発生。最終的には溶鉱炉が爆発した。2014年には欧州の電力会社がサイバー攻撃を受け、9社がウイルスに感染。制御システムを管理するサーバーから、情報が漏洩した。
カメラ、餅製造機が踏み台に
下の図は、米インテルセキュリティが公開している、リアルタイムのサイバー攻撃状況だ。アラブ首長国連邦のドバイに攻撃が集中したかと思えば、次の瞬間には台湾が砲火を浴びる。日本がサイバー攻撃の発信源になることも多い。悪意ある攻撃者が身元を隠すために、世界各地にあるサーバーやパソコンを踏み台にしているからだ。
世界各地から攻撃が集中
●サイバー攻撃をリアルタイムで可視化するウェブサイト
出所:インテルセキュリティ
「東南アジアのある国では、餅製造機のセンサーが乗っ取られ、サイバー攻撃の基点になっているケースが見つかっている」と、PwCサイバーサービス合同会社の星澤裕二・最高執行責任者は話す。日本の工場内にある機器が乗っ取られ、ネットワークでつながった系列工場に攻撃を仕掛ける事態すら夢物語ではない。
IoTの普及により、多様な機器がサイバー攻撃の標的になる。
例えば監視カメラ。最近の機種にはインターネット経由で画像を送受信できる機能が搭載されているが、購入時と同じパスワードで使える状態で放置されているものもある。その気になれば、容易に乗っ取れるわけだ。
米ラスベガスで2015年に開催されたサイバー防衛の国際会議で、自動車を乗っ取る方法や弱点が解説された(写真=ロイター/アフロ)
脅威はさらに広がる。2015年7月、世界の自動車関係者を震撼させる映像がネット上で公開された。2人のセキュリティー専門家が米FCAUS(旧クライスラー)製の「ジープ・グランドチェロキー」の制御システムを乗っ取り、遠隔地からエンジンを操作したのだ。
通信会社のデータセンターに侵入し、無線経由で不正な命令を送信することに成功した。「クルマとスマートフォンがつながり侵入口が増えた。セキュリティーの抜け穴がないか、自動運転が普及する前に見直す必要がある」。トレンドマイクロの斧江章一・執行役員は警鐘を鳴らす。
一連の事態を受けて、産業界でも対応が始まっている。
「ロボットが異常停止しました」
管制室のモニターが急変し、大きな警告音が鳴り響く。宮城県多賀城市にある、制御システムセキュリティセンター(CSSC)の訓練風景だ。経済産業省が主導して、日立製作所や富士電機などが機器を提供。下水処理施設や火力発電所、組み立て工場など9つの模擬プラントを設置し、サイバー攻撃への対処法を訓練している。
「工場などで制御システムを扱う担当者の頭には、サイバー攻撃という概念がない。すると、機械が異常停止しても、故障だろうと軽く考えてしまう」とCSSCの村瀬一郎事務局長は指摘する。制御システムが攻撃されたら、どのような事態に陥るのかをシミュレーションするのが、この施設の意義である。2014年度は電力11社、ガス24社の担当者が2日間の演習に参加した。
制御機器の棚卸しを急げ
同様の取り組みは、あらゆる企業に求められる。オフィスのパソコンだけでなく、工場やプラントの機械・設備もサイバー攻撃の標的になっている事実を経営者が認識しなければ、対策の打ちようがないからだ。「安定稼働している制御システムを入れ替えるのは難しい。まずは経営者の意識を高めて、運用方法を改めるのが先決だ」と、日立製作所インフラシステム社大みか事業所の中野利彦セキュリティ推進室長は話す。
最初の対策は、工場やプラントの現場を熟知したセキュリティー担当者を配置すること。「制御システムが攻撃されると現場の操業が維持できなくなる。短時間で復旧するには、機器を調べて原因究明できるエンジニアが欠かせない」と、NTTコミュニケーションズ技術開発部IoTクラウド戦略ユニットの境野哲・担当部長は説く。自社の工場やプラントでどんな機器が使われ、対策はどれほど講じられているのか。早急に棚卸しをする必要がある。
日本企業はこれまで、情報システム部門がセキュリティー対策を主導してきたが、この慣習も見直す必要がある。情報システム部門はオフィスのIT機器は管理できるが、工場などの制御システムには不案内。また、工場長の頭越しにセキュリティー対策を命じる権限を持っていないのが通例だ。制御システムと情報システムを一元管理できる、責任者の任命も急務だろう。
インターネットから“片方向”だけ分離するという対策もある。会津大学の山崎文明特任教授は「原子力発電所や交通管制システムのような重要インフラでは、データダイオードと呼ばれる機器の導入が必要だ」と話す。発電所などからの情報発信は可能だが、逆方向には電気信号を送れないため、不正アクセスを確実に防げる。一般の工場や病院などでも有効な対策だろう。
日本では今のところ、巨大停電や機械の暴走といった深刻な事故は起きていない。だが、制御システムを狙うサイバー攻撃が年々増え、手口も急速に高度化しているのは事実だ。2020年の東京五輪に向けて、日本は格好の標的になっていく。いつまで水際で食い止められるのか。安全神話に浸っている余裕はもはやない。
(日経ビジネス2016年1月18日号より転載)
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このコラムについて
Special Report
日経BP社の媒体の中から、読者の反響が高かったものを厳選し、『日経ビジネスオンライン』で公開します。
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子どもたち、どんどん未来をハックしておくれ
低年齢化するプログラミング教育
2016.7.5(火) 五十嵐 悠紀
ScratchJrで遊ぶ兄弟。妹も楽しそうに覗いています。
最近の我が家では、7歳の長男が5歳の次男にプログラミングを教えています。iPadをのぞき込む兄と弟。「ScratchJr(スクラッチジュニア)」を使ってドラッグしたりタップしたりしながら、楽しそうにしています。
兄「ここにたこさんを置いてね、こうやると数字が出るから、1ってなってると1個分だけ動くけど、5にすると、5個分先に行くようになるよ、ほら」
弟「ほんとだー」
兄「背景も変えられるよ。こうやって設定してー」
弟「たこさんだから海がいい。おさかなさんも動かしたい」
兄「じゃぁ、おさかなさんを持ってきて(ドラッグして画面の中に持ってくる)、動かしてみる」
弟「10にする!」
兄「それじゃ、ぶつかっちゃうよ。あ、たこさんにぶつかったら終わりっていうゲームにしてみようか。それにはえーっと」
そんな会話が繰り広げられながら、海を背景に、「たこさんがたくさんのおさかなさんから逃げるゲーム」が作られていきました。
兄の「プログラミングへの好奇心」。そして、弟の「兄への尊敬の眼差し」。子どもの言葉で、そして子ども自身がハマったツボの視点で教えるプログラミングは、私が教えるよりもはるかに次男の興味をそそるようです。
「お兄ちゃんすごい!」
そして、兄は教えることによって、より理解を深めていっているように思います。
義務教育に加わったプログラミング教育
私が初めてプログラミングをしたのは高校生のとき。父親がエンジニアでプログラムを自宅でも組んでいたことと、数学の教科書の後ろにBASICのアルゴリズムが載っていたことが、興味を持ったきっかけでした。
しかし、ここ最近は、プログラミング教育はずいぶんと低年齢化してきています。
義務教育の中では、2012年からは中学校の技術家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修になっています。中学校の指導要領の技術分野には、「D 情報に関する技術」にあるように、「ディジタル作品」という言葉や、
プログラムによる計測・制御について,次の事項を指導する。
ア コンピュータを利用した計測・制御の基本的な仕組みを知ること。
イ 情報処理の手順を考え,簡単なプログラムが作成できること。
といったことが内容として掲げられています。
アメリカでは、老若男女を問わず「誰でもプログラミングを学べる」という意識を持たせることを大きな目標とした「コンピューターサイエンス教育週間(Computer Science Education Week: CSEdWeek)」があります。この期間には、数多くのプログラミングやコンピュータサイエンスに関する無料のワークショップやイベントが行われています。
幼稚園や小学校低学年向けには
そして日本でも、もっと低年齢のうちに学ぶ機会が増えてきています。
5月に発売された『ルビィのぼうけん(原題:Hello Ruby)』(翔泳社)という絵本があります。基本は絵本なのですが、論理的思考が身につくようなストーリーになっています。
「おもちゃをかたづけなさい」と言われたルビィはぬいぐるみを元に戻し、ブロックやおもちゃの家を片付けます。でも、お絵かきえんぴつは床に置いたまま。「えんぴつはおもちゃじゃないものね」
私が読むと、この論理的思考の絵本の面白さが分かるのですが、子どもたちは果たして理解しているのでしょうか。本当に理解しているかどうかは、私にも分かりません。
しかし、考え方の勉強や訓練にはなるように思います。絵本だからといって、子ども向けとするのではなく、大人でもプログラミングを始める初学者に楽しめるような本だと思います。
冒頭で紹介したScratchJrも、幼稚園児や小学校低学年向けのビジュアルプログラミング言語です。このような低年齢児にも理解できる、ビジュアルプログラミング言語を使ったワークショップの開催も、日本全国に増えてきています。このように、低年齢児が初めて携わるプログラミング言語として、Scratchコミュニティは非常に盛り上がりを見せています。
一方で、Scratchや同じくビジュアルプログラミング言語である「Viscuit」で入門したけれど、その次の言語が不足するといった「Scratch難民」の存在も、株式会社UEIの清水亮氏をはじめとした有識者から指摘されています。
7歳の長男はScratchでは物足りなくなってきているようですが、英語が分からないのと、キーボードをタイプすることができないので(フリック入力はできますが。笑)、他の言語に移行できていません。疑似コードを見せて、画面に文字を表示させるPrint文を軽く教えてみたら、「なんで英語なの?」と聞かれます。「“いんさつ”って書くのじゃダメなの?」とか。
このように、プログラミング言語やツールの問題、そして適切な指導者をそろえる、といった人材の問題などが指摘されているのです。
ゲームをハックすることでプログラミングに興味をもたせる
IPA(情報処理推進機構)の「未踏IT人材発掘・育成事業2015年度スーパークリエーター」である寺本大輝氏は、ゲームをハックしてプログラミングを好きになる、「HackforPlay(ハックフォープレイ)」というシステムを開発しました。
システムとしては、敵と戦わないとクリアできないゲームなのですが、どうやってもそのままでは勝てません。
ところが、ゲーム内に魔導書というものがあり(そこにはJavaScriptのソースプログラムが書かれている)、それを見てみると、プレイヤーのヒットポイントの初期値がとても低いことが分かります。その初期値を書き換えて(すなわち、ハックして)、再度プログラムを実行すると、今度は簡単に戦いに勝つことができるのです。
子どもがプログラミングに興味を持つために、そして子どもがプログラミングを嫌いにならないために、子どもの大好きな「ゲーム」を題材にしてプログラミングに導く、というコンセプトで設計されたこのシステム。「ゲームはプログラムで書かれており、それを書き換えることでゲームの挙動が変わる」ということを子どもたちは身をもって体験することができるのです。
HackforPlayは、これをベースにしてゲームを作ったり、友達が作ったゲームを改造してみたり、とゲームステージを投稿・共有することができるプラットフォームにもなっています。
身近で体験できる機会を探してみては
夏休みを前にして、たくさんのプログラミング教育を学べるワークショップが企画されています。地域の広報誌や小学校経由で配布されるチラシなどに目を向けると、体験教室やワークショップなどの情報が得られることでしょう。
毎年開催されてきたNPO法人CANVASによる「ワークショップコレクション」は、今年は九州・福岡で開催されます。
また、小中学生向けにはプログラミングコンテストが開催されます。今年のテーマは「ロボットとわたしたち」。今はやりの人工知能やロボットが私達の生活をどう変えていくのか、興味を持った方はぜひ応募してみてはいかがでしょうか。
そんなワークショップなど近くにない、という方も、自宅でのちょっとしたきっかけを活用してみるという手もあります。
我が家では長男は小学校2年生になり、小学校の算数では繰り上がりのある足し算を習っています。息子を含め友達の間でブームになっている計算が1+1=2、2+2=4、4+4=8、・・・。小さいころ、誰もがやったことがあるのではないでしょうか。私も父によく出されていました。
こんなことから、「1と0で表されるコンピュータの世界」を少し教えてみたり、「こういったながーい計算をコンピュータは得意で一瞬で解いてしまうんだよ」といったコンピュータにまつわる会話のきっかけにしたりしています。
このように、低年齢の子どもたちにじわじわと浸透してきたプログラミング。プログラミングの得意な人だけが子どもに教えるのではなく、これまでプログラミングに携わったことのない方、プログラミングに苦手意識のある方も、この機会にぜひプログラミングを始めてみてはいかがでしょうか? 老若男女の視点が入ることで、こういったIT業界も様々な気づきや発展の可能性が広がるのです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47241
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