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コラム:英国離脱ショック、日本に3つの波及経路=武田洋子氏
武田洋子
武田洋子三菱総合研究所 チーフエコノミスト
[東京 1日] - 英国民投票での欧州連合(EU)離脱派勝利は、世界に大きな衝撃を与えた。米大統領選挙でも見られているような、「反グローバリゼーション」「反エスタブリッシュメント」の流れが政治を揺り動かし、世界経済の不確実性の高まりにつながっている。英国民の選択が、欧州全体でEU離脱への機運を高める可能性もある。
イタリアでは10月に憲法改正を問う国民投票が実施される予定であるほか、2017年にはオランダ下院選挙、フランス大統領選挙、ドイツ連邦議会選挙が控えている。EUやユーロ圏の統合深化に向けた動きが後退すれば、欧州全体の中長期的な成長力が低下することが懸念される。
日本経済にとっても大きな試練となることは間違いない。もともと景気の足取りが鈍いなか、英国EU離脱ショックが、短期的には3つの経路で日本経済の下押し圧力として作用する。
第1に、金融市場の不安定化を通じた影響である。英国でのEU離脱派勝利が現実味を帯び始めた6月上旬以降、ドル円レートは5円以上円高が進行、日経平均株価も2000円近く下落した。
各国中央銀行による流動性対策への備えがあることなどを踏まえると、リーマンショック時のような「流動性危機」へ発展する可能性は低いと見るが、それでも6月上旬以降の円高・株安により、日本経済の実質国内総生産(GDP)成長率は0.2%程度押し下げられる見込みだ。
第2に、貿易チャネルを通じた影響である。そもそも英国経済自体がEU離脱によってマイナスの影響を受ける。推計機関によって幅はあるものの、英国の実質GDPは1―6%程度下押しされると見られている。
日本の輸出に占める英国向けの割合は1.7%(2015年)と小さいため、日本からの英国向け輸出が仮に6%減少した場合でも、日本の輸出全体への影響はマイナス0.1%程度であり、英国との2国間貿易のみを見れば影響は限定的だ。
問題は、英国以外のEU加盟国経済への波及などにより、欧州全体の景気が悪化する場合である。欧州を最大の輸出先とする中国経済の一段の減速というシナリオの蓋然性が高まった場合には、世界の貿易が縮小することを通じた悪影響が懸念される。
第3に、最大の懸念材料となるのは、先行きに対する不確実性の高まりだ。まず、金融市場でリスク回避姿勢が強まり、そうした市場における不確実性の高まりが実体経済の先行き不透明感にもつながっている。
実際、英国がEU離脱に至るプロセスは不透明だ。帝国データバンクによると、英国に進出している日本企業は1380社に上る。EU単一市場へのアクセスを理由に英国を拠点に欧州事業を展開している企業も多く、1)正式なEU離脱通告の時期、2)EU離脱に向けてのスケジュール、3)離脱後に英国とEU、英国と非EU国との間で結ばれる貿易・投資協定の中身次第で、欧州事業戦略の見直しを迫られる可能性がある。
また、金融機関にとっては、英国で事業免許や認可を得れば他の加盟国で自由な金融サービスの提供が可能となる「シングルパスポート・ルール」が維持されるかどうかが注目される。
こうした不透明な事業環境は、企業の投資抑制要因となる。過去の不確実性上昇局面での設備投資の動きなどを参考に試算すると、EU離脱をめぐる不確実性の高まりにより、日本の設備投資の伸びは0.7%程度抑制され、実質GDP成長率は0.1%程度押し下げられると見る。
当社では、上記3つの経路を踏まえ、2016年度の日本経済の実質GDP成長率の見通しを0.4%から0.2%へと下方改訂した(6月28日発表)。もっとも、本改訂は、金融市場や当面の不確実性の高まりといった短期的な影響を織り込んだだけにすぎない。今後の欧米の政治情勢や金融市場の展開次第では、さらなる下押し圧力が加わる恐れもある。
<日本経済の回復力はなぜ弱いのか>
そもそも日本経済の回復の足取りは、英国EU離脱ショック発生以前から弱まっていた。2015年度上期には過去最高の企業収益と歴史的に良好な雇用環境を実現したはずだが、なぜ日本経済の好循環は広がらなかったのか。
1つには、企業マインドが昨年夏頃から慎重化し始めたことがある。中国経済をはじめとする新興国経済の減速や米利上げ観測の後退などによる円高進行が、マインドに悪影響をもたらした面は否めない。さらに上記の英国EU離脱ショックが加わった。
2点目は、消費者の根強い将来不安である。それを示す2つの定点調査結果(当社の生活者市場予測システム)がある。1つは、消費者3万人に対して実施したアンケート調査で、2011年から2015年にかけての消費者意識の変化を見ると、安倍政権発足前後で大きく変化した点と変化していない点がある。
まず変化した点から述べれば、雇用に対する不安が大きく後退した。「不安」と回答した人は2011年の56%から2015年は24%と半減した。有効求人倍率の劇的な改善に示されているように、これはアベノミクスの成果だと胸を張っていいだろう。
一方で変わっていないのが、社会保障と財政に対する不安だ。50%以上の人がいまだ「不安」と回答している。3年半余りのアベノミクスでも、この点を変えることができていない状況が見て取れる。
ちなみに、この将来不安は中年層で特に強い。5000人に対して3カ月ごとに実施している年齢階層別のアンケート調査結果(最新は4月末)を見ると、特に50代で消費に対する慎重姿勢と将来に対する不安が高まっている。
これは、若年層が求人増などを背景に不安を減らしたのに対して、日本型の年功序列・終身雇用システムに長年組み込まれてきた中年層は雇用流動性がそもそも低く、また役職などに応じた賃金体系となっているため、雇用環境の改善を相対的に感じにくい面も影響しているのだろう。また、社会保障についても、先行きの制度の持続可能性に対し、不安を感じやすい年齢層でもあると推測される。
実際、消費の実額を見ると、2012―14年平均と2015年で比較して減少幅が一番大きかったのは50代を世帯主とする世帯だ。平均年収の高い中年層の消費が伸びてこないと、内需主導の景気回復は期待しにくい。
<基礎的財政収支の黒字化は最低限の目標>
こうした状況を大きく変える「魔法の杖」はもちろんない。当社が6月22日に公表した「内外経済の中長期展望」では、2030年代の潜在成長率は自然体ではゼロ%程度と予想している。
当然ながら、潜在成長率を引き上げるのは金融政策では無理だ。潜在成長率を上げるという観点からは、政策面で主役となるべきは生産性向上を促す構造改革や規制緩和などの成長戦略である。また、併せて民間企業のイノベーションが欠かせない。
提言として大きく4つある。1つは、技術革新に適応できる人材育成への取り組み強化だ。
日本は、労働力人口が不足し、有効求人倍率が上昇していると言われるが、一方で企業が求める人材やスキルとのミスマッチが広がっている。今後、IoT(モノのインターネット化)やAI(人工知能)、ビッグデータの活用が進めば、ミスマッチはさらに広がる可能性が高い。人材教育自体にAIを導入していくぐらいの先進性を発揮しなければ、日本はこの第4次産業革命の波をリードすることはできないだろう。
2つ目は、そうした先進技術のビジネスへの生かし方だ。残念なことに、AIやIoTなどの活用法に関する世界の経営者アンケートを見ると、欧米側の回答は大半が付加価値創造や新市場創出であるのに対して、日本側の回答はもっぱらオペレーションの効率化だ。省力化投資はもちろん重要だが、それだけでは技術革新は生まれない。結果として劇的な潜在成長率向上は望むべくもない。日本の企業経営者は、第4次産業革命の先頭を走るような新製品や新サービスで世界市場に勝負を挑むような攻めの経営姿勢を取り戻さなければならない。
3つ目は、中間所得層や富裕層が増えていくアジアのダイナミズムをいかに取り込むかだ。仮に中国の成長率が2030年にかけて3%台まで減速していくとしても、同国の1人当たりGDPは、2030年代には現在の倍以上の1万8000ドルを超える見通しだ(現在のポルトガルにほぼ匹敵)。
また、中国でも今後、高齢化が進み、2030年までに人口の17%に当たる2.4億人が65歳以上の高齢者となる。例えば、今からその将来を見越して、日本市場にとどまらず、中国を中心とするアジア市場を視野に、介護ロボットの開発を強化していくなどの発想が日本企業には必要なのではないか。
最後は、年金や医療など社会保障のサステイナビリティー(持続性)確保だ。前述したアンケートにも示されているように、消費低迷の背景には、公的債務がGDP比で200%超に膨れ上がる中で、一般会計歳出の3割超にも達している社会保障システムの持続性に対する不安が高まっていることがあるのは明白だ。
日本では、2022年以降、いわゆる団塊世代が75歳以上になっていく。政府は消費税率引き上げの先送り後も2020年の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)黒字化目標を堅持しているが、PB黒字化は最低限の目標にすぎないと認識すべきだ。
2020年のPB黒字化目標を達成するためにも、その後の財政・社会保障制度の持続可能性を確保するためにも、社会保障の受益と負担のインバランスを是正しなければならないことは誰の目にも明らかである。社会保障制度の改革は、すべての国民に真に必要なときに社会保障が行き渡り続けるためだと粘り強く説明し、政治が行動すべき時である。
*武田洋子氏は、三菱総合研究所のチーフエコノミスト。1994年日本銀行入行。海外経済調査、外国為替平衡操作、内外金融市場分析などを担当。2009年三菱総合研究所入社。米ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)
http://jp.reuters.com/article/column-yoko-takeda-idJPKCN0ZH3RV
日銀版コアコアCPI、5月は+0.8% 2カ月連続で下落
7月1日、日銀は、生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(日銀版コアコアCPI)の前年比上昇率が5月にプラス0.8%になったと発表した。写真は日銀本部で3月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)
7月1日、日銀は、生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(日銀版コアコアCPI)の前年比上昇率が5月にプラス0.8%になったと発表した。写真は日銀本部で3月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 1日 ロイター] - 日銀は1日、生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(日銀版コアコアCPI)の前年比上昇率が5月にプラス0.8%になったと発表した。下落は2カ月連続で、昨年6月の同プラス0.7%以来の低水準となる。
日銀版コアコアCPIは2013年10月に前年比プラスに転じて以降、2015年12月に同プラス1.3%の直近ピークをつけるまで順調に上昇を続けてきた。
しかし、2016年に入ってからは上昇の一服感が鮮明になっており、1月から3月にかけて3カ月連続で同プラス1.1%と足踏み。4月に節目と見られていた1%を9カ月ぶりに割り込み、同プラス0.9%に下落していた。
日銀では、目標に掲げる物価2%の達成向けて、需給ギャップやインフレ期待などで構成される「物価の基調」の動向を重視している。原油価格の急落でエネルギー価格の変動が激しく中、生鮮食品とエネルギーを除いた日銀版コアコアCPIを物価の基調を反映する指標として、独自に試算して公表している。
(伊藤純夫)
http://jp.reuters.com/article/boj-cpi-idJPKCN0ZH3SP
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