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英EU離脱で日の丸自動車産業に立ち込める観測不能の暗雲
http://diamond.jp/articles/-/93948
2016年7月1日 佃 義夫 [佃モビリティ総研代表] ダイヤモンド・オンライン
■急激な株安・円高トレンドに騒然
英国EU離脱が日本車各社に与える影響
英国のEU離脱で、日本の自動車産業の欧州戦略はどう変わるのか。写真は2012年、英国サンダーランド工場で2033年から新たな中型モデルの生産開始の発表を受け、キャメロン英首相が日産本社を訪問した際のもの Photo:NISSAN
■急激な株安・円高トレンドに騒然
英国EU離脱が日本車各社に与える影響
英国の欧州連合(EU)離脱に、日本の自動車産業は不安を募らせている。1つは、株安・円高トレンドに拍車がかかり、業績低下圧力がかかるのではないかという不安、もう1つは欧州市場全体への足がかりを考えるなかで、英国での現地生産・基地化戦略の再構築を見極めなくてはならないという不安だ。自動車メーカーは、こうした両面での成り行きを注視していかねばならない事態となっている。
リーマンショックの再来か――。英国のEU離脱決定直後から、こんな懸念が飛び交った。EU離脱の是非を問う国民投票は、離脱派が残留派を上回った6月24日の投票結果を受けて、実体経済に影を落とした。
この欧州発の暗雲が立ち込めると、即座に日本の金融市場も急激な株安・円高へと反応。特に為替市場は、一時90円台をつける円高になったほど。これは、2008年9月に米国の投資銀行・リーマンブラザースの破綻が引き起こした世界同時不況、いわゆるリーマンショックに匹敵する衝撃だという見方も出た。
つまり、英国がEUの前身であるEEC(欧州経済共同体)から40年以上も加盟してきた欧州単一市場から離脱することは、欧州全体の混乱と英国自体の分裂懸念を引き起こし、世界経済に大きな波紋を投げかける可能性があるということなのだ。特に英ポンドの下落によって円高が進むと、トヨタをはじめとする日本車メーカー各社の業績下振れに拍車をかけることになる。
また、5億人を抱える単一欧州市場への足がかりとして英国へ重点的に投資してきたトヨタ、日産、ホンダといった日本車大手は、今後の離脱交渉の行方を見極めながら戦略の再構築を進めなければならない。最悪の場合、英国での生産から撤退し欧州大陸への全面展開を図るなど、それが大きな戦略転換シナリオにも繋がることもある。
英国は、その構成国がラグビーやサッカーなどのスポーツの世界で互いに競い合っていることからもわかるように、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国で構成される連合王国である。
正式には「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」という名称の国家を、我々は通称で英国、あるいはイギリスと呼んでいる。欧州において大陸のドイツ、フランスの盟主国に対抗する存在が、「大英帝国」と言われた英国なのである。EUの統一通貨がユーロであるにもかかわらず、英国が自国通貨のポンドを維持し続けてきたことは、EUにおいて独自の位置づけを確保しようとする気持ちの表れだろう。
■衰退する英国の自動産業を
支えた日本車各社の現地進出
自動車産業についても英国は長い歴史を持ち、欧州の中でも特に日本の自動車産業との関わりが深い。英国の自動車産業そのものは、英国車ブランド自体は残しているものの、過去の栄光は見る影もなく、ほとんどの国内メーカーは外資に身売りして消滅してしまった。それでも、EU加盟国であるメリットを生かして自国の自動車生産が復活するなかで、それを支えてきたのが日産、トヨタ、ホンダの日本車なのである。
英国の自動車産業は、かつての大英帝国が育成に力を入れるなか、欧州でドイツ、フランスと共に3強の位置づけを示した。日本車メーカーは、戦後の復興期に日産がオースチン、日野自動車がヒルマンに生産技術を学んだこともあり、当時の英国自動車メーカーとの関わりは深かった。英国は1960年代まで米、独に次ぐ第3位の自動車生産国だったし、欧州戦略の面においては日本車メーカーにとって重要な位置づけにあった。
日本と英国の自動車業界は、民間レベルの自動車市場対応として、日本自動車工業会と英国SMMT(英自動車製造販売業者協会)が、「日英自動車会談」を1975年から1983年まで開催していたといういきさつもある。
当時の自動車貿易摩擦を回避するため、両国の業界が話し合って交渉することで成果を上げてきた。筆者はこの日英自動車会談を現役記者時代に取材したことがあるが、この会談は日英両国で交互に開催する形をとり、民間同士で徹底的に話し合い、時には深夜に及ぶ会談もあったほどだ。これは、国の政治介入を排し貿易摩擦を回避する民間レベルでの話し合いのモデルケースとして実績をつくり、評価された。
その英国自動車産業も、1980年代以降、排ガス対策の遅れや生産効率が上がらず英メーカーは衰退していった。結果として、英国車ブランドは残っているが、いずれも外資への身売りなどを通じて、実質的な英国自動車メーカーは消滅している。英国車ブランドは、ミニとロールスロイスがBMW、ジャガー、ランドローバーがインド・タタ自動車、ベントレーが独VW、ボクスホールが米GM、ロータスがマレーシア・プロトン、MG、そしてオースチンが中国・南京汽車へというように、様々な国の企業に身売りする形で生き残っているのが現実だ。
一方日本車メーカーは、英国との長い繋がりの歴史のなかで、欧州市場の生産基地として位置づけて来た。日産、トヨタ、ホンダの日本車大手は、1980年代から現地での生産に進出している。
特に日産は、旧日産時代の1984年に英国進出を発表。これが元で、当時の石原日産社長に反対する塩路日産労連会長との間で労使対立が表面化し、その後の同社の業績不振に繋がった経緯もある。それでも日産の英サンダーランド工場は、ゴーン体制以降も欧州戦略基地として大きな位置づけを示している。
英国での日本車生産を見ると、昨年2015年は日産が48万台、トヨタが19万台、ホンダが12万台となっており、その多くをEU地域に輸出している。日産がイングランド東北部のサンダーランド、トヨタがイングランド中部のバーナストン、ホンダがロンドン西のスゥインドンに工場を持ち、それぞれがすでに20年以上かけて現地の市民権を得ており、雇用面でも大きく貢献しているのだ。
さらに日本車各社は、英現地の生産体制の増強計画を進めてきた。日産はサンダーランド工場に220万ポンド(約33億円)を投じて、SUV「キャッシュカイ」を10月から増産することになっている。また、ホンダもスゥインドン工場に2億ポンド(約300億円)を投じ、2016年中にシビック5ドア車専用工場に切り替え、グローバル生産基地とすることで、英国からの輸出拡大を目論んでいた。
■英国が本当にEUを離脱するなら
現地への投資を控えるしかない?
このように、日本車にとって英国は、EUへの生産拠点として重要な意味を持っており、英国も日本車生産の現地化が雇用に大きく貢献していることを評価してきた。今回の英国民投票でも有名になったサンダーランドには日産の工場があるが、今や英国で最も大きい自動車工場であり、同地は日産の城下町となっている。日産とトヨタ、ホンダを含めた日本車が英国の自動車産業を支えていると言っても過言ではない。
英国で生産されるクルマには「GB」のエンブレムがある。これは「グレートブリテン」のGBであり、これこそ英国自動車産業の誇りなのだろう。
今回の国民投票が行われる前、カルロス・ゴーン日産社長は「英国がEUに残ることが雇用、貿易やコストの観点からふさわしい。未知より安定のほうが事業として有利なはずだ」との声明を発表している。離脱した場合、投資を控える可能性も示唆したほどである。
またトヨタは、英EU離脱という国民投票の結果を受けて、「競争力維持、持続的成長の観点から英国の自動車産業とステークホルダーと共に、今後の動向を注意深く見守りながら検証していきたい」とコメント。ホンダも「現時点でどういった条件やルールが最終的に英国向けに置き換わるか明確でない。したがって、今後の展開を慎重にモニターしていく」とコメントした。
今後の英国・EU間交渉の行方が注目されるわけだが、それは現段階で長期化の様相を呈しているようだ。結果的に、今回の離脱通告から実際の離脱までには2年間の猶予期間があるわけで、日本車各社は2018年秋までに戦略見直しの見極めをすればいい、との見方も出ている。
いずれにしてもEU離脱を決めた英国だが、スコットランドにおける独立機運の高まりなど「グレートブリテン」分裂への動きやEUとの今後の交渉の行方など、不透明な部分が多い。それだけに日本にとって、世界的な株安や円高がいつまで続くのかは気がかりだ。
特に円高の進行には歯止めがかかるのかどうか。2008年9月のリーマンショックでは、円相場が90円台から80円台へと二ケタ台に突入し、2012年からは一時76円となる超円高時代が続いた。2009年3月期決算ではトヨタ、日産以下6社が営業赤字に転落するという事態となった。トヨタは初の、日産は14年ぶりの営業赤字転落だった。日本車各社にとって苦く、苦しい経験だった。さしものゴーン日産社長も、「日本には欧米市場にない『円高』というマイナス要因がある」と弁明していたのが印象的だった。
2013年以降、為替相場は100円台から110〜120円の円安に触れて安定化したが、今年に入って年初来の株安と円高トレンドに戻りつつあった矢先に起きた英国のEU離脱である。トヨタをはじめ日本車各社は1ドル=105円程度の想定で今期の業績見通しを打ち出していた。トヨタでは1円の円高によって約400億円の為替差損が発生することから、6月28日の東京株式市場でトヨタ株は約3年3ヵ月ぶりに5000円割れの安値となった。為替相場で英離脱を受けて円高が進み、17年3月期の業績計画が未達になるとの懸念が広がったためである。
■増税延期で駆け込み需要消失、
海外戦略の見直しという内憂外患
英国のEU離脱によって世界経済の先行きに不透明感が高まり、トヨタに限らず世界的に自動車株は下落傾向にある。日産にいたっては29日段階で930円と、低迷している。日本国内においても、安倍首相の消費増税の再延期以上に、英国EU離脱の影響が国内景気の押し下げ要因になるのではないかと懸念される。
日本国内の新車市場見通しは、消費増税延期で想定されていた駆け込み需要がなくなること、三菱自工やスズキの燃費データ不祥事で軽自動車の落ち込みが続くことなどの影響で、年間500万台を大きく割り込むことになりそうだ。景気動向に敏感な自動車は、国内で低迷する一方、輸出でも厳しく、海外生産でも戦略見直しを余儀なくされるという「内憂外患」にある。
その意味では、日本車にとって欧州戦略の足がかりとして築いてきた、あるいはグローバル生産基地に高めようとしてきた英国生産についても、輸出で高関税がかかるようになれば元の木阿弥となる。とはいえ、ドーバー海峡を渡って欧州大陸での生産に切り替えることは、金融分野と違いそう安易ではないという現実もある。
まさに日本車にとって、英国EU離脱の影響は悩ましい限りなのだ。早期にこの不透明感が払拭される流れを、自動車業界こそが強く期待しているのである。
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