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英国離脱「リーマン級の経済危機」を避けるために、いま日本政府がすべき5つのことを示そう
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49016
2016年06月27日(月) 高橋 洋一「ニュースの深層」 現代ビジネス
■参院選。各党の実力を見極める3つのポイントはここ
選挙期間中は、メディアも街中も政策のウィンドウショッピングと化す。どの政党がどのような政策を我々国民に売ってくれるのか、国民はどの政党の政策を買うのか。もちろん、すべての政策が一致する政党はまずないだろう。すると、どの点に力点を置くのか、になるが、これは個人の問題となる。
選挙ではいろいろな政策を見なければいけないが、大きなポイントは、安全保障と経済である。選挙公約を見ても、いろいろ書いてあるから、判断に迷ってしまうだろう。
そこで、安全保障と経済について、単純な質問を三つ考えてみよう。それらについて各党がどう考えるかを見ることで、どの政党に投票すべきかが簡単にわかる。各党によるテレビ討論では、そうした疑問に答えてくるときもあるので、それを参考にしてもいい。
まず、安全保障では、「自衛隊について合憲か違憲かのどちらと思うか」という質問がいい。高校や大学で憲法を習うと、自衛隊は違憲であると教わることが多い。
実際の憲法学者の大半は、自衛隊は憲法違反であるとしている。筆者が学生時代にも自衛隊は憲法違反であると習った。
しかし、社会人になったら、自衛隊は合憲であることを前提として社会の仕組みができていることがわかった。もし自衛隊が違憲であれば、将来は自衛隊をなくすべきだ。しかし、自衛隊が合憲であれば、このまま自衛隊があっていい。
ちなみに、自民、公明、おおさか維新は自衛隊を合憲としている。共産は一貫して自衛隊は違憲という立場だ。民進は自衛隊が合憲という立場である。民進は共産とこの参院選では共闘しているので、両党から推された候補者は股裂き状態になる。
具体的には、個別的自衛権の行使についてである。民進党は自衛隊合憲、個別的自衛権の行使も問題ないとしている。ただし、共産は自衛隊違憲としているので、個別的自衛権も行使できない、という立場だ。となると、両党は、一体国防をどのように行うのだろうか。
■安保も経済も、民進党はまったくなってない
26日のフジテレビの「報道2001」で、共産党の藤野政策委員長は「自衛隊は憲法違反」と明言した。NHKの「参院選特集」では、藤野氏は「軍事費は戦後、初めて5兆円を超えた。人を殺すための予算ではなく、人を支え育てる予算を優先する改革が必要だ」と述べた。
この発言には驚いたが、事実を言うなら、他国の軍隊と日本の自衛隊は異なり、人殺しはしない。むしろ、災害救助を中心に行っているので、人助けである。
人殺し防衛費というのは、共産の本音が出たのだろうが、さすがにこの発言は酷いので、これからも藤野氏が出てくるかどうかわからない(編集部注:藤野氏は後日発言を取り消した)。この共産の暴言に対して、自民、公明、おおさか維新などは良識的な反論をしていた。
次に、経済では「新卒者の就職率を高める政党はどこか」がいい質問だ。経済はいろいろな角度から見ることができるが、雇用の確保が最も重要である。雇用の確保ができないと格差問題も解決しない。職がない人と職がある人では格差が最も大きくなるからだ。
雇用の確保が大切といい、就業者数が増えていることや全国各地で有効求人倍率が1を超えているというと、すぐ非正規が増えているだけとか、賃金がまだ上がっていないという人がいるが、その人たちの意見は争点そらしであるから、注意しよう。
非正規でも増えているほうがいい。なぜなら、非正規になる前は無職だからだ。
それに「賃金、賃金」というが、無職から有職になってもはじめの賃金は低い。そのために平均の賃金を見ると下がって見えるが、いままでと同じ賃金の人がほとんどで、そこに無職で賃金なし、ではなく、平均より安い賃金の人が増えているので、下がって見えるだけだ。
このあたりの経済理論からの説明は、2015年12月21日の本コラム「民主党は雇用政策のキホンすら知らないのか…安倍政権批判のつもりが、自らの経済オンチっぷりを露呈」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47022)を読んでいただきたい。
■「雇用」「賃金」の読み解き方
雇用は、正規雇用などの既得権のコア部分ではその変化はわかりにくく、新卒者などの既得権がなく限界的なところでの変化に顕著に表れやすい。
大学の就職率は、文科省・厚労省方が公表しているが、2016年は97.3%と、統計を取り始めた1997年以来で一番高い数字だ。実は、大学の就職率は前年の失業率に依存している(下図)。
前年の失業率が1%低下すると、就職率は3%程度上昇するという関係になっている。景気と失業率の間には、逆相関の関係がある(オークンの法則)から、これは景気がいいと新卒者の就職が楽になるという単純な事実だ。
なお、民主政権時代の2010〜2012年の就職率は91〜93.6%であった。データから見れば、安倍政権のほうが就職率は高くなっている。
もちろん、就職率なんてどうでもいいという人もいる。一流大学であれば、景気に関係なく就職はあまり困らないし、就職できるかどうかは景気より個人の能力と考える人は、就職率は考慮対象にしていない。
26日のテレビ討論では、自民は雇用の成果を強調したが、民進は、雇用ではなく賃金に話をすり替えた。これでは、経済政策の基本がわかっていないことが明白になってしまう。
■イギリス離脱のインパクトをどう見積もるか
最後に、経済分野ではここをみよ、という点を。「イギリスのEU離脱に対してどのような政策をするか」という質問は、各党の危機管理能力を示す質問だ。
まず、現状認識としては、先週の本コラムに書いたように、英国離脱が経済に与える影響は、リーマンショック級と思ったほうがいい(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48953)。
EU離脱というかつてない事態がイギリスで起こるわけで、今後のEU離脱交渉の中で予想外のことが起こるたびに、ポンドや株が売られ、円高が進みかねない。
離脱の手続きの行方はまったくわからない。EUに通知してから、2年を原則として正式に離脱が決まるが、EU側は速やかに通知すべきとする一方、肝心のイギリス側は、誰がそれを決めるのかさえ明らかでない。
キャメロン首相は10月までに辞めるが、次期首相候補とされるボリス氏は「離脱交渉を急がない」としている。この不透明感は、あらゆるビジネスを停滞させる。その停滞が不況をもたらす可能性があるのだ。
さらに、その過程の中で、EUの緊縮財政に反対する国、たとえばスペイン、イタリア、ギリシャなどの、さらなるEU離脱を誘発しかねない。そうなったら、それこそ金融混乱は繰り返して起こることとなる。
かつて、リーマンショックの際に「ハチに刺された程度」と対策を怠り深刻な円高不況を招いた過去を忘れてはいけない。
イギリスEU離脱は連鎖反応を起こし、アメリカ経済、日本経済、世界経済を悪くする可能性がある。その二の舞を避けるためには、その影響度はリーマンショック級と見ておくほうがいい。これはあくまで危機管理上の問題なので、そう見るしかないわけだ。
■イギリス離脱対策。私ならこうする
その意味で、2017年度からの消費増税の見送りは日本にとっては正解だった。
その判断の前提であった安倍首相の「ひょっとしたらリーマンショック級のことが世界に起こりうるリスクがある」というのは(発言当初はさんざんと非難されたが)、結果として慧眼であったといえよう。もし消費増税を決めた後で、イギリスがEU離脱になったら目も当てられないことになっていたはずだ
筆者の考える危機対応策は以下の通りである。
1. 消費増税は延期ではなく、凍結にすべき。
2. 日銀の政策決定会合を臨時で開催して、量的緩和30兆円
3. 参院選後の補正予算で、財政支出 60兆円(20兆円×3年)。財源は、埋蔵金、財投債、国債。支出対象はインフラ整備、減税+給付金。
4. 事実上無制限の為替介入。そのために、今の介入枠を参院選後の補正予算で引き上げる。
5. 1と2、1と3はセット。前者がヘリコプターマネー、後者は非不胎化介入となって効果がある。
26日のテレビ討論では、英国ショックについて、自民の稲田政調会長から「安定政権、国際協調」、民進の山尾政調会長から「円安、株高に依存したアベノミクスからの転換」、共産の藤野政調会長から「アベノミクス転換、内需を強く」、公明の石田政調会長から「国際協調、政治の安定」、おおさか維新の下地政調会長から「大型補正予算、大型金融対策、為替介入の明確化」という対応策が出された。
正直言って、自公からの対応策は抽象的で、日本として何をやるのかが明確でない。民共はアベノミクスの否定であるが、第一、第二の金融政策、財政政策を否定したら、リーマンショック後の対応より酷い、無策である。この両党は危機管理能力がないと言わざるを得ない。おおさか維新だけが及第点をあげられる、と現時点では言っておこう。
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