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英離脱でロンドンより欧州の株価が下がった理由
政治と市場の“正しい”見方
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ドイツ総選挙までの1年がEUの正念場
2016年6月27日(月)
門司 総一郎
英国で6月23日に実施された欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票で離脱派が勝利。これを受けて翌24日は世界的に株式が下落。また為替市場ではポンドが売られ、避難通貨の円やドルが買われました。
しかし、これで終わったわけではありません。むしろこの国民投票は今年から来年に続く、選挙など欧州の一連の政治イベントの初戦に過ぎません。ここからが本番であり、来年にかけて欧州の政治が不安定化する恐れがあると見ています。今回はBrexit(英国によるEUからの離脱)の本質と、これが今後欧州や世界に及ぼす影響について考えてみます。
反移民・反EUを抱える欧州各国の政党が6月17日、オーストリアのウィーンに集まった。左は仏極右政党、国民戦線のマリーヌ・ルペン党首、右はオーストリア自由党のハインツ=クリスティアン・シュトラーヒェ党首(写真:ロイター/アフロ)
Brexitは経済問題ではない
市場関係者の間では、Brexitを経済問題ととらえる見方が多いようです。EUから離脱することで関税免除などの特典を失った英国経済が衰退、それが他国に波及し世界経済が悪化するとの見立てです。このシナリオが正しければ、それほど大きな問題にはならないと見ています。
そもそも英国は離脱するためにEUと協定を結ぶ必要があります。そのための交渉には数年かかるといわれています。この交渉が終わるまで英国は、これまで通り関税を課されることなくEUに製品を輸出できるので、景気がすぐに悪くなるわけではなさそうです。むしろこのポンド安で輸出競争力が高まるとの指摘もあります。
また国際通貨基金(IMF)によれば英国のGDPは世界全体の4%弱に過ぎません。米国(25%)や中国(15%)ならともかく、英国経済が衰退しても、世界経済に与える影響は限定的といってよいでしょう。
このようにBrexitの本質を、EUからの離脱に伴う英国経済の衰退と捉えるのであれば、それほど大した問題ではないと考えられます。しかし、実際はそうではありません。Brexitの本質は違うところにあるからです。
EU残留・離脱を問う国民投票に関する各国の世論
出所:読売新聞、イプソス
「親EU」対「反EU」
Brexitを経済問題と見る人の多くはこの問題を「英国対EU」の図式と見て、「英国は馬鹿なことをした。EUを脱退してやっていけるはずはない」と考えているようです。この見方は間違いです。なぜならEUからの離脱を考えている国は英国以外にいくつもあるからです。
調査会社イプソスがEU加盟各国で行った世論調査によれば、EU残留・離脱を問う世論調査を自国でも実施すべきとの回答はイタリア、フランス、ドイツ、スペインなど主要国でいずれも40%を超えています。
またイタリア、フランスでは「実施した場合は離脱を選択する」との回答が40%を上回っています。このように、どの国にも親EU勢力と反EU勢力が存在します。この「親EU対反EU」の図式がBrexitの本質です。
EUはなぜ嫌われる?
多くの加盟国の国民に共通するEUへの不満としてまず挙げられるのが移民、あるいは国境管理の問題です。今回の英国の国民投票でも「移民に職を奪われた」ことへの不満は離脱派が掲げる大きな理由の1つでした。
昨年11月にはフランス、今年3月にはベルギーでテロ事件が発生しました。このため治安の観点からもEUの移民政策に対する批判が高まっています。
移民問題と並んで各国から批判されているのが、EUが課す規制とそれを作るEU官僚の存在です。EUが加盟国に課す規制は主要なものだけで2万件といわれます。また数が多いだけでなく、「割れやすい風船を膨らませる時は大人が監督する」「域内で旅行者が運べるペットは5匹まで」など意味不明なものも多く、コスト増や競争力低下につながるなどと批判されています。
こうした規制を定めるのがEUで働くいわゆる「EU官僚」です。彼らは高給で知られており、「規制を作り続けることが存在理由になっている」との批判を受けることがしばしばです。この規制とそれを作る官僚の存在も、各国に共通するEUへの不満をなしています。
その他に、加盟国それぞれが抱える固有の不満もあります。例えば債務危機後にEUから支援を受けているギリシャは厳しい緊縮財政を要求されていると批判しています。一方、ギリシャを支援する側の国民は、ギリシャを支援することに不満を抱いています。
伸長する反EU勢力
このようにEUへの不満が募る中、各国で反EU、あるいはEUに懐疑的な政党が勢力を伸ばしています。英国では反EUを掲げる右派政党、英国独立党が2014年のEU議会選挙で英国内第1党となるとともに、今回の国民投票において離脱派を勝利に導きました。フランスでは反EUや移民制限を唱える極右政党、国民戦線のマリーヌ・ルペン氏が来年の大統領選で有力候補となります。
最近行われたイタリアの統一地方選挙では、「EUが求める緊縮財政に反対、離脱も辞さない」と主張する新興のEU懐疑派、五つ星運動の候補が、与党・民主要候補を下してローマとトリノの市長選を制しました。移民排斥、反イスラムを掲げるオランダの極右政党、民主党は今年4月に行われたEUとウクライナの連合協定に関する国民投票を反対多数に持ち込み、意気が揚がっています。
正念場を迎える欧州の政治統合
冒頭で述べたように、欧州では今年から来年にかけて独、仏を含む各国で総選挙や大統領選が予定されています。これらの1つ1つが親EU勢力と反EU勢力の決戦の場となるでしょう。結果次第では独仏が進めてきた欧州の政治統合が頓挫することになりかねません。今からドイツの総選挙までの1年強はEUにとって正念場になるでしょう。
こうした政治スケジュールの中で、今回の国民投票は初戦と位置付けられます。これを制したことで各国の反EU勢力は意気を高め、逆に現行の政権は、反EU派のさらなる勢力伸長や、国民投票の要求がドミノ倒しのように広がることに警戒を強めています。この反EU勢力に勢いをつけたことが、Brexitが持つ最大の影響です。
今年から来年にかけての欧州の注目政治イベント
出所:野村証券、読売新聞より大和住銀投信投資顧問作成
第2戦となるのが、6月26日に行なわれるスペイン総選挙です。昨年12月に行われた総選挙でどの党も政権を立ち上げることができなかったことから、再選挙を実施することになりました。
注目点はEUが要求する緊縮財政に反対するポデモスが政権入りするかどうかです。前回の選挙で第3党だったポデモスは、今回、第2党に躍進すると見込まれています。もし、ポデモスを含む政権ができれば、反EU勢力の2連勝ということになり、さらに勢いがつくこととなるでしょう。ポデモス自身はEU離脱を主張しているわけではありませんが。
この選挙結果を受けてポデモスの政権入りする観測が高まるようであれば、世界の株式市場の低迷が長引く恐れがあります(執筆は6月25日午前3時現在)
株式市場が警戒するのはEUの解体
ここまで来ればもうお分かりと思いますが、24日に世界の株式市場が急落したのは、英国経済の悪化を懸念したのでなく、英国に続いてEU離脱を決める国の出現、極端にいえばEUの解体を警戒したためです。
震源地である英国の代表的な株価指数、FTSE100はわずか3.2%しか下落しませんでした。これに対してドイツのDAX30の下落率は6.8%、フランスのCAC40は8.0%、イタリアやスペインのそれは12%を超えています。
英国の下落率が大きければ、株式市場は「Brexitが英国経済に与える悪影響」を懸念したといえます。しかし、そうではないところを見ると、市場が警戒しているのは、英国経済の悪化ではなさそうです。南欧諸国の株価下落が大きいことを見ると、市場が懸念しているのはEUの解体と、その場合に南欧諸国が受ける悪影響と思われます。
TPPの発効も遠ざかることに
最後にBrexitが日本に与える影響について考えてみます。英国経済の悪化がもたらす影響については、既に説明したようにそれほど気にする必要はないでしょう。一方、政治の混乱が波及し欧州全域の景気が低迷することになれば、当然影響も大きくなります。
選挙などで反EU派が躍進する状況が続けば金融市場もリスクオフが続くことになります。市場を経由したこうした影響の方が大きいかもしれません。また米国の大統領選では、離脱派と主張が近い共和党のドナルド・トランプ氏に多少の追い風となることが考えられます。日本の参院選にはほとんど影響はないでしょう。
政策面では、年内を目指していたEUと日本との経済連携協定(EPA)をめぐる合意はほぼ不可能になったと思われます。またBrexitは反自由貿易的な性格があります。こうした動きが強まればTPP(環太平洋経済連携協定)の発効がさらに遅れることもありうるでしょう。TPPは成長戦略の大きな成果と考えていただけに残念です。
このコラムについて
政治と市場の“正しい”見方
今、日本は新政権の誕生で「政治」と「金融市場」の関係がこれまで以上に強まり、複雑化しています。さらに欧州の債務危機や米国の財政の崖、中国の新執行部選出など、政治と市場を巡る動きは、海外でも大きな焦点となっています。
しかし、市場関係者がこの両者の関係を論じる場合、「アベノミクスで日本は変わる」など物事を極めて単純化した主張になりがちで、十分な分析がなされているとは言えません。そこで、このコラムでは政治と市場の関係について深く考察し、読者の皆様に分かりやすく解説していきます。
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