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「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ 公式HP」より
日本、先進国で唯一「大学授業料バカ高く、奨学金不備」…有給休暇取れず、女性進出は中国以下
http://biz-journal.jp/2016/06/post_15610.html
2016.06.24 文=横山渉/ジャーナリスト Business Journal
「欧米と比べて日本は〜」という言い方をされることがよくある。しかし、この映画を観れば、ヨーロッパとアメリカは社会システムや文化において大きく異なり、「欧米」とひとくくりにはできないことがよくわかる。その映画は、現在公開中のマイケル・ムーア監督の最新作『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』だ。
ムーア監督は『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)でアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞し、『華氏911』(04年)ではカンヌ国際映画祭の最高賞(パルム・ドール)を受賞したドキュメンタリー作家であり、一流のジャーナリストである。今作は、ムーア監督が主にヨーロッパの国々を訪問し、その国の優れた生活習慣や政策を取材し、アメリカでも取り入れたらどうかと提言するという内容である。
最初に訪問するのはイタリア。ムーアを自宅に招いた夫婦は、年に30〜35日もの有給休暇があって、消化できなかった休暇は翌年に持ち越せると話す。そのイタリア人男性は「イタリア人にとって、アメリカに住むのが夢だ」と語るが、ムーアが「アメリカには有給休暇の法的制度はなく、一般的な会社ではゼロ」と話すと、男性は驚きのあまり黙ってしまう。ブランド品の工場では、昼休みが2時間あって、自宅に帰ってランチを食べる様子が映し出される。
フランスでは小学校の給食を取材。おいしそうなフレンチのフルコースだ。コカ・コーラなんて誰も飲んでいない。ムーアは「フランスなのにフレンチフライは食べないのか」とジョークをかます。アメリカの給食を見せると、子どもたちが「超マズそ〜」と拒否反応を示す様子がおかしい。
スロベニアの大学は授業料が無料。アメリカで授業料が払えなくなり、この国に来て学んでいるアメリカ人学生も登場する。アメリカでは多額の借金を背負いながら大学を卒業する若者が珍しくないが、スロベニアには返済しなければならない奨学金などは存在しない。
アイスランドでは1980年に世界初の女性大統領が誕生し、完全な男女平等が実現している。金融立国で、リーマンショックのときは影響をもろに受け、国内の銀行はほとんど国有化される事態になった。しかし、それでも女性が経営の実権を握っていたひとつの銀行だけは生き残ることができた。男は野心的かつ自己中心的で、利益追求のためには一攫千金のリスクを取りたがるが、女性は総じてリスクを取りたがらない。子育てのために協調を選び、利他的だというのだ。そして、この国では男女同権が保証され、会社の役員は40%から60%が女性でなくてはならない。
このほかにも、次のような驚きの現実が映画のなかで紹介される。
・宿題がないのに学力ナンバーワンのフィンランド
・死刑がなく、懲役刑の最長期間が21年でも再犯率は世界最低のノルウェー
・麻薬の使用は他人に迷惑をかけるわけじゃないので合法なポルトガル
・休日や退勤後に上司がスタッフに連絡をすると法律違反になるドイツ
・中絶費用が無料で、イスラム教徒のスカーフ着用は本人の判断というチュニジア
■教育費と奨学金で世界最悪の日本
さて、ムーア監督はアメリカ社会の欠点を次々と指摘するが、それは日本の欠点と重なっているものが多い。日本はアメリカと違って、有給休暇が法的に制度化されているが、厚生労働省「平成27年就労条件総合調査」によると、民間企業の有給休暇取得率は47.6%である。50%を下回る状態がずっと続いている。これでは、制度化されていても、あまり意味がない。
大学の授業料の問題は深刻だ。日本の奨学金の約9割は日本学生支援機構の貸与奨学金であり、そのうち金額ベースで約7割が有利子となっている。世界的に見れば「教育ローン」と呼ぶにふさわしい日本の奨学金を借りている大学生は、卒業時には約300万円の「借金」を負わなければならない状況にある。OECD(経済協力開発機構)のデータによれば、日本は「授業料が高く、奨学金も充実していない国」で、先進国では日本だけだ。
「授業料が安く、奨学金が充実していない」国として、スペイン、イタリア、スイス、メキシコ、フランス、ベルギー。「授業料が安く、奨学金も充実している」国は、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデンなどが挙げられる。
アメリカはどうかといえば、「授業料が高いが、奨学金が充実している」国であり、オーストラリアとニュージーランドもこのグループに入る。要するに、先進国のなかで日本は最悪の教育制度ということだ。
アイスランドの男女同権も、日本には耳が痛い話だ。ILO(国際労働機関)の報告書によると、日本の女性管理職比率は11.1%で、108の国・地域別ランキングでは96位。アジアではフィリピンが47.6%で唯一のトップ10入り。中国が16.8%で85位なので、日本は中国よりも下ということになる。
2008年のリーマンショックのとき、アイスランドで唯一生き残った銀行は女性経営者だったということだが、日本でも三菱自動車工業やスズキ、シャープなど、不祥事を起こしたり経営悪化が深刻な企業は、体質的に男社会のところばかりではないだろうか。アメリカではいよいよ女性大統領が誕生する可能性も高まっているが、日本では女性首相が出てくる雰囲気はまったくない。そもそも国のトップが「女性が輝く社会」とスローガンをぶち上げなければいけない状況は、アメリカよりもかなり周回遅れといえよう。
■先進的取り組みは、実はアメリカ発
最後に映画の話に戻ると、ムーア監督は「アメリカは外国に比べて、なんてひどいことになっているんだ」と言うのだが、ヨーロッパで刑務所の所員や学校の先生などに取材すると、「私たちはアメリカをお手本にしてこういった改革を成し遂げてきた」と話す様子が興味深い。
アメリカは移民の国なので、さまざまな抵抗と軋轢がありながらも、公立学校設立や婦人参政権の導入など、平等や民主主義を国是として改革を行ってきた。しかし、出だしは早かったが、どんどん遅れてしまったというわけである。
それから、映画を観ていて、ヨーロッパの失業率の高さと、それによる国民の不満などを紹介しないのはフェアじゃないなと感じたが、ムーア監督はインタビューでこう答えていた。
「この映画を見て『なぜイタリアの高い失業率は無視するんだ?』と言われたら、良い部分のみを撮影しに行ったからだと答える。欠点に注目する人がいれば、私は逆に良い部分に注目し、そのコントラストを見せたいんだ。とくにアメリカ人に対して。まあ、世界中の人に対して、とも言えるが。みんな十分に事実は知っているわけだから、その物事がどうやってこんなにひどくなったか、なんていうドキュメンタリーは見に行く必要がないわけだ。それをよくするために何かに刺激を受けて何かを実行する、これが必要なんだ」
(文=横山渉/ジャーナリスト)
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