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オピニオン:消費増税延期で負った「重い宿題」=土居丈朗氏
Column | 2016年 06月 21日 11:58 JST 関連トピックス: トップニュース
土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授
[東京 21日] - 消費増税先送りと財政出動は財政健全化目標の達成を遠のかせる最悪の組み合わせだが、仮に政治判断で拡張的な財政政策を選択するのならば、その使途は潜在成長率向上につながる取り組みに絞るべきだと、慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授は指摘する。
同氏の見解は以下の通り。
<成長頼みの限界、一定の増税は不可避>
経済学者の立場から言えば、今回の消費増税先送りの判断には反対だ。かねて主張している通り、日本の財政健全化の過程では、消費税が主役になるべきである。
所得税、法人税、相続税などの課税ベースの歪みを正すことで税収を増やす努力を続けるのは当然のことだが、これら3つの税目に頼りすぎると、国際競争の中で、富の流出を招き、かえって税収を失ってしまう恐れがある。
それに対して消費税ならば、極端に高い税率に引き上げない限り、そのようなことは考えにくい。そもそも、国際的に見て、日本の消費税率はきわめて低い。また、年金受給者(高齢者)にも負担してもらえることから、世代間格差の是正効果も併せ持つ。
ところが、今回、消費税率の8%から10%への引き上げが、当初予定の2017年4月から19年10月まで2年半も先送りされる政治判断が下されたことで、こうした利点を追求することが当面難しくなった。安倍首相は先送りの理由として内需の腰折れリスクを挙げているが、経済状況は2%分の税率アップをためらうほど悪いとは思えない。1―3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前期比年率プラス1.9%に上方修正された。
1%にも届かない低い潜在成長率で満足してはいけないのは事実だが、それを引き上げる努力を十分行わずに、長続きしない財政出動を繰り返すだけでは持続的な成長経路に乗せることはおろか、財政の健全化は望むべくもない。経済成長による税収確保は重要だが、現実問題として一定の増税が不可避であることを認識すべきだ。
周知の通り、日本は20年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)黒字化という財政健全化目標の達成を閣議決定している。これを覆すことは、財政健全化の羅針盤を失うことに等しく、歳出増圧力の渦に巻き込まれ、やがては国債格付けの引き下げなどを通じて、近い将来、財政危機に火をつける恐れもある。
むろん、政府は消費増税先送り後もPB目標を堅持するとしているが、そもそも内閣府の試算では、予定通り消費税率を引き上げ、実質2%超・名目3%超の平均成長率を実現したとしても、6.5兆円のPB赤字(20年度)が残る試算となっていた。今回の消費増税先送りで収支はさらに3兆円から4兆円悪化する見通しだ。
<財政支出に必要な第4次産業革命の視点>
何より大きな問題は、こうした状況にもかかわらず、大規模な財政出動が検討されていることだろう。報道によれば、家計支援などを理由に、5兆円から10兆円規模の第2次補正予算が編成される方向だという。
政治判断で財政出動に傾くならば、百歩譲って注文したいことがある。それは、公共事業投資という旧来型の財政出動ではなく、生産性向上につながるような取り組みに集中的に支出してほしいということだ。
公共投資によって需要面から景気を刺激し、消費や所得水準を引き上げようとしたところで、持続的な生産性向上が見込めなければ、賃金のベースアップを躊躇(ちゅうちょ)する企業の経営姿勢は変わらないだろう。実質賃金が上がらなければ、消費低迷の打破も難しい。だからといって、消費者に直接、商品券などの形でばらまいたところで、一時的な効果しか望めない。1人当たりGDPを高めていくには、とにかく生産性を上げる努力を続けるしかないのだ。
どうしても財政出動をするというのならば、せめてAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ロボット、ビッグデータなど、省力化と高付加価値化を可能にする分野に政府支援を集中的に施すことが肝要だ。もちろん、そうした第4次産業革命と呼ばれる分野でイノベーションを促す政府支援は、一義的には規制改革(緩和だけでなく、新市場創出を目指した規制環境整備)が主役となるべきだが、例えば米系ソフトウェア企業の優勢が伝えられる自動運転の分野で、日本企業の巻き返しを手助けするようなお金の使い方もあるだろう。
<過剰投薬解消だけで数兆円の医療費削減が可能>
ただ、消費増税先送りと政府支出拡大が、財政健全化目標の達成を遠のかせる最悪の組み合わせであることは言を俟(ま)たない。一方、税制を改めることで税収増を図ることを先送りした以上、歳出抑制が急務であることは明白だろう。
消費増税を再延期したにもかかわらず成長率が今後も想定を下回る状況が続けば、財政健全化への要対応額(必要な収支改善額)は膨らんでいく。経済財政諮問会議の専門調査会では昨年12月、歳出改革の工程表をまとめたが、そこではあまり踏み込まなかった年金を含めて、この国の財政・社会保障のあり方について、16年中に議論を深め、いよいよ道筋をつける必要がある。ただでさえ、高齢化に伴い社会保障費は毎年1兆円規模で増える見通しだ。
最後に分かりやすい歳出抑制案を1つ挙げると、レセプト(診療報酬明細書)などの膨大な医療データを分析し、過剰投薬を把握する取り組みがある。過剰投薬をなくすだけで数兆円規模の医療費が削減できるとの試算もある。
第4次産業革命の促進だけでなく、子育て支援の充実についても、財政出動ではなく予算を大胆に組み替えることにより財政面で十分対応できる。こうしたものを組み合わせて、PB黒字化目標のクリアに向けて最後の努力を行い、少なくとも2020年代に債務対GDP比の安定化の道筋をつけることが、子どもや孫たちに向けた現世代の責務である。
*本稿は、土居丈朗氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。
*土居丈朗氏は、慶應義塾大学経済学部教授。専門は、財政学、公共経済学、政治経済学。2009年より現職。現在、行政改革推進会議議員、税制調査会委員、一億総活躍国民会議議員、財政制度等審議会委員、社会保障審議会臨時委員などを務める。東京大学経済学博士。
http://jp.reuters.com/article/opinion-tax-delay-takero-doi-idJPKCN0Z60WU
オピニオン:増税延期は正解、財政の出番=リチャード・クー氏
リチャード・クー 野村総合研究所 主席研究員
[東京 21日] - 日本経済低迷の主因は、高水準の民間貯蓄が示す借り手不足であり、その解決に金融政策は無力だと、野村総合研究所・主席研究員のリチャード・クー氏は述べる。
解決策としては、民間がバランスシート不況のトラウマを克服するまでの間、政府が最後の借り手として民間の資金需要を誘発するような財政政策をとり続けることだと説く。
同氏の見解は以下の通り。
<借金のトラウマ消滅まで増税は逆効果>
私は、理想論として、日本に財政再建が必要であることに何ら異論はない。ただし、財政再建が成功する条件と、今の日本経済の現実には大きな乖(かい)離がある。
バブル崩壊から25年目を迎えた日本は、資産価格の暴落で過剰債務だけが残る「バランスシート不況」から脱したものの、いまだ民間全体で国内総生産(GDP)比6%強も貯蓄している。これほどの低金利になって、本来ならお金を積極的に借りるべき民間部門が、今もバランスシート不況のトラウマを引きずり、お金を借りるどころか、貯金する側に回っているのが現実の姿だ。
しかし、一国の経済は誰かが貯蓄していたら別の誰かがそれを借りて使わないと、貯蓄された分だけ総需要が落ち込んでしまう。民間がゼロやマイナスの金利でもGDP比で6%も貯蓄をしているということは、その分、政府が借りて使わなければならないということだ。
この状態で財政健全化を優先してもうまくいかないことは、3%から5%への消費増税後に景気が大きく冷え込んだ1997年の教訓からも明らかだ。したがって、8%から10%への消費増税を2019年10月まで先送りした安倍首相の判断は正しいと私は考えている。
<低成長をもたらす「量的緩和の罠」>
ただし、これでアベノミクスがうまくいくかどうかは、別の話だ。何より悔やまれるのは、第1の矢の金融政策で、量的緩和やマイナス金利などの非伝統的金融政策に日銀が深入りしてしまったことである。
そもそも、バランスシート不況下やそのトラウマが残る状況下では、金融政策は無力だ。金融政策が効力を発揮するためには、民間の借り手が十分にいるという前提条件が満たされる必要があるが、前述した通り、GDP比6%強という高水準の貯蓄に表れているように、企業や個人はいまだ借金に対して消極的だ。このトラウマが克服されない限り、いくらマネタリーベースを増やしても、マイナス金利を深掘りしても、効果は期待できない。
それどころか、当初のメリットをはるかに上回るデメリットがこれから顕現化し、トータルで見れば、むしろコストのほうが大きいという「量的緩和の罠(QE trap)」に陥りかねない。問題は、景気回復時に長期金利の不安定化が景気に水を差す可能性だ。
プラス領域の金利政策など伝統的金融政策から逸脱していなければ、景気が回復に向かっても市場が極度に緊張することはない。ところが、量的緩和を行った国で景気回復が見えてくると、中央銀行による巨額の資金回収の話が浮上するたびに市場が狼狽し、金利が急騰し、経済活動が不安定化する可能性が高い。結果的に、中長期で均(なら)して見れば、量的緩和を行わなかった国よりも、経済成長率は低く抑えられることになろう。
とはいえ、非伝統的金融政策にここまで深入りした以上、もはや引き返すことはできない。今、日銀に言いたいことは、これ以上は深入りせず、周到な出口戦略を練ってほしいということだけだ。
<「未借貯蓄」を生かす政府の財政支出>
では、アベノミクスは何を重視すべきなのか。繰り返すが、まず民間全体でGDP比6%も貯蓄しているということは、政府がこの6%を借りて使わないと、日本は再びデフレスパイラルに突入する恐れがあるということになる。
こう話すと、GDP比200%超の公的債務を抱える日本でそのような政策を追求すれば、国債暴落(長期金利急騰)で財政危機に至るとの声が聞こえてきそうだ。だが、これだけ財政赤字があっても、日本はずっと財政危機に陥っていない。その理由は、財政赤字には「政府の不手際による財政赤字」と「民間の不手際(バブルとその結果であるバランスシート不況)による財政赤字」という2種類があり、日本の場合は後者であるからだ。
前者のケースでは、限られた民間貯蓄に対して政府もお金を借りようとするため、財政赤字は、民間投資の締め出し(クラウディングアウト)や非効率な資源配分などを伴って膨らむ。この場合、悪いインフレ・高金利を招き、財政・経済危機に向かってしまう。
ところが、後者のケースは、バランスシート不況のトラウマを抱えた民間が借金返済後もお金を貯め続けていることが主因であり、この貯蓄は政府が借りて使わなかったら、銀行内に「未借貯蓄(unborrowed savings)」として滞留してしまうだけだ。視点を変えれば、財政赤字をファイナンスする資金は、国の金融システム内に滞留しており、この場合、財政・経済危機を招くような類の財政赤字ではないということになる。それどころか、未借貯蓄は、政府支出のおかげで無駄にならずに済んでいるとも言える。
これは、突飛な発想ではない。実際、バブル崩壊後の日本が、1930年代の大恐慌期の米国のようにGDPが半減せずに済んだのは、政府がお金を借りて使い続けたからだ。現在の日本も、未借貯蓄の解消に目処がつくまで財政支出を続ける必要がある。
なお、念のために言えば、日銀が長期国債の大量購入で事実上の財政ファイナンスを継続しているせいで、こうした議論が「ヘリコプターマネー」擁護論として吹聴されがちなのは残念なことだ。本来、政府が借りるべきお金は民間金融機関に滞留しており、日銀の出番は最初からなかったと言いたい。
<貸し手より借り手を増やす構造改革が必要>
最後に第3の矢(成長戦略・構造改革)について、言い添えておく。私は、第1の矢には懐疑的だが、第3の矢には第2の矢同様、大いに期待している。ただし、今のやり方では不十分だ。さまざまなメニューをそろえるだけでなく、共通のナラティブ(問題意識)が必要だ。
例えば、1980年代のレーガン米政権は、それこそ日本に産業主導権のすべてを奪われ、農業生産国に戻ってしまうのではないかというくらい強い危機感を持っていた。その結果として生まれたのがレーガノミクスであり、大規模な減税や構造改革を行ったことで同国はIT産業の主導権を90年代に取り戻した。
現在の日本も、中国や東南アジア諸国に「追われている国」だ。追いつこうとする国々を振り切るにはより速く走るしかない。そうした分かりやすいナラティブを前面に出して、80年代のレーガノミクスのように税制・規制のすべてを見直す必要がある。
特に、日本の大きな弱点である高い税率と住宅コストには、第3の矢で集中的にメスを入れてもらいたい。住宅コストについては、容積率や建ぺい率の大胆な緩和によって床面積の供給を増やすことで、かなり引き下げることができるはずだ。
税制については、所得や相続などに課す税率の引き下げが、個人のやる気を引き出し、国を豊かにすることは、古今東西の例が示している。財政政策も、従来型の公共投資的な発想ではなく、どうすればイノベーションを喚起できるかという点に注力すべきだ。
また、この国の人的資源を含む資源配分が「相続税対策」でいかに歪曲され、またそのことがこの国の成長率にいかに大きなマイナスになっているかという点は、もっと議論されるべきだと思う。
とにかく今の日本に決定的に足りないのは、貸し手ではなく、借り手だ。第2の矢も第3の矢も、民間の借り手を増やすことを目的に放たれるべきなのである。
*本稿は、リチャード・クー氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。
*リチャード・クー氏は、野村総合研究所の主席研究員、チーフエコノミスト。1976年米カリフォルニア大学バークレー校卒業。米連邦準備理事会(FRB)を経て、81年ジョンズ・ホプキンス大学大学院経済学博士課程修了。同年ニューヨーク連銀入行後、84年野村総合研究所入社。近著に「バランスシート不況下の世界経済」(徳間書店)。
http://jp.reuters.com/article/opinion-japan-richard-koo-idJPKCN0Z31PF?sp=true
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