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成長戦略なきアベノミクスの罪と罰〜メガバンクトップが日銀に「ノー!」を突きつける異常事態 マイナス金利の弊害あきらかに
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48899
2016年06月14日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■国債入札の優遇資格返上の衝撃
報道によると、メガバンクトップの三菱東京UFJ銀行は、国債の入札に特別な条件で参加できる“日本版プライマリー・ディーラー”の資格を返上する検討に入った。早ければ今週中にも、財務省に対し、正式に伝えるという。
国債の利回りが過去最低を更新し続ける中で、特権の代償として課される一定額の応札義務を果たすことが同行の株主や預金者の利益にならないと判断したためだ。小山田隆頭取は10日の記者会見で、「特別参加者として落札業務をすべて履行していくのは難しい」と述べ、「(資格返上を)検討している」と明言した。
“護送船団”方式が長年定着してきた日本の金融界で、民間銀行が御上の威光ではなく、株主や預金者の利益に軸足を置いて経営判断を下すのは、勇気のいる行為だ。実現に期待したい。
今回の資格返上は、黒田東彦日銀総裁が進めているマイナス金利付きの量的・質的金融緩和策の弊害を改めて浮き彫りにした。参議院選挙を来月に控えて、肝心の成長戦略を怠ってきたアベノミクスの功罪が改めて問われていることも重要だろう。
日本版プライマリー・ディーラーの正式名称は「国債市場特別参加者」という。日本では、1960年に導入された米国のプライマリー・ディーラー制度などを参考に、財務省が2004年に導入した経緯がある。
現在、国債を発行する際の入札には、銀行、証券会社、生命保険など246社が参加している。が、市況次第で、入札に参加したり、しなかったりする金融機関が出るため、このうちの22社にプライマリー・ディーラーの資格を与えて安定消化を図ってきた。
プライマリー・ディーラーになると、発行予定額の4%以上の応札を義務づけられる半面、財務省理財局との意見交換の場に出席する特権を与えられる。
■国債の保有は大損失をもたらす?
ただ、近年、国債を取り巻く投資環境は大きく変わってきた。
以前は、デフレ経済が長引いて国内の貸し出し需要が伸びない中で、国債投資は安定的な資金運用手段の一つとして定着。メガバンクにとっても、プライマリー・ディーラーの資格は相応のメリットがあった。
しかし、数年前から、海外の金融当局や格付け機関が日本国債に注ぐ視線に微妙な変化が起きていた。一向に日本の財政再建が進まないため、日本国債をリスクフリーの資産と見なし続けることを疑問視する声が上がり、国債人気に波紋を投げかけていたのだ。
そうした中で、プライマリー・ディーラーとして長期国債の安定引受・保有を続けた三菱東京UFJ銀行とは対照的に、メガバンクの中にも国債保有残高の抑制を急いだ銀行がある。今年3月末の上位3行の銀行単体ベースの保有残高を見ると、三菱東京UFJ銀行の21兆9838億円に対し、みずほ銀行が18兆7671億円、三井住友銀行が7兆8165億円と、その差は歴然だ。
今後も、プライマリー・ディーラーとしてたくさんの国債を安定引受・保有し続けると巨額の損失が発生しかねない。
10日の債券市場では、新発10年物国債利回りがマイナス0.155%まで下がり、4月21日(マイナス0.135%)以来、1カ月半ぶりに過去最低を更新した。持っているだけで、損失が発生する計算だ。マイナスにはなっていないものの、新発20年債もプラス0.19%と利回りが極めて低い。
すでに国債の約8割は利回りがマイナスだ。残りはプラスの利回りを維持しているものの、その水準は極めて低い。こうした国債を大量に引き受けて保有し続けたのでは、銀行として業績が落ち込み、株主に配当する利益の確保が困難になったり、預金者に十分な利息を支払うだけの収益を維持できない懸念が出ている。
■弊害が目立つ日銀の金融緩和
国債利回りのマイナス転落の、そもそもの原因は、黒田総裁率いる日銀が今年1月に導入を決定したマイナス金利付き量的・質的金融緩和策だ。年間80兆円ずつ国債保有残高を増やす金融緩和に加えて、今年2月から、銀行が余資を預ける「日銀当座預金」の一部にマイナス金利を導入したことが響いている。
日銀がマイナス金利を付けるのは日銀当預の一部だけなので、当初、この影響は限定的とみられていた。だが、実際には、幅広く市中金利に影響を与え、長期金利全体の大幅な下落に繋がった。
ところが、一般企業にとっては、長期的な潜在成長率の低下が重荷になっており、金利がマイナスになっても、借金して投資を拡大しようという機運が盛り上がっていない。不動産融資など相対的に活発なものもあるが、ほとんどが新規の投資ではなく、過去の投資に充てた借入金の借り換えが中心という。
つまり、日銀が進めるマイナス金利付きの金融緩和政策は、設備などの投資を促す効果よりも、金融機関の収益を落ち込ませて株主や預金者の利益を損ねるという弊害の方が目立っているのだ。
実際、三菱東京UFJ銀行を傘下に抱える三菱UFJフィナンシャル・グループは、2017年3月期の当期純利益を前期より1837億円少ない8500億円と見込んでいる。そして、この減少分の半分以上にあたる1000億円が、「マイナス金利に伴う収益の落ち込み」(三菱東京UFJ銀行広報部)という。
■三菱東京UFJ銀行は時代の先駆け
この連載でも以前に紹介したことがあるが(2016年4月19日『メガバンクトップが、ついに日銀批判!』)、物言わぬ銀行が多い中で、三菱UFJフィナンシャル・グループは早くから、唯一、日銀のマイナス金利政策に否定的な立場を鮮明にしてきた。
同社の平野信行社長は4月半ばの金融関係者向けの講演で、「銀行業界にとって短期的には明らかにネガティブだ」としたうえで「(効果について、企業や個人も)懸念を増大させている」と真正面から批判したのだ。その姿勢は、御上べったりの他行とは一線を画したものだった。
そして、今回、メガバンクの立場から、小山田隆頭取が、プライマリー・ディーラーの資格返上を口にした。
銀行経営者が中央銀行の金融政策に異を唱えるのも異例なら、政府・財務省と民間金融機関が二人三脚で国債の安定消化のために育ててきたプライマリー・ディーラー制度へのコミットを見直すのも異例の出来事だ。株主や預金者(利用者)重視の表れとして、高く評価すべきことである。時代の先駆けと言ってもよいのだろう。
三菱東京UFJ銀行に刺激されたのか、生命保険協会の筒井義信会長(日本生命保険社長)も10日の記者会見で、金融緩和策に触れて、「わずかな動きで(金利が)非常に振れやすくなっている」と指摘し、「金融緩和(に踏み込む)なら上場投資信託(ETF)買い入れの増額が選択肢」と、これ以上のマイナス金利や国債購入枠拡大を自重するよう日銀に求めたという。
■問題は金融緩和政策だけではない
日本国民として、我々が問題視すべきは、日銀の金融政策だけではない。むしろ、「3本の矢」と言いながら、銀行経営を窮地に追い込む副作用の強い極端な金融政策や、日本国への信任を揺るがせかねない財政再建先送りの財政政策の2つにばかり依存して、肝心の成長戦略を怠ってきたアベノミクスのバランスに目を向ける必要がある。
日本経済の潜在成長率が落ちているのは、人口減少と労働生産性の伸びの低下が響いてのことだ。そもそもの誤りは、この潜在成長率の0%前後への低下を指をくわえてみていたことによる。潜在成長率が0%前後なら、自然利子率(景気に中立的な実質利子率)がマイナスになるのは当たり前のことなのである。
そして、この場合、あえてマイナス金利政策だけで経済の苦境を打開しようとするならば、もっとマイナス金利政策を強化しないといけないことになる。だが、三菱東京UFJ銀行の動きを見れば、それが不可能なのは明らかだろう。
参議院議員選挙を控えて、与野党が改めてアベノミクスの評価を争点に据えるのは確実だ。そして、これまでのところ、アベノミクスのバランスがあまりにもチグハグだったことは明白だ。
当たり前の話だが、安倍首相が加速するという人口回復のための目標(夫婦2人に対して、出生率1.8の実現)では、元凶である経済の潜在成長率低下の主因である人口減少に歯止めがかからない。
再延期せざるを得なかった消費増税を、次回こそ実現するためにも、口先だけの成長戦略を改めることが急務である。
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