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中国主導の国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」への参加国が100近くに達する見込みだという(写真はイメージ)(c)AFP〔AFPBB News〕
AIIBは成功するのか?中国でも疑いの声 ADBと初の協調融資へ、それでも立ちはだかるアジアのリスク
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47070
2016.6.14 姫田 小夏 JBpress
中国の主導で設立された国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の参加国数が、2016年末までに100近くに拡大する見通しだという。実現すればその規模は、日本と米国が主導する「アジア開発銀行(ADB)」(67カ国と地域が参加)をしのぐ。
また6月10日には、AIIBとADBの初めての協調融資が発表された。パキスタンの高速道路建設に対して、AIIBとADBがそれぞれ1億ドルを融資するという。これは中国の勝利を意味するのだろうか。
AIIBは、中国が提唱する「一帯一路」構想を金融面で支え推進する役割を担う。一帯一路とは、アジアと欧州をつなぐ陸と海の巨大な“シルクロード経済圏”構想だ。
「AIIB」の設立協定に署名するオーストラリアのジョー・ホッキー財務相(2015年6月29日撮影)。(c)AFP/WANG ZHAO〔AFPBB News〕
「『一帯一路』構想はかつての欧米列強のやり方に着想を得たものだ」──こう語るのは、中国経済と60年近く向き合うベテラン研究者の1人だ。
19世紀半ば、英国は清国をアヘン貿易の恰好の市場ととらえ、大量のアヘンを清国に売りつけた。アヘンの密輸をやめさせようとする清国と英国は衝突し、アヘン戦争(1840〜1842年)が勃発する。戦争で清国が敗れると、英国は南京条約により上海、広州などを開港させた。
開港した5つの港では自由な貿易ができるようになり、英国人は家屋を賃借したり、賃借した土地に家屋を建てることができるようになった。物資が集積する港には住宅のほか倉庫や店舗が建ち並び、街として繁栄する。清国は外交上の主権を失ったが、経済的には潤うことができた。
そして21世紀の今、中国が19世紀の欧米列強と同じことをしようとしていると、この研究者は指摘する。つまり、中国がAIIBによってアジアの新興国を“開港”させ、中国の過剰在庫という“アヘン”を売りつけようとしているというわけだ。
■中国が世界で港の建設に続々と出資
新興国にとってインフラ建設は最重要課題だが、膨大な建設費がかかる。港湾行政に詳しい専門家は「新興国は自国だけでは予算を確保できないため、日本も多くの円借款などを提供しています」と語る。
新興国では、インフラ建設に必要な技術も人材も不足している。「日本はアジア、アフリカに技術者を派遣したり、国内に毎年多くの研修生の受け入れるなどサポートしています」(同)。
日本はODAを通じて、これまで多くの国にインフラ建設の支援をしてきた。しかし近年は、各国の港湾建設において中国のプレゼンスが高まっている。
中国は現在、アジアを中心に港の建設に乗り出している。パキスタンのグワダル港、アフリカのジブチ港、イエメンのアデン港、バングラデシュのチッタゴン港、スリランカのコロンボ港、モルジブ港、ミャンマーのチャウピュー港、ギリシャのピレウス港など、中国の出資によって建設される港は枚挙にいとまがない。
中でも注目を集めるのがパキスタン南西部のグワダル港である。2013年、中国は同港の港湾管理権を取得し、2015年には同港の経済特区について43年の運営権を取得した。
グワダル港は西はアラビア海、東はインド洋を結ぶ海上の要衝である。中国はここを「中パ経済回廊」の起点に位置づけ、内陸部の新疆のカシュガルからグワダルまでの約3000キロの陸路開通にも乗り出している。グワダル港の開発を急ぐ背景には、米国の中東における主導的地位を覆し、エネルギーや軍事面での安全保障を強化しようという狙いがある。
印のついた場所がパキスタン・グワダル港。中国は自国からグワダルまでの陸路開通も目指している。(Googleマップ)
■国内でも「AIIBの枠組みは前途多難」の声
中国政府は「一帯一路」によって「互聯互通(fulian futong)」が実現するという。互聯互通とは、アジア諸国が互いに「連結」することである。
だが、中国では「本当に連結できるのか?」という懐疑的な声もある。
「上海経済評論」(東方早報、2015年9月発行)は、AIIBという枠組みの構築は前途多難であり楽観できないとする論評を掲載した。その理由の1つに次のような指摘がある。
「アジアの政治制度や経済体制、発展水準や文化教育、宗教はみな違う。国によっては政治的に不安定で、部族間の分裂や内乱が発生しているところもある。アジアの多くの国家では賄賂が横行し、法律は十分に機能しない。領土問題を抱える国もある」
その論評は、インフラ建設の資金を必要としている国ほど問題を抱えていることを指摘している。
パキスタンのグワダル港にしても、建設地のバローチスタン州は政情が不安定な地域である。ここで生活するのは遊牧民のイラン系バローチ族で、国の6割の人口を占めるパンジャブ族とは反目する関係にある。パキスタン政府とも対立し、テロリストも潜伏すると言われている。米シンクタンクによれば、バローチ族は、中国やシンガポールなど外部の勢力が入ってくることを警戒し、国際的な港湾や輸送センターが建設されることに抵抗しているという。
港の開発とともに闇の土地取引は盛んになり、土地を追われるバローチ族も後を絶たない。グワダル港が晴れて輸送上のハブとなったとしても、恨みを買った部族に襲われる可能性は否定できない。
いかにAIIBが「互恵互利」を掲げたとしても、中国だけが参加国の利権を貪るという構図では、地元の反発は避けられない。また、経済効果を“エサ”にして参加国を増やしても、参加国同士の利害は対立し、連携は深められないだろう。
AIIBの設立当初、中国は豊富な資金力で押し切れると思ったのかもしれない。しかし、“アジア連結”のリスクを低く見積もり過ぎていたのではないだろうか。
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