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イ・セドル九段とアルファ碁との対局の模様〔PHOTO〕gettyimages
機械が人間の「常識」をひっくり返す時代〜テクノロジーの最前線でヒトの定義が揺らいでいる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48857
2016年06月12日(日) 海猫沢めろん 現代ビジネス
■人間の常識をあっさり覆した「AlphaGo」
2016年3月、世界が驚愕する事件が起きました。
Googleの関連企業が開発した人工知能「アルファ碁(AlphaGo)」が、世界最強の韓国棋士に四勝一敗という大差で勝利したのです。この事件はテレビや新聞報道でも大きく取り上げられましたが、一体なにがそれほどすごかったのでしょうか?
思いつく理由は二つです。
(1)囲碁はかなり難しいゲームである。ゆえにまだまだ人間が優勢……という常識があっさり覆された。
(2)途中で解説者が解説できなくなった。つまり、アルファ碁は人間の想像を遥かに超えていた。
つまり、この驚愕の本質とは、「ヒトの常識が機械によって覆された」、という点にあります。
この「常識を覆す衝撃」というのは、今、テクノロジーの世界全般において起きていることです。
ぼくの専門分野である小説の世界で言うと、正式には公表されていないものの、2015年の「星新一賞」で人工知能の書いた作品が一次審査を通ったそうです。
人工知能以外でも、生命のように増やし続ける3Dプリンタや、ヒトと同じように演劇をするアンドロイド、身に付けることで幸福度を計測できる機械など、かつてはヒトの専売特許だった芸術や幸福という領域にも機械が介入し始めているのです。
確かにこれまでの歴史を見ると、機械がヒトの仕事や技術を奪ってきた例は見つかります。
たとえば印刷技術が生まれる前、聖書は手書きで一文字ずつ書き写されていましたが、さすがに今そんなことをする人はいないでしょう(写経目的以外……)。
あるいは、小学校の時にぼくらはそろばんを習いましたが、これだけ電卓が溢れている時代、それはかなりマニアックな技術になっています。
考えてみれば、コンピューターという言葉もそもそもパンチ穴で計算していた時代の計算技師を指す言葉でしたが、それも技術の発展とともになくなった仕事です。
ぼくはこうしたこれまでの技術と、今現れている最新テクノロジーは何かがちがうと考えています。これまでのテクノロジーはあくまでヒトをサポートするものだったのに比べ、今現れつつある最新のテクノロジーはヒトの定義を変えてしまうタイプのものなのではないか。だとすれば、ヒトと機械の境界ははたしてどこにあるのか?
ぼくの旅はそこから始まりました。
■「人間とは何か」を改めて問う
この本の取材を始めたのは3年前になります。
いつもは純文学の世界で仕事をしているぼくですが、そこではあまりテクノロジーが描かれないことに不満を持っていました。
純文学は主に「人間」を描くものだと言われます。ですが、そこで言われている「人間」とは一体なんなのでしょうか。それはもしかすると、人間が取りうる普遍的な行動パターンにすぎないのではないか。ヒトができることはもうすべて機械でも事足りるのではないか……。
そんなことを考えていた時期にちょうどウェブ媒体で、なにかやらないかというオファーが来ました。そこでぼくが選んだテーマが「最新テクノロジー」であり、その3年にわたる取材結果をまとめたものが今回の『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』(講談社現代新書)となります。
この本はテーマ設定から取材アポまでをぼく自身が行ったため、普通のルポとちがい、かなり私小説的な仕上がりになっています。
第一線で活躍されている科学者7人と直接お会いして、技術の現在と未来から個人的な疑問まで、対話形式でわかりやすく聞き出し、門外漢の方でも興味を持てるように注釈を加えました。さらにブックガイドとしての役割も意識し、関連書籍も豊富に紹介しています。
取り上げたテーマは、虚構を現実にする技術「SR」。まるでドラえもんの四次元ポケットのような「3Dプリンタ」。人間より人間らしくなりつつある「アンドロイド」。冒頭でも書いた話題の「AI(人工知能)」。人間の行動を法則化する「ヒューマンビッグデータ」。機械でヒトを治療する「BMI」。幸福の定理を探る「幸福学」。以上の7つです。
ヒトと機械の境界ははたしてどこにあるのか? そのミステリを探る旅の果てに、ぼくが見つけたものはなんだったのか。
ぜひ一緒にご体験ください。
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