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コラム:アベノミクスに国内「収縮論」の壁、打破困難なら長期停滞も
田巻 一彦
[東京 10日 ロイター] - 直近の日本国内における経済活動は、パッとしないまま推移している。期待されていた設備投資はなかなか増加基調を見せず、街角で聞かれる声の中には、デフレに逆戻りしかねないという懸念まで混じり出した。この背景には、国内人口の減少傾向を前提にした企業サイドの根強い国内市場収縮見通しがある。アベノミクスがこの「収縮論」を打ち破れないと、長期停滞のトラップに陥りかねない。
<弱い内需エンジン>
4月機械受注は、民需(除く船舶・電力)が前月比マイナス11.0%と大幅に落ち込んだ。特に製造業が同マイナス13.3%と足を引っ張った。4─6月見通しも前期比マイナス3.5%と内需エンジンは弱いままだ。
四半期ごとに振り返ってみても、2015年4─6月期が同プラス3.0%、7─9月期が同マイナス6.5%、10─12月期が同プラス2.6%、16年1─3月期が同プラス6.7%とジグザグしており、16年4─6月期の見通しの水準は15年1─3月期を下回ってしまう。
5月景気ウオッチャー調査でも、 現状判断DIは前月比0.5%ポイント低下の43.0。15年12月の48.7から今年に入って単月ごとの振れはあるものの、低下基調が続いている。
また、目立ってきたのは、デフレ的な色彩を示す企業からのコメントが増加傾向にあることだ。「世界や中国に情勢による製品単価の下落が止まらない。販売量も減り、製品によっては単価が2─5%下落。先行きが非常に不安」(鉄鋼業)、「売り上げ減少が大きかった3カ月前と比べても、今月はそれを上回る減少。取扱量の減少が主因と思われるが、燃料価格上昇や高速道路料金の値上げもマイナス要因」(輸送業)、「価格で差が付く飲料水や食料品、ビールの売り上げは減少。少しでも安い小売店で購入していることがうかがえる。デフレ基調が強く、消費マインドが低迷していると思われる」(コンビニ)などの指摘が増えている。
<人口減予測にひるむ企業経営者>
3日に送信したコラム「消費低迷に構造問題、非正規の弱い担税力が主因に」[nL4N18V2IQ]で指摘したように、弱い消費には構造問題が潜んでいるが、企業の設備投資に強さが出てこないのは、国内市場は「収縮基調が続く」(製造業幹部)という企業サイドの強固な「収縮論」が影響していると考える。
確かに厚生労働省は、2060年には日本の総人口が8674万人に減少。15歳から64歳までの生産年齢人口の割合は、2010年の63.8%から50.9%まで低下するという「人口減少・超高齢化」の未来を予測している。
国内の大企業幹部に話しを聞いてみると、こうした試算を突き付けられ、国内生産を増強・高度化するような設備投資計画を打ち出した場合、「株主に説明が付かない」という理由で、国内での設備投資は減少させると口をそろえる。
つまり2012年12月の第2次安倍晋三政権の発足後、大々的に打ち出されたアベノミクスの3本の矢をもってしても、この「収縮論」を打ち破ることは、今のところできていないということではないか。
<移民開放や財政ばらまきの道も>
だが、国内民需の2大エンジンのうち、消費が非正規社員の増加という構造問題で購買力の低迷に直面し、設備投資が国内市場の「収縮論」に支配されて大幅な増加が難しいとなると、低迷から脱出するのは、相当に難しい。
人口減を甘受しつつ、人工知能(AI)やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)などを大胆に駆使して生産性を大幅に増やすか──。
それとも、移民解禁も含めた海外からの労働力に対する思い切った門戸開放を進めるのか──。
財源問題を棚上げして、思い切った財政出動を一定期間継続して、国内総生産(GDP)をかなり強引に押し上げるのか──。
マクロ政策の大転換点が、そう遠くない時期に迫っていると「予言」しておく。
http://jp.reuters.com/article/abenomics-idJPKCN0YW0O5
インタビュー:低金利下ではエンダウメント投資に勝機=UBSウェルス
[東京 10日 ロイター] - UBSウェルス・マネジメントのグローバルCIO(最高投資責任者)、マーク・ハフェル氏はロイターとのインタビューで、世界的な低金利・マイナス金利環境においては、プライベートエクイティ(非公開株、PE)などの流動性の低い資産への投資比率を高めた「エンダウメント(endowment、米国の大学財団)型」アプローチが有効との考えを示した。
また、金融政策の行方や政治イベントにからむ不確実性を背景に、投資家が強い確信を持って行動できない状況は当面続くという。ただ、ドル高の一服と原油市況の反発が追い風となり、米国企業の業績は年後半に改善するとの見通しを示したうえで、米国株式に強気スタンスであるとした。米国の金融政策については、連邦準備理事会(FRB)が年内に2回の利上げをする論拠があるとみている。
UBSウェルス・マネジメントは、スイスの金融大手UBSグループ(UBSG.S) (UBS.N)の富裕層向け資産運用部門。ハフェル氏が率いるUBSウェルス・マネジメントとUBSウェルス・マネジメント・アメリカズの3月末の運用資産残高(AUM)は1兆9340億スイスフラン(約2兆ドル、約215兆円)。
同氏の来日インタビュー(8日実施)の概要は以下の通り。
──マイナス金利を含む超低金利環境が続き、投資家の利回り追求姿勢が鮮明だ。
「現在、世界各地を回って顧客とミーティングを行っているが、投資家が抱える懸念のレベルが非常に高いことに驚かされる。中銀の金融政策の行方や世界的な政治イベントなど懸念すべき事項はもちろんあるが、それにしても投資家の懸念が過度に強まっている印象だ」
──先週発表の5月米雇用統計は予想外に弱く、市場では早期の追加利上げ期待が後退した。
「われわれは、米国の利上げは年内に2回、おそらく9月と12月にあると予想している」
「FRBが利上げをしたがっているのは明らかだ。また、米国では賃金上昇圧力が高まっている。それは経済統計にも表れているが、世界のビリオネア(超富裕層セグメント)の約半数を顧客に抱える当行独自の顧客ネットワーク、すなわち経営者やオーナーである大勢の顧客からの情報でも、米国内の賃金上昇圧力の高まりを確認している」
──9月については、米大統領選に近過ぎるとの指摘もあるが。
「確かに政治的な動きだとみなされる可能性は多分にある。しかし過去を振り返れば、バーナンキ議長時代にはFRBが大統領選を控えた同様の時期に動いたことはあった」
「私は、FRBは忠実に『経済データ次第』であろうとするだろうとみる」
「大統領選に関しては、多くの顧客が結果をめぐる不透明感を理由に様子見をしているが、個人的には、投資家は米国大統領の権限を買いかぶり過ぎだと感じる。実際には、多くの手続きに議会の賛成が必要だ」
──具体的な投資戦略は。
「米国株を選好する。米企業の第1・四半期決算は前年同期比6%の減益となったが、その理由はドル高と原油安という2つの逆風だった。だが今その2つが解消しつつあり、逆風が追い風となることで2016年は3%増益になると予想している」
「バリュエーション的には確かに(過去最高値圏にある)米国株は割安とは言えないが、あくまでも過去平均並みの水準だ。世界にはよりパフォーマンスの良い株式市場もあるが、リスク調整後リターンで見ればわれわれは米国株を最も選好する」
「欧州の社債、特にハイイールド債(ジャンク債)に強気スタンスだ。企業業績と経済成長率が安定している上、ECB(欧州中央銀行)による需給面でのサポートもある。欧州企業の原油・エネルギー関連のエクスポージャーは米国企業と比べて非常に低いため、ボラタイルな原油価格の影響も受けにくく、デフォルト(債務不履行)リスクが低いこともポジティブ」
──世界的な低利回り環境、日本の投資家はどう対処すべきか。
「マイナス金利の世界で運用利回りが低下するなか、投資家はまず、リターンに対する期待を下げる必要がある。安全資産であるはずのキャッシュのリターンがゼロやマイナスという状況においては、株式で5%のリターンを得られれば十分、と考えるべきだ」
「自身のポートフォリオ上の制約がないのであれば、流動性のより低い資産へのエクスポージャー(配分)を高めることで、非流動性プレミアム(流動性が劣る分だけ上乗せされるリターン)を獲得できる」
「当行では今月から、イェールやハーバードといった米国の大学財団の投資アプローチをモデルに、プライベートエクイティやプライベートデット(融資)などのオルタナティブ(代替)資産への配分をかなり高めた『エンダウメント型ポートフォリオ』というソリューションの提供をスイスで始めた。アジア地域(香港とシンガポール)でも、年内のローンチを目指している」
*見出しの表現を変更しました。
(インタビュアー:植竹知子 編集:伊賀大記)
http://jp.reuters.com/article/interview-ubs-wealth-idJPKCN0YW0Z5
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