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落日の財務省で「財政破綻願望」が静かに広がる
http://diamond.jp/articles/-/92733
2016年6月9日 山田厚史の「世界かわら版」 ダイヤモンド・オンライン
大蔵省だった頃は「権力の守護神」と呼ばれていた。今の財務省に、その威光はない。
悲願の消費税10%は2年半先送りされ、その先は茫々だ。次は、中期目標に掲げる「2020年度財政基礎収支(プライマリーバランス)の黒字化」の看板を下ろすことになるだろう。アベノミクスのエンジンを噴かす、と豪語する政権に、「財政健全化」は障害物でしかない。
財務官僚に無力感が広がり、「破局願望」さえ漂うようになった。
大蔵官僚が政治家を操ったのは、遠い日の記憶。政権の僕(しもべ)となったこの落日ぶりは、なぜ起きたのか。
■官邸に首根っこを押さえられた財務省
抵抗も増税見送りの既定路線は微動だにせず
「お約束とは違う、新しい判断」が示されたのはG7の伊勢志摩サミット終了直後。安倍首相は、2017年4月に設定した「消費税10%への引き上げ」を撤回、2010年10月へと再延期した。財務省は、この瞬間を覚悟し、待ち構えていた。
増税回避の工作は水面下で着々と進められていたが、首相は「リーマンショック級の危機が起きない限り予定通り行う」と繰り返していた。首相が「増税をやる」言っているからには、表だった阻止行動は控える、というのが田中一穂事務次官の方針だった。
首相の表明で「抵抗」は解禁となる。28日夜、麻生財務相は官邸で首相に会い「国民との約束を違えるなら衆議院を解散すべきだ」と迫った。同席した谷垣禎一自民党幹事長も増税延期に慎重だった。財務省は、二人が揃って首相を説得することで、奇跡が起こることに淡い期待を寄せていた。
抵抗はここまで。首相表明は、論議の開始ではなく、最終決定である。延期の理由が屁理屈だろうと、財務大臣が何を説こうと、既定路線はピクリとも動かなかった。
「裏で動けば人事で報復される。自民党への根回しはとてもできなかった」と財務官僚は自嘲的に言う。
安倍政権が財務省の首根っこを押さえたのは2014年5月、内閣人事局の発足による。各省の審議官から上の人事は内閣人事局が行う。各省大臣に委ねられていた人事権を首相官邸が握ったのである。
初代局長は官僚OBで事務の官房副長官である杉田和博に決まっていたが、直前に差し替えになり、安倍の側近で政務の官房副長官である加藤勝信が就任した。
「政治主導」を鮮明にする菅官房長官が差し替えたといわれている。加藤が一億総活躍担当相に就任すると、荻生田光一官房副長官が後任に就いた。菅と荻生田の強面コンビが役人の動向に眼を光らせている。
■「権力の守護神」が今や麻生財務相頼み
次官人事を守るのが精一杯
苦い経験が財務省にはある。前回、消費増税が延期された2014年10月のことだ。増税の可否についてエコノミストなど専門家に意見を聞いた。周到な根回しによって増税賛成が多数を占めた。延期に舵を切った安倍官邸は、財務省のやり方が気に入らなかった。そもそも2013年に消費税を増税したことがアベノミクスを躓かせた原因と考える官邸は、財務省は癇に障る存在だった。
翌年の人事で田中一穂が事務次官に就任したのは官邸の意向によるものだった。入省同期(昭和54年)の木下康司と香川俊介が既に事務次官になっている。田中は理財局長で退任、と見られていたが、第一次安倍内閣で首相秘書官を務めた縁で、山中湖の別荘に出入りできる唯一の財務官僚だった。田中は安倍政権の復活で主計局長になり、首相と財務省を取り持つ役回りを担った。
無難な関係を保つには首相に逆らわない、というのが田中の方針とされ「首相とのパイプはポチ」などと陰で言われていた。
厳しい状況下で消費増税に奔走したのが佐藤慎一主税局長だった。それが菅官房長官の逆鱗に触れる結果となった。
官邸は公明党に配慮し軽減税率の導入を求めたが佐藤は自民税調の野田毅会長(当時)と組んで軽減措置を小規模に留めようと動いたからだ。議員会館の菅の部屋に呼びつけられ「出入り禁止」を言い渡された、という。
官僚のトップ人事は菅と荻生田による閣議人事検討会議に諮られる。省内では既定路線とされていた佐藤の次官昇格は、危うくなった。
菅の抑え役となったのが麻生財務相である。官邸で実権を握る菅も、副総理の麻生には一目置いている。
消費増税延期を発表した2日後、安倍と麻生は赤坂の料理屋で3時間に及ぶ会合を持った。手打ちである。財務省の期待に応え、言うべきことはすでに言った麻生は矛を収めた。翌日、佐藤主税局長が次官に昇格する情報が財務省から流れた。
「人事だけは官邸に壟断されない。麻生さんが守ってくれている」と財務官僚は言う。
財務省になって15年。正門に掲げた看板がこのほど掛け変わった。依頼され筆を執ったのは麻生大臣。「これからも財務省をよろしくお願いします」と麻生に託す思いが凝縮された看板である。
■存在感を失った谷垣幹事長
後継は稲田政調会長と目されるが
財務省が期待するもう一人の政治家が自民党幹事長の谷垣禎一だった。民主党政権の時、野党自民党をまとめて三党合意へと動き、消費税増税への突破口を切り開いた功労者である。
その谷垣への失望感が広がっている。「大事な局面で頼りにならない政治家」という評価だ。安倍首相に直言ができない。軽減税率の導入では、公明党との与党協議で抵抗していたが、菅官房長官の介入を許し、幹事長としての存在感を失った。
谷垣は若い頃から財務省が目をかけ育ててきた政治家。誠実で財政への理解も深く、使える政治家と見て応援してきたが、難局で体を張れない「優等生の弱さ」を財務官僚は感じている。
次の持ち駒として育成しているのが稲田朋美自民党政調会長だ。安倍首相のお気に入りで、後継候補の一人に名が上がる政治家だが行政経験は浅く、政策に疎い。
政調会長は勉強の場。財務省はここぞとばかり財政の論理を注入している。有望な政治家には「家庭教師」と呼ばれる御進講係を差し向けるのが大蔵省時代からの習わし。稲田には行革担当相のころ秘書官を務めていた担当者が良好な関係を築いている。
稲田は最近、財政健全化に理解を示す発言が多く、財務省の工作は成果が上がっているように見えるが、首相にモノが言える立場ではない。
首相の周辺は本田悦朗、高橋洋一という反財務省の財務省OBがブレーンとして固めている。安倍政権が続く間は、財務省は何を言っても聞いてもらえない、というほど溝は深い。
■プライマリーバランスの
2020年度黒字化はもはや空念仏
消費税増税の再延期は反財務省のブレーンが早くから主張し環境作りをしてきた。次の焦点は「2020年財政基礎収支黒字化」。
財務省内部でも「2014年に増税を見送った時点で達成は難しくなった」という声がある。歳出削減がどれだけできるかが関係するので「不可能」とは言えないが、膨張する社会保障費に大ナタを入れるのはたやすいことではない。一方で景気対策に予算を食われるので「相当の覚悟がなければできない」というのが大方の見方だ。
もともと2020年という目標に特段の意味があったわけではない。中期目標としてきりのいい年度にしただけで、国債費を除く政策経費と税収をバランスさせるには、大胆な増税と歳出カットが必要、ということを数字で納得させる目安として打ち出された、役人的手法である。
政治的には「財政再建の手は緩めていません」ということを示す表現だ。
「プライマリーバランスの黒字化を達成する」と言えば健全財政に向けて努力しているような雰囲気になる。
だが、現実の予算はそうなっていない。
「正直なところもう無理。2020年度に達成するには消費税10%でも足らない。2015年10月から10%にする、という当初の設定はその後更に上げる、という含みがあった。増税が2019年ではとても間に合わない」
内部事情を知る官僚はいう。歳出削減どころか、「アベノミクスのエンジン全開」が叫ばれ、財政出動が求められている。
首相も財務省も「2020年度に黒字化」を判で押したように語るが、もはや空念仏である。
「看板を下ろせば財政健全化を諦めたことになる」と財務官僚は抵抗するが、首相の周辺からは「できもしない目標を掲げても意味はない。財政出動にブレーキをかけるだけ」という声も出ている。
歯止めを設けながら、実質的に空文化し、現実性を失わせてから、歯止めを取り消す。憲法の空洞化と似た政治的手法が財政政策にも応用されている。
■取りやすいところから取る
「弱いものいじめ」が始まった
財務省はもはやマクロ政策の担い手ではなくなっている。財政の不均衡を是正することを自己目的にした組織になった。税収を増やすこと、歳出を削ることが何より優先する。その結果、取りやすいところから取る、削っても返り血が少ない予算を削る、という「弱いものいじめ」が始まった。
消費税増税ができないしわ寄せは、社会保障費に及ぶ。真っ先に削られたのが貧困層に近い低所得層への負担軽減だった。消費増税分の4000億円を財源に、所得の低い納税者を対象に、医療や介護、保育などの自己負担の総額に上限を設け、超えた分を国が補助する仕組みだ。総合合算制度と呼ばれるこの措置が増税延期ですっ飛んだ。
「税と社会保障の一体解決」という財務省のスローガンは、社会保障を人質にとった増税策ともいえる。増税がイヤなら社会保障を切りますよ、という脅しめいた政策だ。
上から目線で納税者を脅す、というのでは財務省がいくら健全財政を叫んでも、増税路線は支持されない。
財務官僚が「官邸の横暴」を嘆いても、庶民の同情が集まらないのは、独善的は財政至上主義の匂いがするからだ。
税収が足らなければ、社会保障だけでなく、一機200億円もするオスプレイなどの防衛費や、被災地の地元でも異論がある巨大防波堤といった公共事業など見直すべき対象はいくらでもある。
現実は様々な既得権が絡み合い、簡単ではないが、増税ができないなら、削減に挑戦する課題は事欠かない。
日本の財政に今必要なのは、財政支出をゼロから見直す、納税者目線に立つ予算の組み替えではないのか。
人口増と企業の躍進をバネにした高度成長期に税収が増えた日本経済が、財政を差配する大蔵省に権力を与えた。財政破綻すればその権威が陰るのは当然のことである。
権力を失いながら、いまもその幻想の中から人々を見下ろしている財務官僚の限界が今の迷走に現れている。
誰のための財政か、どうすれば公正な世の中が実現できるのか。納税者に寄り添う視点を取り返さない限り、財務官僚への憧憬のまなざしは戻ってこないだろう。
天下の秀才たちが組織の歯車に組み込まれ全体が見えない。若手は意味を見いだし難い資料作りに明け暮れ、動機づけは評価と昇進。ベテランになるとポストと再就職先に意識が向かう。自負心と輝きを失った組織に突破力は期待できない。
現状を憂う官僚に「危機待望」が静かに広がっている。
日本の財政はもう自己修正できない。やがて破局が訪れる。5年先か10年かかるか、分からない。でもいつか必ずやって来る。
歴史の節目には常に大混乱がある。その時が勝負だ、と。ゼロからのやり直しを待つしかない、という。
無力感は破局願望を伴いがちだ。自分たちは混乱の外にいるのだろうか。エリートにはチャンスかもしれない。激動に翻弄されるのは庶民である。
危機回避を使命とする人たちが、危機を待望することに、組織の深い病理が見える。
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