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社員の最低賃金を年間約847万円にした企業に起こったこと(ライフハッカー)
http://www.asyura2.com/16/hasan109/msg/236.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 5 月 29 日 06:43:40: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

社員の最低賃金を年間約847万円にした企業に起こったこと
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160528-00010006-biz_lifeh-life
ライフハッカー[日本版] 5月28日(土)23時10分配信


Inc:ダン・プライス氏が、シアトルにある自身の会社、グラビティ・ペイメント社の最低賃金を7万ドル(約847万円)にする前...、ハリウッドのエージェントや、リアリティ番組のプロデューサー、出版業者たちが、髪を肩まで伸ばしたブラッド・ピット似の、この31歳の若者にヒジ鉄をくらわし始める前...、ラッシュ・リンボー(過激な保守発言で人気のラジオ司会者)がこの若者を社会主義者と呼び、ハーバード・ビジネス・スクールの教授たちが同社の賃金における過激な実験をこぞって研究し始める前...。グラビティ社の新米社員の1人、ジェイソン・ヘイリー氏は、プライス氏に心の底から腹をたてていました。

2011年の終わりのこと。32歳で年収3万5千ドルの電話技術者ヘイリー氏は、なにやら不機嫌なムードを漂わせていました。プライス氏は、屋外の喫煙コーナーにいるヘイリー氏を見かけて、そのことに気づきました。プライス氏は彼に近づくと「なにか気に入らないことがあるみたいだね?」と声をかけました。「何が気に入らないの?」

「あなたが私から搾取していることですよ」とヘイリー氏は腹ただしそうに答えました。

プライス氏は唖然としました。ヘイリー氏は内気な性格で、感情を表に出すタイプではありません。「君の給与は市場価格にもとづいて決められている」とプライス氏。「そうじゃないというデータがあるなら見せて欲しい。君から搾取するつもりなんかないよ」すると、「データなんか関係ない」とヘイリー氏は吐き捨てました。「あなたの志が悪いんだ。あなたは自分が財政管理がうまいと自慢しているが、こっちの立場から言えば、まともな生活を送れるだけの給料をもらってないってことですよ」

■最低賃金を年7万ドルまで段階的に引き上げる。プライス氏自身の給与は7万ドルまでただちに引き下げる

プライス氏はショックを受けてその場を去りました。それから3日間、家族や友人にグチりまくっていました。「最悪の気分だった」と彼。「何かの犠牲者になったみたいにね」10代のころから起業家だったプライス氏は、2004年に兄のルーカスと一緒に始めたグラビティ社の社員待遇にはプライドを持っていました。同社を興す3年前、16歳の高校生だったダン・プライス氏は、知り合いのバーのオーナーたちが、クレイジットカードをスワイプするたびに、巨大金融企業から高い手数料を搾り取られていることを知りました。グラビティ社は、はじめのうちは技術をアウトソースし、のちにシステムを自社開発しながら、低料金で良質のサービスを提供し、4年間で急成長を遂げました。ところが、世界金融危機で会社は壊滅的な打撃を受けます。これがトラウマとなったプライス氏は、景気が回復したあとでも賃金を抑えたままにしていたのです。しかし、それもすべて会社を守るためです。なんで社員たちはそれがわからないのか...。周りの人たちから、おまえの賃金ポリシーは間違ってないよといくら慰められても、一向に気分はすぐれませんでした。

しかし、ついにプライス氏はそのわけを理解しました。ヘイリー氏が正しかったのです。低い賃金だけでなく、プライス氏の志も間違っていました。「不況を恐れるあまり、過剰に守りに入っていたんだ。そして自慢気に、社員たちを傷つけていた」と彼。こうして、プライス氏はごくありふれた起業家から、所得格差と戦う活動家に転身し、米国のビジネスのやり方を根本的に変える運動を始めました。プライス氏はヘイリー氏との一件のあと、3年間に渡って、社員の給与を年間20%ずつアップさせていきました。それに伴い、収益も賃金の上昇を上回るペースで増えていきました。そして今年の春、試算と不眠症の2週間を過ごした後、プライス氏は120人の社員に対して、ドラマチックな発表を行いました。4月13日のことでした。NBCニュースとニューヨーク・タイムズ紙が取材のために呼ばれていました。その内容は、次の3年間で、グラビティ社の最低賃金を年7万ドルまで段階的に引き上げる、また、その財源を捻出するために、プライス氏自身の給与を110万ドルから7万ドルにただちに引き下げる、というものでした。

■賃金を含むコストを抑制してきた米国での反応

反響はすさまじいものがありました。ソーシャルメディアでは5億回も話題にされ、NBCがアップした映像は、NBC史上最もシェアされた動画となりました。グラビティ社には、守銭奴から改心したスクルージのように、にわかに気前がよくなった各地の経営者によって、突然の昇給を言い渡された労働者たちから、感謝のメッセージがぞくぞくと送られてきました。そのなかには、ベトナムのアパレル工場まで含まれていました。プライシ氏はアスペン・アイデア・フェスティバルで喝采を浴びると、リアリティ番組「アプレンティス」を手掛けるマーク・バーネットから、新しいドナルド・トランプとして、「ビリオンダラー・スタートアップ」という番組に出てくれないかとの依頼さえ受けました。グラビティ社には履歴書が殺到し、最初の1週間で4500通にものぼりました。そのひとつはTammi Krollという名の超有能な52歳のYahoo重役も含まれていました。彼女はプライス氏に感銘を受け、9月に職を辞すと、年俸が80〜85%も減るにもかかわらず、グラビティ社の元へ走りました。「私は長い間、お金を求めて働いてきた」と彼女。「これからは楽しくて意義のあることをしたい」

プライス氏はそこで立ち止まりはしませんでした。各地の社長フォーラム、バー、ファストフードレストランなど、至る所で積極的にディベートをしかけていきます。どれくらい多く、あるいはどれくらい少なく、労働者は支払われるべきなのか? 資本家や経営者たちがどれだけ努力しているかはわかりませんが、2000年から、多くのアメリカ人の実質的な賃金は増えていません。とりわけ、先の金融危機のあと、経営者たちは賃金を含むコストを厳しく抑制してきました。おかげでたしかに利益は増えました。ボーナスも増えたかもしれません。しかし、その代償は大きくはなかったか? 消費支出が全体の3分の2を占める米国経済において、GDPの伸びは所得の伸びに比例します。ところが、労働者には支出を増やすだけのお金がありません。所得が伸びていないことが、米国経済が停滞しているおもな原因なのです。

プライス氏が賃金爆弾を投下するまで、こうしたディベートの多くは専門家たちが小難しい話をこねくり回しているだけでした。彼はその議論を血肉が通ったものにしました。現代のロビンフッドは、労働者階級を助けるために自分自身からお金を盗んだのです。そして、彼に習って賃上げを断行した経営者がいる企業の株主たちからも盗んだと言えるかもしれません。ケチの王様、ウォールマートが最低賃金をしぶしぶ引き上げたのは果たして偶然なのでしょうか?

そして、予想どおりの反動が起こりました。プライス氏はFox Newsで晒しあげられ、億万長者であるリンボー氏からさんざんにこき下ろされました(「こんな会社はMBAのケーススタディになればいいんだよ。社会主義がうまくいかないことの例としてね。見てりゃいいさ、絶対に失敗するから」)6月のTime誌には、不満を抱えた顧客やスタッフたちの声があまりにたくさん掲載されたので、心配した友人たちが、物事がうまくいかないときは立ち止まってもいいんだと伝えるために電話をかけてきたほどです。また、これはプライス氏のメディア戦略に過ぎないと非難する人たちもいました(「もしそうなら俺は天才だね」とプライス氏はコメントしていますが) プライス氏が同社の最低賃金を発表するとすぐ、兄のルーカスはダンを告訴し、ダンが自分自身に「過剰な報酬」を支払っていたと主張するとともに、ルーカスが所有する同社の30%相当の株を「公正価格」で買い取るか、会社を解散するようダンに命令することを裁判所に求めました。ルーカスはコメントを控えています。ダンは兄の要求を拒絶しました。

プライス氏は賃上げを取り下げるつもりはありません。彼はいま大変な状況に置かれています。Inc.に明かしたところによると、プライス氏はすべての株式を売り、退職金口座はカラッぽで、湾を臨む120万ドルの豪邸を含む2つの不動産も抵当に入っているとのこと。さらに、ポケットマネーから300万ドルをグラビティ社に注入したそうです。もっとも、自社株の過半数を保持しているので、無一文というわけではありません。しかし、グラビティ社がコケれば、そうなります。「多くの人がその日暮らしをしている」と彼。「自分だけ10年分の生活費をとっておく必要なんてある? そんなの意味ないよ。ほどほどの給与で暮らすのは悪いことじゃない。おかげで集中力を切らさないでいられる」

そして、世の経営者たちは事の成り行きをじっと見守っています。ダン・プライス氏の実験は、企業家たちが労働者の賃金を低く抑えてきたことで、会社に不利益を与えていたことを暴く天才のひらめきなのか、それとも、グラビティ社が善意に溢れた愚か者によって運営されていることを示す明白な証拠なのか、どちらかとなるでしょう。

■プライス氏にとって会社はお金儲けの手段ではなかった

「月曜日の朝が好きなんだ」と、元漁村で最近急速に開発が進んでいる、シアトルはバラード地区にある、広々としたグラビティ社のなかを歩き抜けながら、プライス氏はいつもの明るい調子で話します。同氏は流行のジーンズに裾出しシャツ、スニーカーというヒップスターファッションに身を固めています。オフィスは何の変哲もありませんが(パーティションのなかにデスクとコンピューターが置かれている)、半年ごとに席替えがあり、常に新しい同僚と机を並べることになります。「だから快適過ぎるということはないのさ」とプライス氏。

プライス氏がアイダホ州南西部の田舎町で育ったとき、家族の目標は快適な暮らしではありませんでした。同氏と5人のきょうだいは、交代で早朝5時に起きて朝食をつくり、聖書を読み、福音主義キリスト教徒の両親の導きで祈りを捧げました。プライス氏自身も、聖書を読むのに何時間も費やし、5年生と6年生のとき、聖書暗記大会の決勝まで進みました。きょうだいたちと同じく、12歳まで自宅教育を受けていました。そのころは少し反抗期でもあって、髪を赤と青のストライプに染め、爪をお気に入りのパンクロッカーと同じに塗っていました。

プライス氏はベースギターの弾き方を学び、Straightforwordというクリスチャン・ロック・トリオを結成、ツアーに出たり、ラジオで全国放送されるまでになっていました。16歳でバンドを解散したとき、いつも演奏させてもらっていたバーやカフェのオーナーたちを助けようと決心します。ずさんなサービスで法外な手数料をふんだくっているクレジットカード決済企業から、もっと安い料金を勝ち取ってあげようと思ったのです。

プライス氏の家庭は決して豊かではありませんでしたが、プライス氏は会社をお金儲けの手段だとは考えていませんでした。自分の価値観に従って生きるのだとよく口にしていた、自営のコンサルタントの父ロン・プライス氏に触発され、自分もアイダホ州コールドウェルにあるコーヒーショップMoxie Javaを経営するHeather氏のような友人を助けたかったのだと同氏は話します。しかし、彼はお金を稼ぎます。200以上の顧客を集め、良い月には12000ドルの利益が出ました。2004年にシアトルパシフィック大学に入学するころまでに、プライス氏はより洗練されたビジネスモデルを構築していました。アウトソース技術を使って、クレジットカード取引を自分で処理するまでになっていました。

コンピューターにも精通していましたが、彼の本当のスキルは交渉力であり、たくさんの企業からクレジットカード決済に関する契約をとりつけていました。アイダホの顧客にサービスすることを続けながら、シアトルでも新規顧客を開拓し、5歳年上ですでに大学を卒業していた兄ルーカスと、グラビティ・ペイメント社をスタートさせました。また、彼は高校時代の恋人、Kristie Lewellynさんと結婚しました。敬虔なキリスト教徒であった彼女の両親は、彼が16歳のとき、結婚するつもりがないなら彼女と会わせないと言いました。彼は合意し、2人はLewellynが20歳、プライス氏が21歳のときに結婚しましたが、その関係は続かず、2012年に平和的に結婚を解消しました。

ダンとルーカスはグラビティ社の対等なパートナーとして責務をシェアしていましたが、起業して18カ月後に仲違いします。ルーカスは弟から退屈な仕事を押し付けられることが不満だったのです。2008年、2人は、ダンが会社の過半数株式保有者となることで合意しました。ルーカスは現在、シアトルのテキストメッセージ関連のスタートアップ企業、Zipwhip社の重役をしています。

ダンの貯金、クレジットカードでの借金、学生ローンを流用しながら、同社は急成長を続け、自社技術を開発し、自前のカード処理システムを持つまでになりました。2008年に大学を卒業すると、ダンはいくつかのビジネス賞を授賞、オバマ大統領とも面会を果たします。ところが、そこに大不況が襲いかかります。グラビティ社も大打撃を受けました。同社の収益は20%ダウン。関係各社や顧客たちはつぎつぎと倒産していきました。プライス氏は恐怖に震えました。「僕らはほとんどすべてを失ったんだ」 その後、社員の賃金を低く抑えながら、同氏はスタートアップ企業でよく耳にする弁明を続けていました。企業は君たちに刺激的な働き場所を提供する。ここで多くを学べば、将来きっと大金を稼げるようになる。それはこの会社でかもしれなし、別の場所でかもしれない...。しかし、ジェイソン・ヘイリー氏との一件の後、プライス氏は新しい道を歩むことに決めたのです。

■賃上げのあと、生産性が30〜40%伸び、利益も伸びた

プライス氏が2012年に実施した20%の賃上げは、当初は1回限りのはずでした。しかし、不思議なことが起こりました。利益が前年と同じだけ伸びていたのです。生産性が30〜40%も上昇したことが要因です。同氏は偶然の結果に過ぎないと考えましたが、翌年も20%の賃上げを行いました。また利益が同じだけ伸びていました。2014年、彼はとまどいながらも同じことを行いましたが、やっぱり利益も、新規雇用をしたせいで前年ほどではないにせよ、しっかりと伸びていました。

「しかし、僕はまだ気分がすぐれず、それがなぜだがわからなかった」と彼。3月、プライス氏は別の企業で働く、年収が5万ドルに満たない親友と散歩をしていました。彼女は頭がよく、有能で、週に50〜60時間は働いていました。にもかかわらず、アパート代が月200ドルも値上げしたことに加え、学生ローンの返済もあって、基本的な生活費の支払いさえも心配しなければならない状況に置かれていました。「無性に腹がたってきたんだ」とプライス氏。「僕はこの会社で年間100万ドルもらってるけど、僕と同じくらい価値をもつ、同じ釜の飯を食ってる同僚たちが彼女と同じ状況に置かれていることに気づいたんだ」

数字に強いプライス氏は統計データも知り尽くしていました。2000年以降、米国の生産力は22%伸びていましたが、物価上昇率を差し引くと、賃金の中央値は1.8%しか上昇していません。実際、賃金は不況のときから3%下落しています。生産力の増分は、平均で労働者の300倍も年収があるCEOたちのところへ回っていたのです。ちなみに、経済政策研究所によると、1990年の賃金格差は71.2倍程度でした(プライス氏の110万ドルの年俸は、グラビティ社の平均年俸4万8千ドルのおよそ23倍に当たる)。これを受け、シアトルを含むいくつかの都市において、最低賃金を時給15ドルにするなどの対策が検討されはじめています。

「彼女が200ドルの家賃アップで困らないためにどうなればいいんだろうって考えはじめたんだ」とプライス氏。同氏はプリンストン大学の行動経済学者ダニエル・カーネマンが2010年に行った研究を思い出しました。年収が7万5千ドルを超えると、日常生活における幸福度が変わらなくなるというものです。逆に、年収が7万5千ドルを下回る人びとは、収入が下がるほど不幸を感じていました。当時、グラビティ社の新人の給与は年間3万5千ドルでした。

グラビティ社の経営はうまくいっていました。2014年の収益は150万ドルに達し、年に15%伸びていました。年間で扱う顧客取引は70億ドルです。利益は220万ドル、売上純利益率は1.46%で、業界平均を少し下回っています。同社の利益の40%は、配当金としてダンとルーカスのものとなります(ダンはそのお金を同社の非常用預金口座に入れている)。残りのお金は事業に回されます。「僕たちは素晴らしい企業文化を持っていて、何百人もが求人に応募してくれている。だから、長いあいだ賃金を低く抑えることができていたんだ」と彼。

プライス氏は、社員たちがお金の問題を抱えていると、グラビティ社の成功の源泉である、一流のサービスを提供できなくなるのではと心配しました。また、彼は低い初任給は単純に間違っていると信じていました。それは自身の価値観に反しており、父親の教えにも反していました。「僕はとにかく初任給を7万ドルにしようと決めたんだ」と彼。「自分の給与がなくなっても、一日に20時間働くはめになっても構わない。ただやるだけだ」

この賃上げ計画を実行すると、30人の社員が年収が倍になるほか、年収が7万ドルに達していないそのほかの社員40人も昇給となります。3年間にわたり段階的に導入され、そのコストは180万ドルです。最初の年にまず最低賃金を5万ドルに引き上げます。次の2年間で、毎年1万ドル引き上げていきます。現在賃金が5万〜7万ドルの人は5千ドルの昇給になります。プライス氏は、サービス料の値上げや、社員の解雇、役員給与のカットはしないと約束しました。コストの半分以上はプライス氏自身の給与引き下げでまかない、残りは220万ドルの利益があてられます。

4月に全米の話題になってから、プライス氏の気は変わっていないそうです。社員たちがこれまでどれほど大変な思いをしてきたかを知ったからだと言います。アイダホ州ボイシの営業員Garret Nelson氏(31歳)は5千ドルの昇給して年収が5万5千ドルになり、5人の自宅教育の子どもたちに教材を買い与えたり、音楽のレッスンを受けさせられるようになりました。「アイダホの人たちは君のところの社長は頭がおかしくなったんだと言っているよ」とNelson氏。彼はかつて、プライス氏と一緒にミドルスクールに通っていました。「でも、社員たちは本当に元気づけられているんだ」

■新規顧客も獲得できたが、賃上げはビジネス戦略ではなく倫理的要請だった

利益を生みつつ、社員の士気も高める魔法の数字は存在するでしょうか? プライス氏は数字の計算はしていましたが、メディア報道のおかげで、新規顧客からの問合せが、月に30件から、2週間で2000件に増えることは予想していませんでした。新規顧客の獲得には高いコストがかかります。その点から言えば、この戦略はすでに元がとれています。また、同社の事業では、顧客定着率が重要となります。グラビティ社の過去3年間の顧客定着率は91%で、業界平均の68%をはるかに上回っています。成功は決定的です。グラビティ社の業務副社長Maria Harley氏は、別の数字に注目しています。新しい事業のために想定より10人多く社員を雇う必要がありましたが、非労働コスト(賃貸料、技術費用など)の大半はほぼ変わりがないので、稼働率はむしろ上昇しています。「売上を倍にする必要はない」と彼女。「25〜30%伸ばすだけでいい。感情ではなく論理で考えても、完全に達成可能な数字だ」

劇的な発表から6カ月、グラビティ社は懐疑者たちを退けてきました。収益は前年の2倍の伸び率を示しています。利益の伸び率も同じく2倍になっています。もちろんなかには、離れていった顧客もいます。一部の顧客は、自分の会社の賃上げ圧力を高めてしまう、プライス氏の政治的な声明に難色を示しました。料金アップやサービスの低下を懸念する顧客もいました。とはいえ、パニックになった顧客がどんどん離れていると一部メディアに報じられたのは完全に間違いであることが判明しました。実際、第二四半期の顧客定着率は91〜95%で、離れた顧客はたったの2社。ジェイソン・ヘイリー氏も会社に残り、めでたく昇給した社員の1人となりました。

プライス氏の最大の脅威は、その戦略ではありませんでした。実の兄、ルーカスでした。5月から審理が始まるルーカスの告訴がグラビティ社に打撃を与えています。プライス氏は裁判費用は100万ドルに上ると見積もっています。この訴訟は、賃上げ発表の11日後の4月24日に起こされ、おそらく、グラビティ社が脚光を浴びているときにダンに同社を売らせて、ルーカスの持ち株の価値を最大化するためだと思われます。ダンによると、ルーカスは持ち株を4〜5百万ドルで買い取るというダンの申し出を断ったそうです(ルーカスの弁護士は、訴訟は賃上げとは無関係だと主張している)。

兄のことを尋ねると、ダンはいつもの陽気でおおらかな態度を崩さず、「僕たちの会社がここまでこれたのは、ルーカスの助けがあったからだよ。彼が何をとることになっても、僕は気前よく差し出すよ。それで僕は満足だし、彼はそれだけの貢献をしたんだから」実の兄から訴えられてなぜそれほど慈悲深くあれるのかと尋ねられると、プライス氏は笑って、ここ一年、家族療法士にみてもらってるからね、と答えました。

兄弟であろうとなかろうと、彼は会社を守るために徹底的に戦うと誓っています。「ルーカスが自分のファイナンシャル・ゴールにたどり着くためになんでもするつもりだよ」とダン。「もっとも、顧客サービスを削ったり、料金をアップさせたり、賃金を下げたり、チームへの投資を切り詰めたりしないで済むかぎりにおいてだけどね」

事業コストを増大させるのは、一般的に言って、利益を増やしたり、市場ポジションを向上させる良い方策とは言いかねます。プライス氏のゴールラインは自身の年俸を市場相場まで引き上げることでしょう。そうすれば、必要に応じて社長を入れ替えることも可能となり、CEOたちに、今回のようないけにえ的行為は、会社の賃金体系を再建する際の一時的な措置であることを示せます。彼はまた、300万ドルの貸付も回収したいはずです(このお金は「失敗の許容度を上げる」ために注入したのだとか)。もっとも、回収できなくなることを恐れてはいません。「どうせ無一文から始めたんだ」と彼。「自分が生活するくらいのお金はいつでもつくれるよ」

プライス氏は最低賃金を7万ドルにするのは、倫理的な要請であり、ビジネス戦略ではないと話します。そうだとしても、それがビジネス的にもうまくいくことが証明される必要はあります。グラビティ社が沈没しないようにするだけでなく、ビジネスの世界を変えるという長期的なゴールを達成するためにもです。「ビジネスリーダーたちが持つスコアカードに、お金だけでなく、目的、影響、サービスといったものも含まれるようになればいいと思うよ」と彼。「リーダーたちが自分自身を審査するのに使うスコアカードとしてね」

■そのほかの方策

すべての社員に年間7万ドルも払うのはとても無理? 以下で紹介する3人の企業家たちは、才能ある人材を惹きつける方法はひとつじゃないことを証明しています。


【社員に選択肢を与える】
David Hayes氏は、サンフランシスコのベイエリアにあるSkyline Construction社のCEOです。
Skyline社の給与は年に2回、市場価格に合わせて調整されます。ボーナスはそれぞれの事業が生み出した売上総利益にもとづいて決められます。
「この制度はとても評判がよく、最高の人材を惹きつけています。高い業績を残す人たちは、自分で自分の給与をコントロールできることを好みましから」とHayes氏。
中位のマネージャの平均給与が上がれば、ほかの社員の給与もそれに合わせて調整されます。
Hayes氏は、各社員がファイナンスの基礎を学んで、自分たちの部門を独立した企業のように運営できるようになることを望んでいます。「そうすれば、自分の給与を引き上げることもできるし、そうするためのコストも理解できるようになる」とHayes氏。つまり、社員は売掛金と買掛金を管理し、企業は人事、経理、監督、保険、そしてオフィススペースを提供するということです。

【請負契約にする】
Sid Simoneさんは、ヒューストンにあるSid Simone Solutions社のCEOです。
Sid Simone Solutions社は、販促用人材派遣とマーケティングの会社ですが、スタッフはすべて、会社と請負契約を結んでいます。
「企業は社員を雇うときに年俸7万5千ドルを提示するけど、週に60時間働かせるつもりであることは内緒にしているのよ!」とSimone氏。「ここ数カ月、時間給を導入しようか迷っています」
「一定時間に対して定額の報酬を払うのは給与みたいなものです。いま、内部契約者のモチベーションをあげるために、週次の最低保証額を支払っているけど、けっこう大変なんです。次、また経済危機が起きれば、その仕事を私自身がやるか、よそからお金を引っ張ってこないとだめね。うちの時間給は業界標準と同じくらいで15〜30ドル。アカウントセールスマネージャーのコミッションは10〜20%で、業界標準よりも良いレートです」
また、Simone氏は、「販売ノルマを達成した人にボーナスを払う仕組みを考案中」とのことです。

【海外にアウトソースする】
Andrew Alexander氏はアリゾナ州にあるLimitless Academy社の創設者です。
「社員たちには1時間あたり4ドル払っています。ええ、たしかに常識的な金額ではありません」とAlexander氏。「一番最近雇った社員はMaryという名前でフィリピンに住んでいます。職探しに苦労しているアメリカの友人たちはそれを聞くとみんな怒ります。でもこれが、スタートアップ企業の新しい常識になりつつあるんです。資金が限られるなかで、お金を最大限に有効活用することが重要ですから」
「でも、お金だけの問題ではないんです。Maryとは昨年の9月から一緒に働いていますが、彼女は私が今まで出会ったなかで一番ハードに働く人間です。睡眠スケジュールをアメリカ時間に合わせていて、よく深夜から明け方近くまで働いてくれます」
「多くの人が4ドルでは少ないだろうと言いますが、世界のほかの地域では平均以上の時給だったりします。私は彼らの成果に満足しているし、我が社の顧客もハッピーです。そして、彼女も友人たちよりたくさん給料がもらえてハッピーなんです」

Here's What Really Happened at That Company That Set a $70,000 Minimum Wage|Inc.
Paul Keegan(訳:伊藤貴之)
Photo by Shutterstock.
 

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コメント
 
1. 2016年5月29日 18:49:07 : jXbiWWJBCA : zikAgAsyVVk[381]

>社員の最低賃金を年間約847万円

利益率が大きい成長産業の優良企業であれば別だが、仮に経営幹部や株主などの同意を得て、労働分配率を100%に限りなく近づけられたとしても、労働生産性を超えた賃金を払うことはできない。

特に日本のように解雇が難しい場合、働かない従業員と貢献の大きい従業員の評価を賃金以外でできない場合、いずれ限界を迎える。

一般には、それ以前に、こうした自己犠牲が好きな空想社会主義者のような経営者は、ほとんど存在しないし、淘汰されて消えていくことになる。



2. 2016年5月29日 19:44:41 : zWAbljV26I : 3YgsLnV__6Q[3]
>>1
>特に日本のように解雇が難しい場合、働かない従業員と貢献の大きい従業員の評価を賃金以外でできない場合、いずれ限界を迎える。

欧米では一般社員はそもそもあまり働かないのが普通。
また、一般社員への査定なども珍しい部類。

日本の風習を前提にしているから間違える。


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