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広木 隆「ストラテジーレポート」
チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆していたコラム広木隆の「新潮流」は、こちらでお読みいただけます。 (@TakashiHiroki)
プロフィール
2016年05月25日
減少した上場企業の純資産
前回は日経平均採用企業の利益と時価総額を合計して、「日経平均株式会社」のPERとEPSを求める方法を紹介した。前期に多額の損失を出した資源関連企業の今期業績が回復すること等により、結果的に今期予想EPSは9%程度の増益となり、金額としては1200円程度になることを示した。PER15倍で評価して1万8000円がフェアバリューだろう。
詳細は今後のレポートで述べていくが、6月は波乱材料に満ちている。利上げ観測が高まるFOMCの結果は15日、すなわち日本時間16日未明に判る。その16日は日銀の金融政策決定会合だ。果たして追加緩和の有無、そしてその内容はどうなるだろう。米国FRBが利上げし、日銀が追加緩和に動けばドル円相場は115円程度まで円安が進んでもおかしくない。まさに6.16はXデーだ。日本株ロング(買い持ち)の投資家の立場から見た「吉」と出れば、日経平均は上述した1万8000円に向けた上昇が期待できる。
しかし、その1週間後にEU離脱を問う英国の国民投票がある。言うまでもなく、今年最大のリスクイベントである。このリスクイベントが日米の金融当局の政策決定に影響を及ぼす可能性がある。万が一に備えて、次回7月にアクションを先送るかもしれないが、むしろFRBはこのタイミングで利上げしてしまいたいと思うかもしれない。他方、日銀は、英国がEU離脱を選択し市場が大混乱に陥る(当然、超円高・株暴落となるだろう)場合に備えて、追加緩和のカードを温存したいと思っても不思議ではない。
BREXIT(英国のEU離脱)となった場合、世界の金融資本市場は大混乱に陥り、リスク回避の円高が進む。日経平均は1万4500円程度まで売られるだろう。前回2月の急落時は、日経平均は1万5000円割れで止まったが、そこがPBR1倍の水準だったからだ。言い換えれば、当時、市場が参照していた日経平均の1株当たり純資産は1万5000円で、それが下値の目途となった。現在、日経平均の1株当たり純資産は1万4700円に減少してしまった。よって、今度下値模索の展開となったときには、1万5000円はサポートラインにならない。
この1株当たり純資産1万4700円という値は、PER⇒EPS同様、PBRから逆算した値であり、そのPBRは前回同様、「日経平均株式会社」という持ち株会社があるかのように、日経平均採用225社の純資産を合計し、時価総額合計を割って算出した。(厳密には合併で誕生したばかりのコンコルディアFGを除く224社の合計)
2015年度の「日経平均株式会社」は前の期(2014年度)に比べ純資産を約9兆円減らした。その内訳を見てみよう。
財務会計基準機構が管掌する「有価証券報告書の作成要領」の最新版によれば、日本基準の財務諸表の連結貸借対照表「純資産の部」の勘定科目は以下の通り。
大項目は、「株主資本」、「その他包括利益累計額」、「新株予約権」、「非支配株主持分」の4つだ。ちなみに「自己資本」とは、「純資産」から「新株予約権」、「非支配株主持分」を除いたもの、と定義される。ROE(自己資本利益率)だとか、金融機関の自己資本比率だとか、「自己資本」という言葉がこれだけ使用されながらも、バランスシートの勘定科目に「自己資本」という科目はないのである。
さらに言うと、日経新聞などで記載されるPBR=株価純資産倍率は株価を自己資本で割ったものである。よって、重要なのは自己資本であり、「新株予約権」、「非支配株主持分」の変動を見てもごく僅かなので、我々が注目すべきは「株主資本」と「その他包括利益累計額」の変化だということがわかる。
2015年度の「日経平均株式会社」は「株主資本」を 7兆円増やしたが、「その他包括利益累計額」が15兆円減少したため、トータルで純資産を減らしてしまった。「その他包括利益累計額」減少15兆円の内訳は主に、有価証券の評価損5.5兆円、為替換算調整勘定5.5兆円、退職給付に係る累計額1.8兆円である。年金債務調整額は4000億円程度のマイナス寄与だった。
為替換算調整勘定とは在外子会社の円換算した時価評価額が反映される。ざっくり言えば、株安や円高で保有する有価証券や在外子会社の評価損が膨らんだことが、この「その他包括利益累計額」減少15兆円という格好で純資産のマイナスに寄与したわけである。
ここで「前期に稼いだ当期利益はどこにいったのか?」という疑問を持たれる読者もいるだろう。前期、「日経平均株式会社」は19兆円の利益を稼いだ。だが、配当の支払いが7兆円、自社株買いに4兆円使った結果、8兆円しか利益剰余金が増加しなかった。4兆円自社株買いをしたうち3兆円償却した。残りは「自己株式△××円」というマイナスの勘定科目が1兆円増加。合計で「株主資本」は7兆円しか増えず、「その他包括利益累計額」減少15兆円を吸収しきれなかったのである。
こう見てくると、純資産(自己資本)の減少は、株価や為替の変動によるものに加えて、配当や自社株買いなど株主還元によっても起こり得るという「当たり前の事実」に気付かされる。
コーポレートガバナンス強化の流れで企業の株主還元姿勢が強まり、増配や自社株買いが増えている。それはROEを高めることにつながる。しかし、それが必ずしも企業価値を高めることにはならない。いろいろなケースを指摘することができるが、いちばん単純でわかりやすい例は純資産が減少するという事実だ。PBRというバリュエーション尺度は割高になり、仮にPBRが下値目途となるなら、その水準は切り下がるということだ。
https://info.monex.co.jp/report/strategy/index.html
EPSから予測する今後の日経平均株価(藤本誠之)
EPSから見る日本の成長性と株価との相関
日経平均株価と予想EPSについて見ていきます。グラフの赤い線が日経平均の予想EPS、つまり一株あたり利益の推移です。アベノミクスの初期、予想EPSは600円ほどでした。その後期が変わり大きく増えたのですが、そこまでEPSが増えることを見越して、日経平均株価は徐々に上がってきたことが見て取れます。結果を見てから上がったわけではなく、来期は良いだろうという予測で、その水準まで上がっているのです。3月期末の決算発表は、45日ルールがあるので4月末から5月半ばにかけて出てきます。そこで一気にEPSが上がったわけですが、それまで為替が円安に走っていたこともあり、企業業績への期待が高まり、株価はそれを織り込んでいったということです。
EPSはその後も基本的にはコツコツと右肩上がりに推移し、また期越えで少し増え、ピークは去年11月30日に1275円70銭を付けています。もともと600円だったEPSが2倍になったので、日経平均もその期間で2倍以上になったのです。ですから、アベノミクスはバブルではないと言えます。企業業績がそれだけよくなったから株価は上がり、2万957円を付けたのです。ただし、そこからはEPSは下がってきています。1091円20銭まで右肩下がりに落ちてしまいました。これはやはり企業業績の悪化に加え、様々な企業の特別損失が出たことから下がっていったということです。
そうして5月6日までは下がったEPSですが、5月13日には1191円90銭まで回復、16日時点では1197円台まできているので、170円落ちたところからほぼ100円上がったわけで、グラフの右端のところで急上昇しています。これは足元、株価のプラスの動きにつながると思います。
なぜEPSがこのように上がったかというと、実はある特定の銘柄だけで上がったのです。それは去年特別損失を出した会社です。例えばシャープ、東芝などは不祥事を起こし何千億円もの特別損失を出しました。2社合計では1兆円の特別損失になります。
他に、例えば出光興産やJXホールディングスといった資源関連企業があります。こうした企業は原油を備蓄しています。戦争などの事態でいきなりタンカーが通れなくなるなど不測の事態に備えて、何百日分かを蓄えているのです。この備蓄は国が買い取っているわけではなく、民間に備蓄するように義務付けているので、その分は石油企業の持ち物になるわけです。その備蓄を多く抱えているということは、年間の売上高に匹敵するほどの原油を持ってしまっているわけです。高い時に買った原油や安いときに買った原油、いろいろあるものの、それを期末に評価していくらか定めるのですが、これが前年から比べて今年3月末は原油価格が大きく下落していたために、ここで特別損失が発生していたのです。
さらに、総合商社です。三菱商事、三井物産、住友商事といった大手総合商社は、三菱商事、三井物産に関しては赤字まで行くような大きな損失を出しました。やはり原油など資源関連の、投資していた様々なものの価格が下がってしまい、投資したものの価値がなくなったことにより減損処理をしなくてはならず、特別損失につながりました。
こうした特別損失が約3兆円に上り、前期の業績に影響を与えました。この特別損失は、企業がいわゆる事業で儲けたお金である、営業利益、経常利益と違い、もう一つ、投資など様々なことによって特別に利益が出たり、損失が出たりという場合のもので、これを合わせて純利益になります。
今年は円高が影響し、経常利益ベースではやはり厳しいところがあります。円安に支えられて今まで企業業績が上がってきたわけですが、その状況が変わったことは大きく影響します。日経新聞には全体として経常利益は3%ほどの増益と出ていましたが、実はそこには電力会社が入っていないのです。電力会社は去年原油が下がったことで大変儲かっていて、今年は原油価格が戻ってきているので今期はマイナスになるのですが、その電力が含まれていないのです。それで全体は増益というのは少しおかしいと思います。トヨタが7000億円、営業利益で4割の減益と言っているので、そういう意味では今年の業績自体はよくないのですが、特別損益の差によって、EPSはプラスになっているのです。
今の想定為替レートが自動車関連は105円、電機機械関連が110円と見ているので、やはり110円が分水嶺かと思います。110円以上に円安が進めば、かなり上方修正される可能性があります。もともとの予想が、今はかなりコンサバティブに見積もっているので、上方修正含みということになります。
トヨタに関しては4割の減益、為替要因が1兆円と書かれていますが、よく見ると様々な引当金などを充てて、かなり保守的に見積もっているように思います。想定為替レートも105円としているので、109円ぐらいであれば上振れ余地があるので、為替が110円を越えていけば、日経平均のEPSは11月の高値である1275円を抜ける可能性もあると思います。しかし、110円を越えなければそれほど増益はできないと思われるので、その場合は1200円ほどで、結局今と大して変わらない水準でいくのだろうと思います。
今後の日経平均ターゲット株価をずばり予測!
株価としてどうなるのかを見ると、PERの水準ごとに13倍から17倍までその時のEPSと掛け算した5本のラインを重ねてみると、15倍がほぼ真ん中で、プラスマイナス10%、ざっくり言うと14倍から16倍ほどに納まっています。日経平均が2月12日に安値をつけた時には13倍を割り込んで12.96まで行っていますが、それは瞬間だけのことで、14倍を割るということはそれほどないことなのです。そこから、足元の1191円90銭というEPSで計算すると、14倍なら1万6686円なので、今は14倍割れで、これはかなり割安に見えてくるわけです。そうすると、足元では15倍の1万7878円もあると思います。
ここから業績がよくなると思えてくればさらに16倍、17倍に近づいていくわけですが、現状為替が109円という水準なので、上振れというほどでもありません。ただ、伊勢志摩サミットや参議院選挙を前にした政策期待、消費増税の延期や財政出動を含めた景気対策、さらに成長戦略も幾つか出てくると考えれば、株価もポジティブに動いていくと思われるので、15倍の水準の1万7000円台、あって1万8000円というのが6月、7月の高値だろうと思います。そこまではまだ1000円程度あるので、今はまだ買えると思われます。
しかし、そこから先はまた暗い相場というか、動きにくい相場となりそうです。EPS1200円では、13倍でも1万5600円なので、下方向も考えづらくなってきているのです。EPSが上がった以上、1万5000円を割るようなことはちょっと考えにくいと言えます。4月8日の安値を割っていくとはとても思えないので、下は1万6000円から上は1万8000円、夏までは一旦上がるものの、下がってきたところでのグダグダした相場がしばらく続くのではないでしょうか。やはり三年間の上げ相場があった後、去年から下落し、一旦1万5000円割れまで叩き込まれてしまったわけですから、この下げ相場があって、すぐに大きく上がっていくというのは考えにくいだろうと思います。ざっくり1年から2年の間、もうしばらくもみ合い相場が続くと考えたほうが良いと思います。
EPSは日経平均株価を予想PERで割れば求められるので、日頃から動きに注意しておくと良いでしょう。このEPSが下がっている間は、株価は上がりにくいのです。一方、EPSがじわじわとでも上がっている間は、株価も同じように上がるのです。EPSの動きによって、日経平均は影響されるのです。これは当たり前のことを言っているに過ぎません。会社が儲かれば株が上がり、儲からなかったり、損をしたりすれば株は下がるのです。当たり前のことかもしれませんが、方向性をつかむことが大切なのです。
EPSの水準は毎回変わりますし、PERも振れがありますが、EPSが減って行く方向にあるのか、底をつけて増えてきているのかを見ることで先読みができるのです。その見方からすると、この先はやや明るいと見て良いと思います。8月までに1万8000円をワンタッチするか、先月の高値1万7600円あたりを付けると予想しています。
講師紹介
ビジネス・ブレークスルー大学
資産形成力養成講座 講師
SBI証券 投資調査部
シニアマーケットアナリスト
藤本 誠之
5月17日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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日産・三菱買収劇に見る投資戦略(大前研一)
http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/backnumber/20160525-2/
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