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クリスピー・クリーム・ドーナツの店舗(「Wikipedia」より/Kici)
クリスピードーナツ、なぜ客離れで閉店の嵐?甘すぎ&割高感が浸透した戦略の失敗?
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15173.html
2016.05.21 解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio Business Journal
「日本企業には優れた技術があるが、マーケティングのノウハウがないために海外企業に負けてしまう」という解説がよく聞かれ、書店にはマーケティングに関する書籍があふれている。また、マーケティングと聞くと華やかな職種というイメージも強く、就職活動中の学生の間にも志望する向きが強いようだ。
前回の本連載で「顧客満足度」について解説したが、企業は顧客だけではなく、当然他社の動向も気にしているはずだ。そこで、今回はマーケティングにおける「競争」について、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に解説してもらった。
■二番煎じでも追いかけないと取り残されてしまう
――競争への対応を怠ると、どのような事態に陥るのでしょうか。
有馬賢治氏(以下、有馬) 他社が魅力的な新製品を売り出すと、当然相対的に自社製品の売上げは下がります。それを挽回するために、企業はその新製品のウリを模倣した製品を自社でも展開して、あとを追おうとしていきます。プラグ・イン・ハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)が新しく登場した際に、類似の車種が国内外の他メーカーからも数多く生まれたという例がわかりやすいですね。
ほかにも、あるジャンルの雑誌が創刊されて話題になれば、似た読者層をターゲットとする雑誌が次々と生まれるのも同じケースです。物的な製品だけでなく、スマートフォン(スマホ)の使用料とPC固定回線の通信料がセット割引になったプランも、現在は三大キャリアともに実施しており、これも同様のあと追い現象といえるでしょう。おそらく売電事業においても今後同様な現象がみられると思います。
――二番煎じでもいいということでしょうか。
有馬 はい。仮に二番煎じさえもしないのであれば、顧客からは「遅れている」とみなされて、これまでに市場で得ていた地位が失墜してしまう可能性もあります。一度落とした評判を回復することは、いいブランドイメージを維持することよりも難しいのです。特に現代は、各マーケットにおける競争が激化の一途をたどっていますから、企業はターゲティングだけでなく、ポジショニングも重視することが求められています。
■クリスピー・クリーム・ドーナツ失墜の原因
――ポジショニングを軽視して失敗した企業や製品の例はありますか。
有馬 アメリカ発のドーナツチェーン店、クリスピー・クリーム・ドーナツが10年前に東京・新宿サザンテラスに日本1号店をオープンした当初は、連日行列ができて話題になりました。その勢いのまま、以降は店舗数を増やして規模を拡大してきましたが、ここにきて閉店が相次ぐなど苦戦を強いられています。この原因をマーケティング的視点で見ると、買い手と売り手で商品に対する認識(ポジショニング)に差異があったと考えられます。
――規模の拡大がよくなかったのでしょうか。
有馬 そうですね。出店当時は、クリスピーの商品は「話題性のある流行スイーツ」というのが買い手の認識でした。ところが、同チェーンは全国的に規模を拡大することで「いつでも買える」という印象を植えつけようとしました。その結果、日本人にとっては甘すぎる味と他社よりも割高な価格帯がネックとなり、競合のミスタードーナツやセブン‐イレブンで売られているドーナツと比較のうえでの魅力を訴求できなくなってしまいました。さらに、「いつでも買える」ためにウリであったプレミア感も失いました。トライアルの消費が一巡した段階で売上げが頭打ちになった現象は、東京チカラめしの衰退に酷似していますね。
――このような本場の味を打ち出した製品に関しては、プレミア感を重視したほうが得策だったようですね。
有馬 現状を見ると、結果的にはそうだったのだと思います。コンビニなどで売られているハーゲンダッツのアイスクリームが長く愛されている前例もありますし、素材や売り方にとことんこだわっていれば、たとえもっと高くても、「自分へのご褒美」として定期的に買う層を取り込めた可能性はあります。ですが、それをせずに割高な価格帯のままアメリカナイズされた味で店舗を拡大し過ぎてしまいました。その結果、既存の消費者が抱いていたプレミアムなイメージを崩してしまったのではないでしょうか。
このようなイメージ戦略の失敗は、ユニクロが価格を値上げした結果、価格帯と既存のブランドイメージとの間にズレが生じた現象の逆のパターンだと解釈できます。消費者が抱く既存のイメージを変えていく場合には、多面的な分析をして相当慎重な決断が必要とされます。市場と競争をフレキシブルに捉えられないと、マーケティングは成功しません。時流を読み違えると、それだけで損失につながってしまうということを、企業は強く意識しないと戦っていけない時代だといえます。
――ありがとうございました。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)
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