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スズキの燃費不正で考える「軽自動車不要論」
http://diamond.jp/articles/-/91561
2016年5月20日 ダイヤモンド・オンライン編集部
三菱自動車の軽自動車の燃費偽装問題に引き続き、今度は軽自動車の雄であるスズキによる燃費の不正測定が表面化した。これら事件は、自動車業界の苛烈な燃費競争という面のほか、軽自動車という“ガラパゴス商品”について、制度面でも技術面でも商業面でも、もはや限界点に達しつつあることを象徴している。(ジャーナリスト 井元康一郎)
■風よけの投資をケチっていたスズキ
開き直りは許されない
鈴木修会長は会見で、風よけを設置するための投資を渋っていたことを明かした Photo:AP/AFLO
5月18日、三菱自動車の相川哲郎社長と中尾龍吾副社長が軽自動車の燃費偽装についての責任を負う形で辞任する、と発表した。この記者会見は、国土交通省への報告書提出に合わせ、あらかじめスケジューリングされていたものだった。その同日午前中、なんと今度はスズキが燃費測定のカギを握る走行抵抗値の計測について不正があり、国交省に報告するという話が飛び込んできた。
スズキは測定を行うテストコースが海沿いにあり、風が吹くために国の規定による測定が困難だったことを理由に上げ、走行抵抗値の意図的な改ざんはなかったとしている。が、法令違反は法令違反。走行抵抗値そのものを露骨に改ざんしたという、軽自動車を除く三菱車と問題は同じだ。
鈴木修会長は会見で、風よけを設置するための投資を渋っていたことを明かした。走行抵抗値の計測を、保有するテストコースの質がそれぞれ違うメーカー各社の自主申告任せにし、何の監督もしていなかった行政の怠慢ぶりは非難されてしかるべきだが、システムがそうなっている以上、より良い値を取るためのテストコース、計測施設づくりも企業間競争だ。どうしても不正が生まれがちな“土壌”があるなかで、その最適な数値を得るための投資をケチりながら、数値的には大差がないと開き直ることは許されないだろう。
■世界商品にはなり得ない
不自然な規格の軽自動車
しかし、グローバルの連結では普通車の比率を増やしているものの国内単独では依然として軽自動車が圧倒多数を占めるスズキが、爪に火を灯すようなやりくりの中で国内の研究施設への投資を渋ったことは、心情的には同情の余地がなくもない。すでによく知られているように、外寸が全長3400×全幅1480mm以下、排気量が660cc以下という軽自動車は、すでに日本市場専用の“ガラパゴス商品”と化している。
鈴木修氏は昨年、「新興国の中には道が狭いところがたくさんあり、そこでは日本の軽のサイズの適合性は高いんじゃないかなと思っている」と語っていた。
その一方で、ライバルメーカーであるダイハツの幹部は、「不自然な規格に収められた軽自動車が世界商品にはなり得ないというのがビジネスを通じて得られた率直な感想。鈴木さんの発言は、大幅に上げられてもおかしくなかった軽乗用車の増税幅を1.5倍にとどめた行政の顔を立てたものではないか」と、軽自動車は基本的に日本でしか行きていけない商品だとの見方を示す。
実際、スズキの軽自動車を見ても、明らかだ。古くから売り続けてきたインドでは一応の商品価値を認めてもらえているものの、世界的な広がりを持てているとはとても言えない状況だ。
■汎用性とコストの制約に加え
軽自動車叩きのキャンペーン
軽自動車は単に外寸や排気量が小さいというだけではなく、エンジンや車体を構成する小さい部品までもがいちいち普通車と異なる。ただでさえ苛烈なコスト低減が求められる低価格帯のクルマが量産効果の見込めない部品を使わざるを得ないのである。
クルマの燃費は、新技術を投入すればするほど上がっていくのだが、軽自動車の場合、汎用性とコストの2つの制約から、なかなか新しい技術を投入することができない。一方で、軽自動車は普通車のコンパクトカーに比べて燃費が取り立てていいわけでもないのに税金が安くてずるいというキャンペーンが度々張られ、立場は悪くなる一方だった。
燃費の向上は自動車全体の課題であるが、軽自動車分野でそれがことさら激烈になった背景には、燃費の良さで存在の正当性を認めさせなければ軽自動車そのものがなくなってしまうというメーカー各社の焦りもあった。
燃費偽装が糾弾されている三菱自にしても、軽自動車以外のモデルについて正規の手法で再計測したところ数値面では大差が出なかったと報じられており、データ改ざんに走ったのは燃費競争が激しかった軽自動車の話なのだ。
■筆者がテストドライブで実感した
燃費競争の無意味さ
筆者は複数の軽自動車を370kmから3200kmテストドライブしてみて、パフォーマンスを試したことがある。そこで感じられたのは、軽自動車メーカー各社の努力の凄まじさと、0.1km/L単位で争う燃費競争の無意味さだった。
実走燃費が最も良かったスズキ「アルト」
イコールコンディションではないが、実走燃費が最も燃費が良かったのは現行スズキ「アルト」。最高気温38度という猛暑の中を、エアコンフル稼働で走らせたのだが、東京と群馬の三国山脈間、山岳路あり渋滞ありの一般道を主体に370kmを走行した後に満タン法で計測したところ、29.5km/Lだった。
平均燃費はJC08モード燃費を大きく超える24.2km/Lだったホンダ「N ONE」
これがトップランナーだが、他のモデルもすごい。2013年にはホンダ「N ONE」のターボモデルで東京〜鹿児島間をやはり一般道主体でツーリングしながら走ったが、瀬戸内は窓ガラスが熱くなるほどの39度、さらに方々でお盆渋滞にハマるという条件ながら、アイドリングストップ未装備だった初期型であるにもかかわらず、平均燃費はJC08モード燃費を大きく超える24.2km/L。
ダイハツ「タントカスタム」のターボモデルは軽自動車でありながら燃費が悪いと揶揄されていた背の高いスーパーハイトワゴンタイプだが、それですら東京〜愛知の800kmツーリングで19.9km/L。
背の高いワゴンタイプだが、東京〜愛知の800kmツーリングで19.9km/Lだったダイハツ「タントカスタム」
面白かったのはホンダ「N BOXスラッシュ」の自然吸気モデル。重量が930kgと軽自動車としては非常に重く、JC08モード燃費も25.8km/Lとライバルに大きく見劣りする数字であるにもかかわらず、タントと同じような気候、高通条件において570kmを24.9km/Lの燃費で走破した。
これらの経験から、軽自動車メーカーはすでにとても良い燃費スコアを叩き出せるだけのハードウェア性能を実現させており、乗り味を悪くしてまで、あるいは三菱自のように走行抵抗値を偽装してまで些細な燃費競争に明け暮れる意味はないという思いを抱いた。
だが、このことをもって、今の軽自動車のありようを手放しで良いとすることはできない。軽自動車は前述のように、排気量が660cc以下に制限されている。ターボ無しのエンジンの場合、瞬間的な粘りを示すトルクの最大値は、最も大きなホンダのエンジンでも6.6kgmで、5kgm台のモデルも結構存在する。
■車両重量に対してエンジンが小さく
効率面では不利になる軽自動車
クルマのエンジンは運転状況によって効率に大差があり、最大トルクに近い領域や高回転では効率がかなり落ち、燃費の悪化に直結するのだが、軽自動車の場合、車両重量に対してエンジンがあまりに小さいため、その効率の悪いところで運転せざるをえない局面が多くなり、結果、効率面では不利になる。
前述のように軽自動車の燃費の絶対値が良いのは、燃費向上のためのメーカーの努力とクルマが絶対的に小さいことの賜物であって、決して660ccという排気量が合理的であるためではない。
■制度・技術・商業面で限界点
輸出モデルではエンジン大型化も
制限速度が低い日本の道路では燃費が良くても、一般道の制限速度が90km/hないし100km/hという国や、山が多くて急勾配だらけという国など、クルマがより大きなパワーを出さざるをえない国に持っていけば、軽自動車は普通のクルマに対して燃費面でむしろビハインドを背負う可能性が高い。
実際、軽自動車の輸出モデルについては日本より大きな排気量のエンジンを積まれるケースも少なくない。要するに、軽自動車はすでに、制度面でも技術面でも商業面でも限界点に達しつつあるのだ。
今回の三菱自の燃費偽装問題やスズキの違法測定問題はもちろんそれぞれの企業単独の行為ではあるが、エコ性能に極度に偏ったクルマ作りやいびつなエコカー減税、また軽自動車など、きしみが発生していたさまざまな面について冷静に考えるきっかけになり得る事象でもある。中でも軽自動車制度については、ここらで抜本的な制度改革に取り組むのは悪いことではない。
公共交通網が衰退し、一家に1台から一人に1台という状態になった地方部における生活基盤の維持を考えると、低負担でクルマを維持できる制度を何らかの形で存続させることは重要なことだ。しかし、それが今の軽自動車でなければならないという理由はどこにもない。
■日本のガラパゴスではなく
グローバルモデルに変貌する可能性もある
やりかたはいろいろある。一例を上げれば、税制を改正して排気量1000cc以下を軽自動車にすることだ。全幅5ナンバー以内、全長3.7m以内といった枠を設けてもいい。そうすれば、軽自動車は日本のガラパゴスではなく、すぐにでも世界のミニカー市場に適合するグローバルモデルに変貌する。
「大きくなったら重くなって燃費も悪くなるのではないかと思われそうだが、軽自動車は限られた寸法の中で衝突安全性を確保しなければならないため、寸法のわりに重い。大きくしたからといって、重さが劇的に変わるわけではないし、燃費が悪くなるわけでもない」
トヨタ自動車の研究開発部門の1人はこう語る。先に今どきの軽自動車の実走燃費が優れている事例について書いたが、コンパクトカーも設計の新しいものは、ハイブリッドカーでなくとも燃費が劇的に良くなっている。
たとえば三菱自「ミラージュ」でロングツーリングした時の燃費は23km/L台であった。トヨタ「パッソ」などエンジン技術がより優れたモデルであれば、もっと上を狙えるだろう。
こうすると、普通車との機能差が小さくなり、普通車と軽自動車の間で不公平感が拡大する可能性もある。その場合、税額を今の軽自動車よりさらに引き上げればいいのである。そのうえで、現在の軽自動車よりさらに低スペックのものを、今の軽自動車より安い税額で乗れるようにすれば、世帯支出は増えず、地方部の足を奪わないですむ。
こうしたシステムの改変は、自動車業界内の勢力構図や税収に関する国の思惑が複雑に絡み合うため、普段はまったく前に進まないものだ。軽自動車制度もご多分にもれず、とっくに曲がり角に来ているにもかかわらず何ら改革を行えないまま、税額だけが1.5倍になって市場は打撃を受けているという有り様だ。今回の燃費偽装のような、行政も重い責任が問われるような大きな事件が起きた時こそ、軽自動車のあり方そのものについて議論を巻き起こすチャンスである。
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