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自動車メーカーはなぜ「不正の誘惑」に負けるのか? 不毛な「カタログ燃費競争」と国交省の「罪」 消費者置き去りの制度的欠陥
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48707
2016年05月20日(金) 井上 久男「ニュースの深層」 現代ビジネス
■不正をしようと思えば、いくらでもできる
「今回の不正はあってはならないこと。仕組み(自己認証制度)の根幹を揺るがす不正だが、再発防止のためにも仕組み自体を見直す必要がある。そのため、国土交通省でもタスクフォースのチームができている」
日本自動車工業会の西川廣人会長(日産自動車代表取締役CCO<チーフコンペティティブオフィサー>)は19日、就任会見でこう語った。「今回の不正」とは、相次いで発覚した三菱自動車やスズキの燃費データ不正測定問題のことだ。
西川氏も指摘するように、今回のような不正が起こった背景には、制度の欠陥がある。加えて、過剰な「カタログ燃費競争」も不正を誘発した。業界内には「制度の不備を分かっていながら見過ごしてきた国土交通省の責任も重い」といった声も出ている。
まず、自動車の自己認証の制度について簡単に説明しよう。
自動車メーカーが新車を生産・発売する場合、型式指定が必要となる。それを取得するためには、メーカーが提出したサンプルの車について保安基準などを国が審査して型式指定後、それを得たメーカーが自社で保安基準などを改めて確認し、完成検査終了証を発行する仕組みだ。この制度によって、工場から出荷する新車は車検を受けたものと見なされる。
国の審査は、国土交通省の外郭団体である自動車技術総合機構が屋内試験場にある「シャシーダイナモ」と呼ばれるローラ上の機械で行う。安全や環境性能が確認されるが、燃費や排ガスもここで確認された値が販売時のカタログに記入される。
実際の路上を走る場合には、空気抵抗などがかかるため、シャシーダイナモにメーカーが予め計測した走行抵抗値などのデータを入力して、試験が行われる。
今回の三菱自動車の不正は二つだ。一つは抵抗値の計測方法が道路車両運送法に定められたもの以外で行ったことと、もう一つは複数の計測データの平均値を取るべきところを、燃費が良くなるように小さい値を意図的に選んだことだ。
この仕組みは、メーカーが計測したデータに不正がないという「性善説」の上に成り立つものである。利点は行政手続きの簡素化である。型式審査は変更分も含めると年間に約4000件ある。メーカーの申請数値を一つひとつ確認していたら、行政の肥大化にもつながりかねないからだ。
ただ、不正しようと思えばいくらでもできる仕組みでもある。
■「不正の誘惑にかられる制度」
実態について、筆者が自動車メーカーの現役エンジニアやOBを取材すると、概ね次のような回答が返ってきた。
「許されることではないが、不正の誘惑にかられる制度。うちもかつては不正をやっていたと見られるが、今は絶対にやっていない。国土交通省は不正に薄々気づいていたはずだが、見て見ぬふりをしていた」
自動車開発の中枢に関わる関係者によると、「試験データをよくするため、テスト用の車の鋼板を薄くしたり、試験用車だけピストンの設計を変えて摩擦を少なくしたりしていた」という。市販では得られない特殊な燃料を使ったり、試験車両だけエンジンの制御システムのソフトウエアを書き換えたりすることもあるそうだ。
また、不正の業界用語も残っており、市販車では絶対に装着しない、摩擦抵抗が少ない試験用の特殊なタイヤのことを「チャンピオンタイヤ」と呼ぶそうだ。
こうした実態から見て、「三菱自動車の燃費データ不正問題は氷山の一角」と指摘する関係者もいるほどだ。要は、どこのメーカーも「たたけば埃が出てくる」ということだろう。
■プリウスのカタログ燃費は日米で18キロも違う!
日本ではカタログ燃費を過度に競う風潮も不正を誘発しているのではないか。例えば、エコカーを代表するトヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」のカタログ燃費はガソリン1リットル当たり40・8キロで、これが日本では最高だ。ところが米国では「プリウス」のカタログ燃費は22・8キロと表記される。
その理由は、日本のように机上の空論的試験データで得られた数値をカタログに記入することが認められていないからだ。高速走行したケースなど実走行に近いデータを勘案してカタログに通知が記入される。その方が消費者には親切だ。
日本メーカーは「プリウス」の日本版カタログ燃費がターゲットの一つにされ、各社は開発競争で凌ぎを削り、経営者から開発陣に圧力がかかる。
一方で、トヨタのように研究開発費が1兆円を超えて資金が潤沢なメーカーばかりではない。あってはならないことだが、研究開発費のない会社がカタログ燃費競争に参加したら、簡単に不正に手を染めてしまうのも心情的には理解できる。
■自動ブレーキでも過剰な競争が
ホンダが大規模リコールを起こし、伊東孝紳社長が退任に追い込まれた一因も、トヨタのハイブリッド車のカタログ燃費を意識すぎる余り、無理な開発スケジュールを技術陣に強いたことで品質管理が疎かになったからだ。
カタログ燃費競争は、消費者目線が欠けている面も否めない。
日本自動車工業会もカタログ燃費と実燃費に20〜30%の大きな乖離があり、それが消費者にとって問題であることを認め、会報誌「JAMAGAZINE」(2013年6月号)で「乗用車の燃費特集」をしている。
この中で、国交省が審査して出したカタログ燃費以外を営業目的で用いることは「景品表示法」に基づく「自動車産業における表示に関する公正競争規約」に違反する、と説明している。景品表示法は消費者庁の主管だ。消費者行政にも課題があると言えよう。
こうした不正の誘惑にかられる制度である以上、国土交通省は市販車の抜き打ちテストなどによって事後チェックを強化すべきだが、行われていない。だから、今回の不正の責任の一部は国土交通省にもある。
断っておくが、これは不正をしたメーカーを擁護しているわけではない。制度に不備があっても不正をしてはいけないのは当然のことだ。
不毛な燃費開発競争だけではなく、現在は自動ブレーキでも過剰な競争が展開されているそうだ。これも国土交通省の外郭団体で認定する試験でカタログ上の性能が競い合われている。
「メーカーによっては『テストスペシャル』と呼ばれる試験時だけに自動ブレーキがよく機能するソフトを搭載しているところもある」と、あるメーカーのエンジニアは打ち明ける。
これは独フォルクスワーゲンが試験時だけに排ガスを抑制するソフトウエア(ディフィートデバイス)を搭載した発想と同じだ。
これでは、自動ブレーキは事故を減らして消費者の安全を守るという本分が忘れ去られ、メーカーや技術者の自己満足のために開発が行われているように見える。
今後、自動車産業では人工知能(AI)の力を借りた自動運転の開発競争が激化するだろう。AIは人間の頭脳を超える能力を持つ面もあるので、安全面で車の性能は向上するだろう。一方で人間がAIを制御できなくなる事態もあり得る。
開発陣にはより一層の倫理観が求められる時代が来ている。
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