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トヨタ社長が語った「円高を生き残る術」の覚悟
http://diamond.jp/articles/-/91160
2016年5月17日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■営業利益が40%減となる
トヨタの2017年3月期決算予想
5月11日、トヨタ自動車の豊田章男社長は、2016年3月期の決算発表を行った。発表によると、同期の営業利益は2兆8000億円を超え予想通り過去最高の収益となった。
しかし、問題は2017年3月期の業績予想だ。来年3月期には、営業利益が前年比で40%以上も減少するという。それは市場関係者の予想をはるかに下回るものであり、一部のアナリストなどの間では大きな衝撃が走る結果となった。
大幅減益の背景には、足元の為替市場で円高が進んでいることがある。同社は社内想定レートを1ドル=105円に設定するなど、かなり円高を警戒する姿勢を示している。一部の専門家から、「同社のスタンスは相当に慎重で、今後、ある程度の余裕含み」との評価もある。
ただ、豊田社長の「今年に入って大きく潮目が変わった」との警鐘は、わが国の企業経営者の中にも同様の感覚を持つ人は多いだろう。
確かに、2011年11月以降続いてきた円安は足元で一服しており、これから円高が進展するようだと、多くのわが国企業にとって経営環境が悪化することは避けられない。問題は、わが国企業が円高の逆風にどれだけ耐えることができるかだ。
「円安の追い風がやんだことで自分たちの等身大の姿が見えてくる」との豊田社長の発言は、これまで円高に苦しんだ経営者としての覚悟が読み取れる。
同社としても、これからの競合他社との熾烈な競争の中でいかに生き残るか、術を問われると見ているのだろう。逆に言えば、そうした認識にはそれなりの頼もしさを感じる。
■「潮目が変わった」
経営に重大な為替変動
トヨタ自動車の2016年3月期(2015年4月〜2016年3月)決算は、営業利益が2兆8539億円(前期比+3.8%)、純利益は2兆3126億円(前期比+6.4%)と過去最高を更新した。今回の好調な業績の背景には、生産活動の効率化などによるコストカットに加えて、為替レートが円安に振れたことが大きな追い風となった。
問題は2017年3月期の業績予想だ。同社の発表によると、同期の予想は営業利益が1兆7000億円(2016年3月期比▲40%)、純利益が1兆5000億円(同▲35%)と公表された。この水準はアナリストらが予想する、約2兆7000億円営業利益を大きく下回る。
同社の慎重な業績見通しに関して、最も重要な要因は為替レートの変化だ。それが豊田社長の言う“潮目の変化”なのである。トヨタの決算資料によると、ドル・円レートの水準が前期の120円から105円に切り下げられ、ユーロ・円レートも133円から120円に修正された。
同社の見立ての円高がどれほど業績を圧迫するかを見ると、2016年3月期実績と2017年3月期予想の営業利益との差額(▲1兆1539億円)のうち、9350億円が為替レートの変動である。
その差額の大半を米ドルの下落(ドル安円高)が占めている。この額は原価改善の努力(+3400億円)の2.75倍程度に相当する。為替レートの変動は、企業の自助努力を打ち消して余りあるマグニチュードを持っている。こうしてみると、為替変動が企業経営にとって重大な影響を与えるかがよく分る。
豊田社長は本年の春闘の際にも、「経営の潮目が変わった」と慎重姿勢を示した。わが国の稼ぎ頭の企業トップが“潮目の変化”を感じていることは、内外の経済環境が転換期を迎えていることと考えるべきだろう。
■過去の教訓から学ぶ
円高の脅威
トヨタの業績予想を見ても、為替レートの変動は企業経営にとって計り知れないほどの影響がある。自動車や家電などわが国の主力企業は、1970年代初頭から筆舌に尽くしがたいほど円高に苦しめられてきた。
1971年夏、米国の当時のニクソン大統領が突然、ドルと金の交換停止を宣言し、主要通貨の固定相場の制度=ブレトン・ウッズ体制が終焉した。当時、わが国の円は対ドルで360円の固定相場であった。
ところがニクソンショックをきかっけにドル売り・円買いが殺到し、わが国の政策当局は固定相場の維持を断念、事実上の変動相場制に移行した。その後も、為替市場は不安定な動向を示し、1971年12月、主要10ヵ国の蔵相が、ワシントンのスミソニアン博物館に集まり固定相場制への復帰が決められた。ただし、ドル・円のレートは、360円から16.88%切り上げられ308円となった。
しかし、ドル切り下げによる固定相場への復帰で為替市場の動向は収まらなかった。結果として、73年1月には、それぞれの為替レートが自由に変動する、完全変動相場制への移行を余儀なくされた。
その後、今日に至るまで基本的に円は強含みの傾向を続け、2011年には対ドルで75円台の史上最高値まで円高が上昇することになった。足元のドル・円のレートが108円台(5月12日現在)であることを考えると、過去約50年の間に、円は対ドルで70%も上昇したことになる。
自国通貨が強含みになることは、輸入部門にとっては大きなメリットになる。しかし、輸出部門の企業などにとっては重大な逆風となる。わが国経済の中心が家電や自動車など輸出分野だったことを考えると、これまで多くの企業が円高に苦しめられてきた。
特に、2011年に円の最高値を付けた当時を思い返すと、国内経済の低迷に加えて、円高による輸出の採算悪化等は、わが国の主力企業に重大な悪影響をもたらしたことは記憶に新しい。
■過去の例をみても
長くは続かないドル高・円安
2011年秋に円の最高値を付けて以降、ドルは米国経済の回復に呼応して徐々に強含みに転換した。そうしたドル高・円安傾向を加速したのが、アベノミクスの一環として積極的な金融緩和措置を繰り出した日銀の政策だった。
その結果、2015年まで円安傾向が続き、それがトヨタを始めわが国有力企業の収益状況を大きく改善させた。豊田社長が、「円安の追い風参考記録」と称した現象だった。
しかし、過去の例を見ても、ドル高・円安は長く続くことはない。73年1月の完全変動相場制への移行以後、長くても4年以上、ドル高・円安が続いたケースはほとんどない。今回も、2015年秋口以降、円安傾向に微妙な変化が見られ始めた。
そうした為替の変動は、豊田社長ならずとも頭の中にはあったはずだ。その為、多くの企業経営者は、恐らく、「ドル高・円安の潮目の変化という、来るものが来た」という意識を持っているはずだ。
■円高が進行したら
企業はいかにして生き残るか
問題は、仮にこれから円高が進んだ時、わが国企業がいかにして生き残っていくかだ。かつて、大幅な円高の波が来たことで経営が困窮した経験を踏まえて、多くの企業はそれぞれの対策を考えているはずだ。
世界市場を目指す企業は、恐らく、生産拠点に一部あるいは多くを海外に移転していると見られる。それらの企業は、海外で生産した製品を海外市場で販売するビジネスモデルがある。為替変動の影響を大きく受けることは少ないだろう。
また、他の企業の中には、外貨の債権・債務のマッチングや相殺=ネッティングを拡充しているところも多いはずだ。そうした工夫によって、わが国企業は身を守る手段として為替変動に対する耐性を高めている。
そうした防衛型の工夫に加えて、企業にとってさらに必要なことは製品の競争力を高めることだ。その為には、新しい製品や技術などのイノベーションを実現することだ。そうしたイノベーションを現実化することで、仮に為替が変動しても、高い競争力を盾に収益力を維持することはできるはずだ。
今回のトヨタの決算発表の席で豊田社長は、これまで以上に研究開発に注力し、従来の自動車の枠を超えるような新技術の開発に注力することを明言した。それこそが、為替変動のハードルを乗り越える究極の方法と言える。
わが国の多くの企業は、2011年の1ドル=75円台の超円高局面を乗り越えてきた。それを考えると、今後、さらに円高が進んだとしても、そのハードルを乗り越える手法は必ずあるはずだ。
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