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船に降り立ったファルコン9ロケット Photo by SpaceX
イーロン・マスクのロケットがまた快挙、過去最高難易度での着地に成功
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160516-00094392-hbolz-bus_all
HARBOR BUSINESS Online 5月16日(月)16時21分配信
◆船上着地&回収に成功!
起業家イーロン・マスク氏の宇宙企業「スペースX」が、また快挙を成し遂げた。
5月6日、米国フロリダ州から離昇したスペースXの「ファルコン9」ロケットは、衛星の打ち上げに成功すると共に、役目を終えて切り離された第1段機体を、大西洋上に浮かべた船の上に着地させ、回収することにも成功したのだ。
本サイトでもたびたびお伝えしているように、スペースXはロケットを何度も繰り返し使用することでコスト削減を狙った、「再使用ロケット」の実現に向けた挑戦を続けている。同社によると、再使用によって打ち上げコストは従来の100分の1ほど、つまり1機あたり1億円弱で打ち上げられるようになるといわれており、実現すれば宇宙利用は格段に広がることになる。
同社は何度も失敗を重ねつつも粘り強く試験を続け、ロケットの回収に成功したのは今回で3回目、また洋上の船での回収に成功したのは2回目となった。さらに今回は、同社が事前に「今回は成功しないだろう」と予測するほど、従来と比べ非常に難しい飛行からの着地成功だった。
3回目の着地とあって、メディアでの扱いは小さかったが、むしろ今回の着地成功こそ、ロケットの再使用化とそれによるコスト削減に大きく役立つ、イーロン・マスク氏とスペースXにとって心待ちにしていた成果なのである。
◆これまでより難しい形式での回収
現在運用されているすべてのロケットは、基本的に第1段、第2段……と機体が複数に分かれており、まず第1段で加速し、燃料を使い切ると第2段と分離。第2段はそれまで第1段が稼いできた速度と高度を受け継いでさらに加速し、一方の第1段はそのまま地球に落下し、地上や海上に落として処分するという飛び方をしている。
ファルコン9ロケットの回収方法は、これまで落として捨てていた第1段機体を、うまく制御して、地上や海上の船に降ろすというものである。
ただ、一口にロケットが落ちてくるといっても、どういう衛星を、どういう軌道に向けて打ち上げるかによって、その落ち方は変わってくる。
これまでに成功している2回の着地では、(もちろんそれ自体は難しい技術ではあるものの)比較的軽い衛星を地球に近い軌道に向けて打ち上げた。そのため、ロケットの速度はそれほど高くなく、また着地するのに必要な十分な余裕を残すことができ、ロケットは降下する速度やコースを十分に制御しながら着地することができたのである。
しかし、こうした着地しやすい条件になる打ち上げの機会はあまり多くない。打ち上げの需要のうち、少なくとも半分以上は、より重い衛星を、より遠くまで飛ばすような打ち上げ、つまりロケットの速度が高く、残燃料の余裕も少なくなる条件の厳しいものが占めている。速度が高いと制御は難しくなり、また使える燃料も少ないため、余裕をもって速度を落とすこともできない。たとえるなら、低速走行からブレーキをやんわり踏みながら停止線にぴたりと止まるのと、高速走行から停止線直前でブレーキを一気に踏み込んで止まるぐらいの違いがある。
ただ、逆に言えば、この余裕が少ない中でも確実に回収することができれば、それだけ回収できる頻度が上がり、ロケットを再使用できる回数が増え、打ち上げ毎のコストダウンにつながる。スペースXが目指す打ち上げコスト100分の1の実現のためには、この回収頻度を上げることが大きな意味を持つのである。
◆船上着陸成功への課題
ファルコン9にとって、この余裕が少ない中での着地は今回が2回目だった。1回目は今年3月5日に実施されたが、やはり余裕が少ないために降下する機体を十分に制御、減速しきれず、船の甲板にたたきつけられ、大きく破損した。
ファルコン9の着地方法をもう少し詳しく書くと、分離後の第1段はまず、地上との水平速度を落とし、場合によっては地上へ向けてUターンするため、進行方向とは逆方向にエンジンを噴射する。次に大気圏に再突入する際の速度と、それによる過熱を抑えるために噴射。そして最終的に地上や海上の船に軟着地するための噴射を行い、着地する。
このうち再突入時の噴射を省くと機体が高熱にさらされてしまい、また着地時の噴射を省くと地上に叩きつけられるため、余裕が少ない場合に省かれるのは水平速度を落とすための噴射である。しかし、これを省くと機体を分離したときにもっているエネルギーを保ったまま、大気圏に再突入し、地上へ突っ込んでくることになり、機体は通常より高温、そして高速になる。その状態の機体を、海上の船に目がけて自動操縦で制御し、なおかつ船の甲板に軟着地させるのは並大抵のことではない。
◆広がる回収頻度増加への期待
2回目となる今回も、スペースXやイーロン・マスク氏は、事前に「成功は望めない」や「成功する確率は五分五分だ」と述べるなど、否定的な見方をしていた。ただその一方で、通常であれば着地時の噴射を1基のエンジンで行うところを、今回は3基のエンジンで行い、まさにブレーキを思い切り踏み込むように、一気に速度を落として着地するという新しい方法が試された。
結果、これが功を奏したのか、ロケットは見事に船の甲板の真ん中へと舞い降り、着地に成功した。
成功後、マスク氏はTwitterで「Woohoo!!」と雄叫びをあげ、さらに「ロケットの格納庫を増築する必要があるかもしれない」と、回収頻度が上がることへの期待を語った。もし今後も今回のような打ち上げでも安定して回収することができるようになれば、ファルコン9にとってはほとんどすべての打ち上げで回収ができるということになるため、マスク氏の喜びは当然のものであった。
◆挑戦を後押しし失敗を許容する米国の宇宙開発
スペースXはまた、今月下旬にタイの通信衛星「タイコム8」の打ち上げを予定しており、さらに今後、2〜3週間おきにファルコン9を打ち上げると共に、回収試験も続けたいという見通しを発表している。また前回、4月に着地に成功した機体は、早ければ6月にも打ち上げに使いたいとも明らかにされており、今後は再使用の試験も始まることになるだろう。
もっとも、ロケットを回収して再使用することで、本当に信頼性(ロケットの成功率)を落とさずに低コスト化が達成できるかどうかは、まだ実証されたわけではない。また今回のような急ブレーキをかける着地方法は、機体に少なくない負荷がかかるはずであり、もしかすると再使用に若干の手間がかかることになるかもしれない。
ただ、そうしたことを学ぶには、何をおいてもとにかく実際にやってみる他ない。また着地の成否が打ち上げの成否に直接かかわるわけではないものの、着地に失敗すれば「着地のために費やしている労力を、打ち上げを成功させるために使うべきだったでは」といった意見は当然出てくる。昨年、スペースXがロケットの打ち上げに失敗したときにもそうした声は少なからず聞こえた。しかし、同社がさまざまなリスクを承知で、そして実際に何度も失敗を重ねながらも、こうした挑戦を続けているのは驚くべきことである。
また、ロケットの発射場を提供している米空軍、ロケットの飛行に関する安全審査を行うFAA、さらにロケットにとってのお客となるNASAなどの機関や衛星運用会社なども、スペースXの挑戦を後押ししている。米国の宇宙開発では、こうした民間による革新的な技術への挑戦を、実際の打ち上げの中で実施できる体制ができあがっている。それも今に始まったことではなく、米国では1980年代の後半ごろからすでにこうした動きがあり、これまでいくつものベンチャーが立ち上がっては消え、生き残った数少ない会社のひとつがスペースXである。
たとえこの先、ファルコン9のような着地・回収と再使用の方法が、技術的に、あるいはコスト的に成立しないことがわかったとしても、こうした挑戦を後押しする米国の宇宙開発の風土は、別の技術、別の方法を産むきっかけとなるだろう。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。
Webサイト: http://kosmograd.info/about/
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【参考】
・JCSAT-14 Mission in Photos | SpaceX(http://www.spacex.com/news/2016/05/05/jcsat-14-mission-photos)
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・http://www.spacex.com/sites/spacex/files/spacex_jcsat_press_kit_final.pdf(※pdf注意)
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・JCSAT-14 MISSION | SpaceX(http://www.spacex.com/webcast)
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・Falcon 9 launches with JCSAT-14 – lands another stage | NASASpaceFlight.com(https://www.nasaspaceflight.com/2016/05/falcon-9-jcsat-14-launch/)
・
・Falcon 9 succeeds in middle-of-the-night launch and landing – Spaceflight Now(http://spaceflightnow.com/2016/05/06/falcon-9-succeeds-in-middle-of-the-night-launch/)
・
ハーバー・ビジネス・オンライン
無人船に着艦する再利用ロケット 着陸成功&失敗映像
スペースX、ロケット洋上着陸に初成功 SpaceX lands rocket on ocean platform for first time
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