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JR東日本が発行するSuicaカード
Suica普及の本当の理由…駅員の業務が急速に消失 機械による人間の代替が加速化
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15084.html
2016.05.15 文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授 Business Journal
本連載では今回から、AI(人工知能)に象徴される技術進歩による仕事の喪失は、これまでの機械化とグローバル化によるそれと根本的に何が違うのかを順次整理してみたい。
まず、1つ目に考えられるのは、スピード=時間感覚の問題であろう。コンピュータ技術を筆頭にした機械の技術進歩のスピードは加速しており、機械による仕事の代替のスピードも速くなってきている。
極端な例ではあるが、高速道路の通行券を配っていた人の定年退職による通行券発券の機械化といった、労働者のライフタイムに則した長い時間をかけての機械による人間の仕事の代替と、現在進行しているコンピュータ技術を駆使したそれとではスピード感が異なる。
時間をかけて代替をするのであれば、そのインパクトと危機感は緩和されるが、変化が激しく予見性が低く、競争が激しくなる現在の経営環境のなかで、経営サイドにとって十分な時間をかけて代替を行う余裕は急速になくなりつつある。産業革命のなかで蒸気機関から電気への移行は極めて緩慢であったといえるが、現在の経営者にこのような緩慢な移行を期待することはできないであろう。
機械による雇用の直接的な代替が話題になる前から、技術進歩の加速化は機械による機械の代替の速度を速めてきた。固定電話から携帯電話(ガラケー)、そしてスマートフォン(スマホ)への移行は加速的である。日本で米アップルのiPhoneが発売されたのは2008年だが、2010年代前半でスマホが市場を塗りかえた感がある。ガラケーの急速な普及が公衆電話の数を急速に減少させ、固定電話もその必要性が大きく減じ、ガラケーもスマホに急速に代替されたわけである。そして、スマホの急速な普及は、電話だけではなく、ノート型PC市場にも大きな影響を与えたといえる。
つまり、擬人化すれば、機械も機械と競争し、敗れれば新しい機械に仕事を奪われているわけである。その代替のスピードは、機能の高度化・複合化も相まって加速化しつつある。
■機械による人間の代替
そして最近では、機械による人間の代替が急速に進んでいる。
この人間にかかわる領域での技術進歩の加速化を象徴するのが、チェス、将棋、囲碁の世界であろう。つい最近、世界屈指のプロ囲碁棋士がAIソフトのアルファ碁に3連敗し、1勝4敗と惨敗したことが話題を呼んだ。将棋の世界でAIソフトが人間のプロ棋士に勝った2013年に、囲碁の世界でそれを実現するには時間がかかるだろうといわれていた。囲碁の局面数は、将棋の10の220乗と比較し、10の360乗と桁違いに多く、かつ駒の役割等がないため、形勢判断が難しいからである。今回も対局寸前まで人間の囲碁棋士が勝つだろうと予想されていた。
局面数が10の120乗のチェスで、世界チャンピオンだったガルリ・カスパロフがIBMのチェス専用スーパーコンピュータであるDeep Blueに敗れたのは1997年。そして将棋の世界でAIソフトにトップレベルのプロ将棋棋士である佐藤慎一四段が敗れたのが2013年である。その間に16年を費やしたが、将棋から囲碁までは3年足らずしかかかっていない。この技術進歩の加速化は、大方の予想をはるかに上回るものであった。
余談であるが、コンピュータ将棋の立役者である公立はこだて未来大学の松原仁教授は2015年10月、「羽生さんとの対局が実現していないのは残念だが、数年後には人間がまったく相手にならなくなるのは確実で、人間との対決を掲げたコンピュータ将棋開発の時代は終わったと考えている」と述べ、コンピュータ将棋の目的は達したという終了宣言を出している。これによって日本の将棋が、コンピュータチェスの優位によって大きく変わったチェスとは異なる道を歩むことになるかは、興味のあるところである。
将棋にせよ囲碁にせよ、ルールのあるゲームの世界の話とはいえ、高度で複雑であると人間が自負していた行為をAIソフトが代替できることを証明したわけである。車の運転も、非定型で定性的かつ複雑な判断を必要とする人間の行為であると思われていたので、自動運転も一昔前までは夢想だったが、ここ数年で急速に現実味を帯びてきている。
想定を超える速さで、AIにはできないと思われていた行為が可能になってきている。この技術進歩の加速化がもたらす予測不可能性が、人間が危機感を募らせる原因のひとつである。
■ユーザーサイド主導の技術進歩の加速化
この技術進歩の加速化を抑えることは、できるのであろうか。歴史を振り返ると、かつては地方自治体に象徴されるように、労働組合が反対するという構図で機械化がなかなか進まなかったということはあったであろう。
鉄道の磁気記憶型切符による改札自動化も、特にJRでは組合の反対もあり、普及には時間がかかったといわれている。しかし、磁気記憶型切符に代わる、関東圏のSuica、Pasmoに代表される非接触型ICカードは急速に普及し、非接触ICカード専用の自動改札の普及も急速であり、現在切符を購入する機会は一気に減少している。
鉄道会社にとって非接触型ICカードのほうが、接触型の切符よりも改札機のメンテナンスコストは安く、多くの鉄道会社の相互乗り入れを前提とするなかで精算業務のコストも大幅に安い。非接触型の料金を接触型より安く設定している点も普及の後押しをしているが、それ以上に大きな要因は、切符購入の手間を省き、電子マネーとしても使える非接触型が利用者にもたらす利便性の飛躍的な向上であろう。
最近、駅の券売機の数は減少しているようで、その主たる機能はカードへのチャージに移行するであろう。今後は、スマホを使ってのインターネット上での自動チャージに移行していくと思われる。いずれにしても、駅における人間が行う改札関連業務は急速になくなってきている。
Suicaなどにみられるように、電子マネーとの機能融合・複合化による利便性の向上によって、ひとつの機能代替えは複合的な機能と利便性を利用者にもたらすので、単機能に従事する労働者は代替えされやすい。最近は駅の売店でもSuica利用のセルフレジが登場している。つまり、変化の加速化は、技術だけではなくユーザーサイド主導の加速化もあることを念頭に置くべきであろう。
■雇用喪失が加速化するという時間的恐怖心
経営サイドが、この流れに抗することは非常に難しい。なぜなら、顧客の利便性向上は企業にとって死活問題なので、生き残るには経営サイドも変化を加速化せざるを得ないからだ。進歩する技術によって顧客のニーズを満たし、顧客の利便性を高めることの背後には、当然ながら既存の雇用の喪失がついて回るわけである。
ここで取り上げた技術革新の加速化であるが、この技術革新がコンピュータ技術に支えられていることを考えると、すぐに加速化が終焉することを期待することは少々楽観的といえるであろう。コンピュータ技術の飛躍的な革新を支えているのは、CPU、ストレージ、ネットワークの飛躍的性能向上を可能にした、「半導体の集積密度は18〜24カ月で倍増する」という「ムーアの法則」である。これは米インテル創設者であるゴードン・ムーア博士が1965年に経験則として提唱した法則で、これを半導体集積度という観点からとらえると、確かに微細化技術はその限界に達しつつあり、2020年代には微細化すればするほど性能が向上するという単純な構図を描きづらい領域に達するであろう。
しかし、半導体の性能は集積回路の密度だけではなく、省電力、チップのパッケージング等を含めた全体で考えるべきだととらえると、集積度の向上という狭義のムーアの法則を堅持することは難しいとしても、利用者の得られる価値の増加という観点では、技術進歩が減速することはないだろう。
つまり、AIを筆頭とする機械による雇用喪失が加速化するという時間的恐怖心が弱まることは、あまり期待できないのではないか。
次回は引き続き、現在進行しているAIに象徴される技術進歩による仕事の喪失の次なる特徴を探ってみたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)
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