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米首都ワシントンで開催された国際通貨基金・世界銀行年次総会の春季会合で演説する中国の楼継偉財政相(2016年4月15日撮影、資料写真)。(c)AFP/Mandel Ngan〔AFPBB News〕
中国の金融システム:迫り来る債務の山の崩落
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46839
2016.5.13 The Economist JBpress
(英エコノミスト誌 2016年5月7日号)
正真正銘のトラブルが中国を襲うのは、可能性の問題ではなく、時間の問題だ。
世界金融危機の後、経済成長率を押し上げるために信用供与の蛇口を開いてお金を借りやすくした中国の判断は正しかった。だがその蛇口を再び閉めなかったのは間違いだった。
中国の債務はここ2年間、2008年の不況に続く2年間に匹敵するハイペースで増えている。国内総生産(GDP)比の債務残高は、この10年間で150%から260%近くに高まっている。この種の増加に続くのは金融の混乱か突然の景気減速であるのが普通だ。
中国がこのパターンの例外になることはないだろう。不良債権はこの2年間で倍増しており、公式統計によればすでに銀行の総貸出残高の5.5%を占めている。実態はもっとひどい。新規債務のざっと5分の2は、既存のローンの利払いに消えている。2014年には、中国最大級の企業1000社の16%で支払利息の方が税引き前利益よりも多くなっていた。
また、中国では融資がもたらす経済成長の大きさがますます小さくなっている。金融危機の前は1人民元を少し上回る貸し出しでGDPを1人民元増やすことができたが、現在では4人民元近い貸し出しが必要なのだ。
政府が見て見ぬふりをしているため、債務はまだしばらく増え続けるだろうし、ことによると、あと数年増え続けるかもしれない。しかし、永遠に増え続けることはない。
債務のサイクルの向きが変われば、資産価格と実体経済がともにショックを受けることになる。誰にとってもうれしくない展開になるだろう。中国が対外債務の抑制に細心の注意を払ってきたのは事実であり(実際、中国は純債権国だ)、この国が抱える危険は国内で作られたものだ。だが、中国で債務が大量に焦げ付くことになれば、そのダメージはやはり莫大なものになる。
何しろ、中国は世界第2位の経済大国だ。銀行セクターは世界最大で、その資産は世界全体のGDPの40%に相当する。株式市場は、急落を昨年経験しながらも総額で6兆ドルの価値があり、米国に次ぐ規模を誇る。債券市場の規模は世界第3位の7兆5000億ドルで、今も急成長を遂げている。
昨年夏には、人民元がほんの2%切り下げられただけで世界各地の株式市場が急落した。債務が大量に焦げ付けば、その悪影響ははるかに大きなものになる。また、中国経済の小幅な減速は世界中のコモディティー(商品)輸出業者にトラブルを引き起こした。ハードランディングになってしまった場合、中国の需要から恩恵を受けている人々は全員痛みを覚えることになるだろう。
■有事に備えよ
楽観論者は2つの見方から安心感を得てきた。第1の見方は、中国の政府当局者は過去30年あまりの改革の時代に、ひとたび問題点を見つけたらそれを修正する意思と技能があることを常に示してきたというもの。第2の見方は、政府は金融システムを支配している――大手銀行と最大級の債務者のほとんどは国有企業だ――から問題を片付ける時間がある、というものだ。
この安心感の源泉はどちらも衰えつつある。まず、政府は事態を掌握しているというよりは、事態の進行についていくだけで精いっぱいだ。この1年だけを振り返ってみても、中国は株価の下支えに2000億ドル近い資金を使った。そしてその間に650億ドルの銀行貸し出しが不良債権になり、金融詐欺による投資家の被害額が少なくとも200億ドルに達し、6000億ドルの資本が外国に逃げていった。政府当局者は、経済成長率を持ち上げるために不動産バブルを膨らませており、債務はいまだに経済成長率の2倍のペースで増えている。
それと同時に、本誌(英エコノミスト)の今週号の特集が報じているように、政府による金融セクターの支配は緩みつつある。抑制の取り組みが繰り返されているにもかかわらず、規制の緩いタイプの貸し出しが急拡大している。このような「シャドー・アセット(影の資産)」は過去3年間、年率30%を上回るペースで膨張している。
理屈の上では、シャドー・バンク(影の銀行)には資金の調達源を多様化させ、正規の銀行に集中するリスクを分散させる効果がある。だが実際のところ、影の銀行システムと正規の銀行システムとの境目は非常にあいまいだ。
このため、2つのリスクが生じている。第1のリスクは、銀行の損失が想定以上に膨らむリスクだ。景気が減速する中で利益を追い求めた多くの銀行は、リスクの大きな貸し出しを投資だと偽り、当局のチェックを逃れたり自己資本を積み増す負担を少なくしたりしてきた。こうしたシャドー・ローン(影の貸し出し)の残高は、2012年には普通の貸し出しの4%相当額にすぎなかったが、2015年半ばにはざっと16%相当額に膨れ上がっていた。
第2のリスクは流動性だ。銀行はますます「理財商品」に頼るようになっている。事実上の短期預金になっているこの商品に預金よりも高い金利を払っており、預かった資金を長期の資産に投じている。中国政府は長年、銀行の貸出額を預金残高の75%未満に制限し、多額の現金を準備させていた。ところが今日ではその比率が100%に近づいているのが実情で、どこかの銀行が突然資金不足に陥る――銀行危機の典型的な前触れだ――ことが十分あり得る話になっている。最も活発に事業を拡張してきたのは中規模の銀行だ。つまり突然トラブルが生じる場所を探すなら、そこだということだ。
■中国版の債務危機とは
中国の債務の増加が終わりを迎えても、過去に見られた崩壊の過程がそっくりそのまま繰り返されることにはならないだろう。確かに中国の影の銀行システムは巨大だが、2008年の世界金融危機の前に米国で見られた、サブプライム住宅ローンを束ねた金融商品のように複雑で国際的な商品は生み出していない。
ほかの国々から比較的切り離されている金融システムは、1997〜98年のアジア金融危機(タイから韓国に至る複数の国々が外国から資金を借りすぎたことによる危機)との類似性が乏しいことを意味している。
1990年代の日本のようにゆっくり落ち込んでいくことを恐れる向きもあるが、中国の金融システムは当時の日本のそれよりも混沌としており、資本逃避の圧力も強い。恐らく、中国の危機は日本のような慢性的な不調ではなく、鋭くかつ急激な痛みになるだろう。
確実なことが1つある。それは、中国が問題の清算を遅らせれば遅らせるほど、最終的な結果は過酷なものになるということだ。
中国はまず、混乱に備えた計画を立てるべきだ。昨年の株価急落時の政策調整は、ぞっとするほどお粗末だった。規制当局は誰が何を監視しているかをあらかじめ把握し、緊急時の対応に備えておかねばならない。
政府はGDP成長率の公式目標(今年は少なくとも6.5%だとされているが、これはどう見ても不必要に高い)を上回るために財政政策と金融政策の両方をここで動員するのではなく、本当に困ったときのために余力を残しておくべきだ。中央銀行も、人民元の国際化計画をいったん棚上げすべきだろう。金融システムがすでにぐらついているときだけに、資本勘定の時期尚早な自由化は多額の資本流出とより大きなトラブルに至るだけだ。
とりわけ重要なのは、中国がとめどない債務膨張の抑制に乗り出すことだ。今日では、中国国内だけでなく外国においても、習近平氏の率いる政府が銀行も借り手も預金者も救済し続けるだろうという憶測が広がっている。だが、中国政府はデフォルト(債務不履行)の増加を容認し、失敗した企業は閉鎖し、経済成長が鈍化するならそのまま鈍化させてやらねばならない。厳しい事態になるだろうが、ここまで来たらもう痛みは避けられない。中国が今やるべきこと、それはもっとひどい事態になるのを防ぐことなのだ。
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