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日銀がもっとアグレッシブな「追加緩和」をしなければならない意外な理由 問題の本丸は企業の予想インフレ率だ
http://www.asyura2.com/16/hasan108/msg/512.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 5 月 12 日 08:14:05: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

           GW前の決定会合で「ゼロ回答」を発表した日銀・黒田総裁〔PHOTO〕gettyimages


日銀がもっとアグレッシブな「追加緩和」をしなければならない意外な理由 問題の本丸は企業の予想インフレ率だ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48635
2016年05月12日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス


■6月の追加緩和を織り込んだ動き


4月27,28日の日銀の金融政策決定会合では、3月に続き、追加緩和が見送られた。そして、前回のコラムで指摘したように、今回の「ゼロ回答」は、マーケットに失望をもたらし、ゴールデンウィーク中に大幅な円高・株安が進行した。


ドル円レートは、一時、1ドル=105円台まで上昇し、シカゴの日経平均先物も1万6000円を割り込む場面もあった。


だが、マーケットは面白いもので、その後は大崩れすることもなく、ドル円で106円、日経平均で1万6000円という水準で持ちこたえた後、反転上昇を見せている。


1月末の「マイナス金利政策」導入後のマーケットの動きを見ると、2月に大幅に円高・株安になった後、3月、4月と金融政策決定会合が開催される月が始まると、円安・株高がじりじりと進行する展開であった。


そして、3月、4月ともに追加緩和が見送られると、マーケットは失望して再び円高・株安となり、5月に入ると、再び円安・株高に戻すという展開になっている。結局、マーケットの動きは俗にいう「行って来い」に過ぎなかった。


マーケットがこのような動きを見せる理由の一つとしては、次の決定会合では確実に追加緩和が実施されるだろうという見方が早くも台頭しつつあることが指摘される。


次回の金融政策決定会合は6月だが、安倍首相は5月に開催されるサミットの後、消費税率の再引き上げの見送りや大型補正予算の策定を決めるのではないかといわれている。そして、もし、それらが実現すれば、政府の財政政策に追随する形で、日銀が追加緩和を行うだろうという見方である。


実際の追加緩和が実施されるタイミングが次回の6月の金融政策決定会合であったとしても、マーケットはその可能性をサミット後に織り込みに行くと想定されるため、なるべく早いタイミングで円安・株高に備えたポジションを作ろうとしている投資家がいてもおかしくはない。


一方で、今回、追加緩和を見送ったことで、「日銀のリフレーション政策はやはり限界を迎えた」と考えている人もいるかもしれない。ただ、そのような人が多数を占める場合でも、必ずしもマーケットは一方的な円高・株安になるとは限らない。


■追加緩和が必要な局面は今後も続く


筆者は、前回の当コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48560)で、「このタイミングで、追加緩和を見送るか、不十分な追加緩和で終われば、海外投資家にとって、追随者が生まれやすい『わかりやすいシナリオ』として、再び、『円買い・日本株売り』ストーリーが浮上してくる懸念がある」とマーケットの先行きに懸念を示した。

だが、よく考えてみると、大多数のマーケット参加者がこの「わかりやすいシナリオ」を共有した時点で、このシナリオの情報価値は、為替レートや株価に織り込まれてしまった可能性もある。つまり、マーケットは「効率的」である点を意識すべきであった。


筆者は、金融政策決定会合終了後の28日夜、某セミナーで追加緩和見送りに向けたマーケットの見通し等を話す機会を頂いた。そこでは、参加者の多くがマーケットの先行きに対してあまりに悲観的、かつ、日銀に対して批判的なスタンスであったので、必ずしもそう悲観になる必要はなく、案外ゴールデンウィーク明けに反発する可能性もあるのではないかと指摘しておいた。


日銀が、今回の決定会合において、このようなマーケットの動きを事前に想定して、敢えて追加緩和を見送ったのかどうかはわからない。ただ、事後的に見る限り、追加緩和の見送りでマーケットが壊れなかったことから、今回の日銀の決定をそれほど批判的に見る必要もないのかもしれない。


このような見方をすると、「マーケットの短期的な動きだけを見て金融政策を評価するのは不適切ではないか」というお叱りを受けるかもしれない。誤解を受けるかもしれないので明確にしておくが、筆者は、マーケットの動きとは別の観点から、追加緩和が必要な局面は依然として続くと考える。


5月6日、ブルームバーグに、ナラヤナ・コチャラコタ前ミネアポリス連銀総裁が興味深いコラムを掲載した。このコラムでは、「2%のインフレ目標」をなかなか達成できないでいる日銀に対し、短期的にさらに「野心的な(例えば4%程度の)インフレ目標」を導入した上で、現行よりさらにアグレッシブな金融緩和政策を実施するよう提案した。


このコラムの存在は、すでに何人かの論者によって指摘されているが、コチャラコタ氏がこのコラムを執筆するにあたって大きな影響を受け、そして引用した論文についてはほとんど触れられていないように思われる。


その論文とは、シカゴ大学ブースビジネススクールのキンダ・ハシェム教授とジン・シンシア・ウー教授の共同論文「Inflation Announcement and Social Dynamics」である。


■企業は「予想インフレ率」をどうやって決めるのか


この論文を読んだ際に強く印象に残ったのは、彼らが、予想インフレ率を企業の販売価格の決定メカニズムと関連づけ、企業行動の側面から金融政策を論じている点である。


「インフレ目標」の議論では、消費者物価上昇率が話題となるためか、企業の価格設定行動は軽視されがちである。だが、この論文では、企業がどのように自社の製品・サービスの販売価格を設定するかが、企業の利潤最大化行動から理論的に導かれている。


簡単にいえば、こういうことだ。


(1)企業は、将来のインフレ率を予想し、その予想インフレ率と大きく乖離しない範囲で自社の販売価格を設定し、利潤が最大になるように設備投資や雇用の計画を立てる(予想インフレ率とあまりにも乖離が大きい価格設定をした場合には、それが高すぎる場合は売上が伸びない。一方、それが安すぎる場合にはマージンが低すぎるため利益が出ない)。


つまり、企業による予想インフレ率の設定は、設備投資や雇用の動向に大きな影響を与えることが明示されている。


(2)企業が将来のインフレ率を予想する方法として、@ランダムに設定する場合(インフレ予想の平均値は、直近の実現値に等しくなる)とA金融政策の動向をみながら予想する場合の2つの方法を仮定する(後者は、中央銀行による「インフレ目標」とその達成に向けた実際の行動を観察しながらインフレ予想を行うことを意味する)。


すなわち、企業の予想インフレ率の設定方法が「同一(Homogeneous)」ではない点が従来のマクロ経済学の論文とは異なる点である(と本人たちもアピールしている)。


企業がどちらの方法を用いて予想インフレ率を設定するかは、中央銀行の金融政策に大きく依存している。中央銀行が「インフレ目標」に強くコミットし、実際のインフレ率が目標値に近づいていけば、中央銀行の行動(金融政策)を見ながらインフレ予想を立てるというAの方法を採用する企業が増えていく。


一方、「インフレ目標」が信用されていなければ、多くの企業は「ランダム」にインフレ予想を行うという@の方法を採用する。そして現在の日本を想定した場合、「ランダム」な予想インフレ率の設定では、「インフレ目標」よりも低いインフレ率しか実現できないことを意味する。


ところで、中央銀行にとって最も理想的なのは、すべての企業が金融政策を見ながら予想インフレ率を設定する状況である。だが、問題は、その「理想的なケース」が実現しなければ中央銀行の「インフレ目標」は達成できない点だ。


そして、企業が予想インフレ率の設定ルールを@からAに変えるのは、実際のインフレ率の上昇を横目で見ながら(すなわち、自社の周辺でAのルールに変更する企業が増えるのを確認してから自社もAのルールに変更する)なので、金融政策がうまくいったとしてもかなりの時間を要することになる(論文では、これが数値シミュレーションで示されている)。


そこで、ハシェム・ウー両教授が提案するのが、長期安定的なインフレ目標(日本をはじめとして多くの先進国では2%)よりも高めの「短期的なインフレ誘導目標(例えば4%)」の設定である。


前述のように、すべての企業がAのルールを採用しない限り、インフレ目標は実現しないため、それを短期的に高めの誘導目標に置き換えたとしても実際のインフレ率が急騰するリスクは小さい。そして、目標達成までの時間軸に応じて、緩和政策を逐次的に追加していけばよい。


以上が、コチャラコタ氏のコラムの「元ネタ」であると思われるハシェム・ウー論文の簡単な内容である。


■何よりも「デフレ解消」が先決


そこで筆者は、日銀短観の「販売価格判断DI」の構成比データをもとに「カールソン・パーキン法」という統計的な手法(「物価が上がる・下がる」といったサーベイデータ等の定性データを定量データ(具体的な予想インフレ率の数値)に換算する方法)を用いて企業の予想インフレ率を推計してみた。



これを見ると、消費税率の引き上げがあった2014年4-6月期をピークに低下基調を強めている。これは、企業が将来のインフレ率を予想する際に、現行の日銀の「インフレ目標」の実現性に疑いを持ち始めている可能性を示唆している。


図表1では、企業の「フリーキャッシュフロー」を同時にプロットしているが、「フリーキャッシュフロー」は概ね、予想インフレ率に遅行して動いている。


企業が稼いだ利益を賃金という形で労働者に分配せず、また、将来の成長のための設備投資に回さずに、負債の返済や内部留保の蓄積に回すといった「消極姿勢」がこのフリーキャッシュフローの増加に現れているとすれば、それを是正する近道はやはり「デフレ解消」であるのではなかろうか。


その意味で、安倍政権は、コチャラコタ氏らの提案を含めた追加緩和の採用によって、リフレレジームを再構築する必要性に迫られていると考える。
 

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