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ウズベキスタン政府高官への贈賄行為でオランダの通信会社が摘発された。写真はウズベキスタンの国民議会(資料写真、出所:Wikimedia Commons)
新興国で日本企業を待ち受けるFCPA違反の恐怖 オランダ企業は史上6位の和解金を米国当局に
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46803
2016.5.12 茂木 寿 JBpress
オランダの通信大手会社が、ウズベキスタンでの通信事業参入と事業免許獲得において政府高官への贈賄行為を行い摘発された。この行為に関して、同社は米国当局およびオランダ当局に合計約7億9500万ドルの和解金(実質的な罰金)を支払うことで米国司法省と合意した(米国司法省の2016年2月18日の発表より)。
この和解金は同社の年間売上の約8%に達するもので、米国当局に支払われた和解金の規模でも、史上6番目にランクされるものであった。また、この贈賄事件に関しては、2015年11月に同社の前CEOがノルウェーで逮捕されるという事態ともなっている。
この事件はオランダの会社がウズベキスタンで贈賄行為を行ったことに対し、米国当局が主導して摘発したケースであり、米国の「連邦海外腐敗行為防止法」(FCPA:Foreign Corrupt Practices Act)の域外適用の典型的なケースである。
このように、米国司法省はFCPAの域外適用を積極的に展開しており、日本企業もこれまで4件3社が摘発され、合計で約4億ドルの和解金を支払っている。
米国司法省は今後も積極的に摘発する旨を表明しており、さらに、英国でも英国増収賄防止法(UKBA:Bribery Act 2010)が施行される等、今後日本企業の海外展開において、注視することが不可欠となっている。特に、新興国においては贈賄行為が頻繁に行われる傾向があり、特に留意する必要がある。
■日本企業も摘発され多額の和解金を支払い
米国証券取引委員会(SEC:U.S. Securities and Exchange Commission)が1970年代に実施した調査において、400社以上の米国企業が海外の公務員・政治家等に3億ドルを超える贈賄行為をしていることが判明した。さらに、1976年2月にはロッキード事件が発覚し、米国企業の海外における贈賄行為を防止・取締の必要性から1977年12月にFCPAが施行された。
同法は当初、米国企業を取り締まる法律であったが、米国企業からは、海外でのビジネスにおいて他国企業が贈賄行為を行うことが禁止されていないため、米国企業が相対的に競争力が低下するといった批判が政府に寄せられることとなった。
これを受け米国当局は、88年8月と98年11月の2回、域外適用を拡大し、外国企業の摘発も可能にするという改正を行った。
同時に米国は、国連、OECD等で、加盟各国の取り組みを要請した。97年7月からは、OECDで交渉が開始され、同年11月に「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(OECD外国公務員贈賄防止条約)」が採択された(99年2月発効)。これを受け、条約加盟各国で国内法の整備が進められた。日本でも不正競争防止法の一部を改正する法律が99年2月15日発効した(経済産業省は2004年5月に外国公務員贈賄防止指針を発表)。
また、2003年10月には国連腐敗防止条約が採択され、これまでに国連加盟のほとんどの国が署名している。さらに、EUにおいては「腐敗に関する刑事法条約」が99年に採択されており、国際的に腐敗防止に向けた取り組みが進められている。
一方、米国は加盟各国に積極的な取締りを要請したが、各国による取り締り状況は積極的とは言い難い状況で推移している。例えば、日本国内では、これまで4件が摘発されているが、起訴されたのが3件のみとなっている。このようなことから、米国当局は2007年以降、積極的に外国企業の摘発を加速させ、2008年12月にはドイツの総合エンジニアリング会社との間で、8億ドルに上る和解金で和解するなど、和解金の金額も急激に上昇する傾向となっている。
日本企業も2011年から2014年にかけて、ナイジェリア、南米諸国、インドネシアでのFCPA違反で、4件3社が摘発され、これまでに合計約4億ドルの和解金を支払っている。この金額は日本国内で摘発されたケースでの法人に対する罰金が合計で1億円にも満たないことを勘案すると、極めて多額の和解金が支払われていることが分かる。
一般的には、FCPAで摘発を受けた企業と米国司法省との間で、司法取引(Plea Agreement) または訴追延期合意(DPA:Deferred Prosecution Agreement)が合意され、和解金(実施的な罰金)の支払、第三者による数年間のコンプライアンス監視(Independent Compliance Monitor) 等の条件が付けられることとなる。
■摘発の要件
一般的に刑事法においては、自国法に基づき、自国領域内での犯罪行為については犯行者の国籍に関係なく管轄権を有する属地主義が採用される。また、自国民が海外で犯した犯罪についても、一定の条件の基では自国法を適用するという属人主義をとることもある。
FCPAにおいては、属地主義および属人主義の両方が積極的に取り入れていることが特徴となっている。米国企業がFCPA違反をするケースは、世界中どこでも、どのような形態でも摘発の対象となる。一方、外国企業の場合には、下記のような場合でも摘発の対象となり得るということが特筆される。
(1) 米国証券取引法における発行者(Issuer)またはその役職員・代理人等:米国証券取引所に上場、店頭登録をしている企業、米国預託証券(ADR)を通じて米国において上場または資金調達を行っている企業およびその役員、従業員および代理人等
(2) 国内関係者(Domestic Concerns):米国法を設立準拠法にするか、米国に主たる事業所(Principal Place of Business)を有する会社、組合、団代等およびその役職員等、並びに米国籍保有者、米国居住者等
(3) (1)および(2)以外の者が米国内でFCPA違反行為の全部または一部を行った場合:米国内でFCPA違反に関連するメール・電話・FAXの送受信、または世界中いかなる金融機関であっても賄賂をドルで送金する場合(ドル送金はコルレス銀行を通じて必ず米国内で銀行間決済が行われるため)等
上記のように外国企業であっても、適用範囲は極めて広範である。例えば、いかなる企業も社内の米国人従業員が違反行為に関連した場合、米国内の拠点等との間で関連メール・FAX等を送受信した場合、第三国から第三国の特定口座に賄賂をドル送金した場合等、全てFCPA違反が適用されることとなる。
さらに、FCPAの場合、違反者との共謀罪(Conspiracy)、幇助罪(Aiding and Abetting)、エージェントの理論(Agency Principle)に基づき、外国企業の海外での行為についてもFCPAが適用される場合がある。
特に留意が必要なのは、エージェントの理論に基づき、子会社がFCPA違反を行った場合、当該子会社が親会社のエージェントと見なされる場合または支配下にある場合には、親会社にもFCPAが適用される可能性があるという点である。当然ながら、M&AによりFCPAに違反している企業を買収した場合についても、合併による継承会社の責任(Successor Liability)が問われる可能性がある。
■日本企業としての留意点
昨今、日本企業の海外進出は加速している。特に、新興国とされる国々への進出が際立っている。一方で、それらの新興国の一部では「汚職はこの国の文化」と言われる国もあり、欧米諸国に比べ、贈賄行為がはびこる土壌がある。
例えば、これまでにFCPAに関し、米国当局に2億ドル以上の和解金を支払ったケースでは、実際に贈賄行為が行われた国はアルゼンチン、バングラデシュ、ベネズエラ、インドネシア、サウジアラビア、エジプト、バハマ、ナイジェリア、イラン、ウズベキスタン、バハレーンなどとなっており、ほとんどが新興国であることが分かる。つまり、新興国に進出した日本企業がFCPA違反を摘発される可能性が高くなっているとも言える。
それでは、日本企業はどのように対処するべきなのか。
まず重要なのは、実効的なコンプライアンス体制を構築することである。これにより、実際にFCPA違反が発生した場合でも、企業としての責任が免除された例もある。
2012年4月、米国大手金融機関の中国における不動産事業の幹部が中国政府高官に贈賄行為を行ったケースでは、当該幹部が処罰を受けたが、法人としての企業は免責となっている。
このケースでは、同社が贈賄防止ポリシー等を策定・運用していこと、全世界の拠点に24時間体制の内部通報制度を確立していたこと、さらに、コンプライアンスリスクを定期的に評価し、高リスク地域、業務について、重点的にモニタリング等を実施していた。さらに、高リスク地域と特定したアジア地域において、当該違反行為が行われた2002年〜2008年にかけて、FCPA防止に関する研修を54回実施していた(処罰された同幹部も同時期に少なくとも7回の研修を受講)ことなどが実効的なコンプライアンス体制が構築されていたとされたケースである。
2012年の米国司法省が公表したFCPA対応のガイドライン(Resource Guide to the U.S. Foreign Corrupt Practices Act)において、リスク評価に基づいた適正な制度構築が繰り返し強調されている。これは、当該リスクは企業ごとに地域、事業によって異なっていることから、一律のコンプライアンス体制ではなく、高リスク地域、事業に効率的に経営資源を配置した体制とすることが重要であることを示唆している。
つまり、日本企業としては、当該リスク評価を基に、高リスク地域、事業を特定し、それに対する対策に重点を置いた体制とすることが肝要であると言える。これにより、実際にFCPA違反として摘発されても、和解金の減額、免除等につながる可能性が高まることは言うまでもない。
(本文中の意見に関する事項については筆者の私見であり、筆者の属する法人等の公式な見解ではありません)
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