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三菱自動車・相川哲郎社長(中央)
三菱自の不正、指摘した日産への疑惑広がる…早い段階で把握か、強烈なプレッシャーも
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15017.html
2016.05.09 文=河村靖史/ジャーナリスト Business Journal
三菱自動車工業は、軽自動車の燃費試験の不正に関して1991年から法規に定められた以外の方法で取得したデータを提出していたことや、実際の試験を行わずに机上でデータを算出していたことを国土交通省に報告した。相川哲郎社長は一連の不正について「全容は解明できていない」としており、今後、外部の専門家で構成する特別調査委員会が中心となって原因究明などに乗り出す。
原因としては、燃費競争の激化や日産からの要求に応えるためだったという見方が強まっているが、共同開発している日産は本当に不正を知らなかったのかという疑問も広まっている。
三菱自が国交省に対して4月26日に報告した内容で明らかになった不正は、主に2つ。ひとつは、三菱自の軽自動車「eKワゴン」と日産にOEM(相手先ブランドによる生産)供給している「デイズ」の型式指定を取得するため、国交省に提出した走行抵抗データを偽造していたこと。
型式指定の取得には、国交省所管の交通安全環境研究所に燃費を計測してもらう必要がある。「シャシーダイナモ」と呼ばれる台上で燃費を測定するが、実際の走行では空気抵抗やタイヤの摩擦抵抗があるため、「惰行法」と呼ばれる決められた方法で自動車メーカー自らデータをとって提出、同研究所は提出されたデータを活用して燃費を測定する。
三菱自は燃費をよく見せるため、道路運送車両法で決められたものと異なる方法でデータを取得し、さらに平均値のデータを提出すべきところ、計測データのなかで小さい値を国交省に提出していた。三菱自によると、これによって正規な方法で測定した場合の燃費と比べて「5〜10%燃費がよくなっている」という。
また、マイナーチェンジモデルの型式指定を取得する際には、車を実走行させてデータ取得すること自体行わず、目標とする燃費となるように机上で計算し、走行抵抗のデータを提出していた。
もうひとつの不正が、1991年から25年間にわたって、問題となっている軽自動車以外の車両でも、法規で定められた「惰行法」の手法以外でデータを取得し国交省に提出していたことだ。惰行法による走行抵抗データ取得は、91年に道路運送車両法で指定された。しかし、三菱自は主に米国市場で使用していた「高速惰行法」という手法でデータ取得を計測し続けてきた。同法では、惰行法よりも燃費が悪い数値が出ることもあったが、継続して使い続けてきた。
■低燃費競争
これら不正を行ってきた理由は「調査中」で明らかになっていない。三菱自は2000年、2004年と2度のリコール隠しから経営危機に陥り倒産寸前となったところ、三菱重工業、東京三菱UFJ銀行、三菱商事の「三菱グループ御三家」による金融支援を受け、再生してきた。最初のリコール事件の際、当時資本提携していたダイムラー(当時のダイムラー・クライスラー)の品質管理手法を導入、04年のリコール事件の後には「企業倫理委員会」を設置してコンプライアンスの徹底を図ってきた。
道路運送車両法で定められた方法以外で走行抵抗データを取得する行為は、これらリコール事件後、コンプライアンスの徹底していた時にも続けられてきた。高速惰行法では燃費が悪くなるケースがある。このため「『これでいいんだ』と思って疑わずにやっていた可能性がある。法規を満たしていないという意識がなく、これが社内のやり方だと思っていた可能性がある」(相川氏)としている。違法なデータ取得方法を25年間にわたって続けてきた理由は不明だが、高速惰行法は惰行法よりもデータ取得に要する時間が半分程度であり、新型車の開発期間を短縮するためだったとの見方もある。
不正の背景には、軽自動車の低燃費競争があるとの見方は強い。今回、燃費で不正を行ったeKワゴンとデイズの開発で11年2月の当初掲げた燃費の目標は、26.4km/lだった。しかし、役員も出席する社内会議で燃費目標は5度にわたって引き上げられ、最終的に13年2月には29.2km/lにまで目標は引き上げられた。
当時はガソリン価格が高い水準で推移していたこともあって、低燃費で車両価格の安い軽自動車が人気で、低燃費競争が激化していた。12年9月に発売したeKワゴンのライバルであるスズキ「ワゴンR」の燃費が28.8km/lを達成すると、今度は12年12月にダイハツ「ムーヴ」が29.0km/lを達成した。
社内会議で29.2km/lの目標が示された理由について「ムーヴの値を基に提案したと考えられる」(三菱自・中尾龍吾副社長)としており、軽ハイトワゴントップの低燃費を達成しようとの意識が、不正の背景にあったことがうかがえる。三菱自は、燃費目標の引き上げに経営陣が関与していたことは否定しており、相川氏も「私は知らなかった」と明言。中尾氏は「他社の燃費情報を技術部門に示すと、こういったことをやれば(一段高い)目標燃費を達成できるとのエビデンス(根拠)が示され、目標を引き上げている。技術的な手法、こういうことをやればできるという報告がなければ目標を引き上げることはない」と話す。
■日産の期待
さらに三菱自が不正に踏み切った理由として、自動車メーカー役員は「日産の期待に応えようとしたのでは」と分析する。
燃費で不正を行っていた三菱のeKワゴンと日産のデイズは、両社初の共同開発車だ。日産は、自社の技術力を採用した軽自動車を開発して、国内市場で存在感が増している軽自動車の販売てこ入れをするため、三菱自と軽自動車を企画・開発する合弁会社NMKVを折半出資で設立した。三菱自としても国内市場で強い販売力を持つ日産と提携して日産向け軽自動車を生産することにより、工場の稼働率アップや量産効果によるコストダウンが見込める。
実際に、不正対象の軽自動車62万5000台のうち、日産が46万8000台と、三菱自の15万7000台の約3倍で、三菱自の軽自動車を生産する水島製作所は日産の軽自動車が支えているともいわれる。
三菱自は明言していないものの、軽自動車の燃費目標の策定には、共同開発している日産もかかわっているとみられる。
「日産が掲げる燃費目標を達成できずに軽自動車の委託生産を受けられなくなれば、困るのは三菱自だったはず。日産からのプレッシャーが、不正に走った原因なのではないか」(業界関係者)
■早い段階で把握か
また、今回不正が発覚したのは日産による指摘がきっかけだったが、共同開発なのにもかかわらず日産側は当初から不正を認識していなかったのか、疑問視する声も多い。相川氏は「開発合弁会社から当社に開発が委託されている。技術を開発に織り込むなかで日産からさまざまな知見も頂いている。そういった意味では共同開発だが、開発の責任は三菱が全責任をもっている」と述べ、走行抵抗のデータ提出は三菱自が担当だとして、日産の関与を否定する。
ただ、三菱自にとって日産は軽自動車を大量に購入してくれる重要な顧客であり、日産の関与を否定するのは当然だ。日産のカルロス・ゴーン社長は「(不正行為の)全貌が解明されるまで待つ。すべての事実が出そろってから(関係を見直すかどうか)決定を下す」と、日産は「被害者」との立場を鮮明にする。
少なくとも、日産は三菱自が燃費で不正を行っていることは早くから認識していた節がある。日産はスズキからも軽乗用車のOEM供給を受けている。日産が三菱自と軽自動車での協業を強化していくなかで、日産とスズキの軽自動車分野での関係は薄れており、スズキから供給されている日産「モコ」は生産打ち切りが決まっている。にもかかわらず日産とスズキから提携解消のアナウンスはなく、現在も日産はモコの在庫販売を細々と続けている。
業界関係者は「早い段階で三菱自の不正を知った日産が、三菱自との軽自動車協業が打ち切りとなったリスクを考慮して、スズキとの関係を継続しているのではないか」と訝る。
日産は14年、国内生産100万台レベルとするため、三菱自に委託している軽自動車の生産を自社生産にする方向で検討を開始した。最終的に軽自動車を自社生産した場合のコストが見合わないことや、輸出モデルの国内生産が増えて国内生産100万台超のメドが立ったため昨年、eKワゴンとデイズの後継モデルは開発の主体を日産とし、生産は引き続き三菱自が担うことで両社は合意している。
ただ、今回の不正の発覚で、両社の軽自動車での協業が解消に向かう可能性は高まっている。その理由が何にせよ、三菱自は今回の不正により日産という大きな後ろ盾を失うことになりかねない状況に置かれた。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)
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