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モスクワのボリショイ劇場の屋根に置かれているアポロ(Apollo)像。ロシアの100ルーブル札にこの像が描かれている〔AFPBB News〕
世界唯一のインフレファイター、ロシア中銀総裁語る 政府系金融機関の勢力拡大は異常事態との認識示す
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46782
2016.5.9 大坪 祐介
4月12〜13日、モスクワ取引所とクレディ・スイスの共催で「Moscow Exchange Forum 2016」が開催された。
2008年夏のリーマンショック以前は在モスクワの投資銀行が競って大規模な投資フォーラムを開催したものである。ゲストもビル・クリントン米元大統領、トニー・ブレア英元首相が登壇したり、アラン・グリーンスパンFRB元議長がビデオカンファレンスで3Dホログラフィーで登場したこともあった。
しかし近年、特に2014年2月のクリミア紛争以降はこうした投資フォーラムはすっかり影を潜めていた。
今回のフォーラムは久しぶりの会合とあって、参加者は1500人を超えていたようだ。会場となったリッツカールトンホテルの会場はもちろん、ロビーまで人があふれ返っていた。ただ同時通訳のレシーバーの貸出し状況から察するに、海外からの参加者は以前に比べるとかなり少ないように感じた。
■ロシア経済、景気回復への見通し
今回のフォーラムの主パネルは「ロシア経済、成長回帰への見通し」と題され、以下に挙げるような実務型の重鎮が顔を揃えた。
モデレーターは最近、大領領経済諮問委員会の副委員長への就任が決まったアレクセイ・クドリン元財務大臣。パネリストは、アルカジー・ドボルコビッチ副首相、エリヴィラ・ナビウリナ中銀総裁、アントン・シルアノフ財務大臣、エネルギー大臣のアレクサンドル・ノバク氏、アベン・アルファバンク取締役(オーナー)。
冒頭発言を求められたドボルコビッチ副首相は「今年の景気回復を妨げる障害は何もない」「西側諸国の経済制裁が年内にも解除されると楽観視してはならない」「景気回復はロシア国民の働き次第である。足許の原油価格回復、機械・自動車セクターは回復基調にあり、ルーブル安による輸出増加も期待できる」など、景気の先行きに対して強気の見方を披露した。
「Moscow Exchange Forum 2016」メインパネルの模様。国内メディアの注目は高く多くの記者が集まったが、在モスクワの日系メディアの関心は低く姿を見ることはない
これは市中金融機関のエコノミストはもちろん、ロシア政府(経済発展省)の経済見通し(2016年 ▲0.7%)と比較しても極めて楽観的と言えよう。
またノバク・エネルギー大臣は原油価格の先行き見通しに関して、2016年上半期の平均価格は1バレル40ドルだが、下半期は50ドルに回復、2017〜18年には60〜65ドルまで上昇すると述べた。ドボルコビッチ副首相の強気シナリオをまさに裏書きするような見通しである。
しかし、すべての政府関係者が景気に強気の見方を示したわけではない。ロシア中銀は世界中の中央銀行が金融緩和に躍起になっている中にあって、今や世界でも唯一と言える「インフレファイター」である。
今回のパネルでもナビウリナ中銀総裁は政府や実業界からの利下げ圧力に対して、中央銀行の使命はインフレ抑制であるとの主張を曲げることはなかった。
確かにロシアのインフレ率は減速傾向にあるとはいえ、16年3月は前年同月比+7.3%と依然高い水準にある。ナビウリナ総裁としては、不安定な原油価格の動向とそれに連動するルーブルレートの高いボラティリティを考慮すれば、容易に政策金利の引き下げ(4月29日時点11%)には応じられない。
ロシア中銀がこうした強硬な姿勢を維持できるのは、ナビウリナ総裁の金融政策に対するウラジーミル・プーチン大統領の全幅の信頼があるからであろう(「ロシア経済を惨事から救った中銀総裁:プーチンの右腕」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46640)。
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こうした政府サイドの強気の景気予想、あるいは頑なインフレ抑制姿勢に対して皮肉めいた疑問を投じたのが最後に発言したアベン氏である。同氏は1990年代にアルファバンクを設立、同行をロシアの民間最大手銀行に育てたいわゆるオリガルヒの1人である。
■勢力拡大する政府系金融機関と地下経済
4月15日現在の市中銀行の為替レート。1月下旬には1ドル80ルーブルを超えていたが、原油価格の回復とともにルーブルも回復基調
同氏いわく「ビジネスマンは政府関係者よりもより注意深く、保守的で、悲観的である」「国内経済に占める政府系金融機関と地下経済の比率がますます上昇している」。
ロシア中銀に対しても「インフレ抑制は結構なこと」と称賛しつつも「顧客が借り入れをためらうのは貸出金利が高いからではない、将来に期待が持てないからだ」と批判した。
アベン氏の発言は一番最後であったために時間切れのような形で終わってしまったが、当日のパネリストの発言の中では聴衆から一番の支持を得ていたように感じた。
ところで、この数年筆者もアベン氏と同じ問題意識を共有している。すなわち、ロシア経済に占める政府系企業の肥大化である。
ガスプロム(天然ガス)、ロスネフチ(石油)が居並ぶエネルギー部門は言うまでもない。金融業界においてもズベルバンク、VTB、ガスプロムバンク、ロスセルホーズバンク(ロシア農業銀行)などの政府系銀行が国内預金・貸出市場の半分以上を占めている。
投資銀行業務でもかつての大手民間投資銀行を買収したズベルバンクと政府の肝入りで投資銀行部門を立ち上げたVTBが圧倒的なシェアを占めている。
また、直接金融においても政府系のRDIF(ロシア直接投資基金)、テクノロジー投資ではロスナノなど、ここでも政府の存在は大きい。
こうした政府系金融機関の活動は、短期的には「危機対応策」として肯定せざるを得ない面もある。しかし長期的には政府系金融機関がシェアを拡大した結果、純粋な民間金融機関が市場参入する機会が損なわれたり、あるいは不公平あるいは非効率な競争環境が温存される可能性が高い。
ロシア経済の長期的な成長を展望した場合、これは深刻な問題である。
今回、この問題意識をナビウリナ中銀総裁に直接問い質す機会があった。クレディスイス・モスクワの好意で、メインパネルに先立って開催されたナビウリナ総裁とのグループミーティングに参加する機会を得たのである。
ミーティングはナビウリナ中銀総裁を囲んだ円卓に内外の機関投資家10人程度が着席して行われた。総裁は挨拶も早々に「何でも質問してください」と出席者に質問を促した。多くの出席者はロシア中銀の金融政策に関する質問であったが、前述のとおり総裁の回答は一貫して「中銀の使命はインフレ抑制」であった。
そして筆者の質問の順番となり、迷わず聞いた。
■政府系が過半を占めて健全か?
「総裁が考えるロシアの銀行業界の理想的な将来像について教えてください。政府系の銀行が国内銀行市場の過半を占めている状況は健全ではないと思うのですが?」
月8日、ロシア南部の地方都市アストラハンにて、共産党の看板。「資本主義の生活はどうだい?」
ナビウリナ中銀総裁の回答はストレートであった。
「はい、指摘の通り私も現在のロシアの銀行業界の状況は異常だと思います」
筆者は、総裁はきっと現状肯定するはずだと思っていたのでこれは予想外の回答であった。
「ズベルバンクの株主に政府や中銀が名前を連ねていることは好ましくありません」
「こうした状況は解消されなければなりませんが、それには長い時間を要することを理解して頂きたい」
最終的には官僚的な模範回答になっているのだが、少なくともナビウリナ中銀総裁が現状の国内銀行体制に問題意識を抱いているということは、筆者にとってはロシア経済の先行きに一縷の希望を与えるものであった。
ロシアは日本と同様、5月前半にゴールデンウィークを迎える。5月後半から7月中旬くらいまでが上半期の経済活動のヤマである。ロシア政府高官の思惑通りにロシアの景気回復が進むのか、期待半分程度で注視したい。
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