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ロボットやAIを導入・活用することで実は雇用が増える?(図版はイメージ)
本当は人工知能が仕事を増やすという試算 イノベーションがもたらす需要創出、ただし雇用の流動化が必要
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46777
2016.5.9 加谷 珪一 JBpress
ロボットや人工知能(AI)は人々の仕事を奪うというのが一般的な常識となっている。ところが経済産業省はこれとは正反対に、「ロボットやAIを導入しないと2030年までに735万人分の雇用が失われる」との試算結果を公表した。
一部メディアはこれを誤解し、ロボットの導入を進めると735万人分の仕事がなくなってしまうとうニュアンスで報じた。これは誤報に近いものかもしれないが、ロボットやAIの導入で仕事が増えると言われてもピンとこないのが正直なところだろう。
試算結果の是非はともかくとして、今回の試算が、ロボットやAIがもたらす影響について議論するための叩き台となることは間違いない。すでに始まりつつあるロボット社会に対してどう向き合えばよいのか、もっと俯瞰的な議論が必要である。
■経済産業の試算について一部メディアは誤報?
経済産業省は4月27日、第4次産業革命に対応するための指針となる「新産業構造ビジョン」の中間整理を発表した。中間整理では、ロボットやAIが雇用にもたらす影響について試算を行っており、それによると、ロボットやAIをうまく活用できなかった場合、2030年までに働く人の数は735万人減少するという。一方、ロボットやAIの活用が進めば161万人の減少で済むとしている(中間整理の21ページを参照)。
一部メディアは「AI・ロボで雇用735万人減」という見出しを付け、AIやロボットの導入で仕事がなくなるというトーンで報じていた。内容をほぼ正確に報じていたのは日本経済新聞くらいであった。
詳しくは後述するが、経済産業省が実際に試算した内容を考えると、雇用が735万人分減少するというタイトルは、読者をミスリードしてしまう可能性がある。
記事のタイトルが適切だったのかはともかくとして、マスメディアの報道というのは世間一般を映す鏡でもある。雇用が大幅に減少するというトーンになってしまったのは、ロボットやAIの普及が仕事を奪うとのイメージが広く行き渡っていることの裏返しといってもよいだろう。
2015年12月には野村総合研究所が、英オックスフォード大学の推計方法に倣い、日本においてロボットとAIがもたらす影響について試算している。同社の試算では、労働人口の約半数がロボットやAIに置き換わる可能性があると結論付けているのだが、この試算結果は世間一般が持つイメージと一致している。
果たしてロボットやAIによって仕事は増えるのだろうか、それとも減るのだろうか。
■違いはミクロかマクロか、内容は実は同一
2つの試算結果は正反対に見えるが、実はそうではない。経産省の試算においても、オックスフォード大学のモデルが活用されており、仕事の一定割合がロボットで置き換わることが大前提となっている。両者において、このような違いが生じている理由はどこにあるのだろうか。
最大の違いは、オックスフォード大学のモデルは、個別の業務に焦点を当てたミクロ的なものであり、経済産業省の試算は潜在成長率をベースにしたマクロ的なものであるという点だ。
経済産業省による試算のベースとなっているのはマクロ経済における成長率予測である。マクロ経済では、その国の長期的な経済成長率は、潜在GDP(国内総生産)で決定される供給力の制約を受けると理解されている。つまり、どんなに需要があったとしても、その国の経済が持っている供給力を超えて経済が成長することはできないという考え方である(供給が需要に追い付かない場合はインフレになる)。
潜在GPDを決定する要因は、資本投入、労働投入、全要素生産性の3つである。これは、ごく簡単に言ってしまうと、「お金と労働者の数とイノベーションで経済は決まる」ということである。
日本の場合、過去の経済活動から得られた分厚い資本蓄積があり、お金の面では問題ないものの、人口減少によって労働力人口の低下が確実視されている。今と同じ経済成長率あるいは、今よりも高い経済成長率を望むのであれば、労働力人口の低下を補って余りある全要素生産性の上昇が必要となる。
全要素生産性とは要するにイノベーションのことなので、人口減少によるマイナスの影響を上回る画期的なイノベーションが強く求められているという解釈になる。
■アベノミクスが成功すれば高い生産性は実現可能なはずだが・・・
経済産業省では、ロボットや人工知能などをフル活用することによって、イノベーションを活発化させ、潜在成長率を上昇させるというシナリオを描いている。これは経済産業省が勝手に想像しているわけではなく、安倍政権がそのような経済成長シナリオを掲げていることを前提にしたものである(もっとも、アベノミクスの青写真を描いたのは経済産業省なのだが)。
安倍政権は、アベノミクスが成功した場合、名目で3%程度、実質で2%程度の経済成長が実現するとしているが、このシナリオを現実のものにするためには、各種のイノベーションを活発化させることが必要であり、これを実現するための施策が成長戦略ということになる。また、女性や高齢者が労働市場に参加し、労働人口の減少に歯止めがかかることが大前提となっている。
内閣府では、名目3%、実質2%の成長が実現できた場合の長期的な経済財政予測を発表しており、厚生労働省もこれをベースに労働力人口の将来推計を実施している。今回の試算における労働力人口の予測もこれに準じたものと考えてよい。
その結果、経済がうまく再生すれば、2030年には名目GDPは800兆円を突破することになる。人口の減少は女性や高齢者の労働市場への参入で緩和され、ロボットやAIの導入によって生産性が大幅に拡大することで、プラス成長を維持できるという筋書きである。
■経済規模が拡大すれば、仕事の数は増える
要約すると、経済産業省のシナリオでは、ロボットとAIがフル活用されることで潜在成長率が上昇し、成長率の高まりによって所得が増えて需要も増加し、最終的には仕事そのものが増えるという流れになっている。確かにロボットやAIの導入で消滅する仕事も存在するが、仕事の絶対量はむしろ増えるという考え方だ。
これに対してオックスフォードの推計は、こうしたマクロ的な状況は考慮に入れず、個別の仕事がどれだけロボットに置き換わるのかについて分析したものである。その結果、多くの仕事がロボットに置き換わり、仕事が消滅するという結論が導き出されている。
経産省の試算でも、仕事の内容を個別に分析した部分では、当然のことがら、仕事がなくなる分野と増える分野がくっきりと分かれている。
営業という職種を見てみると、ロボットやAIの導入によって付加価値の高いコンサルティング営業の従事者数は114万人増加するが、定型業務を行う販売員などについては68万人減少するとしている。また、製造部門については、単純作業や単純知識に依存する労働者の仕事が失われることで297万人の減少に、コールセンターなどサービス業務も51万人の減少となっている。コールセンターについてはすでにロボットの導入が始まっているので、人員削減は現実的な話題かもしれない。
一方で、ロボットやAIの導入は単に労働者の仕事を奪うだけではなく、それに伴って新しい仕事を生み出す可能性も秘めている。米国ではグーグルなどハイテク企業のオフィスがある街では、こうしたハイテク産業の社員が1人増えるだけで、数人分のサービス業の雇用が生まれるとの研究結果もある。単純に仕事が奪われるだけというのは悲観的過ぎる見方だろう。
■やはり雇用の流動化は避けられない?
ただ、経済産業省の試算は、あまりにも楽観的なマクロ経済予測に基づいており、この結果を額面通り受け取るのは少々無理がある。
ロボットやAIの導入で低付加価値の労働が消滅し、高付加価値の労働が増えるのは事実だが、日本国内で仕事に従事する人の顔ぶれが変わるわけではない。移民を数多く受け入れるという話であれば、今、日本にいる労働者とは別のスキルを持った人が新しい仕事を担うという解釈も可能だろう。
だが現時点で日本はこうした政策を採用しておらず、同じ国民が、低付加価値の仕事から高付加価値の仕事にシフトしなければならない。当然、人員の再配置や職業訓練など、労働市場の流動化がセットということになる。試算ではこうした変革を実現するためには、円滑な労働移動が必要と主張しており、痛みを伴う改革を強く求めている。
経産省の主張はまさに正論なのだが、今の日本社会にこの正論を受け入れる余裕があるのかは何ともいえない。経産省の支援によってロボットやAIを開発する日本企業においてすら、人員の再配置が進まないといった皮肉な結果にならないとよいのだが。
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