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キリンビール社長の磯崎功典氏
キリンビール、マス広告&大量生産と決別の歴史的転換へ…驚きのビールの店に客殺到
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15001.html
2016.05.08 文=中村芳平/外食ジャーナリスト Business Journal
少子高齢化による人口減少、若者のビール離れでビール類は2004年から15年まで11年連続で減少を続けている。今後も国内市場の回復が見込めないなかで、キリンビールは事業モデルの転換にカジを切った。準主力の「ラガー」は会員制SNSを活用した訴求に変更、主力の「一番搾り」に投資を集中させ全国9工場で「47都道府県の一番搾り」(5〜10月)の製造発売に踏み切った。
キリンビールの事業モデル転換の象徴が東京・代官山にマイクロブルワリー併設のクラフトビール店を開業したことだ。12年3月にキリンビール社長に就任した磯崎功典氏(持株会社・現キリンホールディングス<HD> 社長)の決断力が大きい。キリンをクラフトビールに向かわせたのは、セブン‐イレブンと連携、12年6月に発売したクラフトビール風の「グランドキリン」(330mlびん)がヒットしたことだ。
これを機にキリンはクラフトビールへの関心を高めた。14年4月にはオンラインショップ「DRINX(ドリンクス)」を開設し、同9月には9年連続増収増益中のクラフトビール大手ヤッホーブルーイング株式の33.4%を親会社である星野リゾートから取得し業務提携した。ヤッホーの製造の4割を受託し、物流や原料調達で連携する一方、「楽天市場」に出店する通販サイト「よなよなの里」の運営ノウハウを学ぶ。
15年3月に横浜工場内にスプリングバレーブルワリー横浜(1〜2階、テラス計200席)を開業させ、15年4月には東京・渋谷区代官山に「SPRING VALLEY BREWERY TOKYO」(略称:SVB、1〜2階、テラス計215席)を開業した。
キリンが市場規模の小さなクラフトビール市場に本格的に参入したのは、同社にとって事業モデル転換となる歴史的な出来事であった。SVBはマイクロブルワリー(小規模ビール醸造所)併設の体験型・参加型店舗だ。今年4月17日、開業1周年を迎えた。年中無休で年間来客数は約26万人を数えた。キリンはSVBと「47都道府県の一番搾り」をテコに大逆襲に打って出ようとしている。
●年間40種類の新しいビールを開発
SVBは3月末、メディア向けに開業1周年記念イベントを開いた。同社社長の和田徹氏は1年間の実績を誇ると同時に、今後の展開について語った。
「昨年4月に開業し、定番6種類の通年アイテムを発売。13種類のクラフトビールを開発・発売しました。折からのクラフトビール人気にも乗って年間の集客数は約26万人に上り、飲まれたビールの杯数は約80万杯、名物のビアフライト(定番6種類がミニグラスで全部飲める)は15万セット、来店者の6割が初体験でした。一方、クラフトビールがヤフーニュースなどで話題になった件数は1.3倍以上に増えました」
さらに和田氏はこう続けた。
「今年は3月末現在で10種類のビールを開発、年間で約40種類の新しいビールを開発します。これまでになかった驚きのある限定ビールを次々に開発し、キリンのオンラインショップ『DRINX』と連携して販売します。クラフトビール業界を盛り上げるために国内外の作り手とのコラボレーションを仕掛けたり、作り手と飲み手のコミュニティを立ち上げたりするなど、ビール本来の魅力や楽しさをもっと広めていきたいと思っています」
和田氏に続いて挨拶に立ったのが、キリンのビールづくりの本流を歩くマスターブリューワーの田山智広氏だ。昨年4月、SVBの開店イベントの時には「シニアマスターブリューワー」という肩書だったが、「シニアという名称が付くと年寄り臭い感じになるので、(上司に言って)シニアを外してもらった」と、出席者を笑わせた。田山氏は、SVBで「ビールづくりは自由だ」「自分の飲みたいビールを開発する」「ビールづくりの無限の可能性を追求する」をコンセプトに、果物・植物由来などの原料を使い、あらゆるビールづくりに挑戦している。
田山氏がSVBの開業1周年を記念して特別につくったのが「花ふぶきエール」(上面発酵酵母)である。伊豆松崎産の大島桜の葉を採集し、4斗樽に約1年間漬け込んだという。その大島桜の葉とホップを組み合わせ、桜の味わいのあるエールをつくった。筆者もミニグラスで試飲したが、桜の香りと味わいの広がるビールで、桜風味のワインを飲んでいるようであった。生れて初めて飲む驚きのビールで、一生のうち何度も飲めるビールでないことは確かである。
田山氏は「花ふぶきエール」以外にワイン酵母を使った「DAIKANYAMA Sparkling」「ROCKING CHAIR」(アルコール度数10.5%)の2種類のビールも紹介した。これまでのビールの常識ではおよそ考えられないワイン酵母を使ったビールである。ワイン酵母を使って発酵させているだけに、味わいはビールというよりはビール風味のワインに近い。
ちなみに酒税法ではビールは麦芽・ホップ・水を原料として発酵させたものである。また、上記に副原料として麦、米、とうもろこしなど政令で定める物品を原料として発酵させたものである。したがって「花ふぶきエール」などは、酒税法上からは「発泡酒」に分類される。
世界的には、ビールは下面発酵製法(ビール酵母は液面の下で活動)によってつくるラガー(Lager)ビールと、上面発酵製法(ビール酵母は液面の上で活動)によってつくるエール(Ale)の2つに分類される。ラガーは15世紀にドイツのミュンヘンで誕生した。夏場の気温が高すぎて仕込みがうまくいかず、冬場に仕込み、低温で「貯蔵=ラガー」したところ、高品質のビールができた。これがドイツからヨーロッパ、世界に広がった。
19世紀に冷蔵技術が開発され、チェコのピルゼンでラガーをつくるのと同様の下面発酵製造、すなわち低温(10℃前後)で1〜2週間ほど発酵させて、醸造すると「淡く透き通った黄金色で、すっきりした味わいのピルスナー」が完成した。これが現在世界で主流の「ラガー=ピルスナー」タイプのビールである。
次にエールは冷蔵・冷却技術が完成する以前からつくられてきた上面発酵のビールである。エールはもともと寒冷でブドウ栽培に適さない地域で、ワイン代わりにつくられ発展してきた。常温(20℃前後)、短期間(4日間程度)で一気に発酵させる。ビール酵母は高温で活動するほど、「ワインのようなフルーティーな香りと豊かな味わいのビール」になるといわれる。上面発酵ビールは小規模な蒸留所で地域密着の多種多彩なビールをつくるところに特徴がある。
●10年計画で新しいビール文化を創造
これより先の今年1月、SVBは限定新商品「みかんエール」のメディア向け試飲会を開いた。この試飲会にキリンHD社長の磯崎氏が飛び入り参加した。というのも磯崎氏の神奈川県小田原市の生家はみかん農家であり、「みかんエール」に使う温州みかんを提供したからだ。磯崎氏は「みかんエール」のイベントで乾杯の音頭を取ったが、その際、みかんづくりの苦労話にうんちくを傾けた後、こう付け加えた。
「若者のビール離れでビールが売れない、市場の縮小傾向に歯止めがかからないと、嘆いていても何も始まらない。キリンはSVBを通じ、誰もが飲みたいと思うような魅力的なビールを次々に開発・販売し、新しい市場をつくり出していきたい」
磯崎氏は日本のビール類市場が長期低落を続けてきたのは、ビール4社がピルスナータイプ(ビール市場の97%前後を占める)のビールで同質的な競争を続け、「消費者から飽きられて魅力を失ってきたことが大きい」と考えている。そんななかで急成長しているのがクラフトビール市場である。磯崎氏はSVBを通じて「みかんエール」のように「これまで飲んだこともないような魅力的なビール」を開発、提供し、ビール離れした若者の回帰を促し、女性など新しいビールファンを開拓していこうとしているのだ。
筆者はイベントでSVB社長の和田徹氏にクラフトビールの可能性について尋ねたところ、こんなふうに答えた。
「SVBは開業1年で来店客数約26万人を数える見込みです。今年も26万人の来客を見込んでいます。これを10年(〜2024年)続ければ約260万人集客することになります。そうなれば新しいビアカルチャーが育ってくると思います。私はこれまでのように単品大量生産し、マス広告で大量に販売する時代は終わったと思います。これからは多品種少量生産のクラフトビールの時代だと思います。キリンがリーダーシップを発揮し、SVBを通じ魅力的で驚きのあるビールを次々に提供し、新しいビール文化を創造することで、ビールの再成長につなげていきたい」(和田氏)
和田氏はキリンビールでマーケティング畑が長く、発泡酒「淡麗」、缶チューハイ「氷結」などの大型ヒット商品を世に送り出してきた同社のマーケティングのエースである。いずれSVB発の大型ヒット商品を出す可能性も否定できないだろう。
(文=中村芳平/外食ジャーナリスト)
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