米経済、1年以内にリセッションの確率は60%=民間エコノミスト By JOSH ZUMBRUN 2016 年 5 月 6 日 13:32 JST 米国が向こう1年間にリセッション(景気後退)入りすることは、推論によって実現が確定しているわけでなく、回避できないわけでもない。ITGインベストメント・リサーチのチーフエコノミスト、スティーブ・ブリッツ氏はその確率を60%と予想している。つまり、幸運なら回避できると考えている。 ITGインベストメント・リサーチのスティーブ・ブリッツ氏 ITGインベストメント・リサーチのスティーブ・ブリッツ氏 リセッションや不況、ドルの崩壊や社会の崩壊が近いと絶えず自信を持って予想するアナリストはメディアにあふれている。だが、同氏の予想がこれほど興味深いのは、彼が目立とうとしているわけでも生来の悲観論者でもない点だ。当初は自身の厳しい予想についてインタビューを受けることさえ渋っていた。 ブリッツ氏は、ソロモン・ブラザーズのデリバティブ(金融派生商品)市場ストラテジストをはじめ、米金融業界や経済予測に関する経験が30年余りに及ぶ。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が実施する月例エコノミスト調査の常連でもある。 エコノミスト調査では毎月、向こう1年間にリセッション入りする確率を評価する。最近の調査では平均予想が20%前後と1年前の約2倍で推移しているが、大半のエコノミストは確実な予想ではないとしている。直近の調査では、ブリッツ氏の60%という確率(ここ数年で最も悲観的)が突出していた。 米国が1年以内にリセッション入りする確率 エコノミストの予想平均(WSJ調査より) ブリッツ氏はWSJのインタビューに応じ、予測の手法や、一般的に冷静なアナリストがいかにして経済の健全性にこれほど懸念を抱いたのか明らかにした。以下はその抜粋。
―予測する上での哲学は 経済指標を見るのは星を見るのとよく似ている。天文学者は星だけを見るにとどまらず、働いているダイナミズムや古い光、新しい光、消滅しようとしている星、夜に短く点滅する星を見る。同じように、経済指標はすでに起きていることをわれわれに伝える。先行指標もあれば遅行指標もあり、1回の発表だけでは分析値を出せないほど変動が大きいものもある。大見出しの数字より詳細部分に有力な手掛かりがある場合もある。エコノミストの仕事は、市場のように大見出しに反応することではなく、先行指標や遅行指標をふるいにかけ、一連の指標が次に起きることをどう示しているのか説明することだ。 ―将来を悲観しているわけではなく、次のリセッションに関する書籍をテレビで宣伝しているわけでもないあなたにとって、他のエコノミストに見えていないものは何か。 60%という私の予想には、政策の誤りがリセッションを招きうるところまで近づいているという切迫感を伝える意味がある。多数の経済指標が景気循環の半ばから終わりに近いことを示しているようだ。このことは、経済が政策の誤りに一段と影響されやすいことを意味する。米連邦準備制度理事会(FRB)は慎重を期す必要があり、イエレン議長の最近の発言からはそうしていることがうかがえる。 米経済はリセッションに陥ってはおらず、米国の景気拡大は徐々にではなくピタッと止まる。われわれに言えるのは、景気循環の後期にある場合、サプライズに影響されやすくなるということだ。ネガティブサプライズがなければ、経済は成長し続ける。 ―米経済がまだリセッションに陥っていないとすれば、最も懸念している筋書きは。 FRBが4-6月期の景気持ち直しを見据え、6月に金融政策の引き締め、ひいては足元の利回り低下がもたらしているような成長支援の打ち切りを決断する、という筋書きだ。個人的には金融引き締めは予想していないが、その可能性はある。 世界情勢への対応も挙げられる。中国は借り入れを増やして大規模な景気刺激策を打ち、成長加速の兆しがいくらかみられるようだ。ただ、中国経済には大幅な不均衡と不良債権が残っており、刺激策が解消されれば年内に何が起きるか分からない。中国経済が減速し、FRBが引き締めに動いた場合、米国、ひいては欧州にとって軽度のリセッション(2四半期連続のマイナス成長)を回避することは非常に難しくなる。 ―2007年から09年まで7四半期続いた直近のグレートリセッションと比較すると、2四半期ではかなり軽度と言えるが。 明確に言うと、米経済には07年時点のような不均衡がない。次のリセッションは前回ほど深刻にはならないはずだ。 ―リセッションの確率が60%ということは、回避できる可能性が40%ということになる。何とか回避できてもショックは受けないのか。 もちろん受けない。前述の通り、ネガティブサプライズがなければ結果的に回避できる。状況が大幅に好転する可能性もあり、それに反するような法則は見当たらない。欧州が善戦し、中国の成長加速が自律的なものとなり、FRBが秋にかけてハト派寄りの姿勢を続ける。これらが重なれば住宅市場や製造業は上向き、高所得職の雇用の伸びが加速するはずだ。結果として経済は年末までに2.5%成長、もしくはそれ以上の成長へ向かう。この筋書きを思い描くのは容易であり、この見通しを信じる人が非現実的な楽観論者だとは思わない。 関連記事 米GDP、1-3月期は0.5%増−予想下回る 今年の米成長・雇用見通しに陰り=WSJ調査 米FRB特集 https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NX195_SNAG_P_NS_20160506003631.jpg 4月の米雇用統計、5つの注目点 サンフランシスコでの就職フェア(2015年8月) By ERIC MORATH 2016 年 5 月 6 日 13:52 JST 米労働省は米東部時間6日午前8時30分(日本時間午後9時30分)に4月の米労働市場の概観を発表する。ウォール・ストリート・ジャーナルが行ったエコノミスト調査では、雇用者は4月に季節調整済みで20万5000人を新規に雇用し、失業率は5%で横ばいになったと予想されている。以下に5つの注目点を挙げる。 1.雇用の勢い 労働市場は今年の勢いを維持できるのだろうか。1-3月期中に雇用は月平均20万9000人増と堅調に伸びた。こうした伸びは、経済成長の減速とは対照的だ。このため、政策担当者らは雇用と生産のいずれが米経済の実力を示す尺度として良いかという問題を抱えている。 2.失業の増勢 失業率は3月に8年ぶりの低水準からわずかに上昇した。しかし、5%という水準はリセッション(景気後退)後の最低に近く、健全な労働市場と経済成長に沿った水準だ。11月の大統領選挙が近づくにつれ、失業率は各候補者からさらに注目を集める可能性がある。候補者らは、どちらの方向に数字が動くかで米経済の浮沈をはっきり映し出す手掛かりを求めている。 3.労働参加率 3月に失業率が少し上がったのは、悪いことばかりではなかった。むしろ、より多くの米国民が仕事を求めていることを示す数字だった。就労中ないし求職中の人々の割合は、3月に2014年初め以降では最高の63%に達した。就労者数は09年初頭以来最高の水準となった。 4.賃金動向 雇用市場の回復に欠けている要素は、大半が賃金のより強い伸びだった。3月に平均時給は前年同月比で2.3%増加した。この伸びは年初よりも減速している。春になり持ち直したかどうかに注目したい。もっと広い観点で言うならば、年間の賃金上昇率は、着実な雇用の伸びが始まった10年以降、2%近くでとどまっている。 5.業界別の傾向 過去1年間にみられた強い雇用の伸びは、全てに当てはまるわけではない。製造業は3月に前年比で約2万6000人の雇用を削減した。石油採掘や石炭採取を含む鉱業の雇用は14万3000人減少した。各州政府は、学校職員以外の雇用を7000人減らした。一方、飲食店の雇用は36万6000人増えた。 関連記事 米雇用統計、見落とされている強さとは FRBは結論先送り、次の一手は 米国の賃金伸び悩み、経済成長の足かせに FRB利上げ判断、雇用統計堅調で様子見継続が可能に https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NW828_jobfai_M_20160505114419.jpg
米雇用統計、見落とされている強さとは By STEVEN RUSSOLILLO 2016 年 5 月 6 日 11:24 JST このところ低調な景気回復が続く米経済で、十分には評価されていない要因が少なくとも一つある。雇用統計における月次の非農業部門就業者数が着実に増加していることだ。 過去3年間はほぼ毎月、非農業部門就業者数が20万人増を超えていた。良い方向にせよ悪い方向にせよ毎月の雇用統計でサプライズがなかったこともあり、統計発表後の市場では不安定な動きがほとんど見られなくなった。 そして、このように労働市場が堅実に推移しているため、今後の雇用増加数がこれより落ち込んだ場合でも、問題のある変調が始まったわけではなく、一時的現象に過ぎないと見なされる可能性が高い。このことは、米東部時間6日午前8時半(日本時間午後9時半)に4月の雇用統計発表を控えているため重要だ。連邦準備制度理事会(FRB)が6月の連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げするかを判断する上で、最後から2番目の雇用統計となるからだ。 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がまとめたエコノミスト予想平均では、非農業部門就業者数が20万5000人増とされ、ほぼ最近の景気動向に合致した数字となっている。過去6カ月平均は24万6000人増で、2015年2月以来の高水準となっている。 月次の非農業部門就業者の増加数(6カ月平均、単位:千人) ENLARGE 月次の非農業部門就業者の増加数(6カ月平均、単位:千人) THE WALL STREET JOURNAL この6カ月平均が示す好調は一時的なものではない。過去2年間平均は24万人増、過去3年間平均も22万4000人増だ。 MUFGユニオンバンクのマネジングディレクター、クリス・ラプスキー氏は「20万人という数字がよく出てくるため、ほとんど無感覚になってしまった」としたうえで、「2〜3年前なら20万人増は経済状況を見る試金石だったが、今や、私たちはこの数字に慣れてしまった」と述べた。 確かに、この雇用拡大については質の面で疑問もある。賃金の伸びは鈍く、労働参加率も歴史的にみると依然低い。 しかし13年以来、月次の就業者数の増加が10万人を下回ったのは2回しかない。一方、30万人を上回ったのも4回だけだ。 ドイツ銀行のアラン・ラスキン氏は、6日発表される4月の雇用統計がこうした現状を下回るものだった場合、ドルは最近の軟化傾向を続け、さらに下落するとみている。ただそれでも、雇用統計が「本当に弱い」数字とならなければ、ドルが急落することはないだろうと指摘した。 雇用統計は失望を招くこともあるが、それでも、今回の統計でよほどひどい数字が示されない限り、投資家の予想が変わることはないはずだ。 関連記事 FRBは結論先送り、次の一手は 米国の賃金伸び悩み、経済成長の足かせに 米経済、雇用堅調で減速懸念を一蹴 https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NW973_TAPE05_M_20160505144650.jpg 米為替監視対象国指定、条件緩すぎとの声も ルー米財務長官(左)と中国の李克強首相(北京、2月29日) By IAN TALLEY 2016 年 5 月 6 日 12:20 JST 米財務省が4月29日に発表した外国為替報告書は、自国通貨を安く誘導し国内の輸出企業を優位に立たせようとしている貿易相手国への圧力を強めることが狙いだった。 米政府は今回から新たに「監視リスト」を設けて5カ国(中国、日本、韓国、ドイツ、台湾)を監視対象に指定したが、実際に制裁措置が発動されるまでにはまだ十分な余裕がある。 米政府は制裁に動く条件を三つ挙げている。対米貿易黒字が200億ドル超、経常黒字が対国内総生産(GDP)比3%超、一方的な為替介入による外貨買いがGDP比2%超、という三つの条件全てに抵触しない限り、制裁は発動されない。 ピーターソン国際経済研究所のシニアフェロー、フレッド・バーグステン氏は、米財務省が為替政策への監視を強めたことを高く評価した。 だが、同氏のほか一部の人たちは、為替操作国を見逃すことになりかねないとして指針のさらなる厳格化を求めている。 米議会は財務省が通貨安誘導の問題を何年も放置してきたことに業を煮やし、昨年、環太平洋経済連携協定(TPP)法案の一環として為替操作国に制裁を発動する仕組みの導入を求めた。議員らが最もいら立ちを感じていたのは中国と日本だった。例えば、中国は過去10年間にわたり経常黒字がGDP比10%を超え、外貨準備は4兆ドル増加した。エコノミストらは、この二つの数字だけでも為替操作の十分な証拠になると言う。 ただ、コーネル大学のエスワー・プラサド経済学教授は「2国間の取り決めや監視が強化される恐れがあるからといって、米貿易相手国が政策を変更するかどうかは分からない」と述べた。 また、バーグステン氏は、制裁発動条件が極めて厳しいため、多くの国が制裁を免れることができると指摘した。 米財務省の新たな指針では、主要貿易相手国しか対象になっておらず、香港、マレーシア、タイ、ベトナムなど多数の国が抜け落ちている。 バーグステン氏は同じくピーターソン国際経済研究所のシニアフェローを務めるジョセフ・ギャノン氏とブログに掲載したリポートで、「われわれの以前の研究調査では、これらの国々の為替操作は数年分を累積すると、中国が最も積極的に市場介入を行ったときの規模にさえ匹敵することが分かった」と述べた。 両氏はさらに、介入規模がGDP比2%超という条件は緩すぎるとの考えも示した。 バーグステン氏は「この条件だと、大国、すなわち中国や日本の場合、かなりの規模で介入しても条件に抵触しない」と指摘。 この基準に沿えば、中国は年間最大2000億ドル、日本は1000億ドルの自国通貨売り・外貨買いを行うことが可能だ。 中国が過去15年間の大半において三つの新基準全てに抵触していたことは間違いない。しかし、基準が導入されていたとしても、米政府は中国を為替操作国と認定しなければならなかったわけではない。大統領が違反国への制裁を免除する権限を使えば制裁を課さなくても済む。 それでも、議会は財務省の動きを注視するだろう。基準を厳しくして「監視リスト」に入る国を増やすよう政府に要請する可能性もある。十分積極的に行動しなければ、反TPP派に対し貿易協定の新たな攻撃材料を与えることになりかねない。 関連記事 安倍首相、通貨安競争回避の発言は本心=関係者 円高阻止、介入以外に手立て無しか https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NW519_FXCHIN_M_20160504175720.jpg ECB、貯蓄重視のドイツ国民性を変えられるか ECBのバイトマン理事 ENLARGE ECBのバイトマン理事 PHOTO: REUTERS By TODD BUELL 2016 年 5 月 6 日 08:52 JST 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁とバイトマン理事は不倶戴天の敵として描かれることが多い。ドラギ総裁はインフレ押し上げに向けて大胆かつリスクが多く、一部からは無謀で間違っていると非難される政策を推進する一方、ドイツ連邦銀行(中央銀行)総裁でもあるバイトマン理事は柔軟性に欠けるとも言われかねない従来の正統的な金融政策を支持しているためだ。 両氏は金融政策の適切な軌道をめぐり、時に激しく対立してきた。おそらく最も有名なのは、ECBが2012年、改革を条件として苦戦しているユーロ圏諸国の債券を買い入れるプログラムであるアウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)を導入した時だろう。 だが現在、ドラギ総裁とバイトマン理事はいずれも、懐疑的となる場合もある一般の人々に対し低金利の利点を主張している。両氏のメッセージは、ドイツ人に対し相対的に「ドイツ人」的でない振る舞いを求めているとも言える。つまり、資金の扱いにより大胆になり、貯蓄ばかりせずに健全なリターンを見込んで投資すべきだということだ。 ドラギ総裁は今週2日、フランクフルトでの講演で、「預金や貯蓄口座の金利が極めて低水準でも、貯蓄者は資産を多様化することでなお十分なリターンを得ることができる」と述べた。その上で、米国の世帯は「金融資産の約3分の1を株式に配分している一方、フランスとイタリアではこれが5分の1、ドイツでは10分の1にとどまっている」と指摘した。 一方のバイトマン理事は先週ミュンヘンでの講演で、貯蓄者はただ貯蓄しているだけでなく、「労働し、住宅を建て、また、納税や起業をも行っている」とし、その観点では低金利はそれほど悪くないとの見方を示した。また、自らは中銀による国債買い入れには反対だとしつつ、現在の環境では緩和的な金融政策が妥当だと述べた。 ドイツ国民はおそらく、ドラギ総裁の発言よりはバイトマン理事の発言に好感を抱くだろう。欧州委員会のドロール元委員長が1992年に「神を信じないドイツ人はいるが、ドイツ連銀を信じないドイツ人はいない」と言ったことは有名だ。 だが、多くのドイツ人が長年抱いてきた貯蓄に対する道徳的要請への信念を変えるのは簡単ではなさそうだ。ただ、都市部で価格が堅調に上昇している住宅は例外となる可能性がある。とはいえ、ドイツ人が近い将来米国人のように株式市場への投資に乗り出す見込みは低く、ドラギ総裁やバイトマン理事が何を言おうと、まだしばらくECBの低金利政策に不満を募らせることになりそうだ。 左上:目標政策金利、右上:中銀バランスシート(対GDP)、左下:失業率、右下:インフレ率 (黒:米国、青:ユーロ圏、黄:英国、赤:日本) ENLARGE 左上:目標政策金利、右上:中銀バランスシート(対GDP)、左下:失業率、右下:インフレ率 (黒:米国、青:ユーロ圏、黄:英国、赤:日本) 関連記事 ECBバイトマン理事、超低金利政策を一部擁護 ドラギ総裁の孤軍奮闘、金融政策は無力か ECB追加措置は「行き過ぎ」=バイトマン理事 https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NX178_SNAG_P_NS_20160505204127.jpg
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