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マイナス金利で「円高・株安」の大誤算、ぬか喜び住宅業界の気がかり
http://president.jp/articles/-/17922
2016年5月1日 PRESIDENT Online
■「マイナス金利は追い風」だったはずが
住宅業界がマイナス金利政策の効果に疑心暗鬼を強めている。日本銀行が2月、未知の領域に踏み込んだマイナス金利政策が金融機関に住宅ローン金利引き下げを促し、住宅市場に追い風となるとの期待を裏切っているからだ。その理由は、マイナス金利導入で再び「円安・株高」局面への流れを生みたい政府、日銀の思惑に反し、「円高・株安」に逆作用した結果、株式など資産効果が剥げ落ち、消費者の住宅購買意欲を削いだ点にある。
確かに、消費税8%への引き上げ後、市場回復にもたつく住宅業界は、マイナス金利導入に伴う住宅ローン金利の低下で受注拡大に弾みが付くと期待を膨らませていた。実際、戸建て住宅最大手、積水ハウスの戸建て住宅受注額は2月速報値で前年同月比14%増と、消費増税以降初めて2桁の伸び率に乗せた。阿部俊則社長兼最高執行責任者(COO)は「2月受注にはマイナス金利の影響が出ている」と、素直にこれを評価した。他の住宅大手首脳も「マイナス金利は追い風」と認め、低調な住宅市場にとってマイナス金利は福音に響いた。
しかし、これも長続きせず、積水ハウスの3月受注額速報値は前年の横ばいに沈んだ。大和ハウス工業、住友林業、ミサワホームの住宅大手も3月受注は、軒並み2月の勢いが鈍った。3月は住宅大手のかき入れ時であり各社は例年通り大型イベントを全国で繰り広げたものの、肩すかしをくらった格好だ。
この状況を受け、住宅業界にはマイナス金利が住宅市場回復の起爆剤となるかを疑問視する見方が生まれている。営業の現場は、35年長期固定金利型である住宅金融支援機構の「フラット35」を借り入れた場合、金利低下で最終的な支払総額が十数%減るとの試算を呼び水に、住宅購入の誘い込みに動くが、食いつきは弱い。
■最大の関心事は増税による駆け込み需要とその反動減
金融機関サイドも住宅ローンの新規申し込みよりも、借り換え需要が圧倒的に多く、新規の住宅購入につながっていない。ある住宅大手の企画担当役員は、マイナス金利は「住宅ローン金利の低下で住宅購入を促すきっかけになるかもしれない。ただ、住宅需要の本格回復につながるかは疑わしい」と漏らす。現状を眺めれば、この指摘もあながち的外れといえない。
住宅大手の場合、購入対象は富裕層が主体であり、戸建て住宅の平均単価は3000万円台後半と高額だ。このため、住宅ローン金利の低下より、株高など資産効果が受注につながりやすい。積水ハウスの阿部社長は過去の経験則から「円安・株高になれば、われわれのお客さまは動く」と読む。その意味で、政府、日銀の意図に反した「円高・株安」の“誤算”を招いたマイナス金利は、住宅業界をぬか喜びさせたに過ぎない。
実際、金融機関が一斉に引き下げた住宅ローン金利は、3月31日に3メガ銀行が10年固定型の金利をマイナス金利の影響が一服したとして引き上げた。さらに変動金利型に金利引き下げはなく、マイナス金利下での利用者の恩恵は一過性で終わりかねない。マイナス金利を巡っては、三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長が企業や家計の「懸念を増大させている」とし、“身内”の金融界からも副作用のリスクの指摘が挙がるほどで、金融市場や国民生活に混乱を招くだけとの見方もある。
住宅業界は目下、来年4月の消費税10%への増税に伴う住宅の駆け込み需要とその反動減が最大の関心事で、熊本地震で再延期が視野に入る消費税増税の行方に気が気でない。その意味も含め、生命線だった資産効果を生む機能が逆回転し出したアベノミクスに対する期待感は萎える一方だ。
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