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東芝、ついに原発減損。それでも続く嘘と先送り
大西康之「突撃!ニュースの現場」
2016年4月27日(水)
大西 康之
日経ビジネスオンラインで月曜日にシニア記者が書いた「ニュースを斬る」(東芝、米原発事業の巨額減損で始まる「国有化」)をお読みいただいた読者の皆さんはもうお分かりだろう。
今日(4月26日)は、 あの東芝がついに米原発事業の減損処理を発表する日である。それを決める取締役が今日、開かれる。
シニア記者はお昼前に東芝に電話をした。
「今日の記者会見は何時からですか」
「あの、記者会見があるかどうかも、決まっておりません」
広報部の女性が申し訳なさそうに答える。
「じゃあ、時間が決まったら教えてください。携帯の番号、言っておきます」
「かしこまりました」
(記者会見はあるってことじゃん。この人、いい人だな)
「東芝、3時から記者会見」ええ!!!聞いとらんぞ。
まあ、数千億円の減損ですから。いろいろ準備もあるでしょう。発表は証券取引所がしまってから、午後5時ってところですかね。
ゆったり構えて、恵比寿あたりで取材に勤しむシニア記者の携帯電話が明滅したのは午後2時30分。
「東芝、3時から記者会見」
ええ!!!聞いとらんぞ。
慌てて東芝広報に確認すると「はい3時からです。もう開場しております」
電話くれるって言ったじゃん。着信履歴ないよ。フリーになった途端、この扱いか。
などと愚痴っていても始まらないのでタクシーに飛び乗る。
「どのルートで行きましょう」
「一番早いやつで!」
「頑張ります!」
裏道くねくね、運転手さんは最大限の努力をしてくれたが、浜松町に着いたのは3時5分。39階の会場に着くと、すでに室町正志社長のプレゼンが始まっていた。痛恨である。
思えば長い道のりであった
しかし、今日の記者会見は、日経ビジネス東芝取材班の頑張りがなければおそらく実現していなかったものである。
他の報道機関が「歴代3社長が辞めることだし、そろそろ許してあげようか」と緩み始めた後、日経ビジネスだけは「原発、減損、原発、減損」と恐るべき執拗さで報道し続けた。ようやく、真実の一端が明るみに出るのである。
思えば長い道のりであった。
東芝の不正会計が発覚したのが去年の夏。経団連会長を二人も輩出し「日本のリーダー」と目されていた会社が、なんと2000億円を超える利益の水増しに手を染めていたのである。
なんで?
シニア記者の頭の中はクエスチョンマークだらけになった。だから考えた。事情を知っていそうな人に、片端から話を聞いた。日経ビジネス、東芝取材班の面々とも散々、議論した。
そして、辿り着いた答えが「ウエスチングハウス」だった。
東芝はこの会社を2006年に6000億円超で買収した。
「高すぎるんじゃね?」
市場関係者の多くは疑問を呈したが、東芝は「2015年までに世界で39基を新規受注する」と豪語した。確かに、そんなに受注できるなら、元が取れるかもしれん。みんなそう思った。
だがリーマン・ショックと東京電力の福島第一原発事故を経て、原発の市場環境は氷河期に突入。ぜんぜん売れなくなってしまったのだ。
「やっぱ高すぎたんじゃね?」
決算発表のたびに、アナリストは問い続けた。
会社を買った後で、その会社の価値が下がったら、簿価を時価に合わせる会計処理が必要になる。これを減損という。
「減損やるでしょ?」
アナリストが聞くたびに、東芝は「やりません。ウエスチングハウスは好調です」と強弁してきた。
「じゃあ、財務状況を開示してくれ」とアナリストが言うと「それはできません」と逃げた。
ついに今日、東芝は原発事業での減損を認めた
後でわかることだが、この頃、東芝はインフラやらパソコンやら、あっちこっちの部門で社長に「チャレンジしろ」と脅されて、せっせと利益を水増ししていたのである。
その不正がばれた。(東芝が雇った)第三者委員会が立ち上げられ、不正の全貌を明らかにした(本人談)。だがウエスチングハウスは調査の対象から外された。
「それはおかしいでしょ。一番怪しいのはウエスチングハウスでしょ」
「ウエスチングハウスは好調」と言い張る東芝に対し、日経ビジネスは食い下がった。そしてついに、ウエスチングハウスが単体でこっそり減損していた事実を突き止める。
「ほらみろ、やっぱりあるじゃないか」
それでも東芝は「ウエスチングハウスの減損を開示しなかったのは謝るが、東芝本体が減損する必要ない」と言い続けた。
「いや、それはおかしい。子が1000億円も減損してるのに、親は関係ないって、どんな親やねん」
日経ビジネスはしつこくしつこく食い下がった。
真実というのは、いつまでも隠しおおせるものではない。ついに今日、東芝は「原発事業で2600億円を減損する」と認めたのである。
シニア記者の心は晴れない
完勝、ではある。だがシニア記者の心は晴れない。
ウエスチングハウスの「のれん」に3000億円もの価値がないことなど、2009年3月にはわかっていた。しかし、それを認めてしまえば、債務超過になるほど、リーマン・ショックで傷んだ東芝の財務は厳しかった。だから不正会計に走った。
不正会計が明るみになる過程で、東芝経営陣は「いつかはウエスチングハウスを減損しなければならない」と覚悟したはずだ。だが減損すれば債務超過。そこで資産売却を急いだ。
リストラの常道は不採算事業を切り離し、利益が出る事業に資本と人を集中することである。それこそ、東芝が得意な「選択と集中」だ。
しかし東芝は稼ぎ頭の医療事業をキヤノンに売った。
なぜか。
ウエスチングハウスの巨額減損を控え、キャッシュを積み上げておく必要があったからだ。
記者会見した室町社長はウエスチングハウスの巨額減損について「重く受け止める」と語った。だが、志賀重範副社長は「今回の減損は東芝の資金調達力が落ちたことが原因で、ウエスチングハウスの事業そのものは順調です」と付け加えた。
そう。まだ東芝は全てを語っていないのだ。
ウエスチングハウスの企業価値は「2029年までに64基を新規受注する」というバラ色の計画を根拠に、算定されているのである。
戦後70年。日本に作られた全ての原発が54基。それをはるかに上回る原発を作るというのだ。まあ、そうなれば、確かに大儲けですね。
本気ですか?
東芝の株主や債権者、そしてその頃には年金受給者になっているシニア記者も、バラ色の「東芝劇場」にあと13年も付き合わねばならんのだろうか。
このコラムについて
大西康之「突撃!ニュースの現場」
50歳のシニア記者がニュースの現場に突撃。アナログ感覚で時代を斬る!
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/280248/042600021/
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