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「次世代車開発競争」このままではニッポン敗北の予感… 30兆円規模の市場を作るというけれど
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48526
2016年04月26日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■政府の方針に異を唱えたい
名目GDP(国内総生産)を600兆円に増やすため、第4次産業革命によって2020年に30兆円規模の新市場を創り出す――。
先週の火曜日(4月19日)、政府の産業競争力会議(議長:安倍晋三首相)が決めた成長戦略の骨子に、自動車産業を「第4次産業革命」の重点分野のひとつにして、高速道路での自動走行や、FCV(燃料電池車)の普及を実現する方針が盛り込まれた。
自動車のイノベーション(技術革新)は、先進各国や中国などの新興国が凌ぎを削って先陣争いを繰り広げているテーマだ。官民一体で取り組むという政府の方針に異を唱える人はあまりいないだろう。
しかし、ここはあえて異を唱えたい。今回の成長戦略は、過去の戦略の寄せ集めで新味に欠けるうえ、自動車ユーザー(消費者)に世界イチの“酷税”を課す現状を放置するものだからだ。従来型のガソリン車の購入さえままならない重い税負担を消費者に課したままで、夢のクルマを開発しても普及は望めない。
選挙に強いと言われる安倍政権は、民間への介入を常とう手段として、国民に耳触りの良い話をふりまいてきた。今回の成長戦略も、同じパターンの踏襲に他ならない。
しかし、肝心の足元の矛盾を解決しなければ、日本のクルマ社会の未来は暗いのである。
■「アムステルダム宣言」という好例
GDP600兆円を目指す「次期『日本再興戦略』」は、「新たな有望成長市場の創出・拡大」を合言葉に、「官民戦略プロジェクト10」(仮称)を盛り込んだことが特色だ。
10のプロジェクトには、第4次産業革命を盛り込み、高速道路での自動走行やドローン配送を実現して2020年に30兆円分の付加価値を創出するという。また、FCVの本格普及などをテコに環境エネルギー分野への投資を2030年に28兆円と、2014年の1.6倍に増やすことも盛り込んだ。
スポットライトが当たった自動車関連の2分野は、産業の国際競争力の維持・強化の観点から重要だ。政府が後押しすべき課題があるのも事実である。
その好例が骨子決定のわずか4日前に飛び出した。
欧州連合(EU)が、前日から開催していた非公式の交通協議会で、「アムステルダム宣言」を公表したのだ。欧州委員会が民間の欧州自動車工業会と協力、域内で自動運転車が自由に往来できるよう交通ルールや通信の規格統一を進めていくという内容である。
確かに、自動運転の普及には、運転免許制度をどう見直すのか、事故の責任を誰が負うのか、誘導に不可欠な無線通信の周波数割り当てをどうするかなど、民間企業だけでは解決できない問題がある。
EUは、こうした面でのサポートが不可欠だとして、各国政府間の調整に関与する姿勢を鮮明にしたという。
■日本企業の出遅れ
一方、日本企業が大きく後れをとっているとされる分野もある。従来とは比較にならない高度な地図システム作りは、その一つだ。
この地図は「ダイナミックマップ」と呼ばれるもので、従来のカーナビ用地図では1本の道に過ぎなかった高速道路を車線ごとにきめ細かく網羅したり、これまでは不要だった周囲の歩行者の動きを毎秒捕捉して地図上の情報として更新する技術・システムの開発が不可欠とされている。
インターネット上の地図と言えば、グーグルマップが大きなシェアを持つが、ダイナミックマップで最先端をいくとされるのは、欧州の携帯大手ノキアの傘下企業だったHERE(ヒヤ)社だ。
HEREは昨年8月、アウディAG、BMWグループ、ダイムラーAGの独自動車3社が異例のコンソーシアム(連合)を作って買収したが、水面下では米、欧、独のIT企業が激しい争奪戦を繰り広げたという。
最後までドイツ3社連合と争ったのは中国企業連合だったらしい。日本勢は、この分野で出遅れており、HEREの買収合戦でも手を挙げたという噂話すら出なかった。
日本企業の出遅れに、安倍政権は早くから危惧を抱いていたのだろう。2014年に決めたSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の柱の1つに、自動走行システムを盛り込み、毎年25億円前後の研究開発費を拠出してきた。そして、今回の成長戦略にも、同じ施策を盛り込んだのである。
これに対し、日本勢に限らず自動車メーカーはごく最近まで、自動走行システム作りに消極的だった。理由は明快。自動走行システムは、事故や渋滞を減らす半面、壊れない車を増やすことになり、自動車の買い替え需要を減少させかねないからだ。
この姿勢の見直しを迫ったのは、政府ではない。前述のHERE社を始めとした米、欧、中のIT系異業種企業の周辺分野への参入が相次ぎ、自動車メーカーから成長機会を奪いかねない事態となったことが、変化のきっかけだった。
■政府はFCV普及に大盤振る舞い
同様の構図は、FCVにも当てはまる。最大の激震は、イーロン・マスク氏(米航空宇宙局から、宇宙ステーションに飛行士を輸送する宇宙船の開発企業に選定されたスペースX社の創業者)が率いるテスラ社の攻勢だった。
同社は、「ロードスター」、「モデルS」、「モデルX」など、部分的に自動運転機能を実用化した電気自動車(EV)を続々と市場に投入、既存の自動車メーカーを慌てさせた。
EVへの対抗上、トヨタ自動車は、FCVの市販を急いだ。2014年12月に発売に漕ぎ着けた「ミライ」である。
トヨタ自動車のFCV「ミライ」〔PHOTO〕gettyimages
ほんの数年前まで1億2000万円弱になるとしていた販売価格も、723万6000円(メーカー希望小売価格、消費税込み)と、テスラの「モデルX」を若干下回る設定にした。年産2000〜3000台の「ミライ」は大人気で、注文から納車まで3年待ちとされる。
さらに、ホンダが今年3月、FCVの「クラリティ」を766万円(メーカー希望小売価格、消費税込み)で投入した。日産自動車も来年追随する構えという。
政府はFCVの普及に大盤振る舞いだ。トヨタのミライの購入には、国が202万円、東京都が101万円も補助金を付けている。
■深刻な市場縮小
だが、筆者はイノベーションばかり優遇し、従来型のガソリン車を含む自動車そのものが国民・消費者にとって高嶺の花になっている実態を放置する、政府の対応に首を傾げずにはいられない。
そこで、直視すべき数字が、自動車の国内販売台数だ。日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会によると、2015年度の軽自動車を含む新車の販売台数は2年連続の減少で、493万7734台(前年度比6.8%減)にとどまった。
500万台割れは、東日本大震災の直後の2011年度以来の事態だ。一時に比べれば円高が是正されているため話題にならないが、国内販売の500万台は自動車メーカーの生命線で、これを割れば製造拠点の海外流出に歯止めがかからなくなると言われていた水準である。
もっと遡れば、ピーク(1990年度の777万7493台)の3分の2以下という深刻な市場縮小に、自動車メーカーは見舞われているのである。
自動車市場の縮小の原因は主に3つ。人口減少と、若者層を中心とした雇用不安・実質賃金の低下、そして世界イチの自動車に対する酷税だ。
日本自動車工業会によると、昨年度、車体価格180万円の自動車(排気量1800t、重量1.5トン以下)を購入した人の負担は、自動車税、自動車重量税、自動車取得税の合計で72万2000円。これは、米国(ニューヨーク市)在住の人の34.4倍、フランス(パリ市の登録税と比較)の13.9倍、ドイツの2.6倍、イギリスの1.7倍という。
調査会社FOURIN (フォーイン)は、こうした国内市場の縮小は今後も続き、10年後の2026年度には、販売台数が460万台程度に落ち込むと深刻な市場予測を示している。
地方では自動車が生活必需品なのに、不安定な雇用と少ない賃金が災いして、自動車に手が出ない消費者が増える一方と聞く。
そうした中で、自動車購入に酷税を課すのは、イノベーションを迫られる自動車メーカーから基礎体力を真綿で首を締めるように奪う行為に他ならない。
その一方で、高価格のFCV車などの購入に限って補助金を大盤振る舞いするのは、高所得者を優遇し、格差社会を助長する、社会的にもバランスを欠いた政策の組み合わせではないだろうか。
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