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※日経新聞連載
[時事解析]揺らぐ邦銀の収益基盤
(1)マイナス金利が痛手 潜在リスク高まる
日本の銀行の収益基盤が揺らいでいる。国内業務ではマイナス金利、海外業務ではアジアの成長減速が収益に悪影響を及ぼすことが懸念される。
年初から3月末までに主要銀行の株価は3割近く下落しており、銀行不安が続く欧州銀行の下げ幅を上回った。
市場評価が落ちた一因は日銀のマイナス金利導入だ。もともと邦銀の収益力は主要国銀行で最低水準にある。三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は「資金利ざやはさらに縮小。銀行業界には少なくとも短期的には効果はネガティブだ」と指摘する。
邦銀は収益確保をめざし住宅ローンに注力している。金利が10年固定で1%程度と融資では高めだからだ。残高は1990年の2.5倍の117兆円にのぼるが、所得減で利払い負担が重荷になる借り手が増えている。
足元で急拡大しているのが不動産融資。不動産投資信託向けも含めた融資残高は前年比4.7%増の71兆円強で、全融資に占める比率は15%強と90年代初めを上回る。
銀行は金融緩和が進んだ80年代後半に増やした不動産融資が、90年代の地価下落で不良化し危機に陥った経緯がある。今は当時より金利が大幅に低く、人口減少により地価が下がった場合のリスクをカバーできているのか疑問視されている。
世界の金融当局で構成する金融安定理事会(FSB)は3月末に東京で開いた会議で「多くの銀行の収益性が脅かされている。銀行は低成長、低金利にビジネスモデルをあわせる必要がある」と指摘した。
(編集委員 太田康夫)
[日経新聞4月18日朝刊P.21]
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(2)増える地銀統合 縮小均衡脱せるか
地方銀行の融資の伸び率は年3%強と都市銀行(同0.7%)を大きく上回り、政府の地方創生に協力してきた。ところが日銀のマイナス金利導入による金利低下で、利ざやに縮小圧力がかかる。地銀は信用力がやや低い企業にも厚めの利ざやで融資してきたが、そうしたビジネスモデル維持が難しくなり融資余力が損なわれつつある。
日銀は当座預金のうち、昨年までに積んだ基礎部分に0.1%付利しマイナス金利による収益減を補う。しかし地銀・第二地銀は融資額で都銀を上回るにもかかわらず、基礎部分は都銀の4分の1で収益減が十分に補われない。
経営環境が厳しくなる中で地銀の経営統合が増えている。肥後銀行と鹿児島銀行、横浜銀行と東日本銀行、常陽銀行と足利銀行などだ。金融庁は将来の人口減少を見越した経営の選択肢の一つと言及している。
統合は結果的に融資基準が厳しくなったり、間接部門の合理化で雇用削減につながったりする縮小均衡的な面がある。広域統合すれば、県に本部を置く上場銀行がなくなるなど、地元のイメージや心理への影響もある。
大槻奈那・名古屋商科大教授は「統合しても運用難など本質的な問題は解決できない。給与は高い方にあわせる例がほとんどで、統合効果も限られる」と指摘する。
地銀が期待されているのは、融資増で経済の好循環をもたらすことだ。長期的な健全性は大切だが、それを偏重して融資に慎重になれば、せっかく出始めた地方創生の芽が育たない恐れがある。
(編集委員 太田康夫)
[日経新聞4月19日朝刊P.24]
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(3)アジア業務の誤算 融資戦略見直しも
2008年のリーマン危機後、邦銀はアジア業務を強化した。危機の影響が比較的小さいうえ、危機で傷んだ欧米銀行が業務を縮小したからだ。
日系企業だけでなく、非日系企業との取引も拡大。タイ、マレーシア、インドネシアでは、国別で外資の最大シェアを獲得し、アジアの成長を取り込む体制を整えた。
しかし「アジア経済は中国の経済ショックが飛び火するリスクが高まっている」(シンガポール金融通貨庁)。米国利上げによる資金流出や原油・商品価格の低迷の影響で企業業績が悪化し、マレーシア、中国では国の信用格付け引き下げのリスクもある。
3メガバンクの15年9月のアジア向けリスク管理債権は前年同期比64%増えた。原油や商品価格の低迷で、事業融資(プロジェクトファイナンス)の一部で採算が悪化した。投資適格企業への投融資が中心で、リスク管理債権の比率は今のところ0.2〜1.2%にとどまっている。
ただ現地の銀行の公表不良債権比率(リストラ債権含む)はインドで12%、タイで6%超。今後、中国やシンガポールでの上昇が予想され「資産の質は08年の国際金融危機時より悪化している」(米ゴールドマン・サックス)。邦銀が業務の拠点としてきた香港やシンガポールでは不動産価格が下落しており、融資への影響も懸念されている。
メガバンクの資産に占めるアジア資産は8〜10%。資産悪化が経営を大きく揺らす恐れは小さいが、アジアは戦略分野だっただけに融資戦略の練り直しが迫られている。
(編集委員 太田康夫)
[日経新聞4月20日朝刊P.26]
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(4)国際金融規制の影響 問われる資本の質
メガバンクの健全性を示す普通株等中核自己資本比率は10〜12%と欧米有力行並みだ。ただ資本には無形固定資産なども混じる。制度交渉で資本算入を勝ち取った成果ではあるが、普通株重視の欧米からは実力以上のかさ上げと映る。
各国当局で構成するバーゼル銀行監督委員会は2014年から簡素さや比較しやすさを重視する資本計算の改革に着手。規制資本の計算に、銀行がリスク管理に使っている内部モデルの利用を認め、モデルが高度だとリスク量を減らせる仕組みにしてきた。
メガバンクは内部モデルを積極活用して自己資本比率を約2%上げたほか、金融庁は公的資金投入行や地方銀行にまで内部モデル利用を認めた。資本計算の裁量を増やした結果、同じ資産を保有していても銀行によって資本比率が最大4%異なることが判明。このためバーゼル委は3月に公平性の観点から、多くの分野で内部モデル利用禁止案を打ち出した。
邦銀は「行きすぎた規制強化はコスト増などを通じ金融仲介機能の制約になり得る」(国部毅全銀協会長)との立場。内部モデル廃止にも反対論が根強い。
バーゼル委のウィリアム・コーエン事務局長は「内部モデルは銀行がリスクを過小評価する誘因になる。銀行による差が大きく、銀行の自己資本の充実度を評価しにくくなる」と強調している。
国際的に内部モデルを官民挙げて活用してきた国は日本以外にほとんどなく、廃止論が優勢だ。廃止に近い決着となれば、邦銀が増資を迫られる可能性がある。
(編集委員 太田康夫)
[日経新聞4月21日朝刊P.29]
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(5)くすぶる格下げリスク ドル調達に不安も
邦銀の海外での資金調達が厳しさを増している。昨年末、欧米でプレミアム(邦銀向け上乗せ金利)を払わないと資金調達できなくなった。調達環境は今後悪化する恐れがある。
その背景の一つは、10月に予定される米国のMMF(マネー・マーケット・ファンド)の規制強化だ。邦銀の現地法人などが発行するコマーシャルペーパー(CP)で運用するタイプのMMFの規模縮小が予想される。受け皿が細るためCP発行による資金調達がしにくくなり、邦銀などのドル調達金利に上昇圧力がかかるとみられている。
もう一つは格下げだ。銀行格付けは国の保護もあり、国の格付けに連動しやすい。国の格付けについて米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズは「日本国の信用の質は財政赤字を埋める新たな手法を見つけるまで徐々に悪化する」と指摘する。市場では消費税率引き上げを延期すれば格下げにつながるとの見方が出ている。
国際市場での邦銀の信用供与シェアは国別でトップだ。ただ薄利多売的な融資が多く、利ざやは国内より厚いものの1%程度にとどまる。銀行格下げで欧米銀行が邦銀向け信用供与枠を絞れば、ドル資金の調達金利は一段と上がり、採算割れする融資が増える公算が大きい。
邦銀は1990年代、住宅金融問題や銀行危機でジャパン・プレミアムがつき、海外融資の大幅圧縮を迫られた。銀行業務の核である資金調達で不良債権問題の教訓を生かしたリスク管理ができていたのかが問われる。
(編集委員 太田康夫)
=この項おわり
[日経新聞4月22日朝刊P.27]
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