日経平均が1万7000円回復、原油高と円安定を好感−資源中心買われる 佐野七緒 2016年4月20日 08:05 JST 更新日時 2016年4月20日 09:25 JST20日の東京株式相場は続伸して始まり、日経平均株価は日中ベースで3月31日以来の1万7000円を回復した。国際原油市況の大幅反発やドル・円相場の安定を好感し、石油や鉱業など資源株、鉄鋼やガラス・土石製品など素材株、機械など輸出株中心に幅広い業種が高い。 TOPIXの始値は前日比12.08ポイント(0.9%)高の1375.11、日経平均株価は179円39銭(1.1%)高の1万7053円83銭。その後日経平均の上げ幅は200円を超えた。 19日のニューヨーク原油先物は3.3%高の1バレル=41.08ドルと反発。石油輸出国機構(OPEC)で産油量4位のクウェートで石油労働者のストが3日目に入り、買いが優勢となった。ドル下落に伴う代替投資需要、米国株の上昇も押し上げ材料。銅先物も2.7%高となり、一時は3週間ぶり高値を付けた。 19日の海外為替市場では一時1ドル=109円40銭台を付け、同日の日本株の終値時点109円3銭に対しややドル高・円安が進んだ。原油、株高の流れから逃避需要が後退した。けさは109円10ー20銭台で推移している。また、前日の米国株はエネルギー銘柄中心に続伸、S&P500種株価指数は4カ月ぶり高値を付け、ストックス欧州600指数も1.5%高と海外株式の堅調はけさの日本株に好影響を与えている。 SMBC日興証券投資情報部の太田千尋部長は、「原油価格の4日続落が止まり、リスクオンのムードが多少出ている。産油国会合で合意できず、どうなるか不安があったが、グローバル景気は落ち着いてきている」とみる。 一方、財務省が取引開始前に発表した3月の貿易収支は7,550億円の黒字で、黒字は2カ月連続。市場予想は8,346億円の黒字。輸出は市場予想の前年同月比7%減に対し6.8%減、輸入は16.6%減に対し14.9%減だった。SMBC日興証の太田氏は「市場が見ているのは輸出。マイナス幅が前月の4.0%減に近づいてくれば、日本株にはポジティブ」と話していた。 東証1部33業種は石油・石炭製品、鉱業、その他製品、鉄鋼、不動産、海運、電気・ガス、非鉄金属、ガラス・土石製品などは上昇。ゴム製品や保険、空運、情報・通信は下落。売買代金上位ではソニー、クボタ、任天堂、神戸製鋼所、出光興産、昭和シェル石油、アシックス、国際石油開発帝石は高い半面、ペプチドリームやデンソー、東芝、ヤフーは安い。 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-19/O5WKI16JTSEI01
寄り付きの日経平均は続伸、3週間ぶりに1万7000円回復
[東京 20日 ロイター] - 寄り付きの東京株式市場で、日経平均株価は前営業日比179円39銭高の1万7053円83銭と続伸。取引時間中で3月31日以来約3週間ぶりに節目の1万7000円を回復している。 米ダウ.DJIの上昇や円弱含みなどに加え、米原油先物の持ち直しなどを背景に投資家のリスク回避姿勢が後退。石油関連株や素材株などの上昇が目立ち、東証33業種すべてが値上がりしている。 http://jp.reuters.com/article/nikkei-open-idJPKCN0XH00U 商品相場、昨年8月以来最大の上げ−シティグループが上昇を予想 Megan Durisin 2016年4月20日 09:23 JST 銀は強気相場入り、上げをけん引−トウモロコシは半年ぶり高値 「商品全般が事実上底入れしている」:シティグループ 原油や大豆など商品市場全般で供給懸念が再び高まりつつあり、相場は昨年8月以来で最大の上げとなった。 商品22品目で構成するブルームバーグ商品指数は19日、前日比2.4%上昇し82.6543。昨年8月27日以来最大の上昇率となった。ニューヨーク市場の原油価格は一時4.4%上げ、トウモロコシは半年ぶりの高値に達したほか、銀は強気相場入りした。 供給過剰が緩和し始める中、5年連続で下落していた商品相場は回復しつつある。天候不順で南米の大豆生産が脅かされているほか、ラニーニャ現象のスタートで米穀物産地が乾燥天候に見舞われる可能性がある。クウェートでは、石油生産施設の労働者らの賃金をめぐるストが3日間続いた。シティグループは今週、中国の需要とドル相場下落も商品価格安定につながるとの見通しを示した。 BB&Tウェルス・マネジメント(アラバマ州)でシニアバイスプレジデントとして170億ドル(約1兆9000億円)相当の運用に携わるウォルター・ヘルウィグ氏は「底入れを宣言するのは難しいが、価格を押し上げているポジティブなファンダメンタル要因、つまり、米金融当局の政策の停滞や世界経済の成長改善、売られ過ぎの状態に注目するのは重要だ」と指摘。「多くの状況がそろっている」と述べた。 シティグループのアナリストらは「商品全般が事実上底入れし、通常の状態に戻ろうとしつつある兆候が増えている」との見方を示している。 原題:Commodities Post Best Rally Since August as Citi Sees Gains(抜粋) https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-20/O5WL6J6KLVR401
2カ月連続の貿易黒字、原油安で3月−熊本地震は今後赤字要因の見方 下土井京子 2016年4月20日 09:01 JST 輸出から輸入を差し引いた日本の貿易収支は3月速報で、予想通り2カ月連続の黒字となった。原油価格下落を受けた輸入の減少額が輸出の減少を上回った。 財務省が20日発表した貿易収支は7550億円の黒字だった。ブルームバーグ調査の予想中央値は8346億円だった。輸出は前年比6.8%減の6兆4566億円、輸入は15%減の5兆7016億円。2015年度は1兆792億円の赤字になった。東日本大震災を受けた11年度から5年連続赤字だが、原油安に伴う輸入減で赤字額はこの間で最小。 1−3月期の貿易収支は震災後初の四半期黒字となった。3月の季節調整値も2765億円の黒字となり、5カ月連続でプラスになった。東日本大震災が発生した11年3月から季調済み貿易収支は赤字が続いたが、昨年11月分から黒字に転換した。 SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、原油安による輸入減で1兆662億円の貿易黒字を発表前のリポートで予想した。この通りなら1−3月期実質国内総生産(GDP)の外需寄与度は機械的に年率0.5ポイント程度のプラス要因としている。4月以降に出てくる熊本地震の影響は「生産能力が減ることで輸出が減少し、輸入代替が増えることも考えられる。どちらかというと赤字化要因だ」と述べた。 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-20/O5TFU86JTSEL01 貿易収支、3月は7550億円の黒字 15年度は1兆0792億円の赤字
[東京 20日 ロイター] - 財務省が20日発表した3月貿易統計速報によると、貿易収支(原数値)は7550億円の黒字となった。黒字は2カ月連続。 輸出は前年比6.8%減の6兆4566億円。6カ月連続で減少した。減少品目は鉄鋼(28.6%減)、有機化合物(24.4%減)、金属加工機械(27.8%減)など。 輸入は同14.9%減の5兆7016億円。15カ月連続で減少した。減少品目は液化天然ガス(43.7%減)、原粗油(36.1%減)、石油製品(46.3%減)など。 地域別では、中国向け輸出は同7.1%減、米国向け輸出が前年比5.1%減だった。 ロイターが民間調査機関を対象に行った調査では、予測中央値は8346億円の黒字。輸出は前年比6.9%減、輸入は同16.2%減だった。 また、同時に発表された2015年度の貿易収支は1兆0792億円の赤字だった。赤字は5年連続。 http://jp.reuters.com/article/trade-balance-idJPKCN0XH012 経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層 【第206回】 2016年4月20日 高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト] 円高を招く鬼・米国の顔色を うかがう日本は「我慢の1年」に 「鬼」の米国が振り向いて円高に「達磨さんが転んだ」を振り返る
アベノミクス開始以来の円安トレンドの転換は、まさしく「達磨さんが転んだ」の鬼にあたる米国サイドの影響によるものだ 2月以降、急速な為替の円高が進み、110円を割る水準になった。筆者が為替を分析する上で長らくストーリーラインとしてきたのは、「達磨さんが転んだ」というもので、中期的なトレンドの転換は「鬼」である米国サイドにあるとするものだった。
本論での認識は、今回、米国は強い意志をもってドル安に向けた調整を行ったとするものだ。筆者のストーリーラインは、米国は2007年以降のような本格的なドル安誘導を続ける局面には至っていないものの、一旦ドル安に舵が切られた以上、市場はどこまでの円高があるかを試す局面が続くとするものだ。具体的な水準感としては、100円を割るような大幅な調整には至らないとの認識にあるが、年内、円高の底を探る神経質な状況が続くと考える。 振り返れば、図表1のEで示したように、2007年以降、米国が大恐慌以来のバランスシート調整に陥ったことで量的緩和であるQE1、QE2、QE3を用いて自国通貨安政策を行ったことが、超円高につながった。一方、2012年後半以降、米国が自国通貨安政策を転換させたことで、図表Fで示したように為替の転換が生じた。アベノミクスとは丁度、米国経済の回復、為替政策の転換に沿って生じたものだった。 今回は図表Gの局面にあり、120円台まで至った円安トレンドが「達磨さんが転んだ」状態となり、10円以上のドル安調整が生じた。2月のG20は米国のドル安調整を暗黙裡に許容したものと評価することもできる。同時に、米国が円安調整に抵抗感を示す以上、日銀がもう一段のマイナス金利を用いても効果はないだろう。ただし、図表Eの2007年以降のように、再び本格的なドル安トレンドに戻ったものではないというのが筆者の認識だ。 ◆図表1:円ドル為替推移 (資料)Bloombergよりみずほ総合研究所作成 追加利上げ観測を抑制 米国はリセッションには至らず
もちろん、仮に2016年以降、米国が景気後退に陥って再び金融緩和に戻り、利下げや、極端に言えばマイナス金利政策を行えば、図表F以前の状況に戻ってしまうリスクもある。ただし、最近の米国の経済指標を振り返ると、製造業の輸出に底入れの兆しが見える。依然非製造業のマインドも底堅いなか、米国がリセッションに落ち込むリスクは限定的だ。3月のFOMCで追加的利上げ観測を抑制し、一定水準のドル安に誘導したというのが米国の政策当局のシナリオだろう。 アベノミクス初の 想定レートを超える円高の行方 図表2は、円ドル相場と想定為替レートの推移である。今回、為替が10円以上円高に調整したことで、2012年10月以来初の想定レートよりも円高局面になった。すなわち、アベノミクス始まって以来の想定レート超えの円高だ。アベノミクスの過去3年余の株価底上げは、図表にあるように、常に「想定レート以上の円安→企業業績の上方修正→株高→マインド改善」という好循環によってもたらされた。今回、この好循環に断絶が生じ、海外投資家主導で大幅な株価水準の調整が生じた。問題は、図表2の2007年以降のように、想定レートを上回る円高トレンドにより株価下落基調に戻ってしまうかどうかだ。 ◆図表2:ドル円相場と想定為替レート推移 (注)想定為替レートは日銀短観の全産業、全企業ベース。上期は6月調査、下期は12月調査の想定レートを参照。 (資料) 日本銀行、Bloombergより、みずほ総合研究所作成 「鬼」である米国の顔色を うかがう我慢の年に
前述のように、米国がリセッションを回避し、ドル安傾向にまでは戻らないとすれば、日本株が一旦調整してもそれ以上の大幅な調整にはなりにくいだろう。ただし、今回、米国は強い意図をもって一定水準のドル安誘導を行った可能性が高い。 昨年来、欧州、日本のマイナス金利による自国通貨安、さらに隣国・カナダのカナダドル安誘導や、中国の人民元安により、一極集中のドル高に米国も断固たる姿勢で一定の調整を仕かけざるを得なかった。それは、日本のマイナス金利による円安誘導に対する反対の意思表示とも言える。 また、ユーロに対しても同様の姿勢だ。その結果、「達磨さんが転んだ」の鉄則から見て、「鬼」であるアメリカが円安を好まない以上、日本がいくらマイナス金利幅を拡大させても円安にはなりにくい。 今後、100円割れのような極端な円高にはなりにくいにしても、円高不安が続く状況を覚悟する必要はある。また、米国経済の不安があれば、100円前半のリスクもあり、なかでも今後トランプ氏が大統領候補としてより有力になる場合は、もう一段の円高リスクを覚悟する必要もあるだろう。 今年は日本にとって我慢の年。「鬼」である米国の顔色をうかがう年になりそうだ。 http://diamond.jp/articles/print/89918
地政学リスク 【第2回】 2016年4月20日 倉都康行 [RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社代表取締役] サウジ王家崩壊やプーチン失脚で 資本市場や市場経済にどんな影響が?! 現代地政学リスクの“ブラック・スワン”【前編】 2008年のリーマン・ショックのように、資本市場における「ブラック・スワン」の存在やその影響を正確に予測することは困難である。地政学の問題となれば、さらにその難易度は急上昇する。しかし、予測すること自体は無駄にはなるまい。今回から2回にわたり、現代の地政学における“ブラック・スワン”を検討してみたい。 米国のラムズフェルド(1932〜)元国防長官は、安全保障に関する情報には「Known Known」と「Known Unknown」、そして「Unknown Unknown」の3つがある、と述べたことがある。「Known Known」とは、「自分が知っていると自覚している」、そして、「Known Unknown」は「知らないと自覚している」。さらに、「Unknown Unknown」とは、「知らないことすら気づいていない」情報がある、ということを意味している。 この分類は、資本市場の見方にも当てはまる。 地政学と経済の関わりの深さでいえば、外せない原油価格。その関連で“あり得ない”リスクとは? (原油を巡る地政学リスクの歴史と構造に関する詳細は、『地政学リスク 歴史をつくり相場と経済を攪乱する震源の正体』参照) たとえば投資家は、原油価格がサウジアラビアなど産油国の戦略で大きく変化することを知っている。これは「Known Known」であり、エコノミストや投機筋もこのリスク計算の土俵で勝負している。
一方で、OPEC内部でどんな協議が行われたのか詳細には分からないということも知っている。それが「Known Unknown」である。インサイダーでない限り、この類の情報を仕入れることは難しい。いわば、計算できないリスクである。 さらに、それ以外にも価格を大きく動かす理由があるかもしれないがわれわれはその存在を知らない、ということも考えられる。それが「Unknown Unknown」なのであり、市場では「サプライズ」といった表現をされることもある。ここ数年、資本市場の価格変動率が急上昇しているのは、レバレッジ運用(借入れを利用した運用)がそんな「Unknown Unknown」に対してパニックを起こし、ポジションを急激に縮めようとする力が働いているからだ。 一見、言葉遊びのようにも思えるが、同氏によるこの分類は現代社会が直面している地政学リスクを極めてうまく言い当てている。 それを別の言葉で言い表したのが、ナシーム・ニコラス・タレブ(1960〜)が書いた『ブラック・スワン』であろう。 「ブラック・スワン」とは文字通り「黒い白鳥」であり、地球上には存在しないと思われていたが、17世紀末に豪州で発見されたという。その事実からタレブは、一般にはあり得ないと思われる予想不能の現象を「ブラック・スワン」と呼び、それがひとたび起きればシステムに強い衝撃を与え、かつ事後的には当たり前のように記述されるようになることを説いた。 2008年のリーマン・ショックのように、資本市場における「ブラック・スワン」の存在やその影響を正確に予測することは困難であり、地政学の問題となればさらにその難易度は急上昇する。だが、頭の体操を兼ねてその候補リストを作成してみることは、決して無駄な作業ではあるまい。今回から2回にわたり“現代の地政学リスク”5つを紹介していく。ただし、これらは筆者が現時点で思いついた点に過ぎない。読者はさらに想像力を働かせ、感覚を研ぎ澄ませて、21世紀の地政学リスクに対応していただきたい。 1.サウジ王家の崩壊リスク 中東の地政学リスクの代表格は、拙著『地政学リスク 歴史をつくり相場と経済を攪乱する震源の正体』で詳述したが、イスラエル、シリア、イラン、エジプトなどをめぐる政治的不安定性とISによる軍事展開である。 これに対して、最大の原油産出国であり治安が維持されているサウジアラビアは、米国のバックアップもあって政治的な安定性が保たれている。アラブの春が、サウジアラビアに飛び火することもなかった。中東が多くの火種を抱えているにもかかわらず微妙な均衡を維持し得ているのは、このサウジアラビアの中軸的存在によるところが大きい。 だが、サウジアラビアの「王国」としての存立基盤は決して盤石なものではない。現在、同国を取り巻く外部環境としてのリスク要因は、原油市場(価格低迷の長期化)と米国との関係変化、そしてイランとの対立(スンニ派とシーア派の対立)という3点である。 イランとの関係に関しては、2016年初頭にテロに関与したとしてサウジアラビアがシーア派宗教指導者らの死刑を執行したことで、猛反発したイランの群衆がテヘランのサウジアラビア大使館を襲撃する事件が起きた。サウジアラビアはイランとの国交断絶を宣言し、両国の対立が新たなステージに入った可能性は高い。そして欧米の対イラン経済制裁の解除でイランの経済力が高まれば、中東全体の政治経済的均衡が崩れることも想定される。 こうした不安定要素に加えて、国内にも潜在的な波乱要素があることは忘れてはなるまい。サウジアラビアが1932年に建国された際にサウード王家が主役となり得たのは、諸部族の抵抗を補助金というカネの力で懐柔したからである。原油が発見されてから、その統治方式はますます鮮明になっていった。現在、サウード王家を支えている国内構造は、石油関連収入からなる利益再配分のシステムとワッハーブ派の首長という力学である。 サルマン国王(1935〜)が示す次世代への道程は内外で評価されているようだが、王家の間では実子のサルマン副皇太子への人事に関して不満が鬱積しているとの見方もある。それは、同副皇太子に外交や軍事、エネルギーなどの重要な施策に関する権限が集中する傾向にあるからだ。 シリア問題に関するロシアとの会談やフランスとの原発建設に関する協議、イエメンへの介入政策の旗振り役など、サルマン副皇太子のプレゼンスに戸惑いや反発を覚える王族は少なくない、と英『エコノミスト』誌は指摘する。米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は同副皇太子がナーイフ皇太子を抑えて次期国王になる可能性を示唆しているが、それがサウード王家の内部抗争に火を付けることも想定される。 その際に最も懸念されるのが、原油価格の長期的下落による歳入減とそれに伴う既得利益の喪失であろう。再配分システムが機能しなくなれば、王家の正統性にも揺らぎが生じるかもしれず、サウジアラビアの内政が不安定化すれば、一気に中東の秩序を揺さぶることにもなりかねない。 それがどのような状況をもたらすのか筆者の想像の及ぶところではないが、同国が原油戦略を180度転換することもあり得るだろうし、ロシアや米国との関係が変化することもあるかもしれない。確実なのは、サウジアラビアの安定性を大前提として動いてきた国際資本市場が、こうした急展開に対して冷静な対応を採るのが容易でないことであろう。 したがって、サウジ内政に大きな変化が起きれば、まず株式市場において強烈な「リスクオフ」の売りが生じ、その結果として円買い、スイスフラン買い、金買いといった動きが加速する可能性がある。また、原油供給体制の不透明感から原油価格が急騰し、債券価格が急落(金利は急上昇)するといった波乱を通じて実体経済に悪影響を及ぼすことも想定されよう。 2.プーチン大統領の失脚リスク ソ連と米国が世界を二分する大国であった時代は過ぎ去り、ソ連崩壊を経て21世紀は、米国の一極主義に中国が対抗意識を強める新たな「G2時代」を迎えつつあるように見える。だがロシアは、依然として大国としてのプライドを捨ててはいない。プーチン大統領が巧みな外交政策を通じて、世界に対して一定の影響力を保持しているのは周知の通りである。 大統領の任期は連続2期までとのロシア憲法の定めにより、2008年には第一副首相であったメドベージェフ(1965〜)が大統領の座に就いたが、政治の舞台に留まるプーチンは首相となって事実上の院政を敷いた。そして2012年には再び大統領選挙で3期目の大統領の座に就き、憲法を改正してその任期を4年から6年に延長したのである。 したがって、3期目の任期終了は2018年となり、2期連続となれば2024年まで大統領の座に留まることが可能になった。すなわち、理屈の上ではプーチン大統領が四半世紀にわたってロシアの指導者として君臨する、というシナリオが描けることになる。 1998年に破綻したロシア経済の復興、そしてクリミア編入やウクライナ東部への武力支援、およびシリア内戦や対IS攻撃のイニシアティブといった対外的な強硬姿勢は、ロシア国民のプーチン礼賛の基本的要因である。一方で、欧米だけでなく国内でもプーチンの経済運営に対する不満が徐々に蓄積されていることは否めない。 その主因は、国内景気の悪化である。 現時点でそれがプーチン批判に集結しないのは、経済的疲弊は欧米によるロシア制裁によるものだ、との主張が受け入れられているからだ。ウクライナ問題は、そもそも米国が引き起こしたクーデターであるとの理解が同国内では一般的である。シリア内戦も欧米が無理やりアサド政権を崩壊させようとしているから起きたものだ、との見方が定着している。国民の大半にとって、プーチン大統領はそうした非合理的な外圧に対する頼もしい防波堤なのである。 だが、同大統領も油断できない状況にある。 2015年末に承認された国家安全保障戦略において、ロシアはNATOと米国を「ロシアに対する脅威である」と明示したのである。これは、新冷戦の幕開けを予感させると同時に、国内に「アラブの春」のような反体制運動が拡大することへの強い警戒感を示している。 仮にプーチン大統領が表舞台から去るような事態になれば、強いリーダー不在のロシアへの不安が、資本市場に渦巻く可能性もある。中長期的には欧米との妥協への道が拓けるかもしれないが、機関投資家は目先の問題として同国政治経済の不安定化を懸念し、1998年のようなロシア危機の再来を思い浮かべる局面もあるだろう。 その場合は、「新冷戦」解消への期待感から、直感的にドル買いが連想されるかもしれない。ユーロ下落に伴う円のつれ高というシナリオもあり得るだろう。ロシア混迷の影響を受けやすい欧州から米国へ、すなわちユーロからドルへという資本の流れも予想される。ポスト・プーチン体制としての政権基盤が固まるまでは、欧州売りが続きそうだ。 http://diamond.jp/articles/-/89881
先進国の就業率、危機以前の水準に回復=OECD 雇用センターの前に並ぶ求職者(アテネ) By PAUL HANNON 2016 年 4 月 20 日 08:28 JST 経済協力開発機構(OECD)は19日、先進国の生産年齢人口(15歳から64歳)の就業率が2015年10-12月期にようやく金融危機以前の水準に戻ったことを明らかにした。 就業率は08年の金融危機を受けて急低下し、10年に底入れした。それから緩やかながら着実に上昇している。 そして15年10-12月期には生産年齢人口の就業率が66.5%となり、米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻直前に当たる08年4-6月期と同じ水準に達した。 就業率が7年余りを経て危機以前の水準まで上昇したことは、世界経済が引き続き危機のトラウマから回復していることの表れである一方、危機がどれほどの被害をもたらしたか思い出させるものでもある。 OECDによると、先進国の回復の度合いには大きな開きが見られ、日本とドイツ、英国では就業率が危機以前を上回ったが、米国とユーロ圏全体はまだその水準を超えていないという。 金融危機後のソブリン債務危機で最も痛手を被ったユーロ圏加盟国は、就業率が08年の水準から最もかけ離れている。 OECD加盟国で最もかけ離れているのはギリシャで、15年10-12月期の就業率は08年4-6月期を10ポイント以上も下回っており、生産年齢人口の約半数が失業している。 ポルトガルは4ポイント、スペインは6ポイント強、それぞれ下回っている。 ここ2年で最も急成長を遂げた先進国アイルランドでさえ、危機以前の就業率をまだ4ポイント余り下回っている。 一方、ハンガリーをはじめとする中欧・東欧諸国の多数では就業率が大幅に上昇している。ハンガリーの就業率は08年4-6月期の56.3%から15年10-12月期は64.7%へ上昇した。ポーランドとチェコ、スロバキアでも大幅な上昇を記録した。 関連記事 OECD景気先行指数、世界経済の成長鈍化を示唆 経済改革の取り組み減速に警鐘=OECD OECD、政府投資支出の拡大呼び掛け−世界経済見通しは下方修正 https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NP749_oecd04_M_20160419064630.jpg
米債券市場、FRBの警告を意に介さず 米ボストン地区連銀のローゼングレン総裁 By MIN ZENG 2016 年 4 月 20 日 09:39 JST ある米連邦準備制度理事会(FRB)当局者が利上げについてあらためて警告を発したが、金利市場は聞き流しているようだ。 米ボストン地区連銀のローゼングレン総裁は18日、今後数年間に予想されるFRBの利上げ回数について、トレーダーや投資家は極めて過小評価していると指摘した。 だが、この警告は少なくとも今のところ聞き捨てにされている。 投資家やトレーダーがFRBの政策予想を反映させるフェデラルファンド(FF)金利先物市場は、年内に1度の利上げしか織り込んでいない。CMEグループのデータによると、同市場が織り込む6月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ確率は20%にとどまる。1カ月前は17%だった。 今年12月のFOMCでの利上げ確率は、1カ月前の51%に対して62%となっている。 年初の混乱を経て市場に落ち着きが戻った大きな要因は、FRBが利上げをゆっくり進めるという期待だった。 米国債利回りは過去最低付近で取引されている。持続的な低利回りにドル安が重なり、投資家はよりリスクの高い市場での利益獲得を促されており、米株価指数は2015年5月に記録した過去最高水準に迫っている。 市場心理の改善で新興国の株式や債券も押し上げられている。注目すべきはアルゼンチンで、19日に発行されたドル建ての国債には旺盛な需要が集まった。同国にはデフォルト(債務不履行)した過去があるため、これは驚くべきことと言える。165億ドル(約1兆8000億円)という今回の起債規模は新興国としては過去最大で、引受幹事には700億ドルに上る注文が集まった。 レイモンド・ジェームズの債券資本市場責任者、ケビン・ギッディス氏は「債券市場はFRBよりも事情をよく分かっていると感じており、今の実績でそれを証明できると考えているようだ」と指摘した。 RJオブライエン&アソシエーツの金利先物担当バイスプレジデント、アレックス・マンザラ氏は、ローゼングレン総裁のようなFRB当局者の警告ではイエレン議長の発言にかなわないと指摘した。議長は3月下旬、不透明な世界の見通しを踏まえて慎重に利上げするというメッセージを投資家に発信した。 一部のアナリストは、FRBが約10年ぶりに実施した昨年12月の利上げが年初の市場混乱につながり、米国株は史上最悪の年明けになったと主張している。 ボヤ・インベストメント・マネジメントのチーフ市場ストラテジスト、ダグラス・コート氏は「議長が事を荒立てるとは思わない」と述べた。 FRBがゆっくり行動する一方で、欧州中央銀行(ECB)と日本銀行は金融緩和を継続している。ECBは21日に次の理事会を開き、FRBと日銀は政策会合を来週に控えている。 それでも、FRBがいずれ現在の大方の予想より速いペースで利上げした場合、債券市場は打撃に見舞われると指摘する向きもある。 投資家が新たな情報に適応する中、今年の金利先物市場は荒い動きとなっている。FF金利先物は2月初め、年内の利上げはないと予想するようになったが、その後市場の混乱が落ち着くと再び利上げを織り込み始めた。 関連記事 米利上げペース、市場は過小評価=地区連銀総裁 米利上げ、市場の見込み違いに要注意 FRB、市場の想定より早期の利上げも=ボストン連銀総裁 https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NP603_0418ro_M_20160418165924.jpg コラム:中国不動産市場、中小都市の過剰供給は依然深刻 Rahul Jacob [香港 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国の不動産市場が盛り上がっている。主要都市の価格は急速に上昇。全国的にみると、3月の住宅用不動産は1年前に比べ約5%値上がりしている。しかし、売れ残り物件が積み上がっており、持続的な建設ブームが起こりえないことを示している。 中国の不動産市場は国家そのものと同様に多様化している。大都市の土地供給が限られていることは最近の驚くべき価格上昇の要因だ。深センでは、3月の住宅価格が前年比で62%も高騰。上海も25%値上がりした。 ただ、オックスフォード・エコノミクスによると、販売の約95%は大都市以外が占めており、大都市の動向は市場全体にとってみればあまり大きな問題ではない。中小規模の都市は依然として住宅の深刻な供給過剰に苦しんでいる。土地の売却に熱心な地方政府と組むことも多いデベロッパーは住宅在庫が需要を上回ることを許してきた。実際、こうしたいわゆる「三線都市」の不動産価格は過去1年で小幅に下落した。 ノムラの推計によると、三線都市の住宅供給問題を処理するには27カ月かかる見通し。これでも2014年末時点の40カ月から改善した。 政府は需要を押し上げるため、1軒目の住宅購入者を対象に最低頭金比率を引き下げたり、2軒目の購入者を対象に規制緩和を実施したりしてきた。購入者による資金の借り入れもしやすくなっている。一部の小都市では、当局が不振のデベロッパーから住宅を購入し、割引価格で低所得層に販売することも行っている。 こうした刺激策により、中国の住宅着工は3月に22%増えた。ただ、建設活動の活発化は小都市の供給過剰を悪化させるだけとなるだろう。中国の大都市で住宅価格が上昇したとの報道は、鉄鉱石といったコモディティー需要が好転するとの期待を高めているが、こうした期待は短命に終わるだろう。中国の不動産市場は既に過剰に刺激されている。 *筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。 http://jp.reuters.com/article/column-china-property-market-idJPKCN0XH00D
宿輪ゼミLIVE 経済・金融の「どうして」を博士がとことん解説 【第34回】 2016年4月20日 宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト] 中国の為替政策は「対ドル人民元高」 「通貨バスケット」が好きな中国 金融、特に鉄火場ともいえる金融市場に関しては、経済理論よりも、現場で実際にやってみなければわからないことがたくさんある。実務経験が重要で、それがないと実際の金融市場の理解はおぼつかない。 中国当局は現在、人民元を、後述する「通貨バスケット」を参考に運営している。しかし、筆者のディーラー経験から見ても、現場では通貨バスケットを念頭としたディーリングは非常に面倒くさく、結局は対ドルの取引にシフトしていくものである。中国の通貨当局も市場をにらみ、ドルに連動させた人民元高政策を進めるものと考えられる。
そもそも通貨バスケットとは何か? 通貨バスケットとは、様々な通貨をバスケット(かご)にまとめるかのように、加重平均した人工的な為替レートのこと。自国通貨を通貨バスケットに固定(連動)させる、あるいは参考にする通貨制度を、通貨バスケット制という。加重平均の比率は、一般的には貿易量等に応じて設定することが多い。また、この算出された加重平均のレートと一定の変動幅(ターゲットゾーン)を設けることもある。 為替政策で通貨バスケットを使う理由は、米ドルなど一つの通貨に連動させるよりも変動が穏やかになることに加え、その国の経済の対外関係がより正確に反映されるメリットがあるからだ。逆にいうと、為替レートに対するその国の通貨(金融)政策の影響は少なくなるという特徴がある。 中国当局は通貨バスケットがお好き 先日、筆者は上海郊外の住宅街にある中国外貨取引センター(CEFTS: China Foreign Exchange Trade System )を訪問した。一般的にインターバンク(金融機関間)の為替取引(ディーリング)は、以前はボイスブローカー(人)経由や直接電話取引が行われていたが、最近では電子ブローキングシステム(Electronic Broking System:EBS)経由で取引されるようになっている。しかし、中国では電話などのネットワークで自由に取引ができるわけではなく、インターバンク為替取引も、先物取引のように“取引所内”で取引・管理されている。その取引所に当たるのが、中国人民銀行傘下の組織CEFTSである。
現在、取引されている通貨は14通貨(表参照)で、ここで成立した取引は上海清算所(SHCH:Shanghai Clearing House)に送られる。このような仕組みで、中国ではインターバンク取引のリスクの管理・低減を可能にしているわけだ。 中国の通貨・国際金融政策を詳しく確認してみると、非常によく先進国の金融市場について勉強した様子が感じられ、通貨バスケットを好むという傾向がある。以前から、人民元を「構成比率未公表の通貨バスケット」に連動させており、これは、シンガポール通貨庁と同様の仕組みだ。 さらに、「BIS(Bank of International Settlement:国際決済銀行)の通貨バスケット」も参考として発表しており、また、人民元の国際化・基軸通貨化戦略に基づいて参加することになったIMFの「SDR(Special Drawing Right:特別引出権)」も、当然のことながら通貨バスケットだ。中国の周小川人民銀行総裁が、通貨制度は米ドルではなく、SDRに連動すべきだと主張する論文を書いたのは記憶に新しいところである。 このように、中国は経済が大きくなり、人民元も国際化する中で、通貨制度自体も試行錯誤を行っているのだ。しかも、米ドルの影響を弱めようとする方向性も感じられる。 構成比率を発表しない通貨バスケットについては、恐らく裏打ちはあるのだろうが、半面で為替レートを操作するのにも使える、ともいえる。同じ仕組みを採用するシンガポールの金融政策には特徴があり、いわゆる「金利」を操作する政策を持たない。 シンガポールの金融政策は、香港と同様に中央銀行と財務省を合わせた通貨当局・シンガポール通貨庁(MAS:Monetary Authority of Singapore)が担当しており、景気対策と物価対策を「為替レート」の操作で行う。景気を良くしたい(輸出を伸ばしたい)ときには為替レートを引き下げ、物価を下げたいときには、シンガポールは輸入品が多いので為替レートを引き上げる。この実体経済を重視した政策を、中国も導入しようとしたのだろう。 中国の通貨制度、修正の歴史 人民元が大幅に下落した今年1月、CSFTSは計算した実需に基づく比率通貨バスケットを発表し、あくまで「参考」としている。貿易を中心とした実体経済に対しては有効なものであるにもかかわらず、だ。なぜ「参考」としているのかというと、それは投機筋等の国際投資の流れが、先に述べたように「対ドルレート」に注目するからである。 中国はSDRへの参加のためにも、急ピッチで国際化を進めている。いままでも海外のマネーの影響は受けてきたが、今後はさらに国際資本移動(投機)を受け入れなければならない。国際資本移動は、中国では熱貨(ホットマネー)とも呼ばれ、通貨制度を揺るがしてきた。 筆者は国際通貨制度、特に中国の通貨制度を長年研究してきたが、中国は通貨制度を固定から変動に変えると、そのたびに偶然1997年のアジア通貨危機や2008年のリーマンショックなどの危機が発生して、対ドルの対応がなされ、固定に戻すことを余儀なくされてきた(詳細は、弊書『通貨経済学入門』(日本経済新聞社)P177以降を参照)。 最近の人民元の運用は 冒頭で述べたように、ある国で国際資本移動が盛んになるほどに、通貨政策は通貨バスケット連動から対ドル連動へとシフトする傾向が高まる。実際に金融市場の取引でも、面倒くさい通貨バスケットは使われなくなる傾向がある。たとえばユーロ導入前の欧州では、ECU(European Currency Unit)という通貨バスケットと自国通貨の関係を管理していたが、管理の面倒くささから、欧州域内の基軸通貨であった西ドイツマルクとのレートを管理することが主流になっていった。 しかも、人民元は国際化しているため、ソロスを始めとする投資家(投機家)の資本移動(熱貨)と対決しなければならない立場であり、その場合、対ドルレートを意識し上げていくことが大事になってくる。実際、1月の下落以降、対ドルレートを上げてきている。 最近の状況的にも、米利上げ観測の後退で人民元の下落圧力が一時的に緩んでいるます。直近3月では、米ドルを売って人民元を買う為替介入が減り、外貨準備も5ヵ月ぶりに増加。さらにG20においても、中国は人民元の安定(下落させないこと)を約束した。 長期的に見ると、中国には5ヵ年計画を超える2つの経済計画がある。一つは経済規模で世界一になろうとする100年計画。そしてもう一つは人民元を基軸通貨にする30年計画だ。習近平国家主席はこの2つの長期計画を進めている。 100年計画の目標は経済規模で、米ドル建てGDPで測られる。2010年に日本を抜いて2位になり話題になったのは記憶に新しい。最近では中国の各省の目標もGDPで評価をしている。習近平国家主席は人民元高を好んでいたとも伝えられ、それもドル建GDPが上昇すればするほど、目標に対する評価は上がったわけだ。 つまり、CEFTSの「通貨バスケット」は平時の実体経済の調整のため、「対米ドル」の対応は国際資本移動対応のために運用されると考えられる。今後も中国は国家的な目標達成のため、原則として中長期的には通貨政策として人民元を対ドルで切り上げていくというのが十分考えられる。 ※「宿輪ゼミ」は2015年9月に、会員が“1万人”を超えました。 ※ 本連載は「宿輪ゼミ」を開催する第1・第3水曜日に合わせて、リリースされています。連載は自身の研究に基づく個人的なものであり、所属する組織とは全く関係ありません。 【著者紹介】 しゅくわ・じゅんいち 博士(経済学)・エコノミスト。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。4月より現職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、4月で10周年、開催は200回を超え、会員は“1万人”を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書には、日本経済新聞社から(新刊)『通貨経済学入門(第2版)』〈15年2月刊〉、『アジア金融システムの経済学』など、東洋経済新報社から『決済インフラ入門』〈15年12月刊〉、『金融が支える日本経済』(共著)〈15年6月刊〉、『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)、『証券決済システムのすべて(第2版)』(共著)など がある。 Facebook宿輪ゼミ:https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/ 公式サイト:http://www.shukuwa.jp/ 連絡先: info@shukuwa.jp Facebook宿輪ゼミ:https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/ 公式サイト:http://www.shukuwa.jp/ 連絡先:info@shukuwa.jp http://diamond.jp/articles/print/89916
BNPの日本小型株ファンドに海外資金流入、職人かたぎ運用者評価も 佐野七緒、Jonathan Burgos 2016年4月20日 00:00 JST
日本の小型株に投資するBNPパリバ インベストメント・パートナーズのファンドに、欧州やアジア、中南米投資家の資金が流入している。原油価格の下落や為替の円高進行などで国内景気・企業業績への不透明感が生まれ、海外投資家の資金が逃げた日本株市場全体の動きとは対照的だ。割安な成長株を徹底的に探し抜く運用者の職人気質も、投資家からの評価を集めている。 BNPパリバインベストメントの「パーベスト・エクイティ・ジャパン・スモールキャップ」(ルクセンブルク籍)の純資産総額は3月末に785億円と、昨年末に比べ14%増加。年初来のファンドリターンはマイナス4.1%と、ベンチマークのラッセル・野村小型株指数を4.2ポイント上回った。ブルームバーグ・データによると、過去5年間では同類の小型株ファンドの98%に対しアウトパフォームしている。 BNPパリバ インベストメントでインベストメント・マネジメント部門ヘッドを務めるトニー・グラバー氏はブルームバーグのインタビューで、「多くの顧客はETFや大型株ファンドに投資してきたが、日本のエクイティ・ポートフォリオにもう少し多様性を加えるため、小型株を追加してきている」と指摘。ことしに入り欧州やアジア、中南米の新規、既存顧客から120億円を超す資金が流入したことを明かし、「他の人が売っている時は買い始める好機」と述べた。 原油価格の低落や中国経済の減速、米国の利上げによるマネーフローの変調懸念で年明けから世界の株式市場は波乱に見舞われ、為替市場での円高加速も響いた日本はTOPIXが1ー3月に13%下落と世界93の主要株価指数の中でウクライナやイタリア、中国、モンゴルに続くワースト上位国となった。19日時点のTOPIXの年初来騰落は12%下落と、なお低迷中だ。 株式需給面で日本株安を主導したのは海外投資家で、東京証券取引所の投資部門別売買動向によると3カ月連続で売り越し、累計売越額は5兆円超。米バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチがまとめる世界のファンドマネジャー調査では、4月に日本株に対する投資姿勢が2012年12月以来、3年4カ月ぶりにオーバーウエートからアンダーウエートに転じた。 実際の運用は三井住友アセットに委託 日本株全体に処分売りの姿勢を強めた海外勢だが、BNPパリバのファンド動向が示すように、ことしに入り有望な小型株には投資意欲を見せている。海外投資家による3月の東証2部の売買代金シェアは26.4%、マザーズは24.5%と昨年の23.7%、21.4%からそれぞれ上昇。株価指数の年初来パフォーマンスも、19日時点でTOPIXスモール指数がマイナス9.8%、東証2部指数がマイナス8.2%、07年以来の高値を更新したマザーズ指数に至ってはプラス36%と、TOPIXコア30指数のマイナス14%など大型株をアウトパフォームしている。 TOPIXスモール指数とコア30指数のパフォーマンス比較 TOPIXスモール指数とコア30指数のパフォーマンス比較 「パーベスト・エクイティ・ジャパン・スモールキャップ」の実際の運用は、BNPパリバが日本の三井住友アセットマネジメントに委託している。三井住友アセット・株式運用グループの松嶋俊介ヘッド(51)はブルームバーグの取材で、現在の日本株は「金融緩和への感応度が落ち、大型株が物色されにくい相場になった。国内景気がやや低迷しており、市場全体が大きく上がることは見込みにくい」とする半面、「金融緩和で行き場のない資金はあふれ、小型株に向かっている」と指摘した。 BNPパリバのグラバー氏は、同ファンドが投資家の注目を集めている点について市場環境の変化だけではなく、運用哲学とファンドマネジャーの経験と銘柄選別能力も挙げる。「パーベスト」では、PERが10倍程度とバリュエーションが割安な上、今後は新規事業などが拡大し、大幅な利益成長の見込める銘柄に投資する「Value to Growth(バリュー・トゥー・グロース)」戦略を取っている。 松嶋氏が同戦略に傾倒するきっかけとなったのが村田製作所の存在だ。大阪勤務時代に優れた電子部品会社としてのポテンシャルを感じ、1992年にファンドマネジャーになった後、PER12倍程度で投資を開始。その後、携帯電話の部品会社として世界的な企業に成長し、株価(分割考慮)は昨年までの30年間で9.5倍になった。「村田の評価は当初低く、皆がいいと思いだし、バリューからグロースに変わった。そういう良い銘柄はたくさんある」と同氏は振り返る。 組み入れ上位はJマテリアやTPR 「パーベスト」の3月末時点の組み入れ銘柄数は130社で、ポートフォリオ上位はジャパンマテリアル、TPR、日成ビルド工業、パイオラックス、ウェルネット。トップのJマテリアは半導体・液晶工場向けの特殊ガスや装置メーカーで、PER10倍程度の時に組み入れを始め、現在は20倍程度にまで評価が進んだ。投資銘柄の多くはアナリストがカバーしておらず、松嶋氏が企業から聞き取りをするなどし、組み入れ判断を行っている。同ファンドでは、組み入れ銘柄の時価総額上限を5000億円に定めており、超えれば売却する。 松嶋氏は、「私自身はファンドマネージャーだが、職人と思っている。経験を積んできたことがここまでできた要因」と自身を分析。日本の小型株市場は米国に次いで大きく、「まだ磨かれていないダイヤモンドの原石も混じっている。目、足を使って粘り強く探していくと、良いものはまだ見つけられる」と意気込みを示した。 最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-19/O5NWCF6JTSE801 【第422回】 2016年4月20日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] 投資家の利益を重視する 「異色の金融庁長官」を応援しよう NISA導入の牽引者、 森金融庁長官の異色な横顔 金融機関による投資商品の営業に問題意識を持つ異色の金融庁長官、森信親氏の素顔とは? Photo by Takahisa Suzuki 『文藝春秋』(最近話題の『週刊文春』ではなく月刊の方だ)の5月号に、「銀行は『半沢直樹』を見習え」というタイトルで、金融庁の森信親(もり・のぶちか)長官の談話を金融ジャーナリストの浪川攻記者がまとめた記事が載っている。普通、官僚の語りは面白くないのだが、浪川氏はベテランの金融ジャーナリストで取材先に媚びない方なので、読んでみた。
これが、実に面白かった! 金融業界関係者はもちろん、一般個人もぜひ読むといい。記事にあるように、森氏はNISA(少額投資非課税制度)導入の牽引者だった。そしてそのNISAには、5年間の非課税期間の途中で証券を売却すると、その分はNISAの枠内で再投資できず、運用益非課税の対象から外れてしまう仕組みが仕込まれていた。 これは、NISA口座内での投資信託の乗り換えを不可能にする措置だ。率直に言って、利用者にとって不便な面でもあるのだが、投信ビジネスにおける金融機関の「乗り換え勧誘営業」に対する敵意(!)にも近い問題意識が感じられると同時に、日本の投資家に投信の基本は長期保有であることを「教育」しようとの意図を感じる。推測するに、森氏は金融検査業務への関わりを通じて、日本の金融機関の投信営業のあまりのひどさに正義感を刺激されたのだろう。 総合的に見て、NISAにおけるこの制約は、目下のところ、投資家の利益になっていると筆者は判断する。証券会社にせよ、銀行にせよ、金融機関の対面営業型の投資信託販売は、金融庁が心配するのに十分値するくらいひどいからである。 記事の前半で、森長官はリーマンショック後に強化された金融機関に対する規制の行き過ぎが、銀行のビジネス、ひいては本業である融資の萎縮につながっているのではないかとの認識を示しており、規制緩和論者(官僚には珍しく)であるかのように見える。しかし他方で、規制の不足ないし過剰な緩和が利用者の利益を損なっているケースに対しても、問題意識をお持ちのようだ。 優れたバランス感覚と実行力を持つ異色の官僚だ。 森長官は、たとえば証券営業の現場について次のように心配する。 「ある証券会社に『投資信託を買いたい』というお客様が来たとしましょう。TOPIX連動型のETF(上場型投資信託)は手数料が安い。しかし、証券会社は系列の投信会社が作った投資信託を売りたい。同じ商品設計ならば一般的にはETFの方が手数料が安いので、この二つを比較すれば、大抵のお客さんはETFを買いたがるでしょう。ところが、多くの証券会社は『二つの商品がありますが、どちらにしますか?』とは言いません。お客さんが『ETFを買いたい』と言い出さない限り、系列の投信会社の商品を勧めるでしょう」 筆者も、この通りの事態が心配だ。たとえばラップ口座は、投信の乗り換え勧誘営業の行き過ぎを反省したかに見えるビジネスモデルだが、その中身は森氏が心配する通りのひどいものである場合が多い。 金融庁長官も呆れる 外貨建て一時払い保険 また、文藝春秋の記事では、「検査官が見つけてきた例」として、豪ドル建ての一時払い保険で外貨での元本保証が付いたものについて、批判的に紹介している。この種の商品は、今よく売れているのだが、森長官は売れている理由を「商品製造元の保険会社が売り手の銀行や証券会社に六〜七%という今の金利状況では考えにくい高率の手数料を払っているから」だと分析する。 運用商品の購買意思決定が、実質的には顧客の損得判断よりも、売り子側のモチベーションによっていることを、彼は的確に見抜いている。 森氏の紹介は続く。 「検査官が調べたところ、実は豪州国債の利回りは年に二・五%。それを『一%で運用する』とし、一・五%をサヤ抜きしているのです。十年だと一五%。これを折半して七%です。お客様からすれば、豪州国債をそのまま買った方がお得なのに、情報を十分ディスクロース(開示)していない。これってとても失礼なことですよね」 かつて、これほど顧客の立場から物事を見てくれる金融庁長官がいただろうか。森氏が、金融行政のトップに居る期間がどのくらいあるのかはわからないが、投資家の側では、彼の在任期間は、リテール向け金融ビジネスを顧客寄りに改革するチャンスだ。 森長官の行政方針を象徴する言葉の1つが「フィデューシャリー・デューティー」だ。日本語では、「受託者責任」のことで、主に年金運用の世界で使われる言葉だが、森氏はこの概念の普及をリテールの金融ビジネスの世界にも拡げようとしている。すなわち、銀行や証券会社、保険会社が、顧客のニーズに合った最善の商品やサービスを販売しているか否かを問うのだ。 フィデューシャリー・デューティーは、確かに金融業界内のリテール分野で流行語の1つになっている。銀行でも証券会社でも、経営トップなりリテール向けビジネスを統括する役員なりは、フィデューシャリー・デューティーに対する自分の思いと、自社の取り組みをひとくさり語ることができないと、一人前ではない、といったムードになっている。中には、強引な営業で知られるさる金融機関の幹部で、「お前の口で、その言葉を語るのか!」と言いたくなるような人も、フィデューシャリー・デューティーについて蕩々と語ることもあるわけだが、建前としてそういう概念があることは、森氏の長官就任以来大いに広まった。 個人向けに「フィデューシャリー・ デューティー」を機能させるには? しかし、森氏が投資信託販売について、また保険の販売について例示するように、率直に言ってリテール向け(個人向け)の金融ビジネスにあって、フィデューシャリー・デューティーは「建前に過ぎない」のが現状だ。金融マンが悪辣な手数料稼ぎの合間に、自己正当化のために唱える念仏程度の役割だ。 リテール向け金融ビジネスで、フィデューシャリー・デューティーが実行に移されない理由は何なのか。 多少なりともフィデューシャリー・デューティーの概念が根付いている年金運用の世界と、リテール向け金融の世界とを比較すると、サービスの受け手側が得る「情報」に差があること、年金運用の世界の方が「競争」が激しいこと、投資家側の「判断力」に差があること、の3点に原因があるように思われる。 まず、年金運用の世界では、顧客である年金基金が「全てにわたって正確に」ではないものの、運用サービスの「実質的な手数料」を知っている。 ちなみに、ヘッジファンドのような商品の普及は、年金基金が成功報酬部分を正しく評価できていない(で「カモ」にされている)ことを示唆するが、それ以外の伝統的な運用商品に関しては、年金基金は運用管理手数料がいくらで、その明細がどのようなものであるかを、おおむね知っている。 しかし、個人の場合、投資信託を選ぶ場合に、運用管理手数料を気にしない場合がしばしばあるし、そもそも複数の中から「選ぶ」のではなく、セールスマンに勧められた商品だけを受動的に「検討する」状況に追い込まれていることが多い(個人客が愚かである一方で、セールスマンが上手いとこうなる)。特に、保険型の運用商品にあっては、実質的な手数料を知らされていない場合がほとんどだ。 死亡保障の保険や、がん保険などの医療保険も含めて、生命保険の商品にあって顧客側が実質的な手数料に関する情報を得ることがほとんどできないことは、「消費者保護」の観点で極めて深刻な問題だ。保険は支払い額が高額にのぼる金融商品であり、購入者はその損得や売り手のモチベーション(いくら手数料を手にする売り手がその商品を売ろうとしているのか)について、正しく知る必要がある。これらは、投資信託の世界では当たり前に実現していることだ。 さすがに、金融庁もこの問題に「気づいて」はいるのだろう。先般、銀行などの店頭で売られている一時払い型の保険商品について、手数料開示の義務付けを検討中であると報じられた。業界側の抵抗が強い問題なので、森長官及び金融庁がどこまで進められるかは、現段階では何とも言えないが、「フィデューシャリー・デューティー路線」を推進する上では正しい方向性だ。 また年金基金は、選び得る運用会社の選択肢の中からベストなものを選んだことを、年金加入者に説明できなければならない建前なので、運用会社・運用商品の相互比較を広い範囲にわたって行う手続きを踏むが、個人客の場合は取引先の金融機関の取り扱い商品の一部の中から、セールスマンの勧めに従って決める場合が多い。 金融機関の側も、顧客を自社に囲い込もうとする。特に、この際に「優越的地位」を持っているのは、顧客の取引銀行だ。銀行は、顧客の取引口座の残高を知ることに加えて、お金の流れから顧客の経済的状況を詳しく知る立場にある(たとえば退職金が振り込まれると、すぐに電話がかかって来る)。顧客のお金の流れを知ることは、与信判断のために必要なことでもあるが、これを金融商品による手数料稼ぎの営業にどの程度流用していいのかは、検討されて然るべきだ。 金融庁長官が指摘するように、たとえば国内株式に投資するなら、手数料の高い投資信託よりもTOPIX連動型のETFの方がいいわけだが、こうした情報を知らずに、競争の圏外でお金に関する意思決定をしている投資家が少なくない。 加えて最も重要なことは、個人がお金について判断するための正しい知識を持つことだ。NISAなどをきっかけに、巷ではそれなりに「投資教育」が行われているが、その多くは金融機関がスポンサーであったり、金融機関と利害関係の深い主体によって行われたりしており、必要な知識(たとえば、運用商品の選択に当たっては「実質的な手数料」が重要であること)が十分伝わっていない。 義務教育も含めたレベルで、金融的な判断を正しく行うための知識を、「金融機関の利害から独立した立場から」提供する金融教育が必要だ。手数料の高い投信がダメなことも、金融機関の窓口で売っている一時払い保険が怪しいことも、中学生程度の算数と社会の知識があれば、十分に判断できるはずだ。 もちろん、学童向けばかりでなく、大人向けの金融教育も大規模に展開する必要がある(スポンサーを気にせずに正しい情報を提供できるNHKを使うのがいいと考える)。 金融庁には顧客のためになる 金融環境の整備を期待したい フィデューシャリー・デューティーがリテール金融の場で機能するためには、顧客側の教育が必要であることを、森長官にはぜひご理解いただきたい。教育は文科省の管轄なので実現が難しいのかもしれないが、森氏ならできるのではないかと期待する。 お金に関する環境を整えることは、投資家ばかりでなく、広く国民の利益につながる。せっかく「顧客側からも考える」長官が就任したのだから、我々は金融庁の動向に大いに関心を持って、顧客のためになる金融環境の整備を後押しするといい。今がチャンスである。 http://diamond.jp/articles/print/89922 【第209回】 2016年4月19日公開(2016年4月19日更新) バックナンバー 著者・コラム紹介 藤井 英敏 Social Bookmark,Share 印刷向け表示 RSS最新記事 5月開催の伊勢志摩サミットに向けて発表される 「G7版3本の矢」に投資家が注目する理由とは? いまは内需系小型株の人気テーマ銘柄を買え! 日経平均株価は急騰と急落を繰り返す、「乱高下相場」です。前週までは急騰、週明け18日は急落後、翌19日は急騰です。 日経平均株価チャート(日足・6カ月) *チャート画像をクリックすると最新のチャートがご覧になれます。SBI証券HPより 前週は、原油先物高・米国株高・円安が買い材料でした。しかし、週末の悪材料(原油先物安・円高・熊本地震をきっかけにした熊本県と大分県の地震活動活発化)が売り材料になりました。18日は、当然のことながら、前週末までの楽観ムードは一気に後退し、慎重ムードが支配的になりました。
その後、18日の米株が上昇し、原油先物の下落が一服し、円高が一服したため、19日の日経平均株価は急反発しました。とは言え、当面の日経平均株価は、不安定な投資環境及び投資家心理を反映し、現状のような「乱高下相場」は続く見通しです。 一方、19日前場の東証マザーズ指数は5日続伸し、4営業日連続で年初来高値を更新しました。不安定な外部要因の影響を受け難い、新興市場を中心にした小型株に、短期資金の流入が加速しています。 「原油先物価格」と「円相場」が 日経平均株価を急落させた2大要因 不安定な外部要因は大きく言って、2つです。それは、「原油先物価格」と「円相場」です。 「原油先物価格」については、まさかの「ドーハの悲劇」になったことが、18日の日経平均株価急落の一因になりました。 石油輸出国機構(OPEC)加盟国や非加盟の他産油国が参加した、17日のカタールのドーハでの産油国会議では、生産水準据え置きでの合意が成立せず、物別れで終わりました。サウジアラビアが、イランが参加しない合意には同意しない強硬姿勢を示したことが主因です。しかし、クウェートの石油労働者によるストの影響で原油生産が60%超押し下げられています。 また、OPEC加盟国は内部の話し合いと、他の産油国との協議を6月まで続けるそうです。このため、次回6月2日のOPEC会合での生産水準据え置き合意への期待は残っています。そうこう考えると、6月2日までは、原油先物価格の下値不安は残るものの、一方的な下落は避けられるとみています。 「円相場」については、まさかの「ルー発言」が、18日の円高に直結しました。 15日、G20会議を総括するコメントとして、ルー米財務長官が、「最近は円高が進んでいるが、市場の動きは秩序的(orderly)だ」と述べました。これを受け、米当局は、日本政府による円売り・ドル買い介入は容認しないとの見方が強まりました。これが18日の円高・ドル安の主因になりました。 今年はアメリカ合衆国の大統領選挙の年です。共和党候補指名争いでトップを走るドナルド・トランプ氏は、大統領選に勝利した場合、就任初日に中国を「為替操作国」に認定すると宣言し、メキシコや日本にも矛先を向けています。日本や中国が輸出振興のため通貨安政策を採用したことで、米国の労働者は一段と苦しくなったというのが彼の持論だそうです。 一方、民主党有力候補、ヒラリー・クリントン前国務長官は、日本や中国およびその他アジア諸国が過去数年にわたり為替操作で人為的に輸出価格を抑えてきたと名指し、「関税を含むさまざまな手段でも対抗措置を取る」としています。こうなると、米国は人為的な為替介入による「円安・ドル高」誘導は容認しそうにありません。 伊勢志摩サミットに向けて放つ 「G7版3本の矢」から今後の物色テーマがわかる よって、日本政府は介入ではない手法で「円安・ドル高」を実現しないとなりません。 具体的には、(1)さらなる日銀による金融緩和、(2)積極的な財政出動、(3)規制緩和・構造改革推進による成長戦略の実行によって、国内の「期待インフレ率」を高めることです。これによる「円安・ドル高」なら米国も日本に文句は言えません。 このような状況下、5月26、27日の伊勢志摩サミットに向けて自民党が" 金融・財政政策や構造改革で協調を行う「G7版3本の矢」を参加各国に提案すべき"との提言を19日にとりまとめ、政府に提出するということです。 GDP600兆円の実現に向けてビッグデータやロボット、人工知能などを活用することや「同一労働同一賃金」の制度導入などを重点政策に掲げているそうです。正式な提言をみないと正確なことはわかりませんが、これの全体像が分かれば、株式市場での物色テーマが明確になるはずです。まあ、現時点では、「ビッグデータ」「ロボット」「人工知能」「人材」は当確の国策テーマのようですね。 アベノミクスの第二、第三の矢、 「積極財政」と「成長戦略」に期待 また、安倍首相は18日、熊本地震の震災復興費用を含む補正予算案について「必要なあらゆる手段を講じていきたい」と述べました。 現時点では、政府は、伊勢志摩サミットを前に、2016年度予算の前倒し執行を含め「真水で10兆円」の経済対策を策定するとの見方が大勢です。さらに、熊本県を中心とする地震被害の拡大を受け、政府・与党内では来年4月に予定する消費増税を延期すべきだとの圧力が一層強まる見通しです。 安倍首相は18日、「リーマン・ショックや大震災級の事態にならない限り、予定通り引き上げる」との従来の答弁を繰り返しました。しかし、菅官房長官は、熊本地震が安倍首相の判断に与える影響にも「今の時点で答えることは控えたい」と含みを残しています。 このように、伊勢志摩サミットに向けて、政府・与党から景気を押し上げる政策が打ち出される可能性が高いのです。まあ、世界経済が低迷し、期待インフレ率が低下している状況の中で、これだけの規模の地震が発生したのです。「アベノミクス」を失敗に終わらせないためにも、ここは安倍政権にとって正念場です。是非とも、市場にポジティブサプライズを与える経済対策を打ち出して欲しいものです。 正直、ここ最近までの「アベノミクス」は、日銀による「金融緩和だけ」の一本足打法でした。"いい加減、「積極財政」と「成長戦略」の2本の矢を放てよ!"と、言いたいですね。 日銀金融政策決定会合の追加緩和だけでは 株式相場の押し上げ効果は見込めない 日本経済の下支えに孤軍奮闘している日銀は、4月27〜28日に開催する金融政策決定会合で、追加緩和に踏み切るとの見方が強まっています。国債・ETFの買い入れ枠増額や、貸出を伸ばした銀行に対するマイナス金利での資金供給などが見込まれています。なお、当然のことながら、これだけでは相場の押し上げ効果は限定的でしょう。 いずれにせよ、当面の日本株は政策期待で底堅い動きが続くはず。ただし、具体策が打ち出される、または、全体像がみえてくるまでは、日経平均株価の上値は重いままでしょう。 当面は、外部環境の影響を受け難い、内需系の小型株が物色の柱であり続ける見通しです。この投資環境は、アクティブ個人にとって、儲け易い環境です。是非、人気テーマ株物色の波に上手く乗り、投資資金を増やしてください。 http://diamond.jp/articles/-/89941 . 「M&A助言で弊社が首位」、ウォール街3社がそれぞれ主張 Hugh Son、Dakin Campbell 2016年4月20日 09:31 JST ゴールドマンとモルガンS、JPモルガンがそろって1位主張 M&A検討するCEOへの売り込みで番付は重要とアナリスト
他社買収や身売りを考えている企業に助言するという、うまみのある業務を受託しようとする時、業界トップの番付は利益をもたらす。 このため、ウォール街の大手金融機関が1−3月(第1四半期)の企業の合併・買収(M&A)助言で1位だったとこぞって主張するのは無理もないことだ。ゴールドマン・サックス・グループとモルガン・スタンレーは今週発表した決算の資料でそれぞれ1位だと主張した。JPモルガン・チェースは先週、「セレクト・リーダーシップ・ポジション」と銘打ったスライドで首位を訴えた。 ポータレス・パートナーズのアナリスト、チャールズ・ピーボディー氏は、「各社は自慢する権利を奪い合っている」と述べ、M&Aについて「CEO(最高経営責任者)を納得させようとする時に、過去の実績で信頼性を示すのはマーケティング上重要だ」と説明した。 投資銀行はかねて、合併助言のランキングが高く見えるように工夫してきた。トレーディングと株・債券引き受けの落ち込みに比べて助言業務がまだ持ちこたえている今年、こうした取り組みの意義は一段と高まる。ウォール街の大手5社の第1四半期の助言業務収入は6.6%減、これに対しトレーディングは22%減だった。 ゴールドマンによれば、同社は1−3月に発表された案件のうち獲得業務の金額ベースで1位。しかし製薬のファイザーとアラガンの場合のように、発表されたものが全て完了するとは限らない。コールドマンはファイザーのアドバイザーの1社だった。一方、モルガン・スタンレーは完了した案件で1位だとしている。JPモルガンも負けずに、世界の合併助言によって得られた手数料収入での市場シェアが約11%で最大だとしている。 原題:‘We’re No. 1,’ Say Three of Wall Street’s Top Merger Advisers(抜粋) https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-20/O5WBKOSYF01X01
イタリアの銀行のトリプルリスク、不良債権だけではない−チャート Giovanni Salzano、Chiara Albanese 2016年4月20日 07:03 JST イタリアの銀行の債務証券や融資、貸付金に占める不良債権の割合は、ユーロ圏諸国の平均の倍を超えるが、システミックリスクの危険があるポートフォリオは、それだけではない。やはりユーロ圏平均の倍以上を保有する銀行債は、イタリアの金融セクターが置かれる現在の苦境を反映し、リスクが自己増殖している。ユーロ圏平均の倍といえば、総資産全体に占める公債の割合の大きさも目立つ。イタリアの銀行と政府のリスクが、直接的に分かち難く結び付いている現状が浮き彫りとなっている。 原題:Italy’s Triple Bank Risk, Not Just Non-Performing Loans: Chart https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-19/O5VD846S972A01 イタリアの銀行、不良債権処理は転換点に到達=中銀総裁 イタリア中央銀行のビスコ総裁
By GIOVANNI LEGORANO 2016 年 4 月 20 日 07:59 JST 【ミラノ】イタリア中央銀行のビスコ総裁は19日、金融危機で大きな打撃を受けた同国の銀行の不良債権処理は転換点に到達した可能性があると述べた。 総裁はイタリア上院委員会での証言で、緩やかな景気回復が進む中で銀行のバランスシートへの圧力が和らぎつつあるとの認識を示した。 「不良債権の削減が続くためには景気回復の定着が不可欠だ」と語った。 イタリア中銀が先週発表したデータによれば、市中銀行の不良債権は2月に1960億ユーロ(約24兆3000億円)となり、1月の2020億ユーロから減少したものの、前年同月比では4.7%増加した。 中銀は前月からの減少の理由について、不良債権の売却が進んだことが大きいと説明した。 総裁は、2015年の銀行決算で融資に伴う損失は営業利益の65%と、前年の100%から減少したと指摘。また、15年10-12月期の不良債権の増加率は08年以来の低さで、融資全体に占める焦げ付き債権の割合は18%に落ち着いたと述べた。 https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NP877_visco0_M_20160419120426.jpg 米インテル:1.2万人削減へ−4〜6月見通しは市場予想に届かず Ian King 2016年4月20日 05:46 JST 更新日時 2016年4月20日 07:16 JST クルザニッチCEOはデータセンター向けチップなどに軸足をシフト 人員削減対象は従業員の11%相当、株価は時間外取引で下落 半導体メーカーで世界最大手の米インテルは19日、従業員の11%に相当する1万2000人を削減すると発表した。パソコン(PC)市場の低迷が5年目に向かう中、経費節減を図る。 インテルはデータセンター機器や接続機器用のチップなど高成長分野に経営の重点をシフトすると説明した。同社はまた、4−6月(第2四半期)売上高がアナリスト予想に届かない見通しも示した。発表資料によると、売上高は約135億ドル(約1兆4800億円)となる見込み。ブルームバーグが集計したアナリスト予想平均は142億ドルだった。 PC出荷は2016年1−3月(第1四半期)に10年ぶりの低水準に落ち込んだ。PC用チップが売上高の6割近くを占めるインテルは、ライバル企業から市場シェアを奪取しサーバー用チップで優位に立つことでノート型PC需要の長引く低迷による打撃を辛うじて回避してきたが、こうした対応でも不十分であることが明らかになりつつある。ブライアン・クルザニッチ最高経営責任者(CEO)は携帯端末用半導体市場への進出策に新たな力を吹き込みPC需要のてこ入れを目指し、新たな経営幹部を招き入れている。一方で、ベテラン幹部は同社から去っている。 スターンアジーCRTのアナリスト、ダグ・フリードマン氏は人員削減について、インテルの経営陣が環境変化に対応しているとして投資家を勇気付けるだろうが、同社はコスト管理強化でさらなる行動を取る可能性が高いと予想した。 インテルは発表資料で、最近の経営幹部の入れ替えの一環としてステーシー・スミス最高財務責任者(CFO)が製造・販売部門責任者としての新たな役割を担うことも明らかにした。 19日の米株式市場ではインテル株は前日比0.2%安の31.60ドルで終了。時間外取引では業績と人員削減の発表に伴う売買停止後に一時2.5%安を付けた。 同社によると、4−6月期の粗利益率は約61%となる見通し。 1−3月(第1四半期)の純利益は前年同期比2.7%増の20億5000万ドル(1株当たり42セント)。売上高は7.2%増の137億ドル。アナリスト予想平均は、1株利益が37セント、売上高が138億ドルだった。 原題:Intel Cuts 12,000 Jobs, Forecast Misses Amid PC Blight (1)(抜粋) https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-19/O5WEF86S972L01 米IBM株が大幅安、利益見通しは市場予想に届かず Jing Cao 2016年4月20日 07:51 JST 売上高は4.6%減の187億ドル、16四半期連続の減収 16年1株利益見通しの上期達成率は38〜39%へ−CFO 19日の米株式市場でIBMが大幅安。4−6月(第2四半期)の利益見通しがアナリスト予想に届かなかった。クラウド製品や人工知能(AI)技術を提供する事業者への脱皮を図る同社のここ数年の取り組みにもかかわらず、4年にわたる減収にまだ歯止めがかからないことが示された。 マーティン・シュローター最高財務責任者(CFO)は18日、13.50ドル以上とする通期1株利益見通しの1−6月(上期)達成率が約38−39%になる見込みだと述べた。これは第2四半期の調整後1株利益を2.78−2.92ドル程度と想定するもので、ブルームバーグが集計したアナリスト予想平均は3.45ドルを下回っている。 IBMの株価は19日、前日比5.6%安の144.00ドルで終了。年初来の上昇率は4.6%に縮小した。CLSAのアナリスト、ルー・ミショシア氏は、「IBM株は今年これまで上昇していたため、この勢いが続くには輝かしい数字が必要だった。市場を上回るパフォーマンスが続くには極めて好調な四半期になる必要があった」と指摘した。 原題:IBM Shares Tumble After Earnings Forecast Misses Estimates (1)(抜粋) https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-19/O5WJOA6KLVRY01
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