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三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長 〔photo〕gettyimages
「メガバンクトップが日銀批判」のウラ側
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48460
2016年04月19日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■日銀とメガバンクトップの政策論争
報道によると、日銀のマイナス金利政策について、三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は先週木曜日(4月14日)、「銀行業界にとって短期的には明らかにネガティブだ」としたうえで「(効果について、企業や個人も)懸念を増大させている」と真正面から批判した。
メガバンクトップの代表として中小銀行を含めた銀行界の苦境を代弁したものとみられるが、銀行経営者が中央銀行に異を唱えるのは異例とあって、波紋が広がっている。
一方の黒田総裁は相変わらず意気軒昂だ。平野発言の前日、米コロンビア大学で講演し、かねてからの持論を展開。「物価安定目標の実現に必要な場合は、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」と言い放ったという。
金利は経済やくらしに大きな影響を与えるファクターだけに、2人のマイナス金利政策を巡る論争が気になる読者も多いだろう。
だが、そうした政策論争とは別に、実体経済からみて日本がマイナス金利に転落するのは必然であり、長期化するリスクが大きいとの非情な分析があることをご存じだろうか。実は、筆者はそうした分析を無視できない一人だ。今回は日銀とメガバンクトップの政策論争だけでなく、その分析の根拠と打開策を紹介したい。
■ゼロ金利政策の効果に疑問
そもそもデフレ経済のもとでは、金融政策は需要を創出する効果が乏しいとの見方が、保守的な経済学者の間では依然として根強い。
また、マイナス金利の適用範囲は銀行が余剰資金を日銀に預ける当座預金の一部に限定されているものの、実際の影響は広く金利全般に及び銀行の利ざやが大きく縮小し始めているのが現状だ。体力の乏しい中小金融機関では、経営への打撃を取り沙汰する声もある。
このため、一部の銀行は、すでに非公式に、大手法人に対して突然の大口預金の預け入れを手控えるように要請したり、事実上のATM手数料の引き上げの検討を進めている模様だ。つまり、利用者への影響は軽微と言い切れない情勢になりつつある。
そこで、平野社長は、デリバティブ取引をテーマにした金融関係者向けの会合で講演し、まず「ゼロ金利環境が長く続く日本では、すでに貸出金利が低水準。このため、個人も企業も(ゼロ金利政策の)効果に懐疑的になっている」と指摘。
そのうえで、「(銀行が)リスクに戸惑っている」「体力勝負の厳しい持久戦が長期化する」などと発言したという。
これまでのマイナス金利を巡る銀行幹部の発言と言えば、全国銀行協会の佐藤康博前会長(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)が先月(3月)17日のお別れ会見で、「マイナス金利政策は導入されたばかりであり、今の段階ではまだ明確なかたちでは結果に繋がっているとは言い切れない。その影響については、今後慎重に見極める必要があると考える」と述べた程度だ。
後任の國部毅会長(三井住友銀行頭取)は、今月(4月)1日の就任会見で、「中期的には、マイナス金利政策の本来持っている政策効果が実現されていけば、わが国経済がデフレから脱却し、経済の好循環がより強まってくることで、銀行のビジネスチャンスは拡大し、プラスの効果が出てくると思う」と肯定的な面を強調した。各行ともマイナス金利政策の論評には慎重で、日銀批判ととられかねない発言は控えていた。
今回の平野発言は、これらに比べて大きく踏み込んだ形になっているわけだ。
■自然利子率のマイナスは当たり前
一方、黒田日銀総裁は、先週末ニューヨークで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議に出席するために渡米。G20に先立つ講演で、「必要なら、さらなる金融緩和をためらわない。マイナス金利はまだ余地がある」と発言した。
「日銀が、『量』『質』に加え、『金利』面からも緩和効果を引き出す極めて強力なもの」と、マイナス金利の政策的な効果を強調する内容だ。市場に対して、デフレ脱却への揺るぎない姿勢を示す意図があったとみられる。
そこで紹介したいのが、黒田総裁や平野社長の政策論争とは別に、エコノミストの間では、現下のマイナス金利を経済情勢に応じた必然的な流れとの見方があることだ。
例えば、日本経済研究センターの岩田一政理事長(元日銀副総裁)は先月(3月)17日、安倍晋三首相が主宰する「国際金融経済分析会合」(2人の米国人ノーベル経済学賞受賞者が消費増税の再延期を求めて話題になった会合)で、興味深い意見陳述をした。
議事録から該当部分を引用すると、「貯蓄と投資のバランスを均衡する景気に中立的な実質利子率(自然利子率)は、日本では90年代後半以降、ゼロからマイナスに低下。足元ではマイナス0.7%。日銀はマイナス金利政策(マイナス0.1%)を実施しているが、自然利子率を上回っており、これではデフレに戻ってしまうリスクがある。自然利子率の水準より実質金利(名目金利−期待インフレ率)を下げるには、マイナス金利政策の強化が必要になる」となっている。
簡単に言えば、潜在成長率が落ちているので、自然利子率がマイナスになるのは当たり前。現実には不可能だろうが、マイナス金利政策だけですべてを解決しようとするならば、もっとマイナス金利政策を強化しないといけないというのである。
■「出生率1.8の実現」がまず必要
岩田理事長が潜在成長率の低下の原因にあげたのは、人口減少と労働生産性の伸びの低下だ。
そこで人口減少に対する処方箋だが、岩田理事長は、政府が5月中にまとめる「ニッポン1億総活躍社会」で目標にする方向の「出生率1.8の実現」が「まず必要」と提言。
ただし、政府は、口先ばかりで具体策に踏み込む気配がないことを懸念してのことか、「当センターの試算では、年間8兆円の子育て支援を追加しなくてはならない。それでも、1.8の実現には約30年間かかる」と断じた。
加えて、生産性の向上策として、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)、フィンテック(フィナンシャルとテクノロジーを組み合わせた新語)といった情報通信技術(ICT)のフル活用を求めている。
付言すると、毎年8兆円の追加支出をしても30年かかるという「出生率1.8の実現」を「まず必要」とした、岩田理事長の含みある発言ぶりに目を向けるべきだろう。そもそも夫婦2人に対して出生率1.8では人口減少に歯止めはかからない。
筆者は、この岩田発言こそ、頑なに安倍政権が成長戦略の議論にさえ加えようとしない、外国人労働者や移民を受け入れる必要性を示唆したものと受け止めている。そこまで踏み込まないと、デフレ経済からの安定的な脱却は不可能だからである。
逆に言えば、政府が本質的な問題にメスを入れなければ、黒田日銀総裁が抵抗の大きいマイナス金利政策の維持・強化でいくら奮戦して時間稼ぎに腐心しても、徒労に終わるだけだ。平野社長ら民間銀行の経営者が経営努力を重ねても、マクロ経済的な見返りは乏しいだろう。
安倍政権が、いつまでもナショナリズム的な思考に捉われて、真の成長政策を講じないようなら、銀行、企業、個人の現下の苦境が生みの苦しみに繋がらない。今こそ、安倍首相のリーダーシップが問われているのだ。
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