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異次元金融緩和が財政の持続性を脅かす
異次元緩和が財政赤字を出し続ける財政運営を支え、財政の持続性に悪影響を与えている
http://diamond.jp/articles/-/89174
2016年4月7日 井堀利宏 ダイヤモンド・オンライン
アベノミクスによる異次元の金融緩和政策は、短期的な景気対策としては効果があったが、一方で財政赤字を出し続ける財政運営を支え続けている。健全な構図に戻すべきタイミングはそう遠くないはずだ。
財政状況が悪化しているにもかかわらず、多くの国民が財政再建の切迫感に乏しいのは、国債の金利が低い水準で推移していることも一因である。
アベノミクスによる異次元の金融政策が、財政赤字を出し続ける財政運営を支えている。日本銀行の黒田総裁による異次元金融政策の要諦は、財政出動のために発行される国債を中央銀行が事実上無制限に引き受けることで、円安を誘導して、デフレ心理をインフレ心理に転換させることにある。2015年現在、日銀は年間80兆円規模で国債を購入して、その分だけ貨幣を市中に供給している。日銀の国債保有残高は300兆円に達しており、発行残高の3割になった。
安倍政権は、2%のインフレ目標を日銀と共有している。すなわち、2012年の政権獲得直後から白川前総裁が率いる日銀に政治的圧力をかけた安倍政権は、積極的な金融緩和=事実上のマネタイゼーション(国債の日銀引き受けによる貨幣増発)を志向していた。黒田総裁は異次元の金融緩和政策で経済や物価をコントロールして、2013年から2年間で2%の物価上昇率を目指してきた。企業や家計がインフレ心理になれば、購買意欲が刺激されてデフレ脱却の可能性も高まり、ひいては成長も促進され、日本経済も再生できるという。
そもそも金融当局が政治的に独立している以上、政府の意向に中央銀行が全面的に協調するのか望ましいのか否かも、議論がある。
インフレ志向の金融当局は、標準的な金融政策からみれば、異端の理念である。本来、金融当局はインフレ抑制の保守的な理念をもつべきというのが、経済学の標準的な考え方である。政治家が短期的視点で行動すれば、必ずしも最適な政策を実行するとは限らない。政治的圧力に敏感な財政運営は、インフレを甘受しても拡張的な政策を追求する。
利益団体からの政治的圧力を考慮すると、政治家の選好は社会・有権者のあるべき選好から乖離する。たとえば、政府は将来世代を軽視して、公債発行の上限を緩めるかもしれない。したがって、金融当局の選好をより保守的なものに修正して、インフレ抑制により厳しくすることが望ましい。日本では、中央銀行が独立した政策当局として行動してきたし、日銀のインフレ目標は従来、政府の目標よりも保守的であった。その意味では、アベノミクス以前の日銀は次善解を実現するために、適切に行動してきたとも言えよう。
政府(政治家)が主導する形で短期の利益を追求して財政金融政策を決定すると、過度のインフレ・バイアスと財政の放漫化をもたらしかねず、中長期的には弊害が大きくなる。かりに近い将来2%のインフレ目標が達成できたときにも、こうしたマネタイゼーションが続くと、資産バブルを引き起こしかねず、その弊害も小さくない。インフレ心理が蔓延すると、投機的資金が土地や株などの資産に流れ、予想を上回る速度で資産価格が上昇して、バブル経済が止まらなくなる恐れもある。
■デフレ脱却には金融政策と経済成長のバランスが重要
デフレ脱却には、金融政策と経済成長のバランスが重要である。しかし、成長戦略がうまくいかず、日本経済にこれ以上の成長源泉が乏しいとすると、バブルの危険性だけが高まりかねない。こうしたリスクが考慮すると、財政の持続可能性を無視してまで、大胆な金融政策を続けるのは早晩難しくなる。
また、非伝統的で大胆な金融緩和が当面成功したとしても、やがては普通の金融政策に戻る出口戦略が必要になる。アメリカの中央銀行(連邦準備制度理事会)は2015年12月に、リーマンショックのあと7年間にわたって続けてきたゼロ金利政策を解除して、利上げを始めることを決めた。アメリカの金融政策は危機対応を終え、金利の上げ下げで景気を調節する正常な姿に戻る。中国経済が減速するなど世界経済の不透明感が強まる局面ではあるが、出口戦略のメリットを重視した結果である。
これに対して、日本では、異次元金融緩和の規模も期間もアメリカ以上であり、出口を模索すると、その副作用も大きい。デフレ経済が続いて、インフレ率が思うように上昇しないと、利上げは民間経済活動に悪影響を与えるだろうし、公債の利払い費もかさむ。入口で大幅な金融出動を実施すればするほど、出口での引き締めがやりにくくなるし、実物経済、ひいては財政の持続可能性に与える悪影響もより大きくなる。
特に財政再建が進展せず、財政の持続可能性が不透明なままで金融政策で出口戦略をとろうとして日銀が国債買い入れ額を縮小し始めると、国債の引き受け手がいなくなる。高齢化が進展すると民間の貯蓄余力も低下するから、国内での国債消化は期待しにくい。海外の投資家に国債をもってもらうには,償還への確実なシナリオが必要になる。財政再建が見通せないと、国債価格の暴落や財政破綻が顕在化する。
異次元の金融緩和政策は当面の景気対策としては有効だろうし、国債の買い支えで財政破綻の顕在化を先送りすることもできるだろうが、いつまでも続けることができない政策でもある。中長期の課題である財政再建や経済成長の活性化について、金融政策に過大な役割を負わせるのは危ない。
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