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「人口減少で経済縮小」という間違った思い込み…庶民の生活、今後ますます厳しさ増
http://biz-journal.jp/2016/04/post_14584.html
2016.04.07 文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授 Business Journal
足元で、わが国経済の閉塞感がなかなか払拭できない。アベノミクスの政策効果である円安・株高で景況感は一時的に盛り上がったものの、昨年11月中旬以降、円安の一服感や不安定な海外経済の影響もあり再び悪化している。今年の春闘の賃上げ率は昨年を下回る見込みで、家計部門の実質ベースの所得が大幅に増えることは考えがたい。
その一方、食料品などの価格が上昇し、庶民の生活実感は厳しさを増している。短期的に見ると、個人消費の大幅な伸びは期待できないだろう。企業部門は、円高傾向に傾きつつあることに加えて新興国などの経済の低迷もあり、設備投資にあまり積極的な姿勢が見られない。今後、財政政策による景気押し上げ効果は期待できるものの、それによってわが国経済の本源にある問題が片付くわけではない。
アベノミクスはかなり厳しい状況に追い込まれつつある。本当の意味で日本経済を活性化するためには、規制緩和などの構造改革=イノベーションが必要だ。
■日本経済が抱える本源的な問題
日本経済は、構造的に大きな問題を抱えている。最も重要なポイントは、人口構成の問題だ。基本的に人口と経済活動には密接な関係が存在する。人口が増加すると、モノを買う人は多くなり消費は伸びやすい。また、若年層が厚ければ、生産年齢人口=働き手の数が多くなり、豊富な労働力を得やすくなる。それは経済活動にとって重要なメリットだ。
わが国のように人口減少・少子高齢化が進む社会では、経済活動そのものが低下しやすくなる。しかも、社会保障費の拡大によって国民負担は増大する。負担の増大によって、将来年金制度の維持が難しくなるなどの漠然とした懸念は、人々の消費意欲を低下させる可能性が高い。供給サイドの企業では、既存製品の国内需要の伸びが期待できないため、需要の拡大を狙って多くの人口を抱える海外市場へと展開しなければならない。
積極的に海外展開していくためには、為替の変動や現地企業の経営などのリスクを負うことになる。リスク・テイクのための負担は決して小さくない。そうした国内事情を考えると、政府は新しいことにチャレンジする社会のエネルギーを醸成することが必要になる。政治のリーダーシップとしては、新しいことにチャレンジするイノベーションのスタンスを示すことが求められる。
■伝統的な景気刺激策vs.イノベーション
日本には、すでに実情に合わなくなっている古い仕組みや制度がいくつも残っている。そうしたシステムをなかなか変革することができなかった。それは、企業や国民など社会全体がチャレンジ精神に二の足を踏むカルチャーをつくってしまったことによる。政策当局など公共セクターに限らず、民間企業でも同じだ。具体的にいえば、政府は、これまで公共投資など伝統的な景気回復策に依存することが多かった。しかし、そうした政策の効果が限定的であることは明らかになっている。政治のリーダーシップは、早くそこから抜け出して変革を目指すスタンスを示さなければならない。
足元の日本企業の状況を概括すると、その多くが高い収益を上げる一方、資金を内部留保としてため込んでいる。経営者に話を聞くと、1990年代の大規模なバブル崩壊、2008年のリーマンショックなどを経験した結果、どうしても安全運転に傾く心理状況がある。
そうした企業家心理の結果、積極的な投資には二の足を踏み、内部留保を厚くして有事に備えるスタンスを鮮明にせざるを得ない。ただ、経営者がそうした防衛型のスタンスを取り続けると、リスクを伴うイノベーションに踏み出しにくくなる。特に、先進のAI(人工知能)やIoT(Internet of Things:モノとインターネットの融合)、さらにはロボットなどの分野で、ライバルの欧米、中国企業に後れを取ってしまう。
■必要な先端分野への取り組み
AIなど先端分野でライバルの後塵を拝することになると、後から追いつくことはかなり難しい。そうなると、当該分野にいかにビジネスチャンスがあっても、そこに参戦すること自体を取らざるを得ないことも考えられる。それでは、日本経済全体の競争力が低下して、縮小均衡に向かわざるを得なくなる。
日本が抱える人口問題に関しても、「人口が減少するので経済が縮小する」との固定観念を持つことは適切ではない。人口が減少しても、経済活動が拡大するケースは過去にいくつもある。
1990年以降、スウェーデンやイタリアなどは労働力人口が減少した。しかし、それらの諸国ではいずれも、労働力の低下を生産性の上昇で補い経済成長を達成した。つまり、労働者ひとりあたりが生み出す付加価値を高めることで、経済を活性化することに成功したのである。わが国もそれと同じことができれば、人口減少・少子高齢化のマイナス面をカバーすることが可能だ。
生産性を高めるためには、なんといっても、企業が防衛型の行動様式を打ち破って、新しい技術、新しい商品に向かって走り出すことが求められる。企業が積極的に新しい分野にチャレンジするためには、国全体に漂う閉塞感を打破しなければならない。それは、経営者1人、2人でできるものではない。政治のリーダーシップが必要不可欠になる。政治が率先して痛みを伴う改革に取り組み、イノベーションに向かう姿勢を国全体に見せるべきだ。国民がそうした政治にリーダーシップを見て、イノベーションの姿勢を醸成すればよい。
(文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授)
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