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シャープの本社(「Wikipedia」より/Otsu4)
鴻海によるシャープ買収、交渉で「間違った」のは誰か?
http://biz-journal.jp/2016/04/post_14581.html
2016.04.07 文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者 Business Journal
4月2日、鴻海によるシャープの買収契約が締結された。総額3888億円という鴻海の出資金額が注目を集めたが、総投資額の大きさだけをみても意味がない。ここでは、「誰の財布の話なのか」、誰を向いて交渉をするべきかという「客を間違えるな」というビジネスの基本に関する点が重要となってくる。
総投資額の大きさだけをみても意味がない理由は、たとえば新親会社にとって100%買収した会社に何千億円追加で投資しようとも、それは自社の財布のなかでお金が移動したにすぎず、痛くも痒くもないからだ。たとえば、一般論として次のような場合を想定してみよう。
・ケースA:H社がS社を1000億円で100%買収した後、3000億円追加投資した場合
・ケースB:H社がS社を3000億円で100%買収した後、1000億円追加投資した場合
両ケースとも、総投資額は4000億円だが、まったく意味が違う。ここでの「追加投資分」は、実はH社の財布のなかで移動したにすぎない。
ケースAの場合、H社がS社の株式の100%を持っているなら、S社にある追加投資分の3000億円の設備とお金は、100%H社のものという意味だ。ケースAの場合、S社に残っているのは1000億円だけだ。
一方で、「100%買収に使った投資額」は、S社にはいかずS社の旧株主にいくことになる。それは即ち会社の値段であり、ケースAでは1000億円、ケースBでは3000億円とみていることになる。S社の旧株主は、それぞれこの額を受け取ることになる。つまり、旧株主はケースAの場合、ケースBの3分の1の値段で自分の持っている株をH社に売ってしまうことになる。
■S社社員は新株主H社と利害が一致
ここで、それぞれの関係者にとっての損得をみてみよう。
H社にとっては、ケースAのほうがいい。追加投資額は自分の財布のなかだから関係ないとすれば、買収に要する投資額が少ないほうがいい。S社の旧株主にとっては、ケースBのほうがいい。自分の持っている株がケースAの3倍で売れるからだ。
S社社員にとっては、実はケースAのほうがいい。より多くの追加投資を受けられて、会社が成長したり安定したりするのは、残ってがんばろうとしている社員にとっては、ありがたい。
ここで、興味深いのは、S社社員は新株主H社と利害が一致しており、S社旧株主と利害が反しているということだ。
こうしてみると、H社の買収提案の総投資額の大きさだけをみて他の提案と比較するのは、間違いだと気づく。それは、S社にとっても、S社旧株主にとってもだ。総投資額の内訳に、別の財布のものが含まれているからだ。ちなみに、出資比率が100%ではなく66%ならば、3000億円の追加投資分の66%が、H社の財布のなかの分ということになる。
■誰の財布の話なのか?
ここで、投資案件を担当したことがなくても営業の実務にかかわったビジネスパーソンなら重々承知しているビジネスの基本、「誰の財布の話なのか、はっきり意識する」ことの大切さを再認識することになる。
しかし、長く投資案件を担当している人でも、実務で勘違いして動いてしまうことが多い。得てして買収交渉をしているときに、買収側(H社)が対象会社(S社)とばかり打ち合わせをして、株主(S社旧株主)との交渉が薄くなっていることがある。繰り返すが、株の売買という意味では、交渉相手は対象会社ではなく株主である。
一方で、新株主候補に対抗して、旧株主が別の買収提案を行う場合、どうしても会社の状態を悪化させた対象会社につらくあたり、旧株主の利害を重くみようとする。しかし、被買収の意思決定に重要な影響を与えるのは、対象会社であることは間違いないのだから、恩を仇で返された悔しさを押し殺し、ニコニコと近づかなければならない。買収側にとっては、対象会社経営陣も「お客様」なのである。「誰が客か」を忘れ、「筋論」を押し立て居丈高に迫るのは「武家の商法」で、失敗につながる。
■ちゃぶ台返しを起こさないために
現実には100%買収ではなく、第三者割当増資などによって旧株主が一部出資比率を落としても、残ることがよくある。その場合、これほど単純ではないので混乱が生じやすい。旧株主は自分の出資比率が下がり希釈化するという意味では、新株主の登場はそもそもうれしくはない。上記例でいうと、自分の株を安く売っているのと同じことになりやすいからだ。
しかし、新株主からの投資資金によって、対象会社が成長して企業価値があがり、自分の所有株の価値があがるのならありがたい。この点では、上記例におけるS社社員と利害を同じくする面がある。
このように、第三者割当増資のときなどは、旧株主は対象会社に残る者と、従来株主との二面性をもっている。どちらの面がどの程度重いかは、希釈化の程度、H社の買収価格などによって数値化できる。
また、第三者割当増資の場合、新株主は対象会社と主に直接交渉する。しかし、前述の通りもともと新株主と対象会社では利害が一致し、その両者と旧株主との利害が反する面がある。そこで、新株主と対象会社で盛り上がって気持ちよく増資の準備を進めていたのに、既存株主が急にへそをまげて頓挫することが起こる。
だからといって既存株主の利害ばかりを優先して居丈高に交渉していると、対象会社の経営陣が表面ではペコペコしながら少しずつ交渉が成り立たないようにリードしていくことになる。結局、買収側は対象会社と交渉しながら、同時に旧株主の意向にもバランスよく配慮しておいたほうがいい。そうでないと、最終局面でちゃぶ台返しが起こったりする。こういうときに思い出さなければいけないのは、ビジネスの基本中の基本で「客を間違えるな」である。
こうして今回の件は、世間一般の営業の実務で大切にされている「誰の財布の話なのか」「客を間違えるな」という基本をおろそかにした者が、思い通りにいかなかったのではないだろうか。
(文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者)
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