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「電力自由化」まったく盛り上がらない原因はどこにある? 活発な競争が起こらないワケ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48343
2016年04月05日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■切り替え件数は1%にも満たなかった!
新年度入りを機に、「8兆円市場の開放」「260社が新規参入」「消費者の選択肢の拡大」などと、経済産業省が自画自賛する「電力の小売り全面自由化」が始まった。
しかし、肝心の消費者の反応は今ひとつだ。円滑な自由化や電力系統運用のために新設された公的機関の「電力広域的運営推進機関」によると、事前(3月25日まで)に、全国の消費者が契約を電力大手各社から新規参入事業者に切り替えた件数は、全体の1%にも満たない37万8400件にとどまった。
実質所得が伸び悩む中で、生活費を抑えたいという庶民の思いは切実なはずだ。それにもかかわらず、なぜ、電力自由化が盛り上がらないのか。最大の原因は、乗り換えるほど魅力のある料金プランが乏しいことにある。割安なプランの提供エリアは関東、関西の2大都市圏に集中しているうえ、対象もヘビーユーザーに偏っている。
加えて、来年4月に予定されるガスの小売り自由化が実施されれば、今より競争が活発化する可能性がある。それまで判断を保留する方が得策と、様子見を決め込んだ消費者も多いはずである。
日本経済にとって何よりも深刻なのは、盛り上がらない電力自由化の背景に、消費者のニーズや事業者の置かれた経営環境を無視して、官制経済の拡大に邁進する経済産業官僚たちの都合がどっしりと腰を降ろしていることである。
電力業界では戦後長らく、大手10社が各エリアごとに発電、送配電、小売りの電力3業務を地域独占してきた。儲けを期待できる都市部では過当競争が起きる一方、儲けを見込みにくい地域では一向に電力を供給する事業者が現れなかった戦前の反省に立って、制度設計が行われたからである。
電力大手に対して、地域独占に加え、費やしたコストをすべて料金に転嫁する総括原価方式を容認する代わりに、儲けを期待しにくい地域への電力供給義務を課す仕組みになっていたのだ。
こうした規制下の独占には、料金の下方硬直性という強い欠点がある。大口の需要家であり、国際競争にさらされている製造業者にとって、インフラ料金の高止まりは死活問題だ。外国企業に対抗するコスト競争力を失う恐れがあるからだ。
■電気料金がこんなに高い理由
そうした産業サイドからの批判を受けて、電力に先駆けて自由化(競争導入)されたのが、電気通信分野だ。1985年に、旧郵政省(総務省)が電信電話公社を民営化してNTTを誕生させると同時に、長距離、国際、衛星、自動車・携帯電話など幅広い分野で自由な参入を認めたのである。
その後の30年余りの間に、インターネットの登場やモバイル通信の発展といった追い風にも恵まれて、電気通信の自由化は大きな成果を上げた。
電気通信白書によると、NTTグループの売り上げが民営化前の2.1倍に増加したほか、ソフトバンクなど新規参入組の売り上げも20兆円を超えた。通信機器やコンテンツを含めたICT市場全体の規模は、実に100兆円に達している。
電気通信の市場拡大は、消費者に大きな恩恵をもたらした。多くの人がスマホを持つなど、利便性が向上しただけではない。1985年を100とした指数で通信料金をみると、固定電話は60以下、携帯電話は20以下と大きく低下したのである。
電気通信市場では、料金の低下分では補い切れないほど通信量が増加して支払い総額が膨らみ、今度は支払額そのものを減らせというのが、昨今の課題である。
これに対して、電力の自由化が始まったのは、バブル経済の崩壊から5年を経た1995年のことだ。電気通信に比べて10年遅れのうえ、その範囲は電気通信と比べ物にならないほど狭かった。発電した電気を電力会社に卸売りする事業や、大型ビル群など限られた範囲を対象とする大口向けの小売業務などに限定されていたのだ。自由化のペースも、大口向けの小売業務の完全自由化に10年の歳月を費やすのんびりしたものだった。
極めつけは、当時、家庭を含む小口の電力小売りは未来永劫に行わないとしていた点である。つまり、電力大手の経営の安定を優先し、われわれ庶民は電気料金の高止まりを甘受するよう仕向けられていたのである。
公平に言えば、通商産業省時代からの経済産業官僚の責任は、電力大手、特にその雄だった東京電力に政治力で劣っていたことだ。結果として、電気通信のような大胆な自由化に踏み切れず、骨抜きの制度改革しか実現できなかった。
この時点で、経済産業官僚たちは、電力会社に対する感情的な恨みを募らせてしまい、産業政策として目指すべきものを見失ってしまった。これは、公僕にあるまじきことである。
東日本大震災の津波が原因とされる福島第一原発事故は、そんな経済産業官僚たちに “意趣返し”の機会を与えることになった。未曽有の原発事故を起こした東京電力が、経営破綻の危機に直面したのだ。
■順序が逆では
本来ならば、資本主義の原則に基づいて東電の破綻処理を行い、その過程で東電の資産売却など様々な方法を通じて広範な新規参入に道を開き、小売り完全自由化を首都圏から進めていくべきだった。
しかし、経済産業官僚たちは、東電に資本注入して国有化し、自分たちのコントロール下に置くという、資本主義の原理原則に反する選択をした。現役官僚を経営陣に送りこむようなことまでやっている。これこそ、長年、抵抗してきた民間電力会社への官僚流の“意趣返し”の第1弾だったのだ。
一方、福島原発事故とそれに伴う原発の運転停止は、東電だけでなく、他の電力大手の政治力も失墜させた。
そこで、経済産業官僚は、もう一つの“意趣返し”に出た。電力の小売り完全自由化やそれを可能にするための電力システム改革を推進する方針を打ち出し、自分たちの規制権限を拡大する選択をしたのだ。
純粋に市場競争を促進するのならば、地域独占してきた電力会社同士を競わせるのが最良の選択肢だ。お互いが自前の発電設備をふんだんに備えており、あとは送配電の環境さえ整えれば、すぐにでもガチンコの闘いができるからだ。
ところが、福島原発事故とそれに伴う原発の運転停止は、電力会社から、政治力だけでなく、本格的な競争に出ていく財務面の体力も奪っていた。原発に代わる化石燃料の調達費用や定期点検中の原発の安全対策など、コストが膨らみ続けていたからだ。
将来、廃炉の費用や、使用済み燃料の処理費用がどれほど膨らむか判断できないという問題もあった。これでは、電力各社は慎重にならざるを得ない。他社エリアに本格的な参入をする余裕などなく、全国レベルで見て小売り自由化という競争が盛り上がらない状況になっていた。
政府・経済産業省は廃炉や使用済み燃料処理の明確な道筋を提示しないまま、小売り自由化に踏み切ったが、これは手順が間違っている。逆でないと、活発な競争は起きにくい。そうした順序をきちんと考えず、“意趣返し”を優先した官僚の判断が、盛り上がらない電力自由化の背景にある。
■電力行政の改革こそが必要
こうした中で、自前の発電設備を持っていたり、新たに建設し易い状況にあるガス、石油、鉄道などの新規参入企業の一部が、比較的、成長期待の持てる首都圏で攻勢をかけている。前述の「電力広域的運営推進機関」をみると、首都圏は全国トップの22万1800件の事前切り替えがあった。
もし、全国の電力会社が競って首都圏への本格進出を試みる状況にあれば、この切り替えは少なくとも数倍の規模に達していたはずである。そうならないのは、経済産業官僚たちが、政府が過半数を上回る株式(約54%)を保有する国営会社であり、福島第一原発事故の賠償費用として、原子力損害賠償機構が約5兆9,000億円の公的資金を融通している東電をがっちり守るハラだからかと疑わざるを得ない。
そして、そこには、自由化とはまったく相容れない、公正競争が担保されない状況が作り出されている。
国策支援のおかげで他の電力会社が羨むほど潤沢なキャッシュフローに恵まれた東電は、低料金を売り物に、ソフトバンクと提携して、電力業界2位の関西電力の本拠地である関西エリアに徹底した攻勢をかけている。結果として、このエリアでは、事前切り替えが全体の3割弱の10万3500件と、首都圏に次ぐ規模に達した。
対照的なのが、原油の調達などで東電と組んで合弁会社を設立した電力業界3位の中部電力の本拠地である東海エリアだ。こちらは、東電が関西エリアより割引率の小さい料金プランしか投入していない。そして、事前切り替えは、全体のわずか4.3%に過ぎない1万6100件にとどまっている。この4.3%という水準は、同4.5%の1万7200件の切り替えがあった北海道エリアを下回る低水準である。
国営・東電は、プライスリーダーとして、全国の小売り全面自由化をかなりコントロールしており、経済産業官僚による官制経済の拡大を後押ししている。そういう状況が展開されているのである。
昨年11月、経済産業省が公表した「電力の小売り全面自由化の概要」をみると、同省は今回の自由化を「家庭等の需要家の選択肢の拡大」「電気料金の最大限の抑制」「事業者の事業機会の拡大」などと自画自賛の言葉を並べている。
だが、“意趣返し”のために政治力低下という電力会社の弱みを突いて、名ばかりの自由化を押し進めても、実効が上がる道理はない。
せめて、自由化を始める前に、東電が巨額の公的資金の返済に充てるべき収益を、新ユーザー獲得や既存ユーザーの囲い込みに転用することを禁じる措置を講じるべきだった。前述のように、東電以外の電力各社の廃炉や使用済み核燃料の処分の問題を福島原発事故後5年も有耶無耶のまま放置してきたことも大きな問題だ。
各社が、将来発生する可能性のあるコストを見積もれる状態にして、自信を持って首都圏などに攻め込める経営環境を整えるべきだったのだ。それらの施策の展開は、電力自由化を持ち出す以上、経済産業官僚の使命だったはずである。
どうすれば、日本と国民のための電力行政を実現できるのか、経済産業官僚には、電力自由化だとか電力システム改革などといった大風呂敷を広げる前に、自らの電力行政改革を断行するよう求めたい。
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