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家計消費が伸び悩んでいる原因は消費増税だけではない(JIRI/PIXTA)
家計所得低迷の原因は、実質所得低迷にあり 消費増税のせいにしていては何も解決しない
http://toyokeizai.net/articles/-/112008
2016年04月04日 土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授 東洋経済
日本国内で家計消費が伸び悩んでいる原因は何か。消費税の増税によるもの――という見方は、正しいのだろうか。
消費税増税が家計消費に与える効果は、単純なように見えるがそうではない。所得税増税の効果と同一視することはできない。
所得税増税の効果は、直感的な理解をそのまま当てはめることができる。もし所得税が増税されたら、昨年と同じ税引き前所得を稼いでいれば、増税された分だけ手取りの所得が減る。だから、手取り所得が減るのに見合う形で、家計消費が減る。しかし、ここでは、所得税増税がモノの値段に直接影響を与えることはない。直接的な効果でみれば、所得税が増税されても、100円のパンは100円のまま変わらない。
■影響及ぼすルートが異なる所得税と消費税
消費税の増税の場合はどうか。消費税が増税されても、昨年と同じ税引き前所得を稼いでいれば、手取りの所得は今年も昨年と同じままである。しかし、モノの値段が変わる。消費税率が5%から8%に引き上げられれば、税込みで105円のパンは(消費税を完全に転嫁すれば)108円になる。物価はこの効果だけで約2.9%(=(108−105) ÷105)上昇する。こうしてモノの値段が上がることを通じて、手取りの所得が同じであっても購買力が落ちることから、家計消費が減る効果が生じる。
要するに、家計の購買力が減ることによって家計消費が減るという効果には違いないが、所得税は手取りの所得(可処分所得)を直接減らすルートで影響が及ぶのに対し、消費税は物価を上げるルートで影響が及ぶ点に違いがある。確かに、物価変動を調整した可処分所得である実質可処分所得を減らすという意味では、所得税も消費税も同じである。しかし、効果が及ぶルートが異なる点は、デフレ脱却をにらんで重要なポイントとなる。
2014年4月に消費税率が引き上げられ、それとともに家計が直面する(税込みの)物価は上昇した。物価上昇を上回る増加率で所得が増えなければ、実質所得は減ることになる。実質所得が伸び悩めば、家計消費は低迷する。
物価上昇率は、通常、対前年同期比で測られる。消費税率の引き上げが物価上昇率に与える影響は、税率を上げた年度でほぼ終わる。2015年度に入れば、消費税率は2014年度と同じ8%だから、消費税率の引き上げが物価上昇率を上げる作用は2015年4月以降にはない。
2015年度に、2014年度と同じ手取りの所得(可処分所得)を稼いでいれば、消費税率は8%のままだから、家計の購買力は変わらない。消費税が、家計の購買力を2014年度よりも減らすことはありえない。また、2015年度の物価上昇率に消費税が影響を与えることもない。しかし、2015年度に入っても、実質所得(あるいは実質賃金)は伸び悩んだ。それはなぜか。もはや、消費増税のせいではない。そもそも家計が得る所得自体が伸び悩んでいるからである。
■企業が賃上げに積極的になれない2つの理由
では、なぜ伸び悩むのか。さまざまな説明はできようが、端的に言えば、勤め先の企業などが賃上げに積極的でないからである。輸出が好調な企業では、ある程度の賃上げはあるが、特に海外と取引がない国内企業には、賃上げはあまり浸透していないかもしれない。
なぜ賃上げに積極的になれないか。この解釈は、大別して2つある。1つは、国内で需要が不足しており、売り上げが伸びないと賃上げできないという見方。もう1つは、労働生産性(投入した労働量に対して上がった付加価値額)が賃上げできるほど伸びていないという見方である。
前者の見方に立てば、国内で需要を喚起しなければ賃上げは起こらない、という処方箋になる。後者の見方に立てば、供給側で労働生産性を高めるための成長戦略を実行しなければ賃上げは起こらない、という処方箋になる。2016年度当初予算案が国会でまだ成立していない中、早くも消費刺激策を盛り込んだ2016年度補正予算の編成を求める声が与党内から出始めたが、これは前者の見方に立ったものと言える。
では、国内で需要を喚起すれば賃上げが実現するだろうか。企業が賃上げに応じにくい理由には、「人件費は固定費」との認識がある。つまり、正規雇用者は容易に解雇できないから、一度賃上げすれば、雇用し続ける限りその上げた賃金を毎月払い続けなければならないという認識である。
だから、企業が賃上げに応じるには、中長期的に安定した業況改善がなければ難しい。短期的な業況改善では、ボーナス等での一時的な所得の増加はあっても、恒久的な所得の増加にはつながらない。
ましてや、補正予算という臨時的で、恒久的な制度を伴わない予算措置では、需要を喚起しても一時的な効果にしかならない。その上、わが国における財政支出や減税による「乗数効果」は小さい。そんな一時的な効果で売り上げが増えても、企業は賃上げにおいそれとは応じられない。
しかも、現在のわが国の財政状況では、こうした消費刺激策のような財政出動は、長続きしないと足元を見られる。消費税率に引き下げる「奇策」も、消費税率を未来永劫引き下げて、高齢化に伴い経済成長率より速く増加する社会保障費や、教育費などの財政支出を賄い続けられる根拠はまったくない。ましてや、消費税を減税する代わりに所得税を増税すれば、前述のように、家計消費を減らす効果が生じるわけで、問題の解決にはならない。長続きする財政出動ができない以上、財政出動で着実な賃上げは起こらない。
■労働生産性を高める成長戦略の有効性
残されたもう1つの処方箋は、労働生産性を高める成長戦略である。国内では需要不足との見方があるが、失業率はバブル崩壊後最低の水準に達し、人手不足が深刻化している。売り上げが急増しなくても、限られた人手でより高い付加価値を上げられれば、労働生産性は上昇する。しかも、ビッグデータを活用した人工知能(AI)やロボットなど第4次産業革命と呼ばれる動きが浸透しつつあり、これまで以上に労働生産性を高めるチャンスが訪れている。安倍晋三首相が今年1月の施政方針演説で言及した「働き方改革」は、まさにこの見方に立っている。
労働生産性が不可逆的に高まれば、恒久的に賃金を上げても企業経営に支障を来さない。供給側に働きかけてこそ、着実な賃上げ、さらには実質所得の増加につながる。こうして実質所得の伸び悩みが打開できれば、家計消費の低迷も打開できる。
消費税率を10%に引き上げることを再び先送りしても、労働生産性を向上する努力を怠り、実質所得の伸び悩みを打開できなければ、家計消費の低迷は止まらない。
1つ簡単な頭の体操をしてみるとよいだろう。家計の手取りの所得が昨年と同じだとして、日本が輸入している天然資源が不可逆的に値上がりして、家計が直面する物価が総じて約2.9%上昇した場合、家計消費にどのような影響が及ぶか。
これは、前述した消費税率が5%から8%に(約2.9%上昇)上がったときと似たことが起きる、と予想できる。唯一大きな違いは、値上がり分の家計が支払ったお金が、消費増税の場合は日本政府の収入となるのに対して、天然資源の場合は外国の資源保有者(アラブの石油王とか)の収入になる点だろう。同じ値上がりでも、払ったお金が、日本国内に残る消費増税と海外に流出する天然資源と、どちらがよいかは推して知るべしではあるが。
■政府が発すべき大切なシグナルがある
とにかく、消費税率引き上げ以外の要因でも、家計が直面する物価が上がれば、物価上昇を上回る増加率で所得が増えない限り、実質所得は減る。家計消費の低迷をいつまでも消費増税のせいにしていても、的外れであるだけでなく、何の解決にもならない。どのような要因で物価が上がっても、実質所得が減らないような改革に着手しなければ、家計消費の低迷はおろか、デフレ脱却もままならない。
デフレから早期に脱却させるには、一度始めた異次元緩和策を縮小しては逆効果でよくないが、供給側に働きかけて労働生産性を高める取り組みを官民挙げて行うことも重要だ。そして、実質所得の増加を家計消費の増加につなげるには、安心して老後生活の設計ができるよう、公的年金を始め社会保障制度や税制を予見可能なものにして、若いときに多めの貯金(予備的貯蓄)をしなくてもよいとのシグナルを、政府が国民に発していくべきである。
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