金融市場異論百出 2016年3月25日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長] 錬金術師から“薬剤師”へ神通力が落ちた世界の中央銀行ニール・アーウィン氏著『錬金術師たち』(The Alchemists)(写真右)と、マーヴィン・キング・イングランド銀行前総裁著『錬金術の終わり』(The End of Alchemy)(写真左) 『錬金術師たち』(The Alchemists)。ニール・アーウィン氏が2013年に著したこの本は、中央銀行関係者の間で大きな話題となった。 ベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)前議長、ジャン=クロード・トリシェ欧州中央銀行(ECB)前総裁、マーヴィン・キング・イングランド銀行前総裁が、金融危機後に巨額資金供給でパニックを鎮めた経緯、内幕が描写されていたからだ。 アーウィン氏は、中央銀行は錬金術師のように「無価値なものから価値ある何かを作り出す魔法のプロセス」を持っていると考えた。そういったミラクルなパワーが中央銀行にはあるとイメージしていた人は、当時の株式市場や為替市場にも多かった。 しかし、同書の表紙にも載っていたキング前総裁が今月出版する新著のタイトルは、『錬金術の終わり』(The End of Alchemy)である。時代の変化が感じられる。 実際、今年に入ってから、中央銀行の神通力は落ちてきている。日本銀行は1月29日にマイナス金利政策を導入した。その本音の目的は、円安誘導および株価押し上げにあったと推測されるが、これまでのところうまくいっていない。 しかも、消費者マインドを表す消費者態度指数は2月に大幅に悪化した。おそらく多くの日本国民は、「マイナス金利といわれてもよく分からないが、そんな異常な政策を始めなければならないほど日本経済は悪いのか」と感じて、心配になってしまったのだろう。 一方、ECBは3月10日に、量的金融緩和策(QE)の拡大やマイナス金利の引き下げ等の大胆な緩和パッケージを決定した。しかし、市場の反応は、昨年1月のQE導入決定時より冷ややかだ。ユーロの対ドルレートは緩和策で下落するのではなく、逆に上昇した。 この1年を振り返ると、欧州の株価は昨年4月上旬までは上昇したが、その後は下落、現在はQE開始直前の水準より低い位置にある。インフレ率も2月はマイナス圏に舞い戻ってしまった。 かといって、過度なマイナス金利政策は銀行の金融仲介機能を損ねるため、ECBはさらなる金利引き下げは行わない様子だ。「金融政策には限界がある」と考える市場参加者が増えている。英紙「フィナンシャル・タイムズ」も「何年もの間、投資家たちは中央銀行のとりこだった。しかし、状況が変わってきた」と最近書いていた。 かつて大胆な緩和策の必要性を声高に主張していた経済学者アダム・ポーゼン氏は、前掲書『錬金術師たち』へのコメントの中で、「中央銀行家は錬金術師ではなく、実際は薬剤師だ」と述べていた。「棚にある薬の量は限られており、法律で一定量を超える薬の使用は禁止されている」「望まれる最善の状況とは、副作用を最小限に抑えつつ、患者が時とともに着実に回復してくれることだ」。一時イングランド銀行の政策委員を務めた経験が、彼の見方を変えたようだ。 日銀もECBも、いっそ「中央銀行は実は薬剤師」と認めて身の丈に合った政策を行う方が、副作用を回避できるだろう。先日の主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも、通貨安誘導につながる緩和競争は避けるべきという合意が形成された。 しかし、政府による有効な景気刺激策や構造改革は日欧共に期待しづらい面があるだけに、「中央銀行は無限のパワーを持つ」「緩和手段はいくらでもある」といった強弁をやめることは、なかなか難しいのかもしれない。 (東短リサーチ代表取締役社長加藤 出) http://diamond.jp/articles/-/88315 シェール企業、利払いに窮してバタバタと逝く いよいよ訪れようとしている原油価格下落の正念場 2016.3.25(金) 藤 和彦 米シェール産業の先駆者が衝突死、入札談合で起訴の翌日 米カリフォルニア州のシェールガス採掘場でパイプから噴き出す炎(2014年3月22日撮影、資料写真)。(c)AFP/Getty Images/David McNew〔AFPBB News〕 3月下旬に入り、米WTI原油先物価格は1バレル=40ドル前後で推移している。
米国での原油掘削装置(リグ)稼動数の記録的な減少(約1600 → 約400へ)がようやく効果を発揮し始めた(生産が1年4カ月ぶりの水準に低下した)ことに加え、連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げ見送りで米ドルが急落したことも原油相場を後押しした。 原油価格の見通しについて、投機筋は昨年(2015年)6月以降で最も強気になっているという(3月22日付ブルームバーグ)。 その理由はなんと言っても、4月17日に主要産油国が集まるカタールの首都ドーハでの会合で、生産抑制に向けてなんらかの合意が成立するとの期待である。 3月21日、OPECのパドリ事務局長は「原油価格は適度な水準で回復する」との見方を示した。しかし、4月のドーハでの会合で具体的な合意ができなければ相場が反転することは明らかである。 さらに筆者は、生産水準維持に関する協議が成立したとしても世界の供給過剰にはほとんど影響を及ぼさない可能性が高い、と考えている。理由は次のとおりだ。 国際エネルギー機関(IEA)によれば、今年原油の生産を増加させるのはイラン、ブラジル、アルゼンチン、赤道ギニアだ。このうちイランとブラジルは増産を凍結する意向はない。また、アルゼンチン、赤道ギニアが増産凍結に合意しても、抑制される原油供給は日量5万バレルに過ぎず、世界の供給過剰分(日量約200万バレル)の2.5%にすぎない。OPECが6月の総会で減産を決定する可能性も低い(3月1日付ロイター)。 大幅に増加しそうなシェール企業の破綻 昨年1月に1バレル=40ドル台に下落した原油価格は、その後上昇に転じ、6月には同60ドルに届く勢いだった。だが、6月に開催されたOPEC総会で予想に反して生産据え置きが決定されると再び下落に転じ、同30ドル台後半で年末を迎えた。 今年1月に1バレル=26ドル台だった原油価格は約40%上昇した。しかしこのまま上昇することはなく、年末までにさらなる安値を記録するという昨年の「二の舞」になるのではないだろうか。 その理由は、シェール企業の破綻が今後大幅に増加する可能性が高いからである。 原油価格は回復基調にあるため、シェール企業の一部には増産の動きが出ている。だが、シェール企業全体が利益をあげる水準にはほど遠い。 3月18日、米中堅石油会社「ペノコ」は米連邦破産法第11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したと発表した(3月19日付日本経済新聞)。ペノコの負債総額は約10億ドルだが、2月16日を期限とする1370万ドルの利払いができず、その後も資金繰りに追われていた。同日、「エナジーXXI」も880万ドルの利払いが不能となり、今後1年間に利払いを果たせない見込みとなった。その後も「サンドリッジ・エナジー」(2月17日、2170万ドル)や「グッドリッチ・ペトロリウム」(3月8日、額は不明)の利払い延期が相次いでいる。 2月19日付ブルームバーグによると、シェール業界は3月末までに総額12億ドルの利息を支払う必要があるという。12億ドルという数字は北米独立系石油・ガス生産会社61社についてブルームバーグが集計した結果である。そのうち約半分の企業はジャンク債に格付けされているため、多額の利払い負担を抱えている。 シェール企業各社の2月期決算を見ると、売上高は低油価のせいで軒並み前年比35〜55%減少し、稼動リグ数も各社は大幅に本数を減らしている。リグ1本当たりの生産量を大幅に増やしているため生産量は前年比横ばいの企業が多いが、原油価格が1バレル=40ドルになっても、各社にとって債務の利払いのための資金調達が困難なことに変わりはない。 米国の石油生産企業の3分の1が年内に破綻? シェール企業(ガス系を含む)の破綻件数は2013年が15社、2014年が14社と低位で推移してきたが、2015年には67社と急増した(破綻の大半は年後半に発生した)。67件のうち原油系企業は42社であり、地域別にはテキサス州が18社と最も多かった。 シェール企業各社は、キャッシュフローを確実にするとの理由から1年後の原油価格を確定することを金融機関から義務付けられていた(原油先物の「売り」を行う)。そのため、昨年前半までは原油先物の売りと原油現物の買い戻しから生ずる差益を稼ぐことができ、これを操業資金等に充当してきた。しかし今年に入るとその錬金術が使えなくなった。融資に占めるエネルギー企業の比率が高い金融機関の株価が下落傾向にある(2月9日付日本経済新聞)ため、4月以降に集中する金融機関との交渉で、融資が打ち切られるシェール企業が続出することが懸念されている。 2月16日、米監査法人・コンサルテイング会社のデロイトは、米国で株式上場する石油・天然ガス生産企業500社以上の調査を踏まえて、「米国の石油生産企業の約3分の1が年内に経営破綻に陥る危険性が高い」と予測した。経営破綻リスクがある175社の企業は1500億ドル以上の負債を抱えているという。米国全体でシェール企業は4000〜5000社あるとされていることから、焦げ付き債権はトータルで2000億ドルを超える可能性がある。 シェール企業最大手の「チェサピーク・エナジー」も相変わらず気がかりである。 同社は今年に入り、ますます窮地に追い込まれていた。最も大きな要因は、昨年末まで400〜500万バレル相当の原油先物を1バレル=58ドル以上の価格で売る契約を結んでいたが、その契約が今年に入り失効してしまったことにある。キャッシュフローが先細りした同社に対し、2月に入り複数の取引先企業は合計2.2億ドルの担保提供を求めていた。最終的に要求される担保は7億ドルにまで膨らむ可能性がある(2月26日付ブルームバーグ)。 また、同社は保有する石油・ガス関連資産に対し昨年182億ドルの評価損を計上した。今年もさらなる評価損が生じる可能性が高いため、虎の子であるオクラホマ州シェール資産の一部売却を検討しているという(3月10日付ブルームバーグ)。 原油価格の上昇で一息ついた感があるが、負債総額約110億ドルを抱えるチェサピーク・エナジーが破綻すれば、シェール企業の連鎖倒産が起き、金融市場に衝撃が走るだろう。 80年代後半の「S&L危機」が再来か 筆者は以前のコラム(「原油価格急落で再びテキサスは燃えてしまうのか」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43506)で、1980年代後半の逆オイルショック後にテキサス州を中心に生じた「S&L危機」と今回の原油価格下落の類似点について触れた。ここに来て、その再来がますます心配になっている。 1970年代の2度のオイルショックにより、原油価格は1バレル=2.75ドル(1973年)から36.95ドル(1981年)に急騰した。それを受けて金融機関は原油価格が1バレル=60ドルにまでに上昇することを前提に石油ビジネスへの融資を大幅に拡大した。 しかし1981年から原油価格は徐々に低下し、1986年には1バレル=10ドルにまで下落してしまう。高コスト構造の米国産原油はこうした低価格に競争力がなく、多くの採掘事業が行き詰まった。米国内の稼動リグ数は約4000(1981年)から1986年には5分の1以下にまで激減した。 これにより石油企業の5割以上が破綻した結果、1987年から1989年にかけて米国で金融機関の大量破綻が起きた。件数・資産ベースともに金融機関の破綻が深刻だったのがテキサス州である。「S&L」と呼ばれる住宅ローンに特化した小さな金融機関の破綻も、テキサス州が中心だった。1986年初めに3234あったS&Lは1995年末には1645まで減少し、S&L危機に伴う財政負担は1500億ドルに達したと言われている。 今回も、テキサス州を中心にシェール企業の大量破綻が生じ、その救済コストが多額に上る可能性がある。 世界の地政学的リスクはますます上昇 シェール企業の大量破綻は、米国以外の他の金融市場にも悪影響を及ぼす。 今年に入ってからのシェール企業の破綻総数はつかめていないが、年間を通して優に100社を超えることが予想される。だが、シェール企業が発行しているジャンク債市場には3月に入ると資金が再び流入しており(3月11日付ロイター)、世界の市場関係者はいまだ警戒心が薄い。 S&L危機の時とは異なり、金融機関はシェール企業に対するレバレッジド(ハイリスク・ハイリターン)ローンを証券化して、世界中の投資家に売りさばくことによりリスク回避を行っている。しかし、チェサピーク・エナジーのような大型シェール企業が破綻し、金融市場に混乱が生じれば、金融商品化した原油先物価格は暴落する。 その後に金融危機が来るかどうかは「神のみぞ知る」だが、米国でシェール企業破綻に端を発する「4月危機」が来れば、ヒートアップしている米国の大統領選挙への(悪)影響も大きいだろう。さらに原油価格のさらなる急落は産油国経済を直撃し、世界のいわゆる地政学的リスクはますます上昇することは論を待たない。 今回の原油価格下落の正念場がいよいよ訪れようとしている。その結末ははたしてどうなるのだろうか。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/46417 原油安に翻弄される産油国、減税広がる 2016年3月25日(金)The Economist 原油価格の上昇。かつてそれは国家が財源を確保する上での必勝パターンであった。石油会社を対象とする様々な課税やロイヤリティ(利権料)、生産物分与契約を通じて政府が獲得する資金は、原油価格が上昇するのに伴いどんどん増えていった。米ボストン コンサルティング グループによれば、政府の平均的な取り分は2000年の1バレル当たり9ドル90セント(約1100円)から、2014年の同30ドル40セント(約3400円)に上昇した。 こうした相場は、原油価格が3桁をつけていた時期には妥当なものだったかもしれない。だが1バレル40ドル(約4500円)前後で低迷する今、この金額は高すぎる。そこで各国の政府は石油業界の負担を軽減するべく動き出した。英国のオズボーン財務大臣は3月16日に提出した予算案の中で、石油生産にかけていた税の1つを廃止、もう1つを半減させた*1。北海油田の一部については税率を現行の67.5%から40%に引き下げる。 *1:石油収入税を廃止、石油・ガス生産業者に対する追加費用税を半減すると発表した 石油生産を対象とする税の中には、価格変動の影響を他より強く受けるものがある。 オーストラリアやノルウェーなどでは油田から上がる収益に対して一定割合の政府の取り分を設定している。こうしたシステムにおいては、原油価格が下がって収益が縮小すれば、政府が得られる額も自動的に調整される。 一方、ブラジルやカザフスタンなどは1バレルにつき固定額のロイヤリティを課している。この場合、原油価格が下落してもロイヤリティの金額は変わらないため、政府の分け前が膨らむことになる。これら以外のシステム、つまり石油会社と政府がコストと収益を共有する形のものは、これまでに説明した2つの混合型として機能する。 コスト高の油田は高い税率に耐えられない 現在、固定額のロイヤリティをベースとする体制の多くで過酷な課税状況が生じている。英国に拠点を置く会計事務所のEY(アーンスト・アンド・ヤング)の試算によれば、原油価格が1バレル40ドルになると、ブラジルとアンゴラの一部プロジェクトでは総利益を超える額が政府のものとなる(図参照)。 政府の取り分が総利益を超える ●油田の総利益*に占める割合(%)、2015年 出所:The Economist/EY、Wood Mackenzie [画像のクリックで拡大表示] たとえ法外な額でなくとも、高い税率は問題を生じさせかねない。ノルウェーのコンサルティング会社ライスタッド・エナジーは、2013年には世界で9000億ドル(約100兆円)だった石油・ガス開発投資が今年は5220億ドル(約59兆円)まで減ると予測している。政府が新規の開発投資を呼び込もうとしても、目的を達成できるチャンスはわずかだ。 石油資源の中には極めて魅力的なものもあり、そういう案件には何があろうと多数の石油会社が殺到する。だが英国沖の北海油田など、資源の枯渇が予想され、コストも高くつく地域ではそうはいかない。そういうところには税制上の優遇措置が不可欠となる。昨年、デンマークのマースク・オイルはカリーン油田の開発を続行すると決めた。その背景には、この複雑なプロジェクトに対して政府が減税策を導入したことがあった。 地域によってはさらに切迫した課題に直面している。油田の操業コスト(ロイヤリティを含む)が原油価格を上回った場合、所有者は油田を一時的に閉鎖する可能性がある。EYの石油ガスセクターでグローバル財務リーダーを務めるアレクセイ・コンドラショフ氏によると、米国のシェール層の多くはとりわけその影響を受けやすいという。 英国を皮切りに相次ぐ負担軽減 一連の減税策を最初に打ち出したのは英国だ。英国は昨年、石油から上がる利益に対する税率を引き下げるとともに、幅広い投資控除を導入した。新規油田を対象とする税率は2015年初めには60%だったが、まず50%に下がり、今度は40%になる予定だ。 英国の動きに続き、カザフスタンが原油の輸出税を引き下げた。ブラジルは新たに導入する予定だった石油ロイヤリティを保留した。コロンビア、メキシコ、ケニアは税制度に手を入れている。カナダのアルバータ州は1月、石油ロイヤリティの引き上げを見送った。同州では昨年、法人税の引き上げを公約に掲げた左派政府が誕生していた。 安直な答えなど存在しない 原油価格は最近、部分的な回復を見せた。だがこの勢いが失われれば、「財政難」「巨大石油企業への減税に対する国民の反感」という困難を押してでも財政を見直す政府が増える可能性がある。しかし、この問題に安直な答えなど存在しない。 ロイヤリティは、企業が回避するのが難しく、政府にとっては頼りにしやすいものだ。だが融通は利かない。収益ベースの課税と生産物分与は複雑で、石油会社による操作の余地が残る。つまり、欠点のないシステムなど存在しないのだ。それを考えれば、石油産業に対する税制が各政府によって大きく異なる理由も理解できる。 多くの国が石油会社の税負担を軽減しているものの、「底辺への競争」は今のところ生じていない。それどころか正反対の方向を目指しそうな国もある。通貨ルーブルが下落するのと同様に操業コストが縮小し、思わぬ収入を手にしたロシアの石油企業に対しては、増税が実施されるかもしれない。 また、米国のオバマ大統領は2月、米国で生産される原油1バレル当たり10ドル25セント(約1150円)の新たな連邦ロイヤリティを提案した(州政府が課すロイヤリティはすでに複数存在する)。共和党が多数を占める議会がこの計画を阻もうとしていることは、石油会社にとって朗報だろう。 Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。 世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。 記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。 このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/224217/032300070/ 海から見た世界経済 【第6回】 2016年3月25日 山田吉彦 「石油価格のメカニズム」2015年の大暴落、その真相とは?
2015年に起こった石油価格暴落。1バレル約100ドルだった石油価格(2014年)は、一気に36ドルまで下がりました。その原因と石油価格のメカニズムを見ていきましょう。「海と経済」の第一人者であり、新刊『完全図解海から見た世界経済』の著者である山田氏に聞いてみました。 石油価格の暴落は、 なぜ起こったのか? 2015年は石油価格が暴落しました。国際的な原油価格の指標となるWTI原油価格は、2014年6月20日、1バレル当たり107・95ドルでしたが、2015年12月28日には、36・36ドルまで下落。実に66%も下落してしまいました。 2015年の石油価格暴落。その流れを追いつつ、「石油価格のメカニズム」を見ていきましょう。 石油価格の急速な下落の引き金になったのは、「シェールオイル開発の影響による、アメリカ内における石油のだぶつき」でした。2013年、アメリカでは、それまで1日に500万バレルほどの石油産出量でしたが、810万バレルまで急速に増加しました。その内、350万バレル近くがシェールオイルです。 ※シェールオイルは石油の一種
かつてアメリカでは石油の輸出を制限していました。しかし2014年、シェールオイルの生産による「国内石油の余剰解消」のため、法律を改正し、アメリカ内で産出された石油を輸出できるようにします。テキサス産の原油をヨーロッパに輸出しますが、石油を海外へ送り出すための施設も不足し、供給過多による価格の低迷を解消することはできませんでした。 2014年時点でシェールオイルの生産、流通に関わるコストは、1バレル当たり70ドルから90ドル前後と試算されていました。いずれ量産体制が確立すると1バレル当たり40ドルにまで下がると予想されています。これは、OPEC(石油輸出国機構)に加盟する既存の原産国にとって脅威になります。 石油価格を巡る攻防戦 アメリカ、OPEC 石油価格の大幅な下落の原因をアメリカのシェールオイル増産によると見たOPECは、生産量の維持を決め、価格の低迷を容認しました。 サウジアラビアの石油産出・流通コストは、1バレル当たり18ドルといわれ、価格競争に十分に耐えられます。一方、アメリカのシェールオイル関連企業の一部は既に破綻してしまいました。OPECの生産体制維持は、シェールオイル潰しであるともいわれています。 また、石油価格を低水準に抑えることは、イスラム過激組織IS対策としても推進されています。ISは、軍事占領した地域から産出する石油を軍資金にしています。 さらに、石油価格の低迷は、クリミア問題により欧米諸国と対立しているロシアにも大打撃を与えています。ロシアは世界でも1、2を争う原油生産国ですが、寒冷地という厳しい環境と後発の産油国のため、生産コストが高く、原油価格が1バレル当たり50ドルに達しないと利益を上げることができません。石油の売却益がなくては、国家財政の維持も困難です。原油価格の低迷は、ロシアへの経済制裁にもなっています。 石油価格下落による 悪影響とは? 原油価格の低迷は、海底資源開発の速度を鈍らせる恐れもあります。2013年における、全世界における石油・天然ガス探鉱開発投資額は、68兆円ほどですが、その内の約29兆円が海洋での開発に関わるコストです。 2015年1月時点で、海底から石油およびガスを採取する海洋掘削リグは、世界に954基存在しています(その他に224基を建造中)。最も多いのはメキシコ湾です。アメリカの海域とその周辺に設置されているものが186基あります。その次に海底掘削リグが多いのは、中東地域で155基、次いで東南アジアの125基です。 海洋における石油生産の比率は、2020年までには、全石油生産量の3分の1に上昇すると見込まれています。現在のように石油価格が低迷する状況では、新たな海洋油田開発は推進することができなくなるでしょう。原油価格1バレル当たり50ドルが、海洋油田開発推進のボーダーラインのようです。 http://diamond.jp/articles/print/88442
格差を生み、不況をもたらした許されざる"真犯人" 公開中『マネー・ショート』と『ドリームホーム』が雄弁に語る世界経済 2016.3.28(月) 竹野 敏貴 米NY、最貧地区とウォール街周辺の平均寿命の差は11年 ウォール街にあるニューヨーク証券取引所〔AFPBB News〕 今年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞など5部門にノミネートされ、脚色賞を獲得した実話に基づいたシニカルな金融ドラマ『マネー・ショート華麗なる大逆転』(原題The Big Short)(2015)が劇場公開中である。 MLBを舞台とした『マネーボール』(2011)の原作者で、金融界の一員だったこともあるマイケル・ルイスのベストセラー「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」の映画化作は、サブプライムローン問題をいち早く察知した男たちの物語である。 冒頭、ライアン・ゴズリング演じるトレーダー、ジャレッドが、見る者に向かい、MBS(Mortgage backed securities不動産抵当証券)を考案したルイス・ラニエリについて語りかける。 「彼のことは知らないだろうが、マイケル・ジョーダン、アイポッド(iPod)、ユーチューブ(YouTube)を合わせたよりもあなたの生活を変えた人物なのだ」 リーマンショックを予期した男 そして、金融界享楽の時の映像が挟まり、登場から30年ほど経た2008年、世界経済を危機へと追い込んだことを伝える。 専門家もリーダーたちもそれを予見できなかった。しかし、何人かのアウトサイダーや奇人たちには、ほかには見えないものが見えていた。 その1人、クリスチャン・ベール(本作でアカデミー助演男優賞ノミネート)演じるエキセントリックな印象のファンド・マネージャー、マイケルは、住宅ブームさなかの2005年、MBSを調べるうち、高い格付けにもかかわらず、リスキーな変動金利型サブプライムローンが含まれていることを知る。 そして、当初は低く設定されている金利が上がる2007年に暴落が始まると予測する。 スティーヴ・カレル演じる世のシステムに不信を持ち続けるファンド・マネージャー、マークは、マイケルの動向を知ったジャレッドから話をもちかけられ、話に乗る。 ニューヨークへとやって来たばかりの若き投資家チャーリーとジェイミーもひょんなことから情報を得るが、ウォール街に打って出るには桁外れのカネが必要で、かつての隣人で元腕利き銀行家、ブラッド・ピット演じるベンの助けを借りることになる。 こうして、男たちはそれぞれの思惑で「経済の破綻に賭けた」。そして2007年、サブプライムローン事情は悪化・・・。 金融界に縁の希薄な者にとって、リーマンショックの理解は、いまだモヤモヤ。そこには、複雑化した金融システム、商品の知識欠如がある。この映画のストーリーを追っていても、様々な専門用語が飛び交う。 「MBS、サブプライムローン、トランシェ・・・。ウォール街は、彼らだけがそれができると思わせるため、混乱させるような用語を使うのを好む」とジャレッドも語りかける。 しかし、この映画は、重要なキーワードを、俳優や著名人たちが、たとえを使い「解説」してくれる。 バブルを作り破裂させるCDO 開巻間もなく、女優マーゴット・ロビーは、バブルバスにつかりながら、MBSやサブプライムローンを「shit」という言葉を使って解説、たびたび登場する「short」という単語についても「bet against」だと語る。 有名シェフは、役立たずの魚を使ったシーフードシチューがCDO(Collateralized Debt Obligation)だと言い、行動経済学者は、カジノでブラックジャックに興じる人気歌手セレーナ・ゴメスが勝つかどうかに賭ける見物人、その見物人に賭ける他の見物人・・・と賭けが膨張していく様(さま)にシンセティックCDOを重ね合わせる。 こうしてフィクション世界から一時的に逸脱するような「第4の壁を破る」手法は、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)でもとられている。 そして、26歳の時4900万ドル稼いだという、レオナルド・ディカプリオ演じるトレーダー、ジョーダン・ベルフォートが、ウォール街のカネとドラッグと酒とセックスまみれの生活を見る者に語りかけることで、シニカルな印象づけに成功している。 それでも、英語ネイティブでない我々が、理解しようともがいているうち、フィクション世界の物語は進んでしまっているかもしれない。 実際、大まかなイメージを掴めば、映画的にも知識的にも十分とも思えるのだが、すっきりしないのであれば、ルイスの原作を読むのもいい。 ドキュメンタリー映画『インサイド・ジョブ世界不況の知られざる真実』(2010)なら、用語も分かりやすく説明されているし、金融危機の全体像を捉える助けにもなる。 「内部犯行」を意味する題名のこの映画は、アイスランドから始まる。生活水準も高く、人口32万の成熟した小国は、2000年、大幅な規制緩和を行った。国営3銀行も民営化、米国格付機関も金融機関を高評価した。 株、住宅バブル、2008年銀行破綻。市民生活は大被害を受けた。そして、ニューヨーク。リーマン・ブラザーズ破綻、世界最大の保険会社AIGの経営危機、世界も・・・。 そこから、戦後の米国金融小史が語られていく。大恐慌以降40年、米国は成長を続け、金融危機はなかった。金融界は厳しく規制されてきた。 しかし、1980年代、激変。 世界を変えた米国の金融規制緩和 学者とロビイストに支援され、ロナルド・レーガン政権は規制緩和に着手した。1982年、貯蓄貸付組合(S&L)への規制撤廃、預金によるリスキーな投資が認められるが、80年代末までS&Lの破綻が相次ぎ、救済には税金が使われ、多くの人が貯蓄を失った。 金融界は強大となり、豊富な資金とロビー活動で政治に入り込んだ。巨額のボーナス、詐欺、不正会計の横行。規制緩和と金融工学がデリバティブを生み出し、すべてが投資対象となった。 業界の中心となる投資銀行5行、金融複合企業2社、保険会社3社、格付会社3社による証券チェーン(Securitization food chain)形成。住宅ローンを大量に集め、車や学資ローンなど組み合わせCDOを作り、世界中の投資家に売った。 銀行は格付機関に評価を依頼、大抵は高格付だった。証券化されたことで、貸し手は返済を気にせず、リスキーな相手にも貸すようになった。投資銀行も高利益のCDO販売ばかり考えた。 住宅ローンは質より量となり、21世紀に入って、4倍近くとなった。そこにサブプライムローンが入り込んだ。それでも格付は高いまま。住宅価格は高騰した。借手は必要以上に高いローンを借り、やがて、多くは返済不能となった。 AIGはCDO関連のCDS(Credit default swap)というデリバティブを大量販売した。CDSとは信用リスクを取引するデリバティブで、CDOを持つ投資家にとっては、保険料を払い破綻時に損失補填してもらう保険のようなもの。 しかし、CDOを持っている必要はなかった。その破綻に賭けたければ、他の投資家も買えた。そして、経営危機に陥ったとき、CDS支払いの余力はなく、AIGには公的資金が投入された。 金融界は文字通り桁違いの高収入の世界となった。1980年代以降、米国は格差社会となり、「99%のその他」は長時間労働と借金で対応した。そして、借金が簡単にできるシステムができた。 『マネー・ショート』でも、住宅事情を調べにフロリダにやって来たマークが、バブルの現実、多くの空き家とともに、ローン審査のいい加減さに呆然、金融危機が訪れることを確信する。 貯金をほとんど使わず、借金で家を買う。だから、何かあればローンは滞る。そんなローンを組み込んだ証券でも格付は優良。現実と格付の乖離は、『マネー・ショート』中盤、話のポイントとなる。 2010年の調査委員会の席で「クズだと思っていながら、その証券を最優先で売った」投資銀行幹部が上院議員に詰問されている映像が『インサイド・ジョブ』にある。 ウォール街の架空の投資銀行が舞台の『マージン・コール』(2011)はまさにそんな話。リスク管理部門で働く物理学博士号をもつ若手アナリストが、解雇された上司から渡されたやりかけの仕事を解析、40か月ほど前から扱い大きな利益を上げてきたMBSが25%下落すれば、損失額は会社の総資産価値を上回ることを知る。 不正の対価は桁外れの報酬 それを聞いた会社のとった行動は、価値のないことを知りながら、市場が気づく前、その大半を、CEO言うところの「購買意欲のある買い手に正当な価格で売る」こと。 もちろん、のちに買い手とは確執が生まれ、キャリアに傷がつくことも分かっている。その対価は、桁外れのボーナスだった。 『ウォールストリート・ダウン』(2013)も、経営危機回避のため、顧客など無視、不動産関連商品の投げ売りを指示する幹部の姿から始まる。 一方、警備員である主人公ジムは、保険の限度オーバーという規約を初めて知らされ、脳腫瘍の妻の治療費支払に貯金を当てざるを得ない苦境にある。そのうえ、ブローカーに託していた不動産投資が失敗、全財産を失い、さらに、6万ドルの支払いまで要求されてしまう。 しかし、訴訟を起こそうにも弁護費用は1万ドル。ようやく工面しても弁護士の対応に誠意は感じられない。家は差し押さえられ、職も失い、妻まで失ったジムは、機関銃を手にウォール街に向かう・・・。 ここまでの負の連鎖はなくとも、金融危機で、住宅や貯金など、財産を失い、失職した者の数は計り知れない。現在公開中の『ドリームホーム99%を操る男たち』(2014)は、失業し、住宅ローンを滞納したシングルファザーが主人公。 結局、家は差し押さえられてしまうのだが、その強制執行に郡保安官とともにやって来た不動産ブローカーから仕事をもらったことから、高収入を得られる住宅の差し押さえを仕事とするようになる。 住民ばかりか、銀行や政府をも手玉に取る様(さま)にモラルなど感じられないが、さらに道を踏み外しかねない局面に立たされ・・・。 富める「1%」vs. 残り「99%」の世界を行き来するような主人公の苦悩は、出世やカネのためにどこまで他人を踏み潰せるか、という、それなりの年数、人間をやっていれば、誰もが少なからずぶつかる人生の局面を思い起こさせる。 それなら「1%」が操る世界で「99%」はどうすればいいのだろうか。経済、金融の勉強? 貪欲・獰猛な動物たち しかし、学者とて、金融機関の幹部経験者、顧問で大金を稼ぐ者も少なくなく、コンサルタント会社が学識者を企業に供給している、と『インサイド・ジョブ』に言われれば、どの論文や書籍をどこまで信用していいものか、考えてしまう。 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は、冒頭、「ウォール街のウルフ」ジョーダンの会社CMを映し出す。 「投資の社会はジャングル。Bull(上げ相場)、Bear(下げ相場)、と、危険だらけ。だからわが社は百獣の王を誇るのです。熟練のプロが投資のご案内をいたします」 『ウォール街』(1987)の貪欲さで有名な主人公はゲッコー(ヤモリ)だし、カネに群がるハゲタカやハイエナは至る所にいる。 ネズミ講まがいの詐欺師もいれば、海には、ローン・シャークや巨額マネーを扱う「クジラ」もいる。貪欲で獰猛な動物たちの「インサイド・ジョブ」に、「99%」が「華麗なる大逆転」をするためのガイドはいずこ・・・。 (本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号) (1164) マネー・ショート (838) (再)ウルフ・オブ・ウォールストリート (1165)インサイド・ジョブ (1166)マージン・コール (1167) ドリームホーム (1168) ウォールストリート・ダウン マネー・ショート 1164.マネー・ショート華麗なる大逆転The Big Short2015年米国映画 (監督)アダム・マッケイ (出演)クリスチャン・ベール、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット 子供の頃の病気が原因で片目が義眼であるマイケルは元医師のファンド・マネージャー。住宅ブームのさなかの2005年、サブプライムローン関連の金融商品が、2007年、暴落を始める、と予測、賭けに打って出た。 モルガン・スタンレー傘下のファンド・マネージャー、マークは、マイケルの動向を聞きつけたドイツ銀行のジャレッドから話をもちかけられ、フロリダで、住宅事情、ローンの実態など調査したのち、話に乗ることにする。 ニューヨークにやって来たばかりの若き投資家チャーリーとジェイミーも、情報を得るが、ウォール街に進出するには桁外れのカネが必要なため、知り合いの元銀行家ベンの助けを借りる。 2007年、サブプライムローン事情は悪化、しかし、市場は・・・。 分かりにくい「重要用語」を、俳優や著名人たちが、たとえを使い「解説」する手法をとりながら、サブプライムローン問題をはやくから認識していた「アウトサイダー」や「奇人」を主人公にリーマンショックに至る米国を描くマイケル・ルイスのベストセラーの映画化。 アカデミー賞5部門にノミネート、脚色賞を受賞した。 ウルフ・オブ・ウォールストリート (再)838.ウルフ・オブ・ウォールストリートThe wolf of Wall Street2013年米国映画 (監督)マーティン・スコセッシ (出演)レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、マシュー・マコノヒー 1987年、ジョーダン・ベルフォートは、証券会社に就職した。ボスが勧めるのは酒と女とドラッグとカネまみれの生活。しかし、トレーダーとしての初日が「ブラック・マンデー」となり、世はトレーダーいらずとなった。 そんななか、妻が新聞広告で見つけ出したのが、ロングアイランドの「証券会社」。そこは、「ペニーストック」を電話で売りつける職場だったが、手数料が5割もあることに惹かれ就職。絶妙のセールストークもあって成功を収めていく。 やがて「ストラットン・オークモンド」社設立、巨額の収入を上げ、カネと酒と女とドラッグにまみれる生活を送るようになったジョーダンだったが、その強引な手法にFBIが捜査に乗り出し・・・。 今は講演活動をしているというベルフォート自身の同名の回顧録の映画化。人間の欲望をストレートに描き出した作品である。 インサイド・ジョブ 1165.インサイド・ジョブ世界不況の知られざる真実Inside job2010年米国映画 (監督)チャールズ・ファーガソン (ナレーター)マット・デイモン 2008年、世界を襲った金融危機を、「how we got here」「The bubble 2001-2007」「The crisis」「accountability」「where we are now」の5部構成をとり、ポール・ボルカー、ドミニク・ストロス・カーン、ジョージ・ソロス、クリスティーヌ・ラガルドをはじめ、多くの政治家、経済学者、投資家のインタビューと記録映像、さらに図解などをまじえながら、解明していくドキュメンタリー。 題名のInside jobとは内部犯行を意味する。第83回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作である。 マージン・コール 1166.マージン・コールMargin call 2011年米国映画 (監督)J・C・チャンダー (出演)ケヴィン・スペイシー、ポール・ベタニー、ジェレミー・アイアンズ、デミ・ムーア、ザカリー・クイント ウォール街の投資銀行。大量解雇が行われ、オフィスを去るリスク管理部門トップ、エリックから、「用心しろよ」との言葉とともに、部下のピーターはUSBメモリーを渡された。 分析を始めたピーターは、それが、会社に多大な損害を与える可能性が高いMBSの存在を示すものであることを知る。 急遽始められた役員会。そこでCEOが下した決断は、世が知る前に、それを売りさばくこと・・・。 2008年のリーマンショックへと続く金融危機の始まりの頃を描く金融ドラマ。 ドリーム・ホーム 1167.ドリームホーム99%を操る男たち99 Homes2014年米国映画 (監督)ラミン・バーラニ (出演)アンドリュー・ガーフィールド、マイケル・シャノン、ローラ・ダーン フロリダのサバービア(郊外地)で、母親と息子と暮らすシングルファザー、デニスは、失業し、ローン支払いが滞ってしまった。 郡保安官とともに不動産ブローカー、カーヴァーがやってきた。差し押さえの強制執行が行われ、デニスは、最小限の家財道具をもち、モーテルへと移るしかなかった。 家を取り返したいと思っても、不況で仕事は見つからない。ところが、高価な道具を取られたと抗議に訪れたカーヴァーのところで、思いがけず、仕事を得ることになる。 さらに、カーヴァーに気に入られたデニスは、巨額の報酬を得られる立ち退き業務も始めるようになり・・・。 『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(2008)『テイク・シェルター』(2011)のマイケル・シャノンが、カーヴァー役で多くの賞を獲得した佳作。 ウォールストリート・ダウン 1168.ウォールストリート・ダウンAssault on Wall Street 2013年カナダ・米国映画 (監督)ウーヴェ・ボル (出演)ドミニク・パーセル、エリン・カープラック、エドワード・ファーロング、マイケル・パレ ウォール街。経営危機を回避するため、顧客のことなど無視し、不動産関連商品の投げ売りを指示する金融機関幹部。 警備員をしながらつつましく暮らすジムは、脳腫瘍で治療中の妻の治療費用を限度額オーバーで保険でカバーできないことを初めて知らされる。 貯金を支払いにあてたものの、今度は、ブローカーに託していた財産が、不動産への投資でなくなってしまったことを知る。 さらに6万ドルのもの支払いを銀行に請求され、弁護士に相談にいくが、訴訟を起こすにも弁護費用は1万ドルだと言う。 友人に貸してもらいようやく工面、しかし、弁護士の対応はいい加減なものだった。家は差し押さえられた。職も失った。そして、妻は自殺。機関銃を手に入れたジムは・・・。 金融界に怒りをぶつける主人公ジムを、TXドラマ「プリズン・ブレイク」で知られるドミニク・パーセルが演じるアクション・ドラマ。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46437
インテル、グローブ元会長の壮絶な人生 歴史に翻弄された半世紀からパソコン伝道師に 2016.3.28(月) 玉置 直司 インテルが新プロセッサー公開、端末の軽量化と効率的冷却に対応 世界最大級の家電見本市「国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」の米半導体大手インテルのブース〔AFPBB News〕 世界最大の半導体メーカーであるインテルの最高経営責任者(CEO)だったアンドリュー・グローブ氏が2016年3月16日に亡くなった。1990年代の米国の産業競争力の復活を象徴する経営者であり、激動の歴史に翻弄された人生でもあった。
「あなたの今日の顔色は極めて良くない。インテルのここ数年の成長が速すぎて、業務量が急激に増えて無理をしているからではないのか?」 1994年の株主総会 1994年5月4日。米ニューメキシコ州アルバカーキで開催されたインテルの定期株主総会。筆者は、こんな質問を社長兼CEO(最高経営責任者)アンドリュー・グローブ氏にした。 なんで、こんな失礼な質問をしたのか? グローブ社長とは何度も会っていたが、この日は、本当に顔色が土色だったのだ。それにちょっと、会見場の雰囲気を変えたいといういたずら心もあった。 1990年代前半、インテルは猛烈な勢いで成長した。その勢いは毎年株主総会に行っただけで簡単に感じることができた。 1992年の株主総会は、アリゾナ州フェニックスだった。取材に来た記者は、地元紙を含めて5人もいなかった。がらんとした大会議室で、ゴードン・ムーア会長にインタビューをすることができた。 1993年、カリフォルニア州シリコンバレーで開かれた株主総会には少なくとも20人ほどの記者が来た。このときも、会長だったムーア氏や社長だったグローブ氏と身近で話しをすることができ、シリコンバレー風の開かれた株主総会を実感できた。 そして1994年。すでに日本企業を抜いて「世界最大の半導体メーカー」になっていたインテルは米国の産業界の話題の中心企業だった。 株主総会には、記者やアナリストが軽く100人以上詰め掛けた。 インテルの創業メンバー。左からアンディー・グローブ、ロバート・ノイス、ゴードン・ムーア各氏(1978年、ウィキペディアより) 収益率がどうだの、グロスマージンがどうだのと、投資情報に関する専門的な質問が延々と続いた。アナリストや記者は、グローブ社長から漏れるひと言ひと言を、聞き逃すまいと必死の様子だった。 「なんでそんな細かいことばかり聞くのか。1〜2年前の総会はもっと家族的だったのに・・・」。こんな気持ちから質問をしてみた。 ところが、その反応にびっくりした。グローブ社長に怒鳴られたのだ。細かいやり取りは覚えてないが、その趣旨はこうだった。 「つまらないことを聞くな。インテルの成長スピードは想定通りであり、CEOとしてきちんと業務をマネージしている」 「それにしても、あんなに興奮して反論しなくてもよいのに・・・」 前立腺がんを告白、克服 どうしてあんなに反論したのか。その理由は、直後に分かった。実は、この株主総会の直前に、グローブ社長は、大きな衝撃を受けていた。前立腺がんが見付かっていたのだ。グローブ社長は、そのことを公表した。そして闘病生活の末これを克服した。 アルバカーキでの株主総会は、病気の話しを公表する前だった。そんな時に、無神経にも、健康に関する質問をしたから「ぎょっと」したようだ。 それから数か月後、インテル本社に、ゴードン・ムーア会長のインタビューに訪れた。駐車スペースを探して、レンタカーでぐるぐる回っていたら、遠くの入り口でこちらに向かって手を振っている人物がいた。 グローブ社長だった。 何とか、駐車をして、入り口に行くまでグローブ社長は待っていた。 「今日は、ムーア会長のインタビューだって?」 雑談を交わしたあと、グローブ氏が、にこりと笑って、自分の顔を指差して聞いてきた。ちょうど目尻を触って「あかんべー」をするようなユーモラスな表情だった。 「そうそう。今日の、僕の顔色はどうだい?」 あの時の、グローブ氏の笑顔はいまだに鮮明に覚えている。 「あっ。株主総会のときは知らずに失礼しました。今日は・・・。ああ、顔色はすごく良いですよ。元に戻りましたね」 そう言うと、「そうですか!」と実にうれしそうな様子だった。グローブ社長とは、その後も何度か会う機会が会った。講演や発表会にも、何度も行った。 あれだけあちこちで話しても、同じ話しをしない。半導体メーカーのトップなのに、半導体の話ばかりしない。そして、強力なエネルギーを人を惹きつける磁力をいつも放出していた。 壮絶な半生 グローブ氏の人生は、ドラマよりドラマチックだった。 ユダヤ系のハンガリー人として20世紀の歴史に家族とともに翻弄され続けた。グローブ氏は1936年にハンガリーのブタペストで生まれた。8歳の時にナチスがハンガリーを占領した。ユダヤ系だった一家は、必死になってこれを隠した。 父親は労働収容所に入れられた。奇跡的に生還したが想像もできない苦労をしたようだ。ナチスの迫害をようやく逃れたが、さらに歴史の荒波に翻弄される。 1956年、民主化を求めた「ハンガリー動乱」を機に旧ソ連軍がハンガリーを占領する。このとき、母親も大変な目に遭った。 グローブ氏は、高校生の頃、ジャーナリスト志望だった。おじが記者でグローブ氏も記事を投稿していた。超多忙なCEO時代も、グローブ氏ができるだけ時間をとって取材に応じ、記者との会話を楽しんだのもこうした経験があったからだ。 ところが、旧ソ連の侵攻で、わずかに芽生えていた「現論の自由」はなくなり、おじは逮捕される。絶望したグローブ氏は、オーストリアを経て米国への亡命の道を選ぶ。20歳の時、20ドルのお金を持ってニューヨークに到着した。 ニューヨーク市立大で化学を学んだあと、カリフォルニア大学バークリー校で博士号を取得した。英語も満足でなかった学生が優等の成績で博士号を取得したのだからまさに血のにじむ努力があったのだろう。 グローブ氏が博士号取得のために研究をしていた頃、米国では半導体産業が生まれつつあった。 ムーア氏との運命的な出会い 若くて有能でエネルギーに満ち溢れた研究者たちが、フェアチャイルド・セミコンダクターを設立して、トランジスタやICを事業化することに成功したのだ。 フェアチャイルドの創業者が、ロバート・ノイス氏とゴードン・ムーア氏だ。ノイス氏は、ジャック・キルビー氏とともにICの発明者として歴史に名前を残している。ムーア氏は今もインテルの名誉会長だ。 天才肌で社交的なノイス氏と学級肌のムーア氏は絶妙のコンビだった。ノイス氏が、積極的な社外活動を通して、IC産業について学会、産業界、政府に対して語り続けた。業界のまとめ役でもあった。 ムーア氏が「研究開発」を引き受けた。2人はノイス氏が亡くなるまで親密で信頼し合い、会社は急成長した。 1963年、博士号を取得したばかりのグローブ氏は、フェアチャイルドの採用試験を受ける。面接をしたのはムーア氏だった。 「グローブ氏のその時のことはよく覚えている。とにかく、指導教授の評価が抜群に高く、迷わず採用した」。ムーア氏は、後に筆者とのインタビューでこう話してくれた。 ムーア氏は、この運命的な出会い以降、終生、グローブ氏の最大の理解者であり、経営者としてのグローブ氏の能力を開花させた人物だ。 ノイス氏とムーア氏は、その後、フェアチャイルドを辞める。フェアチャイルドの親会社が、一度は内定していたノイス氏の社長就任を撤回して外部からスカウトすることを決めたのだ。ノイス氏はこれに反発して退社を決めた。 ムーア氏もこれに同調することにした。この時、ムーア氏は研究開発担当役員、グローブ氏はムーア氏の補佐だった。 ムーア氏が退社を決めるとグローブ氏もこれに同調する。ムーア氏が辞めると聞くと、グローブ氏はムーア氏の自宅までやって来て「一緒に付いて行きたい」と頼んだという。グローブ氏は、それほどまでにムーア氏に心酔していたのだ。 フェアチャイルドからインテルへ その後、ノイス氏とムーア氏はインテルを設立する。最初に加わったのがグローブしだ。その後の、インテルの成功物語は良く知られた通りだ。 インテル設立後も、ノイス氏が「ミスターアウトサイド」、ムーア氏が「ミスターインサイド」という役割分担だった。グローブ氏はムーア氏を補佐しながら、経営者としての資質を養っていった。 アメリカンドリームの体現者であり、ハングリー精神にあふれたグローブ氏は、猛烈経営者だった。グローブ氏は、ジャーナリストを目指しただけあって、超多忙な時間を割いて自分で何冊か本を書いている。 そのタイトルがすごい。 「ハイ・アウトプット・マネージメント」「パラノイアだけが生き残る」 1980年代から90年代にかけて、米国で名経営者と言われたのが、GE(ゼネラル・エレクトリック)のジャック・ウエルチ会長だった。ウエルチ会長は「ストレッチ」を唱えた。 自分の限界まで挑戦して常に背伸びをしろ、という意味だ。グローブ氏の「ハイ・アウトプット」もこれと似たような趣旨だった。自分の能力の限界に挑戦しろ。これがインテルの経営の基本だった。 インテルは、シリコンバレー文化に満ちた記者だった。ムーア氏もグローブ氏も、会長の時代は世界を代表するスター経営者だった。だが、贅沢な生活や豪華な執務室などとは無縁だった。 会長時代のムーア氏が東京に出張に来たことがある。到着早々、日本法人の秘書に、恥ずかしそうに切り出したという。 「東京までのフライトは思ったよりきつかった。私のマイレージ番号はこれこれなんだが、帰りはアップグレードができるか聞いてくれないか?」 こういう社風だった。グローブ氏は気性が激しく、思ったことをはっきりと口にした。こんなグローブ氏を最後まで理解し、サポートしたのが、ムーア氏だった。2人は本当に名コンビだった。 「規定演技」だけでなく「フリー演技」での高得点 グローブ氏の凄さは、部下を叱咤激励したり、素早い意思決定をしたことなどCEOとしての能力だけではなかった。 その視野の広さだった。インテルの経営者として、競争企業の打ち勝つ。インテルの収益率を上げる。こういうことは、「規定演技」で、それ以外に「フリー演技」で高い得点を上げ続けた。 フリー演技とは、半導体やパソコンの産業が発展することが、社会や経済にどういう恩恵をもたらすのか、を常に考えて発信し続けた。 だから、グローブ氏の話はいつも面白かった。インテルの経営や数字の話しは、さっと済ませる。あとは、パソコン文明論だ。 マイクロプロセッサーの能力がどのくらい進歩すれば、医学にどう貢献できるのか。人の生活をどう変えるのか。教育にどう活用できるのか。 その時々の米国や世界で起きている問題、課題に敏感で、マイクロプロセッサーの発達がどう世の中を変えられるか。 1つの産業が安定期だとすれば、経営者にとって「規定演技」で高得点を挙げることは何よりも重要だ。だが、揺籃期や成長期だとすれば、その産業がどう世の中に貢献できるか強い信念を持ち、常に世の中の動向、社会、人類の発展にまで考えを巡らせる「フリー演技」も重要だ。 グローブ氏が経営者だった時代のマイクロプリセッサーとはそういう時代だった。 経営ノウハウを語るCEOはたくさんいる。だが、自分が手がける事業が人類社会にどれほど貢献できるかを常に考え、それを熱く語り続けるはそれほどいるか。 グローブ氏は、マイクロプロセッサーとパソコンの伝道師であり、本物の、ビジョナリストだった。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46438 消費税の増税延期をめぐって始まった茶番劇 スティグリッツもクルーグマンも日本の格差を知らない 2016.3.25(金) 池田 信夫 首相官邸で異例の会議「金融経済分析会合」が3回開催された。(出所:Wikipedia) 政府は3月、「金融経済分析会合」という異例の会議を3回も開いた。そのうち第1回に呼ばれたのがジョセフ・スティグリッツ、第3回はポール・クルーグマンというノーベル賞受賞者で、彼らはともに「消費税の増税は延期すべきだ」と提言したと伝えられている。
積極財政論者として知られる彼らを呼んだら、こういう提言が出ることは分かっていた。安倍首相はこれを根拠にして増税を延期し、それを争点にして衆議院の解散・総選挙に打って出るつもりだろう。しかし彼らは本当に政権の意に添うことを言ったのだろうか? アベノミクスへの死刑宣告 首相官邸のホームページに和訳されているスティグリッツの資料を読むと奇異に感じるのは、「消費税」という言葉が一度も出てこないことだ。 書かれているのは欧米の不況の話ばかりで、日本の話は出てこない。彼が強調するのは「深刻な停滞時において、金融政策が極めて有効だったことはこれまでにない。唯一の効果的な手段は財政政策」ということだ。 そして具体的な政策として、彼は「緊縮財政をやめる」ことを提言しているが、そこで挙げている政策は、投資の促進や技術開発に政府支出を増やして生産性を上げるといった「構造改革」で、増税の延期ではない。 クルーグマンも前回の増税のとき首相官邸まで招かれて延期を勧告したが、日銀のマイナス金利については「効果は限定的だ」とコメントした。彼らの一致しているのは、ゼロ金利では金融政策の効果はないので、財政政策を発動すべきだということだ。 これはEU(ヨーロッパ連合)の不況をめぐる議論で、多くの経済学者が論じていることだ。彼らはドイツが極端な緊縮財政をとっているために南欧の債務国の金融危機が悪化していると批判するが、これは金融危機と無関係な日本には当てはまらない。増税の延期が「構造改革」になるはずもない。 いずれにせよはっきりしたことは、かねてから金融政策に否定的なスティグリッツだけでなく、かつてアベノミクスを絶賛していたクルーグマンまで、金融政策には効果がないとはっきり認めたことだ。これはアベノミクスへの死刑宣告ともいえよう。 消費税の増税先送りで景気はよくなるのか では増税を延期したら、景気はよくなるのだろうか。これを考えるには、2014年の消費税引き上げがGDP(国内総生産)にどんな影響を与えたかをみればよい。 図1実質GDPと消費支出の推移(出所:内閣府) 2013年の後半から2014年の1〜3月期にかけて、図1のように増税前の駆け込み需要でGDPが大きく上がったが、2014年4〜6月期には大きく下がった。しかしこの落ち込みは2014年中には回復し、10〜12月期のGDPは増税前の水準に戻った。2014年度の税収も、前年度より7兆円増えて54兆円になった。 むしろ問題は2015年の後半から成長率がマイナスになったことで、この最大の原因は個人消費の減退だ。アベノミクスはインフレ・円安で労働者から企業に所得を移転する政策なので、輸出企業の収益は上がったが、輸入物価の値上がりで実質賃金が下がり、労働者は貧困化した。 第1回の会合で、黒田日銀総裁は「失業率が低いのに賃金が上がらないのはなぜか?」とスティグリッツに質問したが、彼は何も答えられなかった。雇用の「非正規化」で賃金が下がっている日本の労働市場を知らないからだ。 こうした構造問題に手をつけないで財政支出を増やしても、バラマキが終わったら元の木阿弥だ。これは1930年代にケインズの提唱した政策と同じだが、経済学は80年前に戻ってしまったのだろうか? 「格差拡大」を指弾する彼らが知らない日本の格差 彼らがともに強調している問題は、格差の拡大だ。最近スティグリッツは「格差と戦う」ことをテーマにした著書を出し、クルーグマンはプリンストン大学からニューヨーク市立大学の「ルクセンブルク所得研究センター」に移り、所得分配の不平等について研究するという。 彼が重視しているのは最近のアメリカの極端な所得格差だが、日本の格差はそれとは違う形で起っている。図2のように、60歳を境に税・社会保険の受益と負担が逆転し、これからの超高齢化で、この格差はますます拡大するのだ。 図2公的年金の受益と負担の年齢別分布(出所:内閣府) この結果、生涯所得では60歳以上とゼロ歳児で約1億円の受給と負担の格差がつく。このように極端な世代間格差は世界にも例がないので、スティグリッツもクルーグマンも知らないのだろう。 消費税の引き上げ分は、2012年の三党合意で社会保障の財源にする予定だったので、これが延期されると社会保障の赤字は拡大する。2016年度予算でも社会保障特別会計の穴を埋める「社会保障関係費」は33兆円と一般歳出の中で最大だが、これがさらに膨張する。 この赤字は国債で埋め、それを日銀が買っているので、当面は誰も負担した気がしない。日銀がマイナス金利政策をとったことで、金利の急上昇で国債が暴落する「ハードランディング」は当面なくなったが、安倍政権は歳出削減を放棄したので、政府債務はこれからも増え続ける。 今でも政府債務は平時としては世界史上最大だが、戦時国債と違ってこれを償還することは難しい。日銀が永遠に国債を買い増し続けることはできないので、どこかで限界が来る。国債を償還する財源は税しかない。 今のままでも消費税は最終的には30%になるが、増税を延期すると将来もっと高い税率が必要になる。つまり増税の延期は将来世代への負担の先送りであり、浜田宏一氏(内閣官房参与)も認めるように「ネズミ講」なのだ。 人口が無限に増えない限り、ネズミ講はいずれ破綻する。その最後の世代は莫大な損害をこうむるが、そこまで問題を先送りした政治家はそのころには死んでいるだろう。このような政策こそ、スティグリッツが指弾してやまない「不公正で無責任な政治」の最たるものである。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46435
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