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汗だくの李克強首相(右)を完全無視した習近平主席(左)〔PHOTO〕gettyimages
ウソで固めた「中国経済」大崩壊〜空前の倒産ラッシュ、各地で発生する「報道されない暴動」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48219
2016年03月28日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
空前の倒産ラッシュ、各地で暴動が発生。新築マンションはガラガラ、借金自殺100万人……
年に10日間しか開かれない中国の国会は、「茶番国会」と言われてきたが、今年はやや様子が異なる。中国人も、さすがに自国の経済がヤバいと思い始めたからだ。中国はタイタニック号なのか——。
■ついに幹部が刺殺された
「社長は出てこい!」
「オレたちに賠償金を払え!」
中国南部の江西省にある「共産党革命の聖地」井岡山の麓で、春節(2月8日)の大型連休明けに暴動が起こった。拳を振り上げたのは、地元の鉄道用鉱山で働く約500人の工員たちだ。
この人たちは、いわゆる「春節倒産」に遭った。連休中に社長一家が夜逃げしてしまったのだ。
怒った工員たちは鉄パイプなどを振り回し、警備員や公安(警察官)の制止を振り切って、会社内に押し入った。そして金目のものを根こそぎ奪い取ると、最後は市役所を取り囲んだのだった。
このような「報道されない暴動」が、中国全土で起こっている。中国経済は、大変なことになってきているのだ。
そんな動乱をよそに、3月5日から16日まで、北京の人民大会堂で、年に一度の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)が開かれ、中国全土から集まった2890人の代表(国会議員)たちが連日、舌戦を繰り広げている。現地で取材しているジャーナリストの李大音氏が語る。
「例年はシャンシャン国会になるのですが、さすがにこれだけ中国経済が傾いてくると、中国経済は早晩、崩壊するのではないかという不安や追及の声が上がっています。特に、批判の矢面に立たされているのが、経済分野の総責任者である李克強首相です」
李記者によれば人民大会堂では、「李克強首相がまもなく解任される」という噂が、まことしやかに流布しているという。
「今回の全人代の開幕に先がけて2月22日に、中国共産党中央政治局(トップ25)会議が、中南海(中国最高幹部の職住地)で開かれました。全人代の進行や決議内容などを決める重要会議です。
その会議で習近平主席が、『経済をうまく処理できない幹部は、どんなに地位が高かろうが、立ち去ってもらう』と断言したのです。習主席の脳裏にあるのが李首相であることは、話を聞いていた誰もが察しました」
全人代開幕前日の3月4日、国営新華社通信は、王みん前遼寧省党委書記(省トップ)を、「重大な紀律違反により調査中」と発表した。遼寧省は、昨年のGDPの伸び率が、全国31地域の中で最悪の3・0%だった。
遼寧省の人民代表大会では、陳求発省長が、同省の惨状を、次のように述べている。
「わが省のGDPは、過去23年で最悪で、PPI(生産者物価指数)も43ヵ月連続で下降した。
なぜこんなことになったかと言えば、企業の生産コストが上がり、一部業界と企業が経営困難に陥り、技術革新は追いつかず、新興産業は育たず、サービス業の発展は停滞し、地域の発展は不均衡で、財政収入は悪化し、財政支出は増え、国有企業は経営が回復せず、民営企業は発展せず……」
遼寧省の省都・瀋陽に住む日本人駐在員が証言する。
「街には失業者が溢れ、消費がまったく振るわず、次々に工場が閉鎖されています。3000社来ていた韓国企業も、撤退ラッシュですっかり影をひそめています。
瀋陽の企業の納税番付で、2位に3倍以上の差をつけてダントツのBMWの工場が撤退する時が、790万瀋陽市民が路頭に迷う日と言われています。日系企業も昨年、日野自動車の大型バス工場が撤退し、いまや200社を切ろうとしている。日本人駐在員同士で会っても、撤退と縮小の暗い話ばかりです」
同じく、遼寧省の大連駐在の日本人経営コンサルタントも証言する。
「2月8日から始まった春節の大型連休が明けると、700万都市の大連は、倒産ラッシュに見舞われていました。従業員たちが戻ってきても、会社がなくなっている。それで失業者たちが市の中心街でデモを起こしたり、浮浪者と化してたむろしたりしていて、不穏な雰囲気が漂っています」
3月6日には、遼寧省に隣接した吉林省遼源市の経済開発区トップだった孫慶安同市政協副主席が、エレベータに乗ったところを襲われ、メッタ刺しにされて殺害された。そのニュースが伝えられると、凶行に賛同する書き込みが相次いだ。
〈死ね、死ね!〉
〈奴隷たちが起ち上がったぞ!〉
■習近平はもうキレている
3月5日に始まった全人代では、初日から「失速する中国」を象徴するような「異変」が起こった。前出の李記者が続ける。
「全人代のオープニングを飾る李克強首相の『政府活動報告』は、2015年の活動回顧に始まり、今年から始まる第13次5ヵ年計画の概要を説明しました。
そして第3部の2016年の重点活動に移ったとたん、李首相の額に脂汗がしたたり始めたのです。聴衆たちは何事かと見守っていましたが、李首相は苦しいのか怒っているのか、30ヵ所以上も読み間違えました。
特に驚愕したのが、『習近平総書記の一連の重要講話の精神を深く貫徹して』というくだりを、習近平ではなく、思わず自分が一番尊敬している『ケ小平』と口走ってしまったのです。その瞬間、壇上で聞いていた習近平主席は、鬼のような形相になりました」
1時間53分に及んだ演説を終えた李克強首相は、全身がわなないているようだった。
首相が「政府活動報告」を終えると、横に座った国家主席とガッチリ握手するというのが、全人代の昔からの慣わしだ。だが習近平主席は、苦虫を噛み潰したような表情で、李首相を完全無視して立ち去ってしまった。
「ここからにわかに、『李克強首相解任説』が飛び交うようになりました。そもそも、就任した3年前には『李総理』と呼ばれていたのが、習近平主席に頭を押さえつけられて仕事が減ったため、2年前に『李省長』(省は日本の県に相当)というニックネームがついた。
それが昨年は、『李県長』(県は日本の郡に相当)に変わった。今年また、『李村長』という新たな呼び名が登場したら、いよいよ'18年3月の任期を待たずしてクビでしょう」(同・李記者)
李克強首相が演説の中で、最も汗だくになっていたのが、次のくだりを読んだ時だった。
〈生産過剰の問題を解消していく。鉄鋼、石炭などの業種は、新規参入を食い止め、淘汰を推進する。そして「僵屍企業」(ゾンビ企業)を積極的に処理していく。そのために、中央政府は1000億元(約1兆7300億円)の補助金予算を取って、労働者の適切な移転を促す〉
中国経済の分析が専門のRFSマネジメントのチーフエコノミスト、田代秀敏氏が解説する。
「ゾンビ企業の最たる業種が、石炭と鉄鋼です。これらを1年で処理すれば、約180万人の雇用が失われます。
かつて日本は炭鉱の閉山に、半世紀弱もの長い年月をかけて、約20万人の雇用を切っていきました。それを中国は、たった1年で180万人も切ろうとしている。そのため、暴動など激しい抗議に発展するのも当たり前です。
それで李首相は、演説で述べたように1000億元の予算を出すというわけですが、このうちどれだけ失業者への補償金になるのか不明です。むしろ、さらに激しい反発や抗議となるのではと危惧します」
前出の李記者も語る。
「中国経済がここまで悪化したのは、一言で言えば、基幹産業をすべて牛耳っている1100社あまりの国有企業が、経済発展のお荷物になっているからです。
そこで李首相は、'13年3月に就任した当初、国有企業を市場化し、多元化(民営企業と同待遇)し、民営化していく計画を立てた。それを反故にしたのは習近平主席です。
習主席は昨年8月、国有企業を200社から300社に統合し、それらをすべて『党中央』、すなわち自分が完全に指導するとした。つまり国有企業の利権を独り占めすることで、独裁体制を敷こうとしているのです。21世紀の世にこんなことをやっていて、経済がよくなるはずがない」
■借金は300兆円
民主国家ならば、政府がこのような「暴挙」に出れば、メディアが警鐘を鳴らし、国民も政府を支持しなくなるだろう。ところが社会主義国の中国では、そうはならない。
「習近平主席は2月19日、中国中央テレビ(CCTV)、国営新華社通信、党中央機関紙『人民日報』の3大メディア本社を回り、『メディアは軍と並ぶ党を守る両剣だ』と説いて回ったのです。
この言葉に、記者たちはいきり立っていますが、メディア業界にも粛清の嵐が吹き荒れていて、批判記事を出せば即刻逮捕されます。少し前に『人民日報』が、『PM2・5(大気汚染)が深刻化して分かったのは、われわれ庶民も習近平主席も同じ空気を吸う最高の平等社会が到来したことだ』と書きました。
こんな意見が『公式見解』と化しているのです。いまでは記者たちは、中国のことを自虐的に『西朝鮮』と呼んでいるほどです」(前出・李氏)
2月28日、「中国のトランプ」というニックネームの不動産王・任志強氏のブログが、「違法情報を流した」として閉鎖された。任氏は歯に衣着せぬ発言で知られ、ブログのフォロアーは3700万人(!)と、ケタ違いの人気を誇っていた。
同日夜、〈人民政府は一体いつから党政府になり変わったのだ?〉〈メディアが党に服従し、人民の利益を代表しないのなら、人民は捨て去られ遺棄されるだろう(悲)〉と書いたところで、当局の手入れが入ったのだった。
3月7日、中央銀行にあたる中国人民銀行は、中国の2月の外貨準備が3・2兆ドルで、前月よりも285・72億ドル減ったと発表した。昨年11月から今年1月にかけて、毎月平均1000億ドル近く減っていたのに較べればマシだが、それでも減少が止まらなかったことで、市場はショックを受けた。
そんな中、人民代表大会で3月7日、注目された楼継偉財政部長(財務相)の記者会見が行われ、内外の記者数百人が集結した。
記者「今年の政府債務予定額は17兆1800万元(約300兆円)にも上り、これは昨年末時点の政府債務16兆元よりかなり多い。こんなに借金を増やして、そのリスクをどう考えているのか?」
楼部長「赤字が拡大すれば国債を発行するのは国際常識ではないか。経済が回復して赤字が減れば、国債の発行も減らしていくだけのことだ。中国の財政収入はGDPの約3割で、政府債務はGDPの約4割だ。いずれも他国に較べて、健全財政を保っている」
元経産省北東アジア課長で、中国経済の専門家である津上俊哉氏が解説する。
「中国の財務省にあたる財政部の大臣の発言とは思えないような内容です。普通なら、『財政赤字は増やせない』と発言するのが財政部長のはずだからです。
国民の不満増大に怯える中国は、景気の下支えを手厚く行いたいが、その余地は限られている。しかも下支えを行えば行うほど、過剰債務解消や景気の底打ちが先に延びてしまうのです」
■次々と粛清されていく
翌3月8日、中国税関総署が、「2月の輸出額は前年同期比25・4%減、輸入額は13・8%減だった」と、深刻な統計を発表すると、全人代の会場にも、ため息が広がった。
北京市代表の一人である方新・元中国科学院党委副書記は、「サーキット・ブレーカーなどという非科学的なやり方で経済を運営しているからだ」と、勇気ある発言で政府を批判した。
サーキット・ブレーカーというのは、証券用語で、平均株価にあたる上海総合指数が前日比で5%下落したら、市場を閉鎖するという新制度だ。今年1月4日の年初から導入したが、この制度自体が株式暴落を誘発し、わずか4日で取りやめとなった。その後、証券業界を指導する中国証券監督管理委員会の肖鋼主席が「戦犯」扱いされて、2月19日に電撃解任された。
戦犯と言えば、国家統計局の王保安前局長も同様だ。王局長は1月19日、「昨年のGDPの伸びは6・9%だった」と胸を張った。だが中国メディアからも、「本当は5%以下では?」と突っ込まれ、1週間後に「重大な嫌疑により」失脚してしまったのである。
「6・9%という数字は、昨年3月の全人代で李克強首相が『7%前後の成長』を確約してしまったため、やむなく国家統計局が能力を発揮した≠フです。実際には4%台後半だったというのが、多くの専門家たちの分析です」(同・李記者)
王局長はその時、「昨年末時点での売れ残り不動産面積は、7億1853万m2で、前年比で1億m2近く増加した」と発表。恐るべき「鬼城」(ゴーストタウン)の実態を明らかにした。
この事実に青ざめた習近平政権は、マンションの在庫を減らすため、「頭金ゼロ」でもマンションを売るよう指導を開始した。すると今度はこの1ヵ月で、大都市のマンション価格が急騰する事態に陥ってしまった。
少額の資金で多額のマンションを買う、いわゆるレバレッジが急増している現象は、'08年のリーマンショック前のアメリカでサブプライムローンが隆盛したのと瓜二つである。
前出の田代氏が続ける。
「習近平政権は、構造改革を一気呵成に成し遂げようとしています。しかしそれによって中国経済は、極めて不安定になります。そして中国経済が不安定になれば、世界経済全体が不安定になる。
中国は1950年代に、拙速な経済発展を目指した『大躍進』に失敗し、3年飢饉を招いた。そしてそれが伏線となって、文化大革命という内乱が10年も続いた。当時の中国は世界経済とは隔絶されていたので、ただの中国問題でしたが、いまや世界第2の経済大国であり、世界に及ぼす影響は甚大です」
まさに世界経済をぶっ壊しかねない中国経済。この巨大な風船が膨張して割れる前に、世界がこの困った巨竜を、何とかしないといけない。
「週刊現代」2016年3月26日・4月2日号より
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