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※日経新聞連載
[時事解析]欧州銀行不安の構図
(1) 収益圧迫要因相次ぐ マイナス金利重く
欧州で銀行不安が強まっている。債務危機の影響が残るなか、原油安、マイナス金利など新たな収益圧迫要因がのしかかっている。
欧州銀行の株価は2月半ば時点で、年初から約3割下落。足元は多少戻したが、それでも年初比15%下げている。英独スイスの有力銀行が2015年に赤字を計上するなど業績不振が背景だ。
欧州銀行は07年からの金融危機時には証券化商品投資で、10年からの欧州債務危機時には国債運用で、それぞれ損失を被った。資金洗浄、金融指標不正で罰金を科される銀行も相次いだ。
最近では原油や資源価格下落で、事業融資が不良化したり、関連派生商品取引に損失が出たりしている。原油関連融資が全融資の1割近い銀行もあり、影響が懸念されている。
米ゴールドマン・サックスは準備預金金利の0.1%下げが、欧州の銀行の利益を2〜3%押し下げると予測。「金融緩和が金融機関の利ざやを圧迫している」(国際決済銀行のハイメ・カルアナ総支配人)
世界の金融当局で構成する金融安定理事会(FSB)のマーク・カーニー議長は「年初からの金融混乱は低成長、低名目金利の環境にあわせて、銀行が一段のビジネスモデル調整を迫られている不安を映している」と指摘する。
金融危機後、欧州銀行は米銀に比べ資本強化と経営改革が遅れた。融資依存度が高いなど問題があったためだが、体力が回復する前に再び困難に直面。デフレから抜け切れない欧州経済に暗い影を落としている。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞3月21日朝刊P.21]
(2) のしかかる不良債権 イタリア、懸念強く
銀行不安がとりわけ懸念されるのがイタリアだ。2008年以降、鉱工業生産が2割減り、9万社が倒産、100万人の職が失われた。
利払いが90日以上滞る不稼働融資(NPL)の融資全体に対する比率は18%に達するが、引当率は45%にとどまる。銀行の質の高い自己資本比率は08年の7.1%から12.3%に上昇したとはいえ、バブル崩壊後の日本の不良債権問題をほうふつとさせる状況だ。
イタリアは1月末、銀行のNPLを売却する新スキームで欧州連合(EU)と合意した。NPLを証券化し、一部に政府保証を付け民間投資家に売却する。銀行が保証手数料を負担し、政府による救済色を薄めている。
イタリア中央銀行のビスコ総裁は「銀行のバランスシートを強固にし、融資能力を改善できる」と強調。ただNPLの高リスク部分は銀行のバランスシートに残るとみられ、効果は不透明だ。
中小銀行も15年には4行が行き詰まるなど深刻だ。相互銀行の淘汰が遅れ、銀行数はなお640を超える。政府は株式会社転換して統合を進める考えだが、抵抗も根強い。
銀行が融資を手控えれば、景気低迷が長引く。大手のウニクレディトはドイツ南部や中東欧でも有力な貸し手としてグループ展開しており、影響はイタリアにとどまらない。
ハンガリー、アイルランド、スロベニアなどは銀行のNPL比率がイタリアより高く、危機のツケは銀行に色濃く残っている。経済が下振れすれば不良債権の重荷は、欧州金融システム不安の形で再燃する恐れがある。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞3月22日朝刊P.20]
(3) 新興国リスク強まる 縮小・撤退を加速
2000年以降の新興国ブームを金融面で支えたのは欧州銀行だ。新興国に積極展開した英スタンダードチャータード銀行が08年のリーマン危機時も最高益を更新するなど、高い成長は欧州銀行の収益源となってきた。
しかし10年から中国経済が減速し始めると、東南アジア諸国連合(ASEAN)やブラジルも失速。アラブの春で期待が高まった中東でも混迷が深まった。さらに、原油安で一部産油国の債務不履行が懸念されるなど、新興国取引はリスクに変わりつつある。
多くの新興国では企業の設備投資が景気拡大をもたらしたが、その過程で企業債務が拡大。だが米利上げを機に資本が流出し、債務の持続可能性も懸念されている。
情勢の変化を受けスタンダードチャータードは中国、香港、韓国で消費者金融から撤退。ドイツ銀行はアルゼンチン、メキシコなど10カ国から撤退、英バークレイズはアフリカでの業務売却を、それぞれ打ち出した。
英HSBCは100件を上回る買収で新興国などに浸透したが、トルコやブラジルでの業務の売却を決めた。スチュアート・ガリバー最高経営責任者(CEO)は「脱リスク、低金利による収益減少を補うため、(世界中で地場に食い込む)ワールド・ローカル・バンクをやめる」と述べている。
欧州銀行は縮小にあたり採算の悪い債権を他の銀行に売却しているが、国際市場での新興国向け融資のシェアはなお50%を超える。資産圧縮が新興国の成長率を押し下げ、それが銀行に跳ね返る悪循環も懸念される。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞3月23日朝刊P.30]
(4)意識された破綻処理 資本コスト上昇も
ユーロ圏は2016年1月から銀行の単一破綻処理制度を導入した。銀行監督・制度の統合を目指す「欧州銀行同盟」は第2段階に入った。
銀行に十分な資本を積ませるとともに、行き詰まった場合、まず株主、次に劣後債保有者に負担を求め、足りなければ処理基金から資金拠出する。
背景には銀行の過度なリスクテークを招いた「大きすぎてつぶせない」状況からの脱却がある。実行段階に入り「銀行が公的支援を受けにくくなることで、資本や債務の評価に響くとみられている」(イタリア中央銀行のシニョリーニ副総裁)。
単一破綻処理制度への不信もある。処理基金の規模は550億ユーロで、大手が破綻すれば不足する公算が大きい。単一預金保険の設立は24年と先で、安全網が不整備なのに破綻容認が先行したと受け取られている。
新しい枠組みでは健全性を保証する銀行資本の重みが増す。18年にも国ごとに異なる自己資本要件が統一される。米JPモルガンは「フランスなどで自己資本比率が下がり、域内で最大260億ユーロの資本が不足する」と指摘する。
銀行は経営悪化した際に、株式転換される新型資本(偶発転換社債=ココ債)も導入。今回、一部銀行で株式転換の恐れから新型資本価格が急落し、金融不安が強まった。事態が長期化すれば資本調達コストの上昇や一部での調達困難などが予想される。
日本が02年にペイオフを解禁した際、経営が悪化する銀行への懸念が強まったが、それと似た銀行不安が欧州に広がっている。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞3月24日朝刊P.33]
(5)大規模リストラ相次ぐ 収益力向上が課題
欧州の銀行はユーロ導入以来、投資銀行業務強化による収益拡大、買収による規模拡大を目指した。しかし過度のリスクテークが裏目に出て損失が拡大し、多くの銀行が戦略転換を迫られた。
スイスUBSや英バークレイズは投資銀行業務の縮小に動いている。高リスク業務の切り離しで経営の安定性は増すものの、収益力は低下する。欧州では商業銀行業務と投資銀行業務を分離する規制が導入され、戦略見直しを余儀なくされている面もある。
買収による拡大戦略の見直しも相次いでいる。ドイツ銀行は小口金融(リテール)業務強化のために買収したポストバンク(郵貯)を20年までの中期計画で売却する方針を打ち出した。
欧州銀行がこの1年に打ち出した戦略転換に伴う人員削減は10万人を大きく上回る。市場部門で抱える在庫に損失が紛れていたり、売却を計画する事業が想定通りの価格で売れなかったりするなどリスクも山積、市場の懸念を増幅させている。
欧州中央銀行(ECB)のベノワ・キュレ理事は「ビジネスモデルにリスクがあるとみられている銀行は業務を見直し、不安を取り除く必要がある。資産処分でバランスシートを効率化し、新しいビジネス開発に取り組むことが、銀行を低収益構造から救う道だ」と指摘する。
欧州連合(EU)は米国や中国を上回る規模の経済圏だが、銀行の信用創造力の低下が成長を妨げている。リスクを抱えながらも動きだした欧州銀行改革の成否が、欧州経済の行方を左右する。
(経済解説部 太田康夫)
=この項おわり
[日経新聞3月25日朝刊P.33]
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