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[地球回覧]マイナス金利が効く国柄
2月半ば。東京都内での会合に招かれた日本銀行の黒田東彦総裁は、マイナス金利についてこう述べた。「欧州の小国の事例は参考にならない」
同じ頃、小国のひとつデンマーク国立銀行(中央銀行)のカールセン副総裁は、マイナス金利の狙いを「海外からの資金流入に歯止めをかけ、通貨クローネの対ユーロ相場を安定させるためだ」と記者に語った。
スイス国立銀行、スウェーデンのリクスバンク(ともに中央銀行)も同じだ。通貨統合に加わっていないこれらの国は、ユーロ圏の一部の国の債務危機の深まりとともに資金流入が加速した。質への逃避である。「狙い通りに機能した」(カールセン氏)マイナス金利は、対ユーロで自国通貨の変動を抑え込む制度が崩れ、極端な通貨高に見舞われる事態に直面した小国の窮余の策だった。
その点で、黒田氏が参考にならないと一蹴したのはうなずける。だがコペンハーゲンの街を歩き回ると、まったく違うふたつの観点から「なるほど、参考にはしにくいな」と思えてきた。
第1は、金融政策との関連が浅いようにみえる教育と医療だ。日本の消費税にあたる付加価値税の本則税率は25%。欧州連合(EU)は加盟国に税率を最低15%にするよう義務づけている。デンマークはそれより10%高い高負担国の典型だ。
見返りに教育費は大学卒業まで無償。本代は学生の負担だが、18歳以上のすべての学生は奨学金を受け取っている。たとえば親元を離れて暮らす学生は、親の所得の多寡にかかわらず月に5941クローネ。およそ10万円だ。
医療も患者負担は原則としてゼロ。もっとも、それは大盤振る舞いと同義ではない。真に必要な患者に十分な医療を提供する体制を意味する。
若者も高齢者も将来への漠たる不安を抱える人は多くない。当然、せっせと貯蓄に励む必要は小さい。「個人向けの預金はマイナス金利から守られている」(デンマーク銀行協会のノドゴー事務局長)のは日本と同じだが、いずれも利息はすずめの涙。ならば生活を充実させるためにお金を使う気になるところが、北欧の小国の国民性だ。
郊外の住宅地。こんな人がいた。マイナス金利のおかげで低利になった住宅融資に借り換え、浮いたお金で自宅の屋根を断熱性が高い素材にふき替え、その後さらに安い金利の融資に乗り換え、浴室も改装した――。
都心の一角は住宅価格が過熱し、若い家族を締め出しているが、多くの市民はマイナス金利に恩恵を感じているようだ。日銀のマイナス金利が資産の目減りを招くと身構え、タンス預金を積み上げている日本の年金世代とは好対照だ。
第2は、現金信仰の薄さだ。お金はほとんど持ち歩かず、買い物は少額でもクレジットカード決済で。北欧の小国に共通する消費者行動だ。店側が高額紙幣の受け取りを拒むこともある。
じつは、銀行も現金を持て余すことがある。スウェーデン紙が報じた79歳の女性の話。タンス預金2万クローナ(約27万円)を銀行に預けに行ったら、どこで手に入れたのかと行員にさんざん詮索され、揚げ句に入金を拒まれた。現金が不便なのだ。
金融資産が現金で保蔵されている限り、マイナス金利の効用は鈍る。マイナス幅を広げたばかりのドラギ欧州中央銀行総裁は先月500ユーロ紙幣の発行をやめたいと欧州議会で証言した。犯罪資金の洗浄行為の抑止が狙いだが、現金流通を減らしマイナス金利の効きを良くしたい思惑が透ける。
将来不安を拭えず、現金を好む日本人。逆風のなか黒田総裁もマイナス幅を広げるのを辞さない構えだが、この策が一時しのぎの異常な政策であることは、確認しておく必要があろう。欧州の小国にとっても、それは同様である。
(コペンハーゲンで、編集委員 大林尚)
[日経新聞3月21日朝刊P.7]
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[大機小機]生きた資本の時代
例年この時期の株式市場では配当や優待狙いの短期売買がみられる。現物株買いと同時に信用で売る取引が膨らみ、通常は金利を払う買い方が、逆に日歩をもらえる状況になる。日歩というぐらいだから年率にするとなかなかな高利で、売り方は優待券の何倍もの金額を払うはめになることもあるのだが、この逆日歩、考えてみれば談論風発のマイナス金利と同じだ。
株のマイナス金利はこのように一時的なもので違和感もないが、マイナス金利政策がもたらす世界、どうも肌感覚での理解が進まないようだ。何十年も金融市場に向き合ってきたベテランをも沈黙させてしまう。
インフレ志向の政策のはずが、円高株安が進み、むしろデフレ志向の印象が強まった。実務上の想定外が債券市場などで価格形成のゆがみを生んでいる。
投資を刺激する政策としてマイナス金利が常態化すれば、借り手が金利をもらい融資を受けるデフレ的な取引や、預金金利のマイナスも視野に入れる必要がある。現金選好を抑える措置や、長年の歴史で培った貨幣の価値保存機能への影響など、様々な懸念を口にする向きもある。
片側では各国の通貨安競争を乗り切るために緩和ののりしろを示すのがマイナス金利政策の本質だから、時々に市場を支配する紙芝居の一枚にすぎないと割り切る投資家もいる。
共通するのは金融政策は既に、市場の裏をかいて効果を得る手段としても、経済成長を促す手段としても限界に達しており、日本経済はその効果の及ぶ領域にはないという認識だ。短期の需要不足は解消しても長期で成長気流に乗るための構造問題を解決するものではないからだ。
政策の次の一手、といっても量的緩和拡大や、財政政策拡大など、既存政策の延長に再び戻るだけでは、末娘のマイナス金利政策を離れ、長女の量的緩和、次女の財政出動の門を再びたたいてさまようリア王のようである。
結局、決め手は潜在成長率だ。政権が将来の人口動態を見据えて堂々と成長率を引き上げる姿勢を示し、一段と狭くなった金融政策の出口への道筋を照らすことが不可欠だ。ゾンビ企業ではなく生産性向上に寄与する生きた資本が低コストをいかし、さらに力をつける機会である。
(記恩)
[日経新聞3月18日朝刊P.19]
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