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16日の国際金融経済分析会合でのスティグリッツ・コロンビア大教授(左)と日銀の黒田総裁(写真:読売新聞/アフロ)
伊勢志摩サミットで「財政出動」合意は難しい 主要国にはそれぞれ応じられない事情がある
http://toyokeizai.net/articles/-/110331
2016年03月21日 土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授 東洋経済
3月中旬は、2017年4月に予定通り消費税率を10%に引き上げるかをめぐり、さまざまな見解が出され、注目を集めた。論議の初期段階については、本連載の拙稿「消費増税『再先送り』は問題を何も解決しない 『世代間格差』をまだ放置するつもりなのか」(http://toyokeizai.net/articles/-/108138)でも触れた。
与党内や首相官邸周辺からは、消費増税の再延期のみならず、補正予算を組んで年内に財政出動を求める声も出始めている。現時点で来年度予算案は、まだ参議院で審議中のため、この時点で補正予算の話をすれば、野党から予算案に不足があるなら組み直して予算案を出し直せと言われかねない。だから、財政出動を欲する与党議員とて、来年度予算案が成立するまでは自重しているだろう。これが成立すれば、今夏の参議院選挙もにらんで、財政出動の声が一気に高まるかもしれない。
■伊勢志摩サミットでの日本の役割とは
3月16日に首相官邸で国際金融経済分析会合が開催された。その席上で、スティグリッツ・コロンビア大教授は、日本は5月の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)の議長国として、各国が景気を刺激すべく財政出動に乗り出すよう、リーダーシップを発揮すべきだとの意見を述べたという。これは、各国経済が低迷しているのは、国際競争の激化や規制緩和などにより経済格差が拡大し、中間層の所得が下がり総需要が伸びづらくなったことが背景にあるとみているからだ。
ちなみに、スティグリッツ教授の反緊縮財政論の含意は、本連載の拙稿「日米で違いすぎる『反緊縮財政』を巡る議論 大御所が見る米国経済『利上げ後』のゆくえ」(http://toyokeizai.net/articles/-/100005)にも記したように、市場の失敗の是正が主であって、(してもいない)家計消費の底割れ対策が主ではない。
では伊勢志摩サミットで、安倍晋三首相は各国で財政出動を行うという内容をサミット首脳宣言に盛り込むことができるだろうか。
サミット参加国には、財政出動においそれと応じられない事情がある。
キャメロン首相が率いるイギリスは、次期首相を目指すとうわさされているオズボーン財務大臣が主導して緊縮予算を編成し、3月16日に議会に来年度予算案を提出した。この予算では2019年度までに財政収支を黒字化する目標を堅持した(利払い費を含まない基礎的財政収支ではなく、国債を新発しないことを意味する財政収支の黒字である)。
しかし、この予算編成をめぐり、福祉予算のさらなる削減に抗議して、ダンカン・スミス雇用・年金大臣(元保守党党首)が17日に辞表を提出した。ダンカン・スミス元大臣は、EU離脱派でもあり、EU残留とこの緊縮予算の是非をめぐり、保守党を二分しかねない状況だ。そんな中、緊縮予算を編成したオズボーン財務大臣を支持したキャメロン首相が、日本の求めに応じて各国で財政出動を行う内容をサミット首脳宣言に盛り込むことに合意すれば、自らが党首として率いる保守党で内紛を押さえられなくなる。
キャメロン内閣は、2010年に政権を奪還した直後、2011年1月に付加価値税率を17.5%から20%に引き上げる一方、法人税率を引き下げるとともに、年金支給年齢の引上げ、福祉予算の削減、公立学校授業料の値上げなどの歳出削減を行ってきた。そして、2015年の総選挙で保守党は単独過半数を確保して、今日に至っている。イギリスの緊縮財政には、こうした背景がある。
■ドイツ、アメリカも財政出動の動機に乏しい
メルケル首相が率いるドイツは、EU内からも批判が出るほどの緊縮財政をとり続けている。メルケル内閣は、2005年の選挙での公約に基づいて(リーマンショックが予見できない中)2007年に付加価値税率を16%から19%へ引き上げた。その後、世界金融危機が発生して一時マイナス成長となったが、2010年には実質成長率は約4%まで回復した。
さらに、欧州財政危機にも直面したが、マイナス成長にはならず、経済成長は持続している。この背景には、ユーロ安もあったが、やはりメルケル内閣の前のシュレーダー内閣期から実施されてきた労働市場改革が大きい。そして、2015年にはついに財政収支は黒字に転じ、国債を新規に発行しない状態となった。財政出動に依存をしなくても、経済成長は可能であることを自認するドイツの取り組みを踏まえると、各国で財政出動を行う内容をサミット首脳宣言に盛り込まれれば、メルケル首相はメンツをつぶされかねない。
オバマ大統領が率いるアメリカは、世界金融危機の際に財政出動を唱えた。しかし、残りの任期を1年切ったオバマ大統領に、日本の求めに応じて財政出動に積極的になる動機は乏しい。オバマ大統領は、任期最後となる2017年度(2016年10月〜2017年9月)の予算教書を2月9日に連邦議会に提出し終えている。その上、連邦予算を決める連邦議会は、財政出動を嫌う共和党が支配しており、今年央に財政出動に舵を切る可能性は小さい。
このように、参加国の合意によってまとめられるサミット首脳宣言に、各国で財政出動を行うような内容を盛り込むことは難しいだろう。反緊縮財政を盛り込むことすら、英独の反対に遭うだろう。
では、他のサミット参加国が日本に財政出動すべきと勧めるだろうか。日本の財政赤字は目下、対GDP比で6.7%、約34兆円に達し、サミット参加国の中で最も多い。こんな状態で、イギリスやドイツはともかく、日本が緊縮財政をとっていると言えば、世界の笑いものである。
この財政赤字対GDP比の水準は、1999年と同水準である。1999年の日本の首相は、小渕恵三氏。自らを「世界一の借金王」と呼び、大規模な国債増発による財政出動を行った。現時点で、すでに「世界一の借金王」の時期並みに財政支出は出払っているのである。
確かに、公共投資はかなり抑制されてきた。消費税率も8%になった。他方で、社会保障費が大幅に増加している。経済成長を促しても高齢化に伴い社会保障費はそれ以上の増加率で増えていく。これが、現在の財政赤字の構造である。だからといって、公共投資をしたところで人口減少が食い止められないような地域に、公共投資の増額が必要なのか。財政支出の中身を精査すれば、国債を増発しなくても国民のニーズが高い支出は可能だ。
■国債増発による財政出動の浅はかさ
マイナス金利を導入して、過去最低水準となった金利で国債を増発して公共投資をすればよいというのも欺瞞である。公共投資を行って造った社会資本の耐用年数は、20〜50年である。他方、現在発行している国債の満期は、最長で40年だが過半は5年以下で、過去最低水準の金利を享受できるのは5年ほどしかない。マイナス金利が奏功してデフレから脱却すれば、インフレとなりその分国債金利は上昇する。近い将来デフレから脱却すれば、国債を借り換えるときには高い金利を払わなければならない。
では、今年から50年とか100年の満期で国債を発行すればよい、と思うかもしれないが、そんな超長期の国債を大量に買う金融機関がどれほどあるだろうか。今ある40年満期の国債ですら、大量に買う金融機関はない。売れない国債は出せるはずがない。こうした超長期の国債を日銀に買わせればよいといえども、結局日銀が得られる金利収入が減って、国庫納付が減るから、政府は自分の足を自分で食べるようなものである。
低利の恩恵を受けたいなら、せめて利率が1.5%以上の既発国債を政府が買入消却して、その分を借り換えて、利払い費を節約することぐらいだろう(ただし、国債を保有する金融機関が損を覚悟で買入消却に応じてくれればの話だが)。
国債増発による財政出動をするよりもに、できることはまだまだある。
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