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デフレは、不況や経済成長と無関係だという歴史的事実…過度の金融緩和でバブルの兆候
http://biz-journal.jp/2016/03/post_14108.html
2016.03.06 文=筈井利人/経済ジャーナリスト Business Journal
日本銀行は先月、国内初となるマイナス金利の導入に踏み切った。その狙いは、日銀が目標に掲げながらいっこうに達成できずにいる、デフレ脱却である。黒田東彦日銀総裁は、マイナス金利により住宅ローンなどの貸出金利が下がっており、その効果が「今後、実体経済や物価に表れてくる」(2月16日の衆院予算委員会)と脱デフレに自信を見せる。
しかし、ここで今さらながら考えてみたい。デフレとは、物価全般が持続的に下がることである。それは経済や社会にとって本当に害悪なのだろうか。じつは「デフレは悪」という主張は、論理的にも、歴史的にも、確たる裏づけに乏しい。
よくあるデフレ批判は、「デフレになると企業の収入が減って業績が悪化し、不況になる」というものである。
しかし、少し考えてみればこれはおかしい。デフレで商品の値段が下がっても、販売数量がそれ以上に増えれば、収入は減らない。むしろ多くの企業は、大衆により安く、より多くの商品やサービスを販売することによって成長する。衣料チェーン「ユニクロ」のファーストリテイリングや家具のニトリは、そうした成長企業の代名詞である。
一歩譲って、かりに商品の値下がりを販売数量の伸びで補いきれず、収入が減ったとしても、それだけで業績が苦しくなるとはいえない。企業が儲かるか損をするかは、収入だけで決まるのではなく、収入と費用との差で決まるものだからである。
物価全般が下落しているのであれば、収入だけでなく、費用も減るはずである。とくに企業間の取引の場合、ある会社の収入は別の会社の費用なのだから、一方だけが減るはずはない。収入と費用がそれぞれ同程度だけ減るのであれば、業績は悪化しない。
特定の業種や個々の企業によっては、収入が大幅に減少する割に費用はあまり減らず、経営が苦しくなるケースもあるだろう。しかし、それはすべての企業にあてはまるわけではないから、デフレを非難する理由にはならない。
別のデフレ批判は、上記の説明に対し「費用のうち、人件費はすぐには減らせないから、やはり企業業績の悪化につながる」と反論する。しかし、人件費が減りにくい大きな要因は、最低賃金や解雇制限といった政府の労働規制であり、デフレが悪いのではない。
■デフレが不況をもたらすという誤解
もうひとつのデフレ批判によれば、商品の値段が下がり続けると、人々は将来も値下がりが続くだろうと予想し、もっと安くなるまで買い控えるようになるため、商品がますます売れなくなり、不況になるという。この悪循環は「デフレスパイラル」と呼ばれる。
だが、こんなことは実際にはない。慶應義塾大学大学院准教授の小幡績氏は、次のように指摘する。
「消費者は必要なもの、欲しいものを値下がりするからといって10年も待ち続けることはない。せいぜい、バーゲンになったら買おうと衣料品を数カ月我慢するだけのことだ。(中略)物価の継続的な下落により消費を先送りしている消費者は存在しない。デフレスパイラルは存在しないのだ」(『円高・デフレが日本を救う』<ディスカヴァー・トゥエンティワン>より)
確かに、人は将来の価格を予測する際、過去の価格の動きを判断の参考にする。しかし、それはあくまで、さまざまな要素のうちのひとつにすぎない。過去に商品の値下がりが続いたからといって、今後もそれが続くと信じなければならない理由はない。
デフレは不況をもたらし、経済の成長を妨げるという主張は、歴史的な事実にも反している。
米ミネアポリス連銀のエコノミスト、アンドリュー・アトキンソンとパトリック・キホーは2004年の論文で、米英独仏日など17カ国を対象にデフレと不況の関係を調べた。各国について少なくとも100年間のデータを集め分析したところ、1930年代米国の大恐慌ではデフレと不況の間に緩やかな関連らしきものが見られたが、そのほかについてはデフレ期の90%近くが不況でなかった。
著者たちは「データを見る限り、デフレと不況の間にはほとんど何の関係もない」と結論づけている。
■金融緩和の副作用
国際決済銀行(BIS)も昨年3月に発表した報告書で、デフレと経済成長の関連は弱いと結論づけた。
それによると、調査対象の38カ国・地域が第二次世界大戦後に経験した短期的なデフレ期間は合計で100年間余りに相当するが、こうした期間の成長率は平均3.2%と、それ以外の期間の同2.7%より高かった。デフレで経済成長率が大きく低下したのは、やはり米国の大恐慌時だけだったという。
BISの報告書では、経済成長率は資産デフレとの関連性のほうが強いと指摘している。株価と不動産価格がピークに達した後、成長率は5年間で10ポイント近く押し下げられると分析した。
BISのエコノミスト、クラウディオ・ボリオ氏らは分析結果について、デフレがつねに有害だとする「支配的な見方に疑問を投げかける」としたうえで、「当局者は資産価格の活況と崩壊という、金融面の循環にこれまでよりも強い関心を払う必要がありそうだ」と警鐘を鳴らした。
それにもかかわらず、日米欧の中央銀行は「デフレは悪」の誤った旗印を掲げ、空前の金融緩和にひた走っている。マイナス金利を導入したデンマークやスウェーデンでは、BISが懸念するとおり、不動産価格が大きく上昇。日本でも昨年は銀行による不動産業向けの新規貸し出しがバブル期を超え、26年ぶりに過去最高となった。
世界経済にとって本当に怖いのはデフレではなく、むしろ金融緩和がもたらす資産バブルとその崩壊ではないだろうか。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)
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