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G20もサジを投げた「ヤバすぎる中国経済」〜選択肢は三つ。ただし、どれを選んでも崩壊の可能性
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48092
2016年03月04日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
■G20が出した結論
いったい中国はどうなるのか。いま世界中の企業や家計がこの1点を心配している。ところが、先に開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の結論はあいまいで、矛盾を孕んだ態度に終始した。あらためて問題の核心に迫ろう。
マスコミは「中国についてG20がどんな姿勢を示すかが焦点」と連日のように事前報道した。ところが、会議の後の報道ぶりを一言で言えば「結論はよく分からない」だった。
たとえば、2月28日付の朝日新聞は「G20『政策を総動員』 共同声明採択 市場安定化図る」という見出しを掲げて「G20の合意が市場の安定化につながるかは見通せない」と書いた。なんのことはない「どうなるか、分かりません」という記事である。
G20の声明には、景気回復のために「すべての政策手段(金融、財政および構造政策)を個別にまた総合的に用いる」と書いてある(http://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g20/g20_160227.htm)。だがそれは、何もいまさら大げさに言わなくても、当たり前の話にすぎない。
あえて書き込んだのは、マスコミ向けに「見出しになるような文言を加えたほうがインパクトがある」と大臣たちが考えたからだろう。マスコミがそれに調子を合わせて、上っ面の言葉を見出しにするようでは、なめられたも同然だ。肝心なのは政策の中身である。
ちなみに「金融、財政および構造政策」というのは「アベノミクス3本の矢」でもある。ということは、アベノミクスは経済政策の世界標準を並べてみせただけで、安倍晋三首相のオリジナルでもなんでもない。
それを「アベノミクス」というキャッチフレーズに包んで、印象深く打ち出しただけだ。いわば当たり前の政策なのに、マスコミはあたかも新しい政策パッケージであるかのように報じてきた。言葉と中身の虚実をマスコミはきちんと分かっているのだろうか。
本論に戻す。G20が打ち出した政策の中身を見ると、目新しさはほとんどない。機動的な財政政策と緊密な為替協議、通貨の切り下げ競争回避、それに資本流出の監視強化である。あえて言えば、資本規制の検討が加わった程度だ。
■激減する中国の「外貨準備高」
1つずつ順に評価しよう。まず「機動的な財政政策の実施」を打ち出したのは、世界経済の下方リスクに対応するのに、金融政策だけでは十分でないと認識したからである。現状認識はなかなか厳しい。声明はずばり「世界経済の見通しがさらに下方修正されるリスクへの懸念が増大している」と書き込んだ。
日本にあてはめれば「追加の景気対策で財政支出を増やしてくださいね」という話になる。これを見ただけでも、消費税の再増税がありえないのは明らかである。G20が財政出動を求めているのに、日本が増税では政策ベクトルが完全に逆行してしまう。増税どころか減税を考えるべき局面なのだ。
日本のマスコミではG20が打ち出した方向と消費増税がいかに相反しているか、といった解説にほとんどお目にかからなかった。経済記者たちは財務省の言い分を垂れ流しているだけなのだ。
次が「緊密な為替協議と通貨の切り下げ競争回避」。これは中国の人民元下落を念頭に置いている。人民元が下がり過ぎると、中国の輸出が有利になる。それは他のメンバー国にとって不利だから「為替安定のために連絡をとりあって、必要なら介入しましょうね」という話である。
ずばり言えば、中国に対して人民元下落を阻止するために「しっかり介入してくれ」と要求したのだ。
中国はいまでも強烈なドル売り・人民元買い介入をしている。それは当局が発表しなくても、外貨準備の急落になって表面化している。2月12日公開コラムで指摘したように、中国の外貨準備はいま毎月1000億ドルペースで減っているのだ(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/47855)。
中国人民銀行が人民元買い介入をすると、実質的に金融引き締めになってしまう。経済社会に出回る通貨量を吸収するからだ。いま中国は景気崩壊の淵に立っているのだから、本来なら引き締めでなく、逆に金融緩和しなければならない。
そこへ金融引き締めなら、中国は一段と景気が悪くなる。いわばG20は中国の景気悪化を犠牲にしても、人民元相場の維持を求めた形である。
短期的には自国の輸出を不利にしないために正解だったとしても、中期的には中国の崩壊が巡り巡って世界経済と自国の景気悪化を招くのだから、自分で自分の首を締めるようなものだ。
■外貨制限のウワサも漂う
当の中国はどう認識しているかといえば、中国人民銀行がG20閉幕直後の2月29日、預金準備率を引き下げたところに本心がにじみ出ている。預金準備率の引き下げは銀行が中央銀行に強制的に預ける預金を減らして融資に回せる資金が増えるから、金融緩和になる。つまり中国当局は緩和が必要と分かっている。
G20は為替介入して人民元相場を維持せよと求めたが、緩和は逆に人民元下落に働く。実際、預金準備率引き下げ発表後、人民元は一段と下落した。これをみても、G20と中国の行動がちぐはぐなのは明らかだ。
3つ目の資本規制強化となると、何をか言わんやという話である。
国際通貨基金(IMF)を軸にした世界経済は本来、自由な資本移動が大原則だ。もともとIMFは自由な資本移動を促した結果、貿易代金の支払いに窮する国が出てくれば、危機を脱出するために緊急資金を貸し出すのが役割の国際機関である。
G20が大真面目に資本規制を検討するとは、裏返せば、それほど中国が危機一歩手前に追い込まれている証拠である。まして、中国はIMFの特別引出権(SDR)通貨入りを果たしたばかりだ。
中国はSDR通貨として人民元を危機国に貸し出すどころか、自分自身が危機一歩手前の状態に陥ってしまったのだから、ほとんどお笑いと言っていい。他国に貸すどころか、自分が借りるかもしれないはめになっている。
いくらなんでもSDR通貨国が借りるとは恥ずかしいから、その前に資本規制して流出を止めようという話になっている。資本規制すれば、市場のドル買い人民元売り圧力が和らぐので、為替の安定効果がある。
だが一方、中国に投資した海外企業は人民元で得た利益をドルやユーロに転換して本国に送金しにくくなるから、投資を冷やす結果になる。企業は「これ以上、中国に投資しても利益を送金できないなら意味はない」と考える。これがまた中国経済にダメージを与える。
中国人による爆買いもやがて終わるだろう。当局にしてみれば「外貨準備が急落しているのに、中国人が日本で買い物して貴重な外貨を消費するのはとんでもない」という話になる。すでに中国人が使える外貨に制限を加える話も飛び交っている。
■結局、有効な対策は何もない
以上が、G20の描いた危機への処方箋だ。総じて評価すれば、G20は自分たちの目先の損得を優先して、中国経済の崩壊については何の有効な対策も講じられなかった。
供給過剰が顕在化している中国に一段の財政出動を求めても、ゴーストタウンが広がるだけだ。為替介入の要求は金融を引き締め、経済を収縮させる。そして資本規制は外資の中国離れを加速するのだ。
原理的に言えば、どうやったところで他国が中国を救うことはできない。それは中国自身の問題である。中国人自身が人民元を売り払って中国から脱出しかかっている。キャピタルフライト(資本逃避)が始まってしまったのだ。
資本流出が続けば、中国は結局、人民元の下落を容認するか、資本規制を導入するか、あるいは猛烈な介入を続けるか、の3つしか選択肢はない。そのどれもが崩壊への道につながっている。
著名投資家のジョージ・ソロスは事態の本質を見抜いて「中国のハードランディング(強制着陸)はもう始まっている」と語っている。ソロスは人民元下落に賭けるつもりなのだろう。中国の通貨危機というドラマの幕開けが近づいている。
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